―――――――――明日午後2時、街のバールで
あたしの全てが、あの人を傷つけた。
あの人から、何もかもを奪った。
あたしだけが幸せなんて、許されるはずがない。
Love
Sick! Medicine17:パニックとアッヴェニメント!
「………出かけるのか?」
「買い物に行きたいの」
薫さんから逃げるようにして帰った後、ディーノはずっと側にいてくれた。
仕事そっちのけで、あたしの心配ばっかり。
でも、それが嬉しくて嬉しくて、仕方なかった。
「オレも一緒に行くよ。お前だけじゃ心配だ」
「大丈夫よ、すぐ帰ってくるわ」
これ以上、心配も、迷惑も、かけちゃいけない。
「………たまには気晴らしだって必要だよな!でも、なんかあったらすぐ連絡しろよ?」
「ありがとう、ディーノ。……、ねぇ、」
言葉を紡ぐ前に、キス。
「――――――――――、、愛してる」
「っ、あたしも、あいしてる、」
いつだってあたしを、最高の形で喜ばせてくれる人。
あたしだけの、最愛の人。
これが、最後のキスになるだなんて、思いもしなかった。
***
「お前なら絶対来ると思ったぜ」
薫さんの、冷たい微笑み。
あんなに柔らかく、笑っていたのに。
この人の優しさも微笑みも、あたしが、壊した。
「………、きちんと、お話ししたいと思ったので」
「そう思ってくれてよかった。とりあえず座れよ」
あたしが席に着くと、すぐにカプチーノが運ばれてきた。
「カプチーノ、好きだっただろ」
「っ、そう、ですけど、」
そんなこと言ったことが、あったかもしれない。
出会って間もなかった頃、彼を知ろうとしていた頃。
彼を愛そうと、努力していた頃。
「お前のことだから、忘れたりしない」
「あ、のっ、薫さん!」
優しい、眼差し。
それはまるで、恋人を愛(いつく)しむような。(そんなはずないのに、)
出会った日、あたしに向けてくれた、あの日に、あたしに向けてくれたのと、同じ。
ディーノがあたしを見つめる瞳と、同じ。(こんなの、)
「なぁ、お前今幸せか?誠治さんの怒りを買って、それでもあの男と一緒にいたかったのか?」
「……、父には……、薫さんには、とても申し訳ないと思っています、」
「俺が聞いてるのはそんなことじゃない。お前が今幸せかどうかだ」
薫さんに対して、何か償いが必要だと、こうしてここに来たのに。
どうして、この人はこんなにも、優しいの?
どうしてあたしを、責めてくれないの?
「……しあわせ、です、」
頬が、濡れる。
視界がぼやける中で、薫さんが小さく笑ったのが分かった。
「泣くなよ、馬鹿。……昨日は怖がらせてごめんな。謝りたかった」
「……っあたし、薫さんに、謝らなくちゃ、」
「謝るのは俺の方だ。……俺は、」
手ぶらで日本に帰る気はないからな
「っ、どういう、意味、ですか、」
「どういうって?そのままの意味だ。俺はお前を日本に連れて帰る」
「薫さ、」
優しい手が、あたしの頬を拭う。(どうして、)
「高見もも関係ない。俺が、お前を愛してる」
「っあたし、」
「俺にはお前が必要なんだ。、俺はお前が心配でたまんねぇんだよ、」
がたっと、真っ白なテーブルが揺れた。
「マフィアのボスの妻なんて、お前には似合わない」
「っどうして、それを、」
「調べた。お前を俺から奪った男のことだ……、気になるだろ?」
身体が、動かない。(どうして、なんで、この人は、)
薫さんが、近づく。(ダメよ、この一線を越えてしまったら、)
「俺がお前を、本当に幸せにしてやる」
口元が描く、緩やかなカーブ。
甘い、香水の香り。
重なった唇が奏でる、終焉のメロディー。
***
お待たせしました!最新話です。
前回からだいぶ間のある更新ですが、いよいよパニック編も動き出した感じです。
制作の都合で今回タイトルが少々変わりましたが、内容に変更はございませんのでご安心を。
次回で勃発、という具合かと。 (アッヴェニメント:事件)
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