おまえはね、いけないこだよ おまえはいけないこ おまえはこまったこ おまえはわるいこだ おまえはわるいこだ おまえはね、いけないこだよ だぁれもひつようとしてないよ だぁれも、だぁれも おまえはね、きえるしかないこなんだよ トリップチュア! 「、つなよし、」 あれれ、どうしちゃったんだこの子。おかしいな、さっき確かに部屋まで送り届けてきたはずなんですが。昔というほど前の話でもないけど、ずっとビアンキが使ってた部屋。彼女ももう色んな意味で大人になったので、去年の夏頃に家を出て行った。まぁ、今でもちょくちょく泊まりにくるけど。そんなわけで、空き部屋と言っても荷物は置きっぱなしだし、まだ人のにおいのする部屋だ。の性格、というか性質? を考えれば、落ち着かないのかもしれない。何にしろ、そのまま廊下に立ちっぱなしにさせておくわけにもいかないので、とりあえず部屋に入れる。おいでおいで。ひらひら手招きすると、とてとてやって来た。……小動物みたいだ。なにあれなにあれ超かわいい!(ぐっと親指立てたくなるよねこれ) 「眠れない?」 「……ちがうの。話したいこと、あるから」 うん、なんでも話しなさい。なんでも聞いてあげるし、答えられることはなんでも答えてあげますよ。やばいな、きっと顔締まりない! へらっへらへらっへら。これ信用ない顔じゃない? だいじょうぶ? 俺。せっかくが俺に話したいことあるっつってんだからさ、もっとこう、それに相応しい顔じゃないとね。咳払いをひとつ、さあどうぞ! とに笑ってみせると、口を開いたかと思えば、それは言葉を発さずに閉じてしまった。視線をあちらこちらに彷徨わせるので、、こっちおいで、と膝をぽんぽんと叩く。少し考えるように首を傾げて、おずおずと近づいてきた。ので、そのまま抱き上げて膝の上に乗せる。 「ゆっくりでいいよ。待ってるから」 「……、う、ん」 それからは、ゆっくり言葉を選ぶようにしながら、ひとつひとつ順を追って話してくれた は、本当はこの世界の人間じゃないということ。本当の世界で、じさつ、しようと、マンションの、屋上から、飛び降りたと、いうこと。 そして気づいたら、豪雨の中、あの場所に立っていたと、いうこと。 身体が勝手に、動いた。 思い切り、きっとには痛いぐらいの力で、彼女をぎゅっと抱きしめた。こんなちっちゃい、細い、小さい身体で、何を受け止めようとしてたんだよ。何を耐えようとしてたんだよ。きみの苦しみを、俺はきっと分かってないから言えるのかもしれないけど、でも。なんてバカなんだ。なんで、そんな死のうだなんて思ったんだよ。どうして飛び降りたりなんかしたんだよ。、バカだよ。きみは、ばかだよ。 それでも生きて、俺のとこへきてくれて、ありがとう。 「、もうそんなこと二度と考えちゃだめだ。……そんなこと思えないくらい、俺が幸せにするから」 「、っ……! ………つな、よし、」 「俺がのこと、幸せにするよ。だから、もう独りで抱え込まないで」 なんてことだ。 彼女の抱えているものは、俺が考えてたものよりずっと大きくて、深いものだったんだ。混沌とした闇。聞いたからには、受け止める責任がある。つらいことを、わざわざ口にして。かなしいことを、わざわざ思い出して。傷を抉るような真似をしても、は俺に教えてくれたんだ。痛い、こと。その悲しみの理由は、まだ分からないけど。でも、もうそんな気持ちにはさせないよ。熱い目頭も、零れてくる涙も、じんわり感じるきみの体温も、だいじにする。出会ってまだ24時間も経ってないのに、もうべた惚れなんだよ。、分かるだろ? 俺だって人間だし、男だ。やましいこと考えたり、ずるいことしたりも、するよ。でも、のことだけは絶対に守るよ。何があったって、まもってやる。きみには俺しかいないんだって、うぬぼれてるけど。 …………、俺はいいパパになるからな! ぎゅうっとすると、女の子のいいにおい。……俺は、いいパパになるんです。かわいいかわいいに、もうかなしい思いをさせないように。俺が出来ることなら、なんだってしてあげる。苦手なことだったとしても、努力するよ、きみのため。俺みたいなどうしようもないヤツでもいいなら、いくらだって。そんな気持ちを込めて、抱きしめたまま肩口に顔をぐりぐりする。が小さく身動ぎしたけど気にしない! ……幸せにするって言ってるヤツが悲しそうな顔してたら、しょうがないもんな。うん、よし! なんかいい具合に燃えてきたぞ沢田綱吉! 「……、私、つなよしのこと、すごくすきなの」 「…………決意した瞬間にそれはきついよちゃん……」 「? ……すき、すごく。だいすきなの。……だから、うれしいの」 「……! う、ん、わ、わかった……!!」 早くも理性とか秩序とか法律とか飛び越えて本能が走り出しそうだが、俺はパパなわけだ。のパパ。俺の使命はを愛し、守り、そして慈しんで幸せにすること! オーケー? 俺の理性。分かったらそのことしっかり叩き込んで二度と不埒なことを考えないと誓え俺に!! ……花みたいな笑顔を見つめながら、俺は頭の片隅で何百回と繰り返した。(今後これを不埒な俺を制圧する魔法の呪文とする)そして精神が落ち着きを見せ始めてから、を抱いて立ち上がった。 「っ、」 「ねむいでしょ」 「っねむくない、」 「目がとろんとしてるよ」 「……、ん、」 俺の首にしがみつくように腕を絡めて、は小さく頷いた。鎖骨を撫でる髪がくすぐったい。今後好みの部屋になる元ビアンキの部屋へ入ると、の腕が力を込めた。……お、おろせない……。仕方ないので、そのままベッドに座る。、と声をかけると、幼児がするようにいやいやと首を振った。ま、まいったな、駄々っ子のようだ……。いや、かわいいんだけどもね。ただ、きちんと休まないと身体の故障にも繋がるし。それによくよく考えると、俺明日も学校あんだよね。……これで遅刻とかしたら、リボーン……は、分かんないけど――なんせあの可愛がりよう! 夕飯の時なんかずーっとって構いっぱなしだった――あれは人のこと親バカとか言えんだろうっていう……、それはともかく。そんなわけでリボーンはちょっと予測不能(夕飯の時はああだったにせよ、最初いい顔はしなかったわけなので)だけど、獄寺君が騒ぐのは目に見えてるからなあ……。それでに当たられちゃ困るし。……うーん、どうしたものか。するとが、「……ひとり、こわいの、」と呟くように口にして、ますます俺の首筋に擦り寄ってきたので、もう考えるのはやめにした。 「……もう、初めからそう言ってよ」 「、ごめん、なさい、」 「謝んなくていいんだよ。……じゃあ俺の部屋で一緒に寝ようか」 「……ん、」 マジで?(あれ、これ今日2回目じゃないか?) *** 夢の中、現われたのはピエロ。 真っ赤な鼻を鳴らして、にこにこ笑う。私を中心にして、くるくる踊る。口元の笑みに、私はぞっとした。鏡が、ある。私を映している。ピエロが、鏡の中で笑う。、。まるで歌っているように、私の名前を口ずさむ。ピエロが私を呼ぶたび、左胸から血が滲んでいく。じわりじわりと、私を染めていく。痛みはないけれど、恐怖が私の身体を叩く。危険だ、逃げろと。でも、動けないのだ。どれほど恐ろしいと思っても、逃げ出したいと思っても。逃げようにも、力が入らない。そして私は、諦めるのだ。生きることを諦めた、あの日のように。特に感慨もなく。……ある人への羨望を、除いては。 おまえはね、いけないこだよ おまえはいけないこ おまえはこまったこ おまえはわるいこだ おまえはわるいこだ おまえはね、いけないこだよ だぁれもひつようとしてないよ だぁれも、だぁれも おまえはね、きえるしかないこなんだよ そうね、分かってる。私はいけない子。人に迷惑をかけることしか出来ないくせに、言い訳を並べて自分を正当化しようとする。そのことにだけは、人一倍長けている。私は困った子なのだ。成長しない、頑張れない子。……頑張れない? ちがう、“がんばらない”子だ。だから私は悪い子。だから、私はいらない子。誰も、私なんか必要としてない。私が疎ましくて仕方ない。そうしたら、私が出来ることはひとつだけ。私なんかにも出来ることが、ひとつある。 私を幸せにしてくれるって、言ってくれた。 つなよし、つなよし、つなよし。私は、あなたみたいなひとに、大事にしてもらえるようないい子じゃないの。でも、守るって、裏切らないって、その言葉がうれしかった。抱きしめてくれる腕が、優しくて、あったかくて。好きって、だいすきって、思うの。でも、だからこそわたしは、つなよしに甘えちゃいけない。私なんかの面倒みてたら、つなよしは幸せになれない。私の幸せなんかどうだっていい。ひとを不幸にしてまで幸せになる資格、わたしにはないの。最低な人間なの。幸せになんか、なっちゃいけない。今まで、誰かを痛めつけて生きてきた私が、何を望むの? 望むことといえば――これもまた、自分を正当化する為の理由になるのかもしれないけれど――私なんかを大事にすると言ってくれたひとの、とびきりの幸せ。 それを願う気持ちは、嘘じゃないと言えるから。 わたしは、「しねばいいんだよ」 背筋が、震えた。ぞくりと、嫌な汗が冷えたのが分かる。隣に眠るやさしいひとを起さないように、ゆっくりと身体を起こす。それは、そこにいた。真っ赤な鼻のピエロ。私を見て、笑っている。狂気が滲んでいる。不気味に美しい。それはふわりと宙に浮かんで、すぅっと私に近づいてきた。真っ白な指の先、伸びきった長い長いながい爪が、私の頬を撫でる。ぷつり音を立てて、血が流れた。一筋の赤い跡を、ピエロは舌でなぞる。ぞくぞくと、身体が震える。呼吸が、浅くなる。これは、夢? それじゃあさっきのは? でも、隣にはやさしいひとが、どこか幼い寝息を立てている! これが、げんじつ? それとも――。 「しねば、いいんだよ」 私が理解しやすいように? そんな気づかい必要ないのに、ピエロは言葉を噛み砕くように口にした。しなくちゃいけないことも、やり方も分かってるのに。だって、これがはじめてじゃないんだもの。今度こそ、私は本当に死という終わりを、迎えるのだろうか。今度こそ、ひっそりと、消えてなくなれるんだろうか。そういえば、元の世界は今、平穏な日々を送っているのかしら。私がいなくなったことなど、誰も気にせずに。パパもママも、私のことを忘れて、幸せな人生を歩んでいる? 「かんたんなことさ! ただ、そこからとんでみるだけ。だいじょうぶ、きみはとべる!」 目をつぶってみれば、パパとママの笑顔が浮かんだ。それはどこか古ぼけていて、懐かしい感じ。私が“死んで”、はじめての夜なのに。ねぇパパ、ママ、きいて。わたし、うまれかわったの。でも、また同じ失敗をしそうなの。だから、今度こそ終わりにしようと思う。わたし、その方法を知ってるの。かんたんなのよ。ただ、このベランダから、とんでみるだけなの。きいて、パパ、ママ、わたし、 「っ!!」 |