自己嫌悪の渦の中にいながらも、目の前の優しさに、頼らずにはいられなかった。
わたしって、ホントに、なんて最低で、汚い人間なんだろう。




嫌な女、とか。
最低な女、とか。




もう、そういう次元じゃなく、わたしは最低な人間だ。




05:約束




「、ご、ごめんね、たーくん」




涙が止まって、わたしは素早くたーくんから離れた。
曖昧に笑うわたしを見て、たーくんは優しく目を細める。




「ん、大丈夫か?」




頷くと、そっか、良かった、と、たーくんはにこっとした。
ほっとしたような、淋しく感じたような。






胸の奥で、何かが軋むような音が、小さく聞こえた。






「あ」
「、なに?」



































「今日さ、オレの部活終わるまで待ってろよ。一緒に、帰ろうぜ」



































まるで、イタズラを思いついた、子ども、みたいな。
そんな顔をして、たーくんは笑った。





「、うん」





どんなに、最低で、汚い、嫌な女だとしても。
たーくんと、離れたくない。






だから、今までのように、毎日笑って、たーくんの隣にいる。











***











時計を見ると、針はそろそろ5時を指そうとしている。
たーくんの部活が、終わる頃だ。





中学に入って、登校は変わらず一緒だけど、帰りは別々になっていた。





小学校の時とは違って、部活の時間が長いから、帰りが遅くなってしまう。
わたしは待っていられると言ったけど、たーくんは、先に帰ってろと、わたしに笑った。
オレの為に、の時間を潰す必要はねーよ、と。





「、ヤバ、もう号令かけてるし、」





ちらっと窓の外を見ると、野球部員がずらっと並んで、部長さんらしき人に礼をしていた。
着替える時間があるにしても、ちょっとマズイよね、と足を速めた瞬間。






!!あんまし急ぐなよーっ!お前、すぐコケんだから!!」






大きな声が、大きく開け放たれた窓から入ってきた。
急いで窓へと向かうと、たーくんが、こっちに手を振りながら、にこにこしていた。





「なんだよ、山本の彼女かよー」
「ち、違いますよ!」
「先輩先輩、コイツ、ちゃんとめっちゃ仲イイんスよー」
「マジかよっ!?おいおい山本ー、先輩差し置いてそりゃねーぜ」





楽しそうな声に、小さく笑って、わたしはまた走り出そうと、した。





走り出そうと、しているのに、身体がちっとも動いてくれない。
そうしている間にも、彼は、少しずつ、わたしとの距離を縮めてきているというのに。






























「、キョーヤ、せんぱ、」






























グラウンドから、まだふざけあう声が聞こえている。
その中には、たーくんの声も、あって。





キョーヤ先輩の目を、ちゃんと見ることが出来ない。





「君を、探してたんだ。……ずっと」
「、すみません、」




「どうして、謝るの?」




窓から、オレンジ色の光が入ってくる。
キョーヤ先輩の頬に、影が出来た。






「、あ、あの、すみません、わたし、たーく、じゃなくて、山本君、と、約束を、してて、」






急いでるんです、とまでは言えなかった。
さすがに。





だって、わたしが、たーくん、って言いかけた瞬間、キョーヤ先輩、ものすごく不機嫌な顔をしたから。





「………10分……、5分でも構わないから、僕に時間をくれない?」
「、あ、明日じゃ、ダメなんですか、」




わたしも、キョーヤ先輩に、今朝のことを謝りたい。
でも、ここでキョーヤ先輩を取ってしまったら、きっと。







たーくんと一緒に、いられなくなる。







キョーヤ先輩のことは、尊敬してるし、草壁先輩程じゃないけど、慕ってもいる。
でも、たーくんの代わりは、誰にも出来ない。


キョーヤ先輩かたーくん、どちらか選べと言われたら。
迷わず、わたしは選んでしまうもの。






「、わたしも、キョーヤ先輩にお話したいことがあるんですけど、今日は、無理なんです」
、その話の内容が、今朝のことを指しているなら、それこそ明日じゃ無理だよ」






が思ってる程、僕は出来た人間じゃないよ、と、キョーヤ先輩は言った。







ついさっきまで聞こえていた声も、もう聞こえない。
オレンジのような赤色をしていた空も、もう紫色に近い。







が、今僕に時間をくれるなら、今日のことは許してあげる」
「、キョーヤせんぱい、」





















、選ぶのは、君だよ、と、キョーヤ先輩は、優しく、優しく、言った。
















































































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