ハードなメニューもやっと半分というところで休憩に入ったわけだが、オレの頭の中はまったく“休憩中”じゃない。昨日からずっと休まることなく、ああでもこうでもないと考え込んでいる。 そう、昨日オレの身に何が起きたか……思い出したくもないあんな情けないこと……。でもだからこそその記憶はオレの頭ン中にこびりついて離れないし、今もなおこうして頭を抱え――いや、もう頭抱え込んでその場に崩れ落ちそうッス。何にそんなに悩んでいるのか――いや、苦しんでると言ったほうがいいッスね――というと……。 「……はあ」 あの!! 超絶プリティーな地上に舞い降りた最後の(オレの)天使・ちゃんの(絶対おかしいけど)友達で赤司っちのイトコ――バスケ部ファンクラブ総監督のサユリさんに土下座したことである。っていうかそれをちゃんに見られたってことッスよね! アハハ!! ……なっさけな!! なんで女の子(しかも信じられないことに)ちゃんの友達に土下座してるシーンなんか見られなくちゃ……。でもあのヒト黒子っちと同じ属性だったからつい……条件反射っていうか…… ね?! っていうかさ! オレがこんな状態だっていうのに(いつものことだけど)なんで今日も黒子っちとちゃんあんな……ら、ラブラブ(※悔しい)……なんスか?! 「ああ、ボクの大切なかわいい人。ちゃん、それ重いでしょう? ボクが半分持ちますよ」 一生懸命重たそうなドリンクボトルがいくつも入ったカゴを運ぶちゃんにささっと近づくと、黒子っちはオレには見せたことない実に爽やかな笑顔でそう声をかけた。くそっ、オレだってサユリさんのことで悩んでなかったらお手伝いに走ったッスよ!! でも……そのサユリさん(に土下座)事件のことがあるからこそ、ちゃんに「黄瀬君て女の子に簡単に土下座しちゃうようなプライドない男の子だったんだね」的なこと思われてたらと思うと近づきがたくて!! ハッ! そういえばオレとしたことが今日はちゃんに声かけてないッス!!!! い、いやでも……。とオレがさらに頭を抱え込もうとしていても、ちゃんと黒子っちのラブラブ攻撃はオレのHPを容赦なくどんどん削っていく。 「う、ううん! だいじょうぶ。テツくんはちゃんと休んで?」 選手を気遣うちゃんとかマジ天使! この可憐さジャスティス!! と思うものの……これは黒子っち限定であるとオレは知っている……!! あ、あと……問題のサユリさんにも、きっとこんな顔見せちゃうに違いない……。で、でも! ほら! ちょっかいかけてくる青峰っちにぷんぷんしてるとこ(これもまた失神レベルにキュート)見ると、それはそれでうらやましいんスけどね!! だから黒子っちとサユリさんだけが特別じゃないし!! ……なんだよ青峰っち……お兄ちゃんポジションとかもそれなりにおいしくてズルイ……!! っていうかオレ以外みんな何かしらおいしいポジションにいる気がしてならない……。とオレがその場に崩れ落ちそうなのに、黒子っちはやっぱり爽やかな笑顔で「いいえ、ちゃんが大変そうなのにボク一人休んでいるなんてできません。ボクたちは親友でしょう? ボクを頼って下さい」とか言って、優しくちゃんのかわいい手からドリンクボトルのカゴを取りあげた。 「(きゅうううん)テツくん……ありがとう」 「(きゅうううん)いいんです、ちゃんはボクの大切なお姫様ですからね」 いや!! 今そういうの一番してほしくないッス!!!! ていうかそういうのオレがやりたい!!!! ていうか!!!! 「ちょっと待ってオレ溜息ついてんじゃないッスか! しかも今にも崩れ落ちそうじゃないスか!! なに和んじゃってんスか?!(※本人たちにラブラブとは言いたくない)今日もちゃんはラブリーっスけど! 地上に舞い降りた最後の天使ッスけど! 黒子っちマジ羨ましすぎてオレ血でも吐きそうなくらい悔しいッスけど聞いてよ黒子っち! オレたち親友っしょ?!」 オレが噛みつくようにそう叫ぶと、「………………………え?(困惑の表情)」って呟いて、なにそれ? 知らない……困ったな、この人なに言ってんだろう……みたいな顔して黒子っちがきょとん(実際にはそんなかわいい感じじゃない。でもなんかちゃんの表情きゅんきゅんしてる)とした顔で首を傾げた。 ウソでしょ?! 何その反応!! 「せめていつもみたいにキツイこと言ってよ! 今までで一番傷ついたッス……!」 嘆くオレに対して、黒子っちは一瞬で冷たい顔をして「いえ、ボクはキミと友達にすらなった覚えがなかったもので……」と言った。かと思うとまたも爽やかな笑顔をちゃんに向けて、「あぁ、ボクの大切な人、前を見て歩かないとケガをしてしまいますよ」なんてオレには絶対ありえない気遣いを……。……こっ、これはね! い、いつものことッスから! 今さら傷ついたりしないっていうか、もう全然大丈夫「(きゅん)う、うん、あのっ、ごめんなさい……気をつける、ね?」――じゃないなんスかちゃんそのかわいい照れ顔!! オレにもしてください!!!! 「(きゅん)……ちゃんがケガなんてしてしまったら、ボクは辛くて呼吸さえまともに出来なくなってしまいます……キミは、ボクだけの大切な親友なんですから」 お、オレならもっと甘いセリフぜっっっっっったい言えるからそのポジション代わってよ黒子っち!! と思ったけれど、「(きゅうううん)テツ、くん……」なんてとろけるような甘い顔(マジ天使ジャスティス)を浮かべているちゃんを目の当たりにしたらなんも言えない……。マジでちゃんは黒子っちしか見えてないとか、そんなことなんじゃないだろうか……。……あ、あと……さ、サユリ……さん……。くそっ、今んトコ黒子っちとサユリさんが一番おいしいポジションにいるじゃないスか!!!!(ギリィッ)……い、いや、(お兄ちゃんポジションのくせに!!)青峰っちも見えてんスけどね!! (ギリィッ)……なんか余計傷ついたッス! そ、それはともかく!! 今そんなコト考えても(傷つくだけだし)しょうがない。それはともかく!! このままほっといたらいつまでも二人のラブラブ攻撃ぶつけられて一方的に殴られてる状態になる……! サユリさん(に土下座)事件でこんなにも傷心中のオレにはつらすぎる! と、「ちょ、今ふたりだけの世界はやめて! オレつらすぎて死んじゃ――」う、と続けようとしたところ、 バシャッ! という音がしたので、そっちへと視線を向けると――。 「あぁんテツくん王子様みたいー! ちゃんかわいいっ素敵っお姫さまっ!」 と言いながら、バシャバシャしてる桃っちがいた。バシャバシャの正体はカメラのシャッター音らしい。しかも見たところそのカメラってのが、オレのモデル撮影で使われてるようなカメラでオレの体は素直にびくっとなった。え、どういうこと? 確かにちゃんはかわいいし超絶すてきでお姫さまだけど!! 黒子っちはただの……た、ただの親友(今まで一回も勝ったことない)で、王子さまなんかじゃないッスけど!! それはオレがおさまるべきポジションだし!! いや、これじゃあ話逸れちゃうッス。え、なんでカメラ(しかもめっちゃ本格的なヤツ)? 桃っちなんでバシャバシャしてんの? なんかすげぇ目がきらきら――ぎ、ギラギラ? してる桃っちに、恐る恐る「……も、桃っち……? あ、あの、何してんスか……?」と声をかけたところものすんごいふつーにシカトかまされて、ええ……とちょっと体を引いたところ、「あー、またはじまったな、さつきの病気」と言いながら、首にひっかけてるタオルで額を拭う青峰っちが現れた。いつもはすげームカつく(ちゃんと仲良しな)ことしてくる青峰っちだけど!! 今回ばかりは感謝ッス!! オレは青峰っちの肩をガシッと掴むと、ガクガク揺らした。 「あ、青峰っちィイイィ! なんスかアレ! 桃っちなんなんスか?! ……こわい……!」 「いてェな離せ。あー……なんかかわいーもん好きすぎてヤバイ、みたいな?」 とめんどくさげに言うと、キリッとした顔で「……じゃ、オレとばっちり受けたくねェし!」と言ってオレの手を振り払うと(すげえ力だったッス)ダッシュでどっかへ消えたので、「?! ちょ、青峰っち! え!?」と叫びながら、なに?! 何が起きんの?! と桃っちをこそっと見ながら怯えていると…………め、目が合った。すると桃っちはぱあっと表情を明るくして、「あっ、きーちゃん!」とオレのトコへ駆け寄ってきた。 「……も、桃っち……なんスか……?」 「見てコレー!」 桃っちがそう言ってオレに差し出してきた(最新デジタル一眼)カメラの液晶には……!! 超絶プリティーなオレの天使・ちゃんがは、はにかんでいる……!! ……画面眩しいッス……!! でもその笑顔に優しく微笑みかける黒子っちが憎い。そこだけ切り取りたい(ギリィッ)。とオレが歯軋りしてるのにはまったく興味ないらしい桃っちは怒涛の勢いで「テツくん王子様みたいじゃない? ちゃんお姫さまみたいじゃない?! テツくんがちゃんを気遣って、そんなテツくんが大好きなのに恥ずかしくてうまく接するコトができないちゃん! プリンセス! いやぁんっ素敵だよね! かわいいよね二人とも! はあ、試合があったから最近忙しくて撮ってる時間なくて辛かったけど……でも今日こんなにラブリーなの撮れちゃって幸せ! あっ、コレもよく撮れてるんだけど! 見て見てきーちゃん!」とオレに一番効果てきめんの攻撃繰り出してきた。……ああ……、今分かったッス……。 桃っちのなんかこわい感じの正体って、コレだったんスね……! 「……し、死んでしまう……オレ……死んじゃうッス……(瀕死)」 |