私の意志とは関係なしに、暗い過去はどんどんそのスピードを現在に近づけて再生されていく。
「―――――庭を、とあの男が言わなければ気付かなかったかもしれない。
ふん、天下のボンゴレも程度が知れているというものだ――なぁ、嬢」
ああああああああああああわたしは選択を間違えた!
その命を賭して生かされていたのに!(父様、母様、みんな…!)
それなのに、抱いてはいけない期待を、
「あの男が、ここへ来たんだな?この部屋の匂いがあの男からした」
「、知りません、あの男とは、っああ!」
力いっぱいに張られた頬が、かっと熱をもって熱い。
ああ、これは報いなのだ。(抱いてはならない期待を、希望をあの人に見た私への、死んでいった者からの)
抵抗することすらままならず死んでいった者たちの呻き声が、私を責めたてる。
お前だけが平穏な日常へ帰るというのかと。(さま、とわたしを見て微笑む人達の顔が、)
「ボンゴレ10代目、沢田綱吉―――奴はそう名乗ったはずだ。正直に答えろ」
「っ、し、しりません、わたしは、」
「……お前を探しているファミリー達の命は、もうどうでもよくなったか?嬢」
これは、報いなのだ。
わたし一人、助かろうとした。(あの、優しい手に縋った、)
「――――――こ、ここへ、きました、」
「誰が」
「ぼ、ボンゴレ、10代目となっ、なのる、お、おと、男、が、」
「――――それでいいんだよ、嬢、私の可愛いガット」
これは、報いなのだ。
わたし一人、助かろうとした。(みんなには、縋る手すらなかったのに、)
純粋な黒
「……馬鹿なことはよせ。今ならまだ引き返せるぞ、骸」
ぶつかり合う金属音の中でも、彼の言葉ははっきりと聞き取れた。
ふと、僕は口元が歪むのを堪えることが出来なかった。
「馬鹿はどちらですか。――――もう全て遅い。は記憶を全て取り戻す」
ぴくりとその眉を動かすと、ほんの一瞬気を緩めた僕の腹を蹴り飛ばした。
容赦ないその蹴りで、僕は固い壁へと叩きつけられると、休む暇さえ与えられず胸倉を掴まれた。
「ふざけるのも大概にしろよ……誰がっ、誰がそうした?!」
「っぐ、ふ、くふふ、おかしなことを言いますね、きっかけは、君だと言ったはずですよ、」
緩んだ拘束の隙を見て、無防備な腹に蹴りを返してやる。
彼を反対側の壁へ飛ばしてやると、僕は咳き込みながら立ち上がる。
内蔵のどこかがイカれてしまったようで、血の混じった唾液を吐きだした。
ぐっと口元を拭うと、座り込む彼の前へと立つ。
「無様ですよ、君は」
「っ、な、んだと、」
「ボンゴレのように彼女に恨まれようとするわけでもなく、僕達のように彼女に手を差し伸べるわけでもなく、」
「っお前らがに手を差し伸べた?!抜かせ!!」
「っおっと、」
僕の足を払おうとした蹴りを避け、体勢を整える。
その間に彼は弾き飛ばされた刀を手に、僕の喉元へそれを突き付けた。
「お前らがしてることはを傷つけることだ!決して救うことじゃない!!」
「僕達も彼女を救おうとしてるわけではないですよ、ただ、手を差し伸べただけだ。選んだのは彼女です」
「っ、そうやって、のせいにするのか…自分達のしでかした事の重大さを分かって言ってんのか?!」
興奮する山本君の冷静さを失った剣筋は、簡単に読めた。
落ち着いているようでそうでもない僕にも、同じことが言えるだろう。
だが僕達は、競り合うよりも会話に集中になっていた。
「――――いずれにせよ、遅かれ早かれこうなっていましたよ」
「何故そう言える?!憎まれても、が自我を失わずにいられるならそれでいいと決めたはずだろ!!」
「……僕達が救出に向かうまでにかけられた彼女へのマインドコントロールは、根の深いものです」
「――だからお前の幻術で架空の話を作り上げ、その憎悪をオレ達へ向ける代わりに、の自我を守る。違ったか?」
「いいえ、その通りです。――――しかし、それにも限界があると、僕達は気付いてしまった」
「何……?」
「無理に幻術をかけ続ければ、彼女の精神は崩壊してしまう」
ある日、彼女に幻術を施している際に、僕は気付いてしまった。
彼女へのマインドコントロールは彼女の心を遠に侵食して、僕の幻術など気休めにしかならないと。
「が、っと、かわいい、ねこ、そう、そう、わたしは、…っ、いたい、頭がっ、あああああああ!!!」
「なんてことだ……このままでは彼女は―――――」
「やっぱりな」
突然現れたアルコバレーノは、何もかも分かったような顔をして悠然と立っていた。
「……幻術を施す際には僕以外の人間は関わらない、そう決めませんでしたか?アルコバレーノ」
「へのマインドコントロールは相当厄介なものだと思っていた……時間の問題だろう、骸」
「……、そうですね、残念ながら。もう僕の力ではどうにもなりません」
「だろうね、君のおままごとには僕も厭き厭きしてたんだ」
「……次から次へと…ボンゴレ会議で決められた事項って、こうも簡単に破っていいものなんですか?」
「ふん、僕には関係ないね。――――で、ムカつくことにこの3人でこの情報を共有することになったけど、」
どうやら偶然にも、(いや、僕からすれば不幸にも、だが)その場を通りがかったらしい雲雀君が、
らしい小汚い盗み聞きで会話に入ってくると、僕はいよいよ諦めたように溜め息を吐いた。
「――――で、皆さんにはそれぞれお考えがあるようですが?」
「それはテメェにも言えたことだろ」
「僕は僕の思った通りに行動する、君に指図はされないよ」
「……ではお互いに利害関係のある協力、これでいいですね?」
「っ他に、方法があったはずだ!!」
武器を交えているのも忘れてしまったかのように僕の話に聞き入っていた山本君だったが、思い出したように刀を振るった。
僕ももちろん大人しく切られてやる必要はないので、それを受け止めてまた口を開く。
「いえ、もうこれしか方法はありません。――――アリウムの屋敷で、
全てを思い出した彼女は再生された過去の記憶と現実を正しく認識して、
……元の彼女に戻るはずです。いわゆるショック療法ですよ」
「―――――が無事で済むって保証はあんのか」
「さぁ、そればかりは僕達も何度も考えましたが、彼女次第であるとしか言えませんね」
「そんな危険な賭けをしてっ、アイツに何かあったらどうする!!」
「それはボンゴレに言って下さい。彼が彼女のことを知ったとアリウムに勘付かれなければ、もっと早くに彼女を助け出すことが出来たはず。
そうすれば彼女は、あんなにも深い闇に身を落とすことはなかったでしょう。……違いますか?――――綱吉君、見ているんでしょう?ねえ、違いますか?」
***
獄寺君が出て行ってしまった今、ここには俺しかいない。
ああ、聞こえているよ、骸。
お前の言葉があまりにもまっすぐで、全身が引き裂かれるようだ。
俺は彼女を助け出すことだけに頭がいって、冷静さを失っていた。
あの薔薇の香りは、侵入者を見つける罠だったと、あの時やっと分かった。
俺がもう少し冷静でいたら、君を助けると言って君を更に傷つけてしまうことはなかったろう。
、、。
君は俺を、恨んでいるだろうね。
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