「やっと、やっと出逢えた」


すぐに、分かった。
この声の主がボスを――私のファミリーを、奪ったのだと。


「……、っ、」


ボスの近くにあった拳銃に手を伸ばした。
けれど、私の手は何も掴めなかった。


「君をこうして、この腕に抱きたかった」


男は後ろから私を抱きしめると、吐息のように囁いた。
それに私はどす黒い嫌悪感を覚えて、その腕の中でじたばたと抵抗を繰り返したけれど、
そんなものには何の意味もなかった。私の手は、何も掴めなかった。



「……さぁ、帰ろうか。君の、新しい家へ」



その声を聞いた後、私の意識はゆっくりと闇に飲まれていった。
混沌とした、闇に。




純粋な黒



「今朝は随分と不機嫌だったようですね。ボンゴレが嘆いていましたよ」



六道骸はそう言って、黒い革張りのソファへ腰掛けた。
私は、そう、とだけ言って、お茶の準備を続ける。



「君を抱く時のみ、君の優しさを感じられるんでしょうね」



かちゃりと、高級そうなティーカップが音を立てた。
彼が立ち上がる気配がした。それからゆっくり、それが近づいてくる。


「ボンゴレは、どんなに忙しくとも、君と迎える朝だけは君の目覚めを待っていますよ」
「それが何だって言うの? 私には関係のないことだわ。第一、」




本当なら、あんな男になんて抱かれたくないの。




私の言葉に、彼は小さく笑った。
思わず顔を顰めると、彼の腕が私の腰へと回された。


、君は本当に素直な女性だ。僕は嫌いではないですよ」
「………、私はね、沢田綱吉が憎くて仕方ないの。勿論、」



六道骸も、例外ではない。



「分かっていますよ。けれど君は、ボンゴレほど僕を憎んではいない」
「自惚れないで。それに、何を根拠にそう言うの?」




「僕と君は、とてもよく似ているから」




冗談じゃないわ、と吐き捨てるように言った私に、彼は笑った。
――あの世で後悔するといい。
複雑な色を宿しているその瞳を睨んで、薄い唇に自分のそれを重ねてやった。




「――――あんたは、沢田綱吉の次に殺してやってもいいわ」




私の言葉に、彼は心底驚いたとでもいうように、色の違う両の目を見開いた。
そしてそっと、私の頬に唇を落とす。それがあまりにも優しすぎて、眉間に皺がよるのが分かった。
何を考えているのか分からない男だ。知りたくもないことだけれど、気味が悪い。
私とこの男――ボンゴレは、決して交わることなどない。この男も、よく分かっているだろうに。


「出来れば、貴女の上で死にたいものですね」
「……沢田綱吉に抱かれてからは、もう理想を抱かなくなったわ。そうね、それでもいいわよ」


あんたが死んでくれるならね、と言う私を見て、彼は苦笑した。
それから私を抱き上げると、ゆっくり歩き出す。




「クフフ、それなら早速、殺してもらいましょうか?」




出来るものならね、と呟く六道骸を、私は鼻で笑った。
じわりじわりと、毒薬の如く侵し尽してやるから、最期に嘆けばいい。




「逃げ道を塞がれたいなら、そう言ってちょうだい」




もしそれを望まなくとも、既に遅いけれど。
今更、逃げようとしても無駄だ。




一番痛い方法で、地獄へ送ってあげるわ。
私の、この手で。




top    next