帝光バスケ部の絶対君主――赤司征十郎の従姉妹であり、バスケ部ファンクラブを仕切る絶世の美女――通称“小百合”。そんな彼女を崇め、讃え、敬い、愛する者たちが集う"小百合様ファンクラブ"には絶対条件が存在する。“赤司様と小百合様を見守り、慈しみ、そして帝光バスケ部をお支えする小百合様をお助けする” ――それが小百合様ファンクラブ、“白百合の会”。 「征十郎さん、今日もそちらに伺いますわね」 「……ここ最近、毎日のように顔を出すじゃないか。何の用がある?」 「あら、随分だこと。わたくしは帝光バスケ部に……征十郎さんに、骨身を削って尽くしておりますのに」 「……そうか」 「いやぁあああ赤司様と小百合様のツーショットよぉおお!」 「誰か! 誰か写真を……!」 「お二人がご一緒……! あぁんっ、眩しい……! 美しさが目にしみる……!」 黒子っちと一緒にいたら、オ・レ・の! 天使ちゃんに会えるよね……だってふたりめちゃくちゃ仲良しで……それで…………ら、らぶらぶの(震え声)だい、親友……ッスから……!! というわけで、この昼休みは黒子っちにくっついてよう! で、なんかうまいこと「ちゃん、お昼一緒に食べよ!」って誘って……っていうッ!! うわ〜ッちゃんとお昼ッ!! なにそれめっちゃ楽しいじゃん……。ちゃんっていつもお昼なに食べてんだろ? お弁当? それとも購買? ……お、お弁当なら! 「それおいしそうッスね! 一口ちょーだい?」とか! ちゃん優しいから、絶対「いいよ」って言ってくれるし……あ、あ、「黄瀬君、あーん」とかっていう展開もあるんじゃ?!?! なんて楽しい妄想をしていると、「気色の悪い顔をボクの隣でするのやめてもらえませんか」と黒子っちが心底うざったそうに言った。バッサリ言い切るあたりが今日も歪みない。 と、それは(いつものことなので)とりあえず置いておくとして!! 天敵ッ! サユリさんを発見してしまった……。いつぞや見た「ヒミツの花園かッ!」という光景。今日も相変わらずプリンスオーラ全開で、女子がキャッキャ喜んでいる。……ふんッ! 別に全然気になんないッスよ。あの人がドコでどうしてようと? オレには関係ないし?? ちょーっとちゃんと仲イイってだけの友達なんか眼中にないっていうか???? …………あの人ちゃんとラブラブだし(黒子っちと同族性だから)できるだけ近づきたくないんスほんとは!! でもなんかすごいことになってるから!! 気になっちゃうッス!! 「……な……なんスかアレ……!」 正直なリアクションに、黒子っちはいつもの冷たい目でオレをじっと見つめると、それからハンッと笑った。ぐぬぬ、黒子っちにはもう条件反射で体が先に反応しちゃうから対応のしようがない……。「他にリアクションないんですか? ……モデル(笑)なのに表現力が乏しいですね」と言ってせせら笑う黒子っちを見ると、もう体がビクビクする。背筋がゾクゾクッてする。でもヘタなこと言っちゃえば何がどうなるか分かんないので、オレはできる限り大人しくしていなければならない……。……いや! でも!! 今日はちゃんとお昼一緒にできると思えば苦じゃないッス!!!! 「キミはいちいち言われないと理解できないおバカさんのようなので、このボクが説明してあげましょう。まぁ普通は見れば分かりますよね。あそこにいるのは小百合さんと赤司君ですよ」 「いや、そうじゃなくてですね!」 (どうにもできないけど)クッソ〜!! 黒子っちのドヤァって顔とゴミを見る目が合わさったこの絶妙な感じ悔しいッス……ッ! でもやっぱりなんも言えないのがいちばん情けないところッスよね! アハハ! ……こんなふうに黒子っちにイジメられるかっこわるいトコ、ちゃんに見られたらヤダな……。あ、でもちゃんがいるときだけは黒子っちって爽やか〜☆ミ な 真面目め〜☆ミ な イイ人〜☆ミ ってオーラ全開だし、そもそもちゃんは黒子っちならなんでもオッケーって言ってもおかしくないくらい黒子っちのコト……だ……だ……だいす、き……だから……(震え声)。 黒子っちの様子をうかがうと、その視線はまっすぐにキャッキャしてる“ヒミツの花園”へと注がれている。ん? と思っていると、黒子っちは何を考えてんだか分からない(ちゃんがいるとき以外はこれがデフォルトだけど)顔をして、ぽつりとつぶやいた。 「……赤司君と小百合さん、二人が一緒にいるのってとても珍しいですから、白百合の会のメンバーにとってみたら至福の光景でしょうね」 何をそんなに考え込む必要があるんだろ? いや、実際のトコどう思ってんのか分かんないけど。まぁそんなコトはともかくだ。オレももう一度“ヒミツの花園”へ視線を向ける。 ……うん、一言にまとめると 「ヤバイ」としか言いようがない。 何アレ。ヤバイ。赤司っちが女子人気すんごい高いのは知ってるけど、サユリさんがモテるのはホント理解不能だから、赤司っちとセットなのが「超ヤバイッ! イイッ! ステキッ!」とか余計にナゾ。 「へ、へえ……」 思わずげんなりした声でつぶやくと、黒子っちは「ふふ」と笑った。 視線は相変わらず、赤司っちとサユリさんのふたりに向かっている。 「あの二人を“見守り”、“慈しむ”ことが入会の絶対条件なんだそうですよ。面白いですよね、あの二人にとって“仲良し”なんて言葉、縁がないでしょうに」 ほんとうにおもしろそうに言うので、オレはキョトンとしてしまった。いや、なんかこう、マジでおもしろそうにしてるっていうか……んんーっ、なんて言えばいいのか分かんないッスけど! とにかく、なんか楽しそうな顔をしてるので、「なんでオレが……」とちょっとムカつくッスけど、赤司っちとサユリさんの関係に興味がでてきちゃったのはしょうがない。 「え、でもイトコなんスよね?」 そう言うと、黒子っちはやっとオレに視線を戻して、「イトコ同士だからって仲が良いとは限らないでしょう?」と薄く笑った。ううっ、だからソレはすっごいゾクゾクッてするからやめてほしいんスけど……! まぁ言ったところで……って話なんでお口チャックなんだけどね! と内心コソッとつぶやきつつ、「ですから、赤司君にとっては白百合の会って天敵なんですよ。メンバーの皆さんが、赤司君と小百合さんは“仲良し”って思ってるんで。小百合さんの方は「それは都合がいい」って言ってますけどね」という黒子っちの言葉を大人しく聞いた。まぁ結局、なんで黒子っちがあんな顔したんだか、聞いてみてもサッパリだったけど。 「……なんか複雑なんスね〜」 当たり障りのない調子で言うと、「……まぁ、キミの頭では理解できないでしょうね。初めから期待してませんけど(真顔)」とか今日も絶好調に辛辣なお言葉が返ってきて涙目ッ! いつものことッ!! 「ちょ! なんスかそれっ! ヒドイっすぅうう……!」とオレもまたいつもの調子でショックを受けているところへ――。 「あっ! ちゃ――」 ん、と最後までは続けられなかった。なんでって、ちゃんが迷うことなく“ヒミツの花園”へと向かっていったからだ。それから、「あのっ、あ、赤司君、さ、小百合ちゃん」なんてあの甘い声でふたりの名前を呼ぶもんだから、思わず硬直してしまった。……え? と思いつつ黒子っちにバッと視線をやるも、黒子っちは涼しい顔である。 大親友の余裕が果てを知らないッ!! 「さん。どうかしたかい?」 「まぁ、わたくしの愛らしい天使ちゃん! どうかなさって? わたくしにご用?」 赤司っちはともかくちゃんがアンタに用とかあるわけないっしょ!! と思いつつ、やっぱりめっちゃ気になってしょうがない……というか、サユリさんがまたちゃんに不埒な(※ラブラブ光景思い出す)コトしないように見張るしかないッ!! あの人がちゃんになんかしようもんならオレが――とグッと拳を握ったところで、「「「キャアアアア!!!!」」」という黄色い絶叫。オレはビクッと思いっきり体を揺らしたけれど、周りは「普段となんの変わりもない。いつものことです」って顔でスルーしている。え? ウソでしょ?? 「?!?! く、黒子っち?!?!」 オレのこの反応、絶対間違ってない。え? え?? と黒子っちを見ると、またおもしろそうに笑っている。けれどその目が優しい色をしているのがよく分かる。……ぐう、ちゃんへの愛も果てを知らないッスねオレのほうが絶対ちゃんのコト大好きッスけど。いずれはカレシになる(予定)のオレのほうが絶対絶対ぜーったい黒子っちに勝ってるッスけど!!!! ……まぁ思っても言えないんだけどね! 黒子っちは口元をほんのちょっとだけ緩めながら、「あぁ、部活以外では滅多に見られない組み合わせですからね、ふふ。皆さん今にも倒れそうですね。さすが ボクの親友です。鼻が高いですね」とかさりげなくちゃん自慢してくるあたりがすっごいショック与えてくる。さりげなさすぎて嫌味がない分クソかっこいい悔しいけどッ!! いやそんなコトより!! 「どどど、どーなってんスかアレ!!!! 桃っちに聞いたッスけど、サユリさんと話すのめっっっちゃ大変なんじゃないんスか?! なんかファンがすごいからヤバイみたいな!!!!」 そう、ソレ! サユリさんのドコがいいんだかホント理解不能だけど、でもその女子への影響力というのは絶対で超ヤバイって! なんかすっごいヤバイって! そう聞いてたのに、なんでちゃんあんなナチュラルに受け入れられてんの?! いや、冷たくされたりイジメられるより断然イイに決まってるけどッ! あんな黄色い悲鳴があがるってどういうこと?! あの悲鳴はオレも聞いたことが――いや、よく聞いている。かわいいものを見たとき、カッコいい人を見たとき、とにかくイイ意味でテンション上がったときの女の子が発する“嬉しい悲鳴”ってヤツだ。さて、やっぱり黒子っちはドヤ顔である。 「ちゃんは別に決まってるじゃないですか。小百合さんの“天使ちゃん”ですよ? 白百合の会公認です。当たり前ですけどね、ボクの親友はあんなにも可愛らしいので」 うん、 絶望としか言いようがないッスね! 「そ、そんなっ、じゃ、じゃあ部活以外でもちゃんとサユリさんて……ッ!!!!」 「まぁ、お仕事ですの? せっかくのお昼休みですのに、一生懸命ですわね。ね? 征十郎さん。素晴らしいマネージャーがいらっしゃって、バスケ部としても誇らしいことでしょう」 「あぁ、助かっているよ。それで? どういう用件かな。小百合の言う通り昼休みだ。早く終わらせたほうが君もいいだろう」 ……グッ! クソッ、サユリさんに褒められてちゃんが 天使の微笑みを浮かべているッ! オレだっていっつもちゃんにいろんな言葉かけてるのに、そんな笑顔見せてくれたコト一回もないのに!! い、いや……あ、赤司っちがいるんだし、サユリさんもヘタなことはできない……はず……。 「天使ちゃん、お昼はもう済ませましたの? せっかくですから、ご一緒しましょう。ね?」 「……小百合。彼女には彼女の友人がいるだろう」 あ、赤司っち〜! ナイスッ! さすがキャプテンッ!! 一生ついてくッス!! と思ったのもつかの間、「それではわたくしが天使ちゃんの友人ではないように聞こえますわ。いやですわ、征十郎さんったら冷たいお人ね。天使ちゃん、お弁当を持っておいでになって。ね?」とか言いながら、サユリさんはかわいいちゃんの手をそっと握っている。……クソッ! クソッ!! ガンッ! と思わず壁をブン殴ってしまったが、赤司っちの冷静な表情を見たらちょっと落ち着いた。サユリさんと仲良くないなら、赤司っちのことだ、サユリさんに好き勝手はさせない……はず。その証拠として「とりあえず用件を聞こう。その後のことは好きにすればいいだろう。さん、監督からの伝言かな?」と赤司っちの対応がサッパリしたものだったので、オレはほっと安心した。この調子なら、ちゃんの用事が終わったところでササッとお昼に誘えば問題ない! オレの妄想が現実になるッ! とワクワクと様子を見守ることにした。 「う、うん、そうなの。あのね、もう次の練習試合が決まったみたいで――」 ――のにッ!!!! 「いやぁあああああ!!!! さ、小百合様が……ッ! 小百合様がッ!! ……微笑んでいらっしゃるわ……。さすが、さすが小百合様が大事にお守りしている“小百合様の天使ちゃん”……美しいわ……そしてッ! 赤司様もご一緒というこの奇跡ッ!!!! ……皆さん、カメラの準備はできていますね?」 「もちろんです。あぁ……美しい……ッ!! ……あの聖域にふさわしいのは、“小百合様の天使ちゃん”を除いて他にはいないわ……。あ、チャンス!!!! ベストショット!!!!」 ……うん、白百合の会のみなさんの鉄壁(物理)のおかげで、近づくことすらできずに昼休み終わったッス! |