!!注意!!
ちょっと百合くさい



 「あ、あの、ちゃん!」

 「? なぁに? 黄瀬君」

 こてんと首を傾げるちゃん天使すギルティー!! あああ、その首こてんマジやばいんス! なんかこう……なんにも知らない無垢な……って感じで! オレがイロイロ! 教えてあげたい的な!! ……はぁ、死ぬほどかわいい……。

思考とろとろになりつつ、オレは「あ、あのっ」ともう一度繰り返した。そう! 今日は黒子っちが委員会でいない日! つまりは――――や、や、ヤバイこの感じ!! ……き、きた……!


  き、来てしまった……!


 「うふふ、その愛らしさに魂すら奪われてしまいそうですわ、わたくしの(強調)素敵な天使ちゃん」


 や、やっぱり……! さ、サユリさん……そう、サユリさんである……。黒子っちと同属性で赤司っちのイトコ……そしてバスケ部ファンの総監督(情報網がやばい)である上に――お、オレの……オレの天使、ちゃんの友達……。いや、普通の友達だったらいい。女の子が……ちゃんが女子トークとかしてきゃっきゃうふふしてたらマジかわいいのでそれならいい。……イイ!! だがしかしサユリさんは違う……オレが土下座することになった黒子っちに負けず劣らずなどす黒さ……そして何より!!


 「(ぱああ)小百合ちゃん…! どうしたの? 最近、いっぱい来てくれるね」


 そのサユリさんをちゃんが超絶……だ……大好き……で……(認めたくない)……黒子っちに向けるのとおんなじ、このきらめく笑顔を惜しげもなく向けてる事実(認めたくない)……! サユリさんがオレの“天使ちゃん”を天使ちゃんと呼んでる事実!! つまりは、黒子っちと同様このサユリさんも、ちゃんとラ……ラブラブ……(認めたくない)で……。

 「まぁ、わたくしが来たらお嫌なの……?」
 「ち、ちがうよ! ……う、うれしい……」

  この! 照れ顔!! いっつも何かと黒子っちに見せちゃってる照れ顔!! ……リアル天使すぎてオレのこの感情マジやり場ない!!


 ていうか!!


 「(きん)」


 くそっ、自分に言われたわけじゃないのにヤキモチやく前に思わずきゅんとしちゃうこの破壊力!! 罪深い……ちゃん罪深いッス……天使なんだけど天使だからこそ罪深いッス……!! オレは思わず叫んでしまった。

 「ちゃん……! 今のもっかい! 「黄瀬君に会えてうれしい」でもっかいお願いしますッ!!」

 サユリさんの存在を都合よく視界から消して。サユリさんの目が一瞬ギラッとしたかと思うと(マジ黒子っちそっくりつまりやばいこわい)、うふふ、とサユリさんは笑顔を浮かべた。サユリさんファン(絶対みんなこの人の本性知らないッス)がきっと悶絶するプリンスオーラ全開パないやつ。……オレにイラッときたときの黒子っちと同じ……!

 「わたくしだけの(強調)愛らしい大切な天使ちゃん。わたくしに(強調)会えると、そんなに嬉しいの……?」

 オレには全然分かんない(というか分かりたくもない)けど、確実に女子を惑わせるパワーを秘めているアレ!! もうとりあえずサユリさんに土下座してそれをちゃんに見られちゃったことは置いとこう! それについて黒子っちがいない今日、ゆっくり確実に完全に弁明しようとしてたけどこのままじゃヤバイ……というか単純に羨ましい!! ので、オレは「ちゃんっ、オレのが会えてうれしい度高いッスよね?! ねっ!」と必死になって話しかけたわけだが。……うん、まぁ予想してたッスけどね! オレ視界に入らないだろうなって! だってサユリさんてば黒子っちと同属性! ちゃんはもうときめいてときめいてしょうがないっていうような顔で、「う、うん……っ」と……かわいすぎか!! じゃなくて!!


 「小百合ちゃん、ふだんはファンの人いっぱいで、あんまりおしゃべりできないし……部活はテツくんがいるけど……小百合ちゃんがいないと、心細いとき、あるの……だから、うれしいの」


 サユリさんなんかいなくてもオレがいるじゃないッスか!! と言いたいのは山々だったが、ちゃんの切なそうな表情を見たら、もうオレ胸が苦しくて苦しくて……! ちゃんにはいつも笑っててほしいし、その笑顔こそがオレの元気の源なんだけど……これもまたかわいいじゃないッスか!! オレが理由でちゃんにそんな顔してもらいたい……。オレが……黄瀬君がいなくて、いや、ここは涼太くんだ……「涼太くんがいないと心細いの……」とか言ってそんな顔されたらオレ!! と妄想しながら悶えていると――まぁみんな同じコト思うッスよね! ちゃん地上に舞い降りた最後の天使だし!! サユリさんが「ああっ、わたくしの天使ちゃん……!」とクラッとしてみせた。……気持ち分かるッス敵だけど! やっぱりクラッとくるッスよね、オレもしたッス。しかしサユリさんはそれだけでは終わらなかった。あの、女子を惑わせるプリンスオーラを放ちながらちゃんの細い顎をすっと指で持ち上げると、ずいっと顔を近づけて言った。


 「あんまり可愛らしいことを仰らないで……? ……食べてしまいたくなっちゃうわ……」


 敵!! ……完全なる敵!! 天使であるちゃんの友達だなんて到底信じられない(信じたくない)けど、ちゃんが黒子っち並に大好き……っぽい(やっぱり認めたくない)サユリさんにそんなことされたら……、


 「〜っ、さ、小百合ちゃんっ……か、顔が、ち、ちかっ……!」


 ほら!!!!
 照れ顔!!!!



 「ふふ、そうして恥じらう姿も素敵ですわ……」
 「っ、さ、小百合ちゃん……っ」

 なんか百合が舞う演出でもありそうなんだけど!! ちゃんがあんな……白百合の会……? のファンみたいな目でサユリさん見てるわけじゃないのは分かってるけど! と、友達だから黒子っちとおんなじ反応しちゃってるだけだし! と、友達だから!!

 で、でも……でも!! とオレが歯ぎしりしてるところへ、タオルで口元を拭いながら緑間っちが近づいてきた。難しそうな顔――いや、不機嫌そうな顔をしている。それから今度は完全にイヤそう〜な顔をして、「おい、何してる? ――小百合、今日も来ていたのか。赤司がそろそろ来るぞ」と言って場を離れようとした。あんまりややこしいことには関わらないでおこうっていうのが見え見えだ。けどオレにはもう他に頼る人がいない…………

ので逃がさないッス……!


 「……み、緑間っち……」
 「?! き、黄瀬か……(どきどき※ビックリした)……黒子はどうした?」


 ガシィッ! と思いっきり緑間っちの肩を掴んで――いや、もうその肩にしがみつく勢いで縋りついた。

 「うおっ! ちょ、何をするのだよ気色悪い! き、黄瀬ッ! ひっつくな! オイ! ……おい?」

 気色悪い! という言葉に一瞬黒子っちを思い出したけれど、段々気遣わしげな声になっていった緑間っちにオレは思いっきり頼るッス! この場に味方なんて……味方なんていないんだから……!

 「うわぁああああなんでッスかあああああ!」
 「(びくっ)な、何を泣いてるのだよ……」

 そう言いつつも話を聞いてくれる態度に目頭が熱くなった……。緑間っち…………いっつも難しい顔しててそんなんじゃ女の子にモテないッスよ! って思ってたけどイイ人ッス……! だからもう逃がさないッス……!

 「黒子っちが委員会っていうから……! 今日こそ天使ちゃんとラブラブちゅっちゅ(仲良く)できると思ったのに!」

 今日の目標はこの間のサユリさん(に土下座)事件に対する弁明をすることだったわけだけど、あわよくば……!! 黒子っちのいないスキに何か進展が!! と思ってたのにこんな仕打ちってないじゃないスか!! カッ!! 報われないとかいうレベルじゃない。というかまだなんにも始まってないので報われる報われないの話じゃない。

 緑間っちはさらにイヤそう〜な顔(眉間にこれでもかってほどのシワ)をして、「オイ、口にするのは()の建前の方じゃないのか?」と冷たく言ったけど、そのあとすぐに「……そんなコトで泣くんじゃないのだよ。情けないヤツだな」と溜息をついたのでオレは思いっきり指差した。

 「み、緑間っちはアレ見てそんなコト言えるんスか?!」




 「あら、天使ちゃんったら……うふふ、可愛いお顔が真っ赤ですわ……ふふ、わたくしのこと、そんなにお好き?」

 「も、もうっ、小百合ちゃん、いじわる言わないで……?」

 「あら、意地悪なんかじゃなくってよ? ……その愛らしいお顔が、もっとよく見たいだけですわ」

 やっぱどう考えてもあそこなんか演出ある!! なんかタカラヅカ演出ある!! オレにはスポットライトと花びら見える!!




 「……」


 さすがに緑間っちも黙ったので、オレは「ねっ?! ね!!」とますますその肩に縋りついた。けれど緑間っちはもう一度――さっきより深くて重い――溜息をついて、めんどくさそうに「離れろ、気色悪い」とオレの腕を乱暴に振り払った。……ヒドイ……緑間っちイイ人って思ったのにヒドイ……黒子っちが(せっかく)いなくて、今日こそはって思ってたのにこんなヒドイ仕打ち受けてるオレに対してこんな冷たいとかヒドイ……。もうマジで頼る人いないじゃん……。と思ったが最後、オレは気づいてしまった。うらやましくてマジ歯軋りしかできないオレの最大のライバル、黒子っち――もしかしてその存在があるからこそ、ちゃんは“天使ちゃん”なのでは……? と……。いや、サユリさんと二人揃うと厄介だけど……でも黒子っちがいるのといないのとじゃ、やっぱりちゃんの態度って変わるんじゃ……? 少なくとも“親友”である黒子っちはともかく、“ただの”友達で――しかも女の子――であるサユリさんに妬くことはなくなるのでは……? ……と。でも今の状況じゃ――――。

 「……もうオレ死ぬッス……黒子っち(天使ちゃんを守る鉄壁・その名も“親友”)がいないこんなバスケ部……ポイズン……ッ!」

 ふらふらする足取りで、オレはどこかへと導かれるように前へ――いや、もう平衡感覚ないので分かんない――左右どちらかへ? とにかく進んでいく……。

 「ま、待て早まるな! 赤司がもう来る!! オイ黄瀬……!」

 ハハハ、もうなんも聞こえないッス……。



◎そうだ……へ行こう……


(ちゃんって天使なんで……天国に行ったら二人っきりで会えると思うんスよね……誰にもジャマされずに……)
(おいっ、待て! 黄瀬!! あ、赤司ィイィ! この際だ黒子でもいい! 早く来るのだよ!!)