あたしの少し前を歩く少年は、中学生しては、クールで大人びた子だ。
自分の命が危ないっていうのに、怖がる様子なんて全くなくて。
むしろ、そういう状況を楽しんでいるような、そんな気さえした。
子どもらしさがないというか、一般人らしくない。
まぁ、そのおかげであたしは助かったわけだけど。
……それにしても、不思議な少年。
ボンゴレのことも知ってるみたいだし、マフィアに何かしら関係してるのは確かだけど。
一匹狼、慣れ合いは不要っていう感じが、なんだかね。
でもそれが、彼の強さなのかもしれない。
誰にも囚われないで、自分の思うままに進む。
……後先考えずに突っ込んで、大ヤケドしそうなタイプに見えるけど。(ま、まだ若いしね)
「………何?用があるならはっきり言ってよね。じろじろ見られるのは気分が悪い」
びくりと肩を揺らすと、少年はめんどくさそうに溜息を吐いた。
………中学生の態度じゃないわ、こんなの。(大人びてるどころか、これじゃまるっきり大人!)
少年とは逆に、大人のくせにまるっきり子どもなあの人を思い出して、思わず眉をしかめた。
そして、気を取り直すように、ふぅっと息を吐いて微笑んで見せる。
「なんでもないの、ごめんなさい。それよりも、あたしやっぱり納得出来ないわ。
少年、一体どこのファミリーなの?あれだけの強さ、並じゃないもの」
「何度も同じことを言わせないでくれる?僕はどこにも、何にも属さない」
「でも、ボンゴレと知り合いなんでしょう?関係ないとは言えないはずよ」
「関係ないよ。僕は僕だ。自分のしたいことを、したいようにするだけさ」
はっきりそう言い切った少年を、羨ましく思った。
あたしは、したいことがあっても、したいようにしてこなかったから。(嫌だ、無理だ、そう言うだけで)
あの時だって、あたしは逃げるだけで、何もしなかった。
それで沢山の人に迷惑をかけて、きっと今、そのツケが回ってきたんだろう。
だから―――――――、「そんな物欲しげな顔をするなら、手に入れればいいじゃないか」
「………え、」
「欲しいなら手に入れる。取られたら奪う。……失くしたら、また掴めばいい。難しいことではないよ」
「っか、簡単に言うけど!……それが出来たら、誰も思い悩んだりしないわ!」
「そうかな。僕が思うに、それはその人達が本気で欲することをしないからだよ。
あなたは、欲しいものを手に入れる為に、何をしたんだい?」
簡単に、言わないで。
いくら欲しいと願ったって、どうしても手に入らないものだってあるのだ。
だからあたしは、こうして少年と一緒に夜道を歩いているんじゃない。
欲しいものを手に入れる為に、何をしたかですって?
あたしは、
あたし、は―――――――?
あたしは一体、何をしたんだろう。
欲しいものの、ために。
今まで一度でも、ディーノに自分の気持ちを話したことがあった?
逆に、ディーノの気持ちを聞いたことがあった?
あたしはただ欲しがるばかりで、何もしてこなかったんじゃないの?
じっと、漆黒の鋭い瞳が、あたしを見つめてくる。
何か、言わなければ。
そう思うのに、口を開けばひゅう、という掠れた息しか出てこない。
情けなくてしょうがなくて、あのトラダートの男達と対峙した時だって泣きはしなかったのに、じわじわと視界が霞んできた。
呆れた、というよりも、興ざめしたという方が正しいか。
少年は短い溜息を吐いた。
「君はもう少し、素直になった方がいいよ。………迎えが来たようだし、僕はもう帰るよ。群れるのは大嫌いだからね」
「少年もね、って迎え?あたしを迎えに来る人なんか……」
いないわ、そう続けようとした瞬間、ぴたりと、あたしの中の時間が止まった。
Love Sick!Medicine10: ラブ ラクリメ
「、!?」
うそ、でしょ?(だって、ありえない)
どうして?(こんなのってないわ、)
ディーノ、どうしてあなたが、ここにいるの?
「、ど、して、」
「っ、心配、したっ」
ふわりと、清潔感のある涼しい香りが、あたしの鼻腔をくすぐった。(ディーノの、香水、)
肩と腰に回っている腕に、懐かしさが込み上げてくる。
だって、最後に抱きしめられたのがいつだったのか、あたし、忘れてた。(それが二人の距離だって、諦めてた)
「離婚するかとか、聞いたのはオレだけど!お前、お前なんで頷いたんだよ!
イヤだって、なんで縋ってくれなかった!?っ、悔しいよ、オレ……っ、」
出会った日のような、胸の高鳴り。(もう、何事にもいちいちドキドキするような年じゃない、の、に、)
「っ、もう遅いって、お前は思うだろうけど、でも、オレだってそうなんだよ!
もう遅いんだよ、お前なしで独りで生きてくのにはっ、もう、遅い……!」
かっと、身体中に熱が回っていくのが分かる。
それと同時に、涙が、溢れた。(なんで、こんな、)
「、あた、し、ヒドイこと、沢山、言ったわ、離婚も、するって、言ったわ、」
「オレは離婚届に判なんか押さねぇぞ。逃げようとしたって、逃がさない」
「っあたし、みたいな女、ほっとけばいいのにっ、なんで!」
「オレがお前を愛してるからに決まってんだろ?」
あたしの頬に、ディーノの指先が触れた。
あれだけ遠いと思ってたのに、こんなに近くにいたなんてね。(触れられるくらいに、)
「」
目元に、キスが降ってきた。
ただ、それだけのことなのに。
あたし達の距離がそうさせてたのか、とても特別なことみたいに思えるの。
あなたに、愛情を込めて呼んでもらえる名前が、今こんなにも愛しい。
あなたの指先、唇の熱に、涙が止まらない。
「ディ、ノ、」
愛情を込めて口にするあなたの名前は、自分でも驚くくらい甘ったるい声で紡がれた。
かわいい女でいたい、だなんて、そんなことを思う年でも、ないのに。
「……そうやってオレの名前呼ぶの、久し振りだな」
ディーノの首に、そっと腕を回す。
瞬間、あたしを抱きしめる彼の腕に、力が入った。(この、優しい力強さが好きだった、)
「、すき、なの、」
「………っ、」
涙で、何もかもが歪んで見えても。
「っ、あいしてる、の、」
「、」
あなただけは。
「離婚なんか、したく、な、いっ!」
「………オレも、したくない」
あなたの存在だけは。
「、ずっと、一緒にいたい、」
「ずっと一緒にいるよ。、愛してる。お前だけを、オレの全部で愛してる」
ここに在るんだと、しっかりこの手で確認して。
「ディ、ノ、」
「………、もう、放さない」
重なる唇に、あなたと溶けて、離れない。
***
作者のヒロインとディーノさんへの愛のせいか、なんだかあっさり再会;
もうちょっと溜めればよかった!とかアップしておきながら思いました。
さて、やっとこさお互いの気持ちが通じ合ったような二人。
次回でジャッポーネ編は完結ですv
次は、そうですね、初心にかえって、シリーズっぽい感じでアップしていきます。
そんでもって、またハプニングです笑。
では、今回はこれで!
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