「、ムカつく……っ!」
キョーヤ先輩に、わたしの気持ちが分かるわけない。
キョーヤ先輩は、わたしを何も分かってない。
わたしが、たーくんのことを、どれだけ好きかなんて、分かるわけない。
03:優しい腕
高ぶった感情を抑えることが出来なくて、わたしは教室へは行かず、屋上へ行った。
あのまま教室へ行ったところで、みんなに迷惑をかけるだけだし、何よりも。
たーくんに、「どうした?」って、優しく声をかけられることに、耐えられそうになかったから。
腕時計を見ると、もう2限が終わる時間。
ぼぅっとしたまま、何をするわけでもなく、無駄な時間を過ごしてしまった。
「……っ、たーくん、」
キョーヤ先輩に、失礼なことを言ってしまった。
それを、申し訳ないと思っているのに。
わたしの頭の中は、たーくんでいっぱいだ。
最低。
最低。
「わたし、っ自分のことしか、考えてない……っ」
そんな風に思ったところで、たーくんは、消えてなんかくれない。
むしろ、もっと深く、色濃く、わたしの頭の中を支配していく。
「っ、なんだよ、ここに、いたのか、」
聞きなれた、大好きな声に、わたしは、勢いよく振り返った。
チャイムは鳴ってないし、まだ授業中なんだから、まさか、と思いつつ。
「、たーくん、」
期待感の方が、当たり前のように大きかった。
だってわたしが、たーくんの声を、聞き間違えるはずがないもの。
「ったく、こうなるんなら、あん時、ムリヤリ引っ張ってくりゃよかったぜ」
にこにこ笑って、たーくんはそう言った。
わたしの隣に、そっと腰を下ろす。
「、何、泣いてんだよ、」
たーくんが、わたしの頬に、そっと触れた。
いつのまにか、わたしは、また、泣いていたらしい。
たーくんの触れたところから、涙の感じがした。
「……っ、たーくん、たーくん、」
あんな夢見たから、やっぱり今日は、変だ。
あの日に、自分で決めた約束事を、あっさり、破っちゃうなんて。
たーくんの告白を断った日、女の子として、たーくんに接しちゃダメだって、決めたのに。
わたしはずっと、たーくんの幼馴染。
それ以上でも、それ以下でもない。
望んじゃ、ダメ。
誓ったのに、わたしは自分から、たーくんに縋ってる。
「、たーくん、」
「……、」
ごめんね、たーくん。
ホント、ごめん。
躊躇いがちな、あなたの優しい腕を、拒まなくて、ごめんなさい。
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