遠慮がちに放たれた、あたしを思っての言葉が、胸を締めつけるのだ。
あの人への気持ちを、そう簡単に割り切れるはずのない想いが、じわじわとあたしを苦しめるのだ。
「お父様に今お幸せなことをお伝えするなら、ボスもご一緒した方がいいのでは?」
父は、あたしはもちろんのこと、ディーノのこともひどく嫌っている。
実の娘のあたしでさえ、もしかしたら門前払いかもしれないのに、ただでさえ忙しいディーノを連れてはいけない。
心配だってかけたくないし、何よりも、ディーノに嫌な思いをさせたくはない。
きっと父は、ディーノに会えば彼を傷つけるようなことを言うだろうし、父だって傷つくはず。
だから、日本へ行くのはあたしだけでいい。
でも、もしこのことをディーノが知ったら、自分も行くと言い出すに決まってる。
「さん、これが一番なの」
「、でも、」
「体調を崩した友人の看病に行ったとでも言っておいて下さい。
くれぐれも、日本へ行ったとは言わないで」
Love
Sick! Medicine23:再会のペーソス
最低にも、程がある。
きゃっきゃとはしゃぐ、明るい子どもの声。
ずんと、胸が重くなったような気がした。
これから、どうしよう。
日本へ帰ったところで、あたしの居場所なんかあるわけがない。
実家はもちろんのこと、友達にだって長いこと会っていないわけだし、今どうしてるのかさえ分からない。
頼れるものなんて、何一つないのだ。
とりあえず今日はどこかへ一泊するにしても、考えなくちゃいけないことは山ほどある。
全部放り投げて自分で逃げてきたくせに、もうさみしい気持ちでいっぱいだ。
思えば、あたしのものなんてないんだもの。
イタリアへ行く時、全部置いていった。
だからあたしが今持ってるものには全部、ディーノとの思い出が詰まってる。
あたしのものじゃない。
あたしと、ディーノのもの。
結局あたしは、逃げ出したと思い込んでただけで、いつだって囲いの中にある庭へ出ただけなのだ。
情けない。
自由になりたいと言いながら、あたしはひとりじゃ何も出来ない。
……でも、こうしていつまでも感傷に浸ってる場合じゃないのは分かってる。
とりあえず、今日の宿を探さなくてはいけない。
きれいなブルーのベンチから立ち上がると、脇に置いていたスーツケースの持ち手に手をかける。
少しずつにしても、きちんと歩いていかなくちゃ。(ひとりでも、生きていけるように)
「あなた、こんな所で何してるの」
日本で、あたしに声をかけてくるような人なんて、いるはずがない。
もしそんな人がいるとすれば、それは以前お会いしたボンゴレの、
「っ、あ、あなた、」
「イタリアに帰ったんじゃなかったの。僕はそう聞いてたけど」
何故か不機嫌そうな顔で、少年はそう言った。
そうだ、実家とは絶縁状態、友達とも繋がりは途絶えているあたしが、日本で唯一知り合いといえるのは、
以前ごあいさつに伺ったボンゴレ10代目とリボーンさん、それからチビっ子達と10代目のお母様、
そして、あたしの命とディーノとの絆を守ってくれた、やけに大人びたクールな男の子。
「あなたやっぱりボンゴレの!いえ、それよりも前に、」
「……あの人は、一緒じゃないの」
「、あの人、って?」
「金髪の外人。あなた、あの人の奥さんなんでしょ?」
どきりと、してしまった。
あからさまに肩を揺らして、動揺が丸分かりだ。
ボンゴレの関係者なら、同盟ファミリーであるキャバッローネのボスを知っていたって、おかしくないのに。
あたしは何を、そんなに怖がっているんだか。
いや、そんなことは今はどうだってよくて、はやく、何か言わなくちゃいけない。
彼の目は、もう何かを探っている。
ややこしくなる前に、さっさと別れなくては。
少年が、ボンゴレやキャバッローネへあたしの話をするとは思えないけれど、
あたしが日本にいたことを証明出来てしまう人物がいるのは、この先都合が悪くなった時に厄介だ。
いい加減でいい、適当に頷いてさっさと逃げるしかない。
……そう、思うのに、どうして言葉がうまく出てこないの―――――――?
「っ、あ、その、」
「……違うの?」
「、そ、れは、」
「……ねえ、覚えてる?お礼、してくれるって言ったよね、あなた」
不自然に目を泳がせて俯いたあたしの手を取ったかと思えば、少年はそう言った。
思わず勢いよく顔を上げると、少年は意地悪そうな笑みを浮かべている。
何故だかとても、懐かしいような、甘酸っぱいような気持ちになって、ふっと口元が緩んだ。
どういう気まぐれだか分からないけれど、たぶん、あたしが答えあぐねているのを見て、
空気を読んでくれたというか、気づかってくれたんだろう。
それにしても、よくあたしのことなんか覚えてたものだなぁ、と思う。
出会いがあれだけ濃かったとしても、この子の場合次の日にはもう忘れてそうなタイプっぽいのに……。
彼自身には、一度出会ってしまった他人の記憶からは、絶対に消えない存在感があるけれど。
「そうね、お礼するって言ったわ。じゃあどこか行きたい所、ある?少年」
「その前に、その少年って呼び方やめてもらえる?あなた少し失礼だよ」
「あ、ああっ、ごめんなさい、ええと……あぁ、名前聞いてなかったのね。で、何くん?」
「人に名乗れと言う前に、自分が名乗るのが筋じゃない?……まぁいいや。……雲雀……、雲雀恭弥」
「、なんだかあなたって調子狂うわ。あたしは……、。、よ」
あたしの手を引いて歩き出した少年は、あたしとディーノのことを知っているのに、
どうしてわざわざ旧姓を名乗ったのか、あたしは自分でもよく分からなかった。
ただ、少年―――雲雀恭弥くんを見ていると、ディーノを思い出す。
彼と違って、あの人はとても子どもっぽい人なのに。
「ふぅん。、ね。まぁいいや、とりあえずお茶でもおごってよね」
けれど何故だろう、この少年を見ていると、ディーノが恋しくなってくる。
今のあたしにとって、あの人を思い出すこと程苦しいことなんてないのに。
年齢に相応しくない大人びた少年を見ていると、年齢に相応しくない子どもっぽい大人が、
大人の姿をした、無邪気な子どもの心を持つあの人が、
恋しくて仕方ない。
***
毎回久々ってあとがきしてる気がします;
お久し振りです〜;23話、すこーしずつ動いてきてるでしょうか?
キーパーソン出せたので熱帯夜は満足しておりますが笑!
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