「うっ――――――――――っはぁ、はぁ、っは、」
最近、体調が悪い。
熱っぽい日が続くし、だるくて仕方ない。
「……、オレもう行くけど、大丈夫か?」
「大丈夫です。少し、疲れてるだけだと思うから」
「何かあったら、すぐ病院行けよ?」
「大丈夫ですから、早く行って下さい。……部下を待たせたらいけないわ」
ディーノは心配してくれるけど、それに甘えちゃダメだ。
あたしは、いつだって彼に甘えてたんだから。
あたしの体調不良を理由に、ディーノが仕事を休むなんてとんでもない。
これは、あたしの問題だもの。(ディーノは、何も心配しないでいい)
Love
Sick! Medicine20:胎動、始動
「様、お顔色が悪いです。やっぱりボスの言うように、一度病院へ行った方がいいんじゃ……」
さんの声に、なんとか首を振る。
それから少し呼吸を整えて、口を開く。
「病院に行ったりすれば、余計ディーノを不安にさせるわ。私は大丈夫だから」
「ですが、」
「さん、ディーノに何を聞かれても、心配させるようなことは言わないでちょうだいね。お願いよ」
困った顔をしたものの、さんは、分かりましたと頷いてくれた。
ほっとしたのと同時にまた、ぐらぐらと視界が揺れ始めた。(もう、なんなのよ、)
「ごめんなさい、少し休むわ」
「はい、奥様」
***
鈍いバイブレーションで、目が覚めた。(ケータイ、)
重い身体を起して、ケータイを開く。
新着メール1件の文字。(ディーノ?……この時間に、)
11時を少し過ぎたところ。
普段なら、絶対に連絡してこない時間だ。
この時間帯は、お互いそれぞれ忙しい。(あたしは家事、ディーノは仕事)
それでもあたしは特に気にせず、メールを開いた。(瞬間、)
そして、わなわなと震える手を押さえようと、して、ケータイを、床に落としてしまった。
「な、によ、これ、」
自動再生の設定に従って、自動的に開かれた添付ファイル。
はっきりと、映し出している。
優しく微笑むディーノと、あたしの、知らない、女。
仲良く腕を組んで、ホテルから、出てくる、ところ。
「……うそ、こんなの、」
そういえば前にも、こんなことがあったじゃない。
女と抱き合ってる写メが、送られてきて……。
でも、違う。
あの時とは違う。
だってこれは、ディーノのケータイから、送られてきたじゃない……。
でも、違う。
だって今朝だって、あんなに優しく接してくれてた。(疑ったら、ダメ。だって疑ったら、)
……もう、戻れない。
また、鈍いバイブレーション。
手の震えは気にせず、ケータイに手を伸ばす。
ディスプレイには、[ディーノ]
通話ボタンが、押せない。
手の震えどころか、身体の震えが止まらない。
そうこうしているうちに、着信は切れた。(着信ありの文字が、痛い)
ためらう気持ちと、震える身体。(もう、何も、)
でも、疑うことをしたら、ダメだ。(あたしが信じなくちゃいけないのは、)
深呼吸を一つ、着信履歴から、ダイヤル。
呼び出し音の回数を数える。
1、2、
「もしもし?」
3回目の、コール。
若い女のソプラノ。
「も、しもし、」
【ディーノの奥さんでいいんですよね?あたしジュリアっていうんですけど】
「……えぇ、そう、ですけど。私に、何か?」
目の奥が、ちかちかする。
【大した話じゃないんです】分かる
【だから、簡潔に言いますね】聞こえる
【ディーノと、別れて欲しいんです】
ほら、当たり
***
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