「くそっ!骸にしてもヒバリにしても、ましてやリボーンさんまで……っ!
どうして、どうしてもっと早くに気づかなかったのか……っ、」




忌々しいと言わんばかりの形相で、獄寺君はメインカメラの映像に吐き捨てた。
後悔という後悔を、もうとっくにしてしまったというのに。




「……了平さん、第3アンダーゲートを中心に警備を固めて下さい」
「了解した。……しかしいいのか?そこまで泳がせておいて」




ふっと、自分でも驚く程自然に、笑みは零れた。
獄寺君の悔しそうな顔を、視界の隅で捉えた。(そうだよ、もう遅いんだ)




「………俺だってもう、限界なんか超えてるんですよ」










純粋な黒










「いいでしょう、僕達も引くことは出来ません。さぁ、バットでも刀でも振り回して下さいよ」




不思議な妖艶さと、飲み込むような気味の悪さを持つ目が、すっと細められた。
鋭利な槍の先が、ぎらぎらと光る。






まるで、男の欲望を形にしたように。






「……この場合、オレの欲望って言った方がしっくりくるのか」
「欲望、ねぇ。……君にそんなものがあるとは、到底思えませんが」




オレは生憎(あいにく)ただの人間で、人並に欲求くらい持っている。




「お前達が、に本当の記憶を取り戻させようと、何か企んでいたのは周知の事実だ。後悔してる。
を傷つけるようなことはすんなって、もっとしつこく言ってやればよかったってな!」

「偽善ですよ。そう言いながらも、君は僕達の計画に協力したんですから。崩壊のきっかけは君だ」
「馬鹿言うなよ。まさか、無理に幻術解いてそれで終わりじゃないだろ」

「おや、確信めいた言い方をしますね。それともう一度言いますが、きっかけは君ですよ。
……それはさておき、ここは僕だけで充分です。さっさと行って下さい」




雲雀の腕に抱かれているは、怯えた顔で空を見つめている。




今どんな状態なのか分からないので、下手に刺激するわけにはいかない。
それを承知で骸は余裕の表情なのだから、さてどうしたものか。




「君はいつでも一言余計だね。今回のことが終わったら、即咬み殺してあげるよ」
「クフフ、いいでしょう、相手になって差し上げますよ」
「雲雀、行くぞ。………骸、せめてツナが出てくるまでは頑張れよ」




こっちがお前らの手の内を知らないように、お前らもオレ達の手札を知りえない。




ここはオレ一人に任されたんだから、ツナが出てくるわけがない。
それ以前に、そこまで事を大きくする話でもないのだ。




一歩間違えれば、取り返しがつかないであろうことは承知だ。




誰もが、事の重大さを承知の上で、それぞれの為に動いている。
果たして、純粋にの為だけに動いているのが、ひとりだっているだろうか。




それぞれがもう、限界を超えている。




骸も、雲雀も、リボーンも。
それにツナだって、もう自分の想いをコントロールすることが出来なくなっているのだ。




見え隠れする真実と、置かれている現実との違いに戸惑ったの思いも、同じに。




崩壊か、再構築か。
それを決めるのは誰でもない、お前なんだよ、




オレだってもう、ただ隣に座っててやることは出来ないんだ。




「……まっ、誰よりも崖っぷちなのはオレか」
「でしょうね。……クフフ、あれ程近くにいて、彼女を抱かずにいたんです。苦しいでしょう?」
「お前のその手には乗らねーよ。それに、身体で心が繋がるわけじゃねぇ」






「………いいでしょう。君のその化けの皮、掻っ捌(さば)いてやりますよ」






***






「………まぁ、分かってたことだけどね。リボーンまであっち側だと、正直やりにくいなぁ」




10代目は困ったように仰ったが、その表情はどうもそうは見えなかった。
諦めたような、それでいて憎悪を露わにしたような、混沌とした闇が窺(うかが)える。




「ねえ、獄寺君。オレが初めてに会った日のこと、詳しく話したっけ?」
「、いえ。……グロリゼファミリー主催の夜会で、としか」

「そうかぁ、うん、そうだよね。あの日は獄寺君に、別の仕事を頼んでたもんね。
………そうか、じゃあ聞いてくれるかな?その日の、こと」

「もちろんです」




ありがとう、と笑った10代目は、それは幸せそうで。
きっと、心は既に、その日の出来事へと連れ去られているのだろうと思った。


さん、貴女という存在は、こうも簡単に人を救うのに。
さん、貴女という存在は、どうして。




あんなにも深い闇から、逃れることが出来ないのでしょうか。




「今思えば、あの時から決めてたのかもしれないな、リボーンの奴。
詳しいことを、俺は何一つ口にしなかったけど。分かってたんだ」




そして10代目は、この先永遠に鮮やかに残るだろう記憶を思い返すように、そっと目を伏せた。




***




グロリゼファミリーの素行の悪さは、目に余るものがあった。




他所(よそ)のシマを、その辺のチンピラに荒らさせることなど当たり前。
力で押さえつけ、奪って、壊して、




そして、ついに。
金で操っていた人形が、ある日ついに犯した。






何の関係もない一般人が、意識不明の重体。






意識が戻らなければ、死を覚悟しなくてはいけないという事態になった。
これには同盟ファミリーもいよいよ怒りを露わにし、ここで制裁を加えなければと立ち上がった。




しかし、グロリゼが金でチンピラを雇い、あれこれ好き放題したという証拠がない。




制裁を加えなければ示しがつかない。
けれど、証拠もなしに下手な動きを見せれば、立場が逆転することだってありえるのだ。






グロリゼファミリーのボス、アリウム・ソガーロという男は、悪知恵のよく働く男だった。






あと少しで掴めるという寸前で、うやむやにする。
圧力をかけようにも、その態度からして逆効果なのは目に見えていた。




そしてこちらが手を出せないのをいいことに、グロリゼの暴挙はますます大っぴらになっていった。




麻薬に人身売買。
違法カジノ。
闇オークション。


犯してはならない、禁忌。
マフィアの秩序。




ここまできて、黙っていられるわけがなかった。




しかし、あくまでもゲストとして、俺はグロリゼファミリー主催の夜会へと赴(おもむ)いた。
リボーンと山本、ヒバリさんと一緒に。




「……ご機嫌麗しゅう、ボンゴレファミリー10代目」
「わざわざお出迎えありがとうございます、ドン・グロリゼ」
「ゲストをお迎えするのは当然のこと。さぁ、どうぞこちらへ」




重量のありそうな扉が、気味の悪い音を立てて開いた。




あの夜から、全てが始まったんだ。
あの出会いがきっと、始まりで、終わりだった。
、俺が世界で一番美しいと思う、世界で一番愛おしいひと。


君はあの夜を、君はあの、この出会いをどう思っていたんだろうか。
俺はこの先ずっと、色も音も匂いさえも残して、抱いていくよ。
















































、君は俺を、恨んでいるだろうね―――――――――。

















































***


いよいよ核心へ、


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