動物的な本能が、私に語りかけてくる。(危ない、危ない)
こわい。
こわい。
こわい。
「、こわ、い、」
激しい風の音と、雨音。
そして、暗闇。
「っ、い、やぁっ、」
「大丈夫だ。、オレがいる。オレが、傍にいる」
優しい、声。
純粋な黒
「、コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
私をベッドに降ろすとすぐに、山本武は来た道を戻ろうとした。(どうして、)
そして、私にはそれが。
それが、ひどく恐ろしいことのように思えて。
「、?」
「……、コーヒーも紅茶も、欲しくなんかないわ。………だから、傍にいて、」
口にしてから、はっとした。(今、なんて、)
誤解、を、解かなくてはいけない。(けど、動揺を隠せない)
傍にいて欲しいだなんて、思ってないんだから。(なのに、)
私が傍にいて欲しいと願ったのは、たった一人。
後にも先にも、あの人だけ。(アリウム・ソガーロだけが、)
「……っ、「傍に居る」
動揺している私に、山本武はそう、言った。
はっきりと、ほんの少しの迷いもなく。
淡い笑みを、浮かべて。
優しさ全てを詰め込んだような、優しい声で。
私は悔しくて、山本武の頬を叩(はた)いた。
思い切り、強く。
「っ、あんたなんかっ、あんたなんか……!」
「殴れよ」
「、何、言ってるの、」
「どうせなら、殺したって構わないぜ」
雷が、遠くで光った。
山本武の顔が、青白く浮かぶ。(暗闇、に、)
「それでの気が済むんなら、安いもんだ」
人の良さそうな笑みを浮かべて、言った。
何もかもを許してしまいそうな、そんな笑みを浮かべて。
違う。
人の良さそうな、じゃない。(本当に、)
許してしまいそう、じゃない。(本当に、)
この男は。
この、男は。
本当に人が良い、この世の慈愛全てを固めたような心を持ったこの男は、一体何を考えてる?(分からない、)
「なぁ。オレはお前が幸せになれんなら、なんだってする。なんでもしてやる。
だから、泣いたりすんな。オレはお前の泣き顔より、笑った顔が見たいんだよ」
骨張った大きな手が、そっと私の頬に触れた。
「、あんたなんか、あんたなんかっ……、大っ嫌いよ……!」
「オレはのこと、好きだけどな」
「っ、嘘を吐く人間は、もっと、嫌いだわ!」
「ヒステリックなとこも、オレは愛してる」
この男に対しては、どこか甘くなっている自分。
随分前から、気づいていた。
この屋敷に連れて来られた、あの大雨の夜。(あの日、)
ヒステリックに怒鳴り散らしては物に当たって、泣き喚いた。
自分を傷つけ、他人を傷つけ、それを嘲笑っては泣く。
そんな私に、あの時、山本武は言った。
あの時も、この男は、言った。
「オレはお前の泣き顔なんか見たくないんだ。お前の笑った顔が見たい」
「お前の幸せの為なら、オレはなんだってする」
そして。
「…………オレは、こんなキレイな手、汚すのもったいねぇと思う。
でも、オレ達を殺さなきゃ気が済まねぇなら、止めねぇよ。
ただな、オレ達がお前を大事に思ってることは、忘れないでくれ。
オレ達は、お前の家族になりたいって、真剣に思ってるんだ」
この男の優しさは、私が愛しいと感じたものにひどく似ていて。
「それでもお前が、が望むなら」
「その時は」
「オレを、殺せばいい」
温かく、柔らかい。
光そのもののような。
私はそれに甘えて、逃れられないでいる。
***
ヒロインが、武に対してどこか甘えてるのは、武の優しさが親からもらえる愛情に似ているからです。
絶対で、揺るがないもの。
グロリゼファミリーにいた頃、ボスのアリウム・ソガーロやファミリーが与えてくれたものに酷く似ているのです。
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