オレはただ、のことが好きで。
その気持ちに対して、見返りとかを求めてるわけじゃない。
そりゃあもちろん、も、オレが好きだって、そう口に出して言ってくれたら。
そしたら、嬉しくて嬉しくて、泣きたくなると思うんだ。
無防備なままで、ただ、お前のことが好きってだけなんだ。
08:悔しい、
「!!あんまし急ぐなよーっ!お前、すぐコケんだから!!」
グラウンドから、が見えた。
号令をかけてたとこを見てたのか、少しスピードを上げようとした姿に、大声を上げる。
目が合って、嬉しくなって、手を振った。
「なんだよ、山本の彼女かよー」
(そうだったらいいのに)
「、違いますよ!」
(そうなんですって、言えたらいいのに)
「先輩先輩、コイツ、ちゃんとめっちゃ仲イイんスよー」
(それだけじゃ、ダメなんだよ)
「マジかよっ!?おいおい山本ー、先輩差し置いてそりゃねーぜ」
(こんな苦しさを、羨ましく思えるわけ、ない)
笑いあいながらも、心の中で、小さく呟いた。
「んじゃ、さっさと着替えて迎え行ってやれよなー」
「げっ、なんで知ってんだ?一緒に帰ること」
「そりゃお前、ちゃん帰宅部なんに、こんな時間まで残ってんだもん、それしかねーだろーがよー」
冷やかしはいらねーよ、と笑って返すことが出来たかどうか。
ふと、校舎へ目を向けた。
窓に夕日が差し込んで、廊下がまだらな色になっている。
ガラスが、オレンジ色に光を放つ中、黒い影。
と、ヒバリだ。
何か、話してるようだけど、もちろん内容は聞こえない。
でもなんだか、妙な胸騒ぎがする。
ヒバリが、との距離を詰めていく。
部室に、駆け込んだ。
ロッカーを乱暴に開けて、さっさと着替える。
急げ。
急げ。
急げ。
今、この瞬間にの傍にいなくちゃ、きっとは帰ってこない。
どこに?
の居場所は、初めからオレの隣にあったのか?
分からない。
でも、の手を。
その存在を。
手放すわけには、いかない。
***
「そんなに、」
「大事?」
「山本武が」
びくっと、肩が震えた。
今ヒバリは、なんて、言った?
着替え終わって、急いで廊下に向かったけど、当たり前だ、二人はとっくにいなくなっていた。
きゅっと、廊下が音を立てた。
自分が出せる最速のスピードで、廊下を駆け抜ける。
応接室、だ。
「でもね、」
「君が山本武を想うように、」
「僕も君を、想ってるんだよ」
ヒバリが、オレを見て、言った。
ヒバリの腕の中で、微動だにしないの後姿に、ちくりと、どこかが痛んだ。
「、自分でも、気づかないうちに、僕は君を、こんなにも、好きに、なってた、」
ダメだ。
これ以上は。
早く。
早く。
早く扉を開けなくちゃ、ヒバリは、きっと。
なのに。
身体は動いてくれず、ヒバリはにやりと、笑った。
「………、好きだよ」
派手な音を立てて、扉を、開いた。
勝ち誇ったようなヒバリの顔に、身体がかぁっと熱くなったのが分かった。
「っ、」
が、この世の終わりだ、とでもいうような顔をした。
小さく息を詰まらせて、オレを、見ている。
「やぁ」
ヒバリは、ほんの少し笑みを乗せた顔で、そう言った。
ずかずかと応接室に入って、の手をぎゅっと握った。
「………帰んぞ、」
優しい言葉を、かけてやりたいのに。
出来ない。
今日に、今に限って、出来ない。
オレの優しさは、全部お前にやりたいって、そう思ってたのに。
そう、思ってるのに。
なんでだろうな。
今は、自分の気持ちがうまく抑えられない。
今はただ、お前が、好きで好きで、仕方ない。
なぁ、。
お前は、なんて言うかな。
また、泣くかな。
それでも、オレはお前が、が、好きで好きで好きで、好きすぎて、しょーがねーんだよ。
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