応接室へ向かっている途中に、わたしは、もう終わりだと思った。
もう、何もかも終わりだ。
もう、一緒にはいられない。
何よりも、誰よりも愛しいあなたと、一緒にいられない。
07:呟いた悪口
「っ…………、ごめ、ん、」
強く手を引かれて、応接室を出た。
それから、お互いに何も言わずにいた。
それは多分、言葉が見つからなかっただけ、だったんだろうけど。
たーくんはただ、ごめん、ごめんと、わたしに何度も謝った。
わたしは、悲しくて、淋しくて、違うの、違うと、何度も首を振った。
「わ、たし、たーくんとの、やく、そくを、破った、っ」
たーくんのことは、ホントにホントに、死ぬ程、好き、だけど。
でも、だけど。
キョーヤ先輩だって、大事な、先輩だった。
風紀委員には、好きでなったわけじゃなかった。
むしろ、ちょっと無理やりだった気もする。
でもわたしは、いつからだったか、ちゃんと、キョーヤ先輩を尊敬するようになってた。
それは、今も変わらない。
尊敬してる、大事な先輩だ。
だからわたしは、全部リセットしようと、思ったんだ。
たーくんとの約束を破って。
風紀委員を辞めて。
二人との関係を絶って。
それで、いつかまた、やり直せるはずがないんだけど。
でも、わたしはそれでも、しょうがないんじゃないかと、思った。
今までずっと、自分を隠して、偽ってた。
今までずっと、キョーヤ先輩を、傷つけてた。
今までずっと、たーくんの優しさに、甘えてた。
それの代償ってヤツが、きっと、これなんだ。
「、手、痛かっただろ……?ごめん、な」
「ちがっ、違うの、」
わたしの頭を撫でる、優しい、大きな手。
「ちがうの、たーくん、っ」
「何が」
わたし、たーくんとの約束、破った
こんな道端で、わんわん泣き喚くわたしに、時々通り過ぎていく人が、気の毒そうにわたしを見る。
そして、非難の視線を受けるたーくんに、わたしはまた、泣く。
この涙こそが、冷たい非難の原因だっていうのに。
「、ご、ごめんなさっ、ごめん、なさい、」
なんて、罪深い、と、誰かの声が、聞こえた気がした。
たーくんの、腕の、中で。
「………バーカ」
たーくん、たーくん。
ごめんなさい、ごめんなさい。
でもね。
大好きなの。
top next