「、ロマーリオ、に連絡がつかない」




唇を噛むオレを見て、一瞬目を見開いたかと思えば、ロマーリオは声をあげて笑った。
オレは一体、何にこんなにも不安を感じているんだろう。
理由は分からないが、でもどうしてか、胸の奥がざわめくようで、しょうがない。
過保護も過ぎると嫌われるぞ、そんなからかいの言葉にさえ、どうにもうまく返せないくらいに。


「友達の看病に行ってるんだぜ?手が放せないんだろうよ」
「……、そう、だよな、」
「そうさ。なぁボス、メールの返信が1日2日こないくらいで、そう落ち込むもんじゃねーぜ」
「あぁ、そうだよな……、分かってはいるんだが……、なんだろうな、」




さみしさによく似ているけれど、それよりももっと深く暗い、




「ま、もう2、3日待ってみることだな。それでも返信がないようなら、調べればすぐ分かることだ」
「……いや、いい。の交友関係にまで、オレがあれこれ口を出すのはよくないだろ」
「、それマジで言ってんのか、ボス」
「なんだよ、わりィか?」
「いや、大人になったもんだと思ってな」
「……うるせー、オレだっていろいろ考えてんだよ、」








なぁ、、オレ達のすれ違いは、一体どこから始まっていたと思う?








Love Sick! Medicine25:運命の悪戯はリアルに








雲雀少年の言葉に甘えて、豪勢なスウィートルームで一晩を過ごし、朝を迎えたわけだけれど。




とにかく今日は早いうちにチェックアウトして、しばらくの住まいを決めなくては。
色々しなくちゃならない手続きもあるし、のんびりしてはいられない。


全てから逃げてきた以上、これからあたしは、ひとりで生きていかなくちゃいけないんだから。


弱音なんて吐いちゃいけない。
甘えてなんかいられない。(さっそく昨日、甘えてしまったのだけど、)
しっかり、前だけを見つめていかなくちゃ。


臆病者のあたしは、そのくせ妙なプライドだけあって、他人にはあたしの行動の理由を、逃げと言われたくないのだ。


それこそみっともなくて、それこそが最大の逃げだということは分かっているのに。
短い、しかしずしりと重みのある溜息をつくと、あたしは真っ白いシャツに袖を通した。


昔、というほどに前のことではないのだろうけど、昔に、あたしは自分を捨てたことがある。


思い出も、持ち物も、立場も、家族さえも。
つまり、それまでのあたしをつくった人生を、を、捨てた。




それで生まれ変わったつもりが、また、あたしを捨てる日がくるだなんて。




でも、いつだって選択はあたし自身がしてきた。
後悔なんて、したことは、ない。(いいえ、ちがう、)




後悔なんてものは、してはいけない―――――――。




何もかもを捨ててまで、何かを得ようと、貪欲なまでに自分に素直になったんだもの。
その身勝手なあたしの素直さで、誰がどれだけ傷つくかなんて、考えもしなかったんだもの。

後悔なんて、許されやしない。
後悔をするヒマがあるなら、その分前に進んで、まずは自分が納得しなくては。




だからせめて、自分の選択の結果で手にした毎日だけは、どんなものでも受け入れなくちゃ。




とりあえず、もろもろの手続きが済むまでの仮住まいとして、適当なホテルを見つけることが先だ。
それも、出来るだけ早くに、そして、さっさとそこに居つく用意をしないとまずい。

つい10分くらい前に、雲雀少年からメールがきたのだ。
何もかも見透かしたような内容に、あたしは思わず声を出して驚いた。


遠慮なんかしなくていいから、他にホテルとか探したりするな
どうせホテルを探しにやたらめったら歩き回って迷子になるのがオチなんだから
学校が終わったら、そっちに行くから、そのつもりで


まずい、まずいったらまずい、非常にまずい!
中学生の男の子相手に何をこんなにも怖がってるのか、自分でもよく分からないけど。(でも!)
なんだかまずい気がする、とてつもなく。(そういえば雲雀少年ってボンゴレ関係者!)

だからとにかく、さっさとホテルを見つけて、すっかりここに住みますよー、という準備もばっちり。
その状態で、雲雀少年に連絡をしちゃえばいい、というかそうでなくちゃいけない!




そうだ、そういえば雲雀少年ってボンゴレの関係者だもの!




本人はそんな気ないようなことを言ってたけど、あの子が普通でないことは確か。
そうだ、そうだ!うっかりあたしが日本にいることがボンゴレ10代目に知れたりしたら……、
いや、でもあたしがここにいるからって、それですぐディーノへ連絡することなんてない、
いやでも、10代目のところにはリボーンさんがいらっしゃる!あの、リボーンさんが!




……こうしちゃいられない!




荷物をまとめ、フロントに走ったあたしを見て、受付の従業員達はそろって真っ青になった。
そしてチェックアウトの手続きを求めるあたしを、必死の形相で引き止める。
雲雀様が!雲雀様が!と何度も繰り返す様子のおそろしいこと。
メールの感じからして、雲雀少年がフロントにあらかじめ何か言っておいたのは確かだろうけど……、
……雲雀少年、君は一体何をどんな風に言っていったの?(この怯え方、どう見たって異常だ)

しかし、あたしの方も必死なのは変わらない。
申し訳ないと思いつつも、縋りついてくる女性従業員を振り払い、手続きもせずあたしは外へ飛び出した。

あたしがさっさとホテルを見つけて、すぐ雲雀少年に連絡をする。
それで従業員の方々は何も悪くないと伝えて、それで、




とにかく、不安要素は全部どうにかしなくちゃ!




と、勢いよく飛び出したところまではよかったのだけれども。
しかし、勢いだけではどうにもならない。


あたしが慣れ親しんだ町は、もうすっかりその姿を変えていて、どうにもこうにも。
そういえば、10代目にあいさつするのにディーノと日本へ来た時は、ろくに観光もしなかったなぁ……。
トラダートとのこともあったし、朝にはさっさとイタリアに帰って――――――、




いけない、そんな、もう終ってしまったことなんか、




「っ!あっ、ご、ごめんなさいっ、」
「いえ、こちらこそ。お怪我は――――――、?」
「、え?………っ、」




考え事なんかしながら、人の多い大通りなんかをぼうっと歩いていたのがいけない。
当たり前のように見知らぬ誰かと衝突したあたしは、はずかしくって仕方ない気持ちになった。


そして、一瞬遅れて、思う。(この人、あたしの名前を……、)
それから、ぶつかってしまった相手をはっとして確認すると、息が、つまった。






「か、おり、さん……、」
「やっぱりだ。どうして日本に?旦那は一緒じゃないのか?」
「……、いえ、その、色々事情があって、」






なんて答えたらいいのかさっぱりで、なんともうさんくさい返答になってしまった。
多分あたしは、今ものすごく困った顔をしているに決まってる。
けど、薫さんにとってあたしとここで出会ったのは、別にどうってことはないだろう。




これで別れてしまえば、




「事情……、つまりワケありってことだな。……お前、今困ってんだろ」
「っ!」




にやり、と意地悪く笑ってみせたかと思ったら、次の瞬間にはやさしい顔をして、あたしを見つめていた。
……記憶の隅へ、追いやっていたものが。(じわりと、侵食してくるような)


高見薫という人は、人の小さな心の動きも敏感に読み取る、とても勘のいい人だった。
それこそが高見家跡取りに相応しい器であるし、そういう人物だからこそ、父が認めた。








この人はいつも、あたし自身ですら気がつかないあたしの心の揺れを、見抜いていた。














































***


おっ、お待たせしました〜っ!!25話です!
いかがでしたかっ?

えーと…、とりあえず薫さんフラグです。
自分で書いておいてなんですが、この人毎回登場の仕方にしろヒロインへの態度にしろ…
なんか、アレじゃないですか。←
少々その辺りが心配なんですが…旦那さまとの絡みまでは…まだあります;


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