やっと、分かりあえたと。
ねぇディーノ、あたしは


そう、思っていたのに。
あなただけを、愛してるのよ




どうして、こんなことになってしまったの?




Love Sick! Medicine19:そして、幕開け




泣きじゃくるあたしを見かねて、薫さんは大きなホテルの一室を取ってくれた。(あれから、どのくらい経った?)




その優しさはありがたいと思うし、申し訳ないと思う。
だけどあたしの中では、ディーノのあの冷たい言葉ばかりが浮かんで、消える。




「っ、なんで、どうしてあんな、ディーノ、」
、」




ウソを吐いて、薫さんと会ったから?(でもちゃんと、何もかもに決着をつけて、それで、)




「っなん、で、」
「泣くな、




いつものディーノなら、ちゃんと話を聞いてくれた。
あたしの話を聞いて、怒っても、最後には理解してくれた。(なのに、)






もう言い訳も、させてくれないの―――――――――?






薫さんと黙って会ったこと、突然のことだったにせよ、キスを、してしまった、こと。
ちゃんと話して、ディーノにこっぴどく叱られて、それでまた戻れるなんて、そんなこと。




都合のいい、話、よね。(そうよ。ディーノの言った通りあたしは、)




「………、このまま日本に帰ろう。俺はお前の傷ついた顔なんか、見たくねぇよ」
「……かえりたく、ない、」




あたしはまだ、ディーノの隣を、こんなにも深く望んでいるのに。(どうやって帰れるっていうの?)




「……なら送らせろ。これだけは譲らねぇ」
「、あたし、もう薫さんには……、」
「その話は後だ。……とにかく少し落ち着け」




楽しかった日常が全部夢だったなら、こんなにも苦しくなかったのに。




でも、全部全部、本当のこと。
あなたのぬくもりは、身体がちゃんと憶えてる。











































どんなに苦しくったって、それを忘れたいなんて、思えない。












***












「っくそ!………っ、おいロマーリオ、はまだ戻ってねーのか」




暴れる感情を抑えつけて、なんとか言葉を絞り出す。
そんなオレを見て、ロマーリオは渋い顔をした。




「荒れたって仕方ねぇだろ、ボス。少し落ち着け」
「落ち着いてられるわけねーだろ!……っケータイに連絡入れたって返ってこねーし、」




あの時、何か言いかけてた。




オレのことをなんとか引き止めようと、声を張り上げて。
……少し立ち止まってやれば、こんなイライラしなくてよかったもしんねーのに。




「とにかく、姐さんが戻ったら冷静に話が出来るようにしとけよ?」
「………あぁ、分かってる。悪いな、ロマーリオ、」
「いいってことよ!それより、」




内線の、ベル。
急いで通話ボタンを押した。




【奥様がお戻りになられました。ゲートにいらっしゃいます】
「分かった!」




上着を手に取って、ドアに向かって走る。




まず、そうだな、ひどいこと言ってごめんって謝って、それで、の話をちゃんと聞こう。
そしたら、あの露店の指輪を渡して、仲直り、してもらおう。




ゲートまでの道のりが、いつもの倍、長いように思った。




***




「わざわざありがとうございました。………それから、ごめん、なさい、」
「もういいって言ってんだろ?気にすんな」




ディーノと出会っていなかったら、あたしはきっと、この人と結婚してた。




政略結婚だなんて古いし、初めは戸惑って、嫌な思いもして。
それでも最後には、きっとこの人を愛していたと思う。
そのくらい、優しい人。




でも、あたしはディーノと出会って、恋をして。(そして、)




!」
「っ、ディーノ、」










愛して、いるから。










「じゃあ俺は帰るよ。、今日はありがとうな。……じゃ、」
「っ、あのっ、かおりさ、」
「それじゃ、元気で」




薫さんの背中を見届けてから、ゆっくりと、振り、返る。




「………遅いから、心配、した」
「……、ごめんなさい、」
「連絡したのに、返ってこねーし、」
「!あ、それは気づかなくって……っ、ごめん、なさい、」















































「…………やっぱ、予定通りになんていかねーな」


































そう言ってディーノは、あたしの身体を強く引き寄せた。
ふわりと、優しい香りが、弾ける。




「ごめんな、」
「っな、なんでディーノが謝るの……?」
「これで許してくんねーか?」




すっと差し出されたのは、小さな小箱。




「開けてみて」
「……こ、れ、」




露店で見つけた、あの、指輪。




薫さんのこと、今日のこと、全部聞きたいに決まってる。
今すぐ、何もかも知りたいはずなのに。


なんで、こんなに優しくしてくれるの?
もっと怒って、あたしのこと、嫌いになっても、おかしくない、のに。






ねぇ、あたし自惚れちゃうわよ、ディーノ。






「オレ、感情に突っ走っちまうから、お前のこと、すぐ傷つける。
でも、分かって欲しいんだ。オレはお前のこと、愛してる」




この人の為にあたしが出来ることなんて、限られてるのに。




それでもこうして、あたしに、優しくて柔らかい気持ちを教えてくれて、全てを与えてくれる。
あたし以上に幸せな人って、いるかしら?(こんなにも、幸せな、)










幸せに包まれた温かな世界に、ゆっくりと忍び寄っていた破壊。










あまりにも平穏に過ぎていく時の中、あたしも、ディーノも、それに気づけなかった。
そして、少しずつ蝕まれていった結果。














































この日から1ヶ月経ったある日、悪魔が産声を上げ、幸せな家庭を破滅へと追い立てる神がいた。













































***


そう簡単にハッピーエンドなわけがない第2章。笑(っていいものじゃねえええ)

次話で「1ヶ月経ったある日」に入って、パニック突入!




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