欲しいと、心から思う。
彼女が彼を。
彼が、彼女を。
それと同じなんだと、分かって欲しい。
09:苛立ち
言ってやった、と、思った。
山本武の顔を見た瞬間、優越感に溺れそうになった。
彼に、直接彼女への想いを聞いたわけではないけれど、でも、同じだと感じた。
考えるよりも先に、感じた。
本能的な何かが、僕にそっと耳打ちをしてきたのかもしれない。
聞こえるものでは、なかったけれど。
「………、なんなんだ、」
ただ、彼女の顔が、離れない。
まるで、この世の終わりを知ってしまったかのように、怯えていた。
「、そんなに、そんなに大事なの?」
幼馴染の彼と比べれば、過ごしてきた時間は本当に僅かだろう。
彼女のことはなんでも知ってると、そう言いたいけれど、実際には彼の方が多く知っているだろう。
だけど、彼女を想う気持ちは、彼よりも大きいと、僕はそう思っている。
他の誰がなんて言おうと、彼が、なんて思おうとも。
変わりようのない事実だと、僕は胸を張って言える。
それだけの自信がある。
だけど、それを彼女が認めてくれなければ、意味がない。
「っ、、どうしたら、君は僕を愛してくれる?考えても、僕じゃ、分からないんだ。
何をどうすれば、誰をどうすれば、僕だけを必要として、見つめてくれるんだっ、」
壁を殴っても、苛立ちは治まらない。
逆に、ふつふつとどす黒い感情が込み上げてくる。
初めから、綺麗だったわけじゃない。
薄汚れた存在だ。
でも、君と在る時だけでも、透明な君に寄り添えるよう、せめて、白くいようとしていたのに。
「……、全部、全部全部全部!何もかも君次第だっていうのか!?の気の向くままっ、
僕の意思も行動も言葉も何もかも!!……、君、次第、だっていうの……?」
僕だけが、君を想っている。
悔しい。
こんなにも、こんなにも。
君だけを、愛してるのに。
この愛情の、百分の一も返してもらえないなんて。
僕と同じだけ、だなんて望まない。
でも、全く望まないなんて、出来ない。
ほんの少しでいい、僕だけに注ぐ君の愛情が、欲しい。
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