((「――ただ、彼女達……もうお前のファンじゃなくなる可能性がある。すまないな」)) 赤司っちのアレは、一体どういう意味だったんだろう? いや、そんなことより! ……あぁ……昨日はあんまりちゃんと話せなかったッス……。うぅ、で、でも部活は今日もあるし! ファンの子たちが騒ぐって心配も、黒子っち(ちゃんの大親友※崩しようのない最大の鉄壁ともいう)たち曰く、もうしなくていいみたいだし! ってことはつまり! 今日こそちゃんともっともっとお話しできるかもしんないってことッスよね! ……楽しみッスぅううう!! 今日という今日こそは! ちゃんとお近づきになってオレのこと色々知ってもらって、そんで「黄瀬君(他人行儀)」から「涼太くん(カレカノっぽい)」って呼んでもらうっていう!! まずはそこッスよね!! じゃないと黒子っちと同じ土俵にすら立てない……ということは恋愛的にはスタートラインにすら立てないということだ……。でも一体どうすれば……(白目) とオレは色々考えていたわけだが、赤司っちの言ってた“アレ”についての疑問は案外早くに解決した。 情報通といえばこの人! 桃っちがいるじゃないスか!! もっと早くに気づいとくべきだった……盲点だったッス……ってとこは置いといて、運よく廊下でその桃っちを発見! チャンス! オレはすぐさま声をかけた。 「あの桃っち、サユリ――」最後まで言わせてくれなかった。桃っちはもう大興奮!! って感じで目をキラキラ……ギラギラ? させた。桃っちって時々こういう目をする。なんか怖いんスよね、コレ……。 「えー!! じゃあ、小百合ちゃん来てたのぉー?! え〜いいなぁ、きーちゃん……なかなか会えないんだよー? いいなあ……」 まぁ桃っちの(異様な)テンションはね? (なんかこわいから)とりあずツッコまず、昨日の“サユリさん事件”について話して、彼女の正体を詳しく聞いてみることにした。校内のことで桃っちが知らないことなんてなさそうだし、黒子っちとか青峰っちよりも 全ッ然! 頼りになるし!あの人らバスケとちゃんのことにしか興味ないわけ?(主に黒子っち)っていうね! オレはやっぱり桃っちのこのテンションこわい、と思いつつもゆっくりと口を開いた。や、だって聞きたいような聞きたくないような……って感じするじゃないッスか!! とりあえずオレが今知っている情報はといえば、あの人は赤司っちの――。 「あー……っと、赤司っちのイトコってコトと、バスケ部ファンの総監督? みたいなのだってのは聞いたんスけど……なんつーか、イマイチよく分かんなかったってゆーか……あのコ、なんなんスか?」 オレがそういうと、桃っちはぐっとオレの腕を引っ張って屈ませると(女の子なのになんかすげえパワー発揮してきたッス)、隅っこに移動してちょう小声できょろきょろ周りを気にしつつ口を開いた。え、なに? 「きーちゃん! ……小百合ちゃんのファンクラブって怖いんだからね? “あのコ”なんて馴れ馴れしい呼び方しちゃダメだよ。……誰が聞いてるか分かんないんだから!」 ……はァ? いや、確かにあの人、赤司っちのイトコってのも納得の美人だったけど……オレのちゃんのが天使だし!!!! ちゃんほどの女の子なんてこの世に存在しないっつーか、ちゃんのファンクラブなら分かるッスけど……え? もしかしてそんなのマジにあったりする? え? ……何それオレも入りたい。え、会長ってやっぱ黒子っちなんスかね?! じゃ、じゃあ親友のオレなら入れてくれるッスよね?! ……っていやいや、今はそれはちょっと……この話が終わり次第、黒子っちに聞いてみるけど!!!! とりあえず謎の美少女(いや、ちゃんの方が美少女ッスけどね! 天使だし!!!!)サユリさんについてのことを聞きださねばならない! ……正直オレちゃん以外の女の子とか目に入らないんでどうでもいいっちゃいいんだけど、バスケ部でオレだけ知らないってのもなんか……って感じだし、赤司っちの意味深な言葉のことも気になるわけで。 っていうか、サユリさんってそんなすごい人なの? 赤司っちのイトコだからとか、美人だからとか(オレにはちゃんだけッスけど!!!!)そういうことじゃなくて? 「え……、やぁ……だ、だっていくら赤司っちのイトコ……さん、だとしても(なんか敬称つけないとヤバそう)、あのコ……じゃなくて、さ、サユリさんも帝光の生徒っしょ? しかも同い年みたいだったし、馴れ馴れしいとか言いすぎじゃないッスか?」 とオレが言うと、桃っちは神妙な顔つきで声をますます声をひそめた。そして、「きーちゃん、モデルさんだから……“一般人”じゃないから、分かるでしょ?」と言ったけど、ますます意味わかんないッス。いやだってオレはともかく(実際モデルだし)サユリさんは帝光の生徒で……いくら赤司っちのイトコだとしても、それだけじゃん。……とは言えなかった。だって桃っちの目がマジ。 「小百合ちゃんも芸能人みたいな感じだよ。帝光でバスケ部が一目置かれてるなら、そのバスケ部のファンを統括する小百合ちゃんだってみんなの憧れの的なの。あの赤司くんのイトコだしね。……それにあんなに素敵なんだもん……当然のコトだよ。だから小百合ちゃんのファンクラブだってあるし、会員の子たちってすっごい心酔してる人が多いから、フツーにお話しするのにも一苦労なの! だ・か・ら! きーちゃんも小百合ちゃん関係の話には気をつけること!」 ハァ、なるほど。…………分からん。けど、今の桃っちにこのまんま言ったらそれこそどうなるか分かんないので、ここは分かった“フリ”でどうにかするしかない。説明聞いてみたところで、それだけでスゴイ人ってのがまず理解できないし。だって美人で(いやでもオレのちゃんのが超絶かわいいッスけど!!)赤司っちのイトコでバスケ部ファンの総監督? って言ったってフツーの女の子じゃん。 「でも、シンスイ? とか、おんなじ生徒なのにすごいッスね……」 「あ、あんまり分かってないでしょ?」 ドッキィ!! 「……もう。いくらきーちゃんでも小百合ちゃんのファンに目をつけられたら――あ、ほら、小百合ちゃんだよ!」 桃っちが囁くような音量で、でもちょっと興奮したように上擦った声で言って指差した先。そこには――なんつーか……、は、花園? いやいやいや! なんスかアレ!!!! 「小百合様、こんにちは! 今日もお美しくていらっしゃいますね!」 「うふふ、ご機嫌よう。貴女のような可憐なお嬢さんにそう言っていただけて嬉しいわ」 「さ、小百合様! こんにちはっ、あの、私……」 「まぁ、ご機嫌よう、お嬢さん。わたくしに何かご用?」 「あぁッ! いえ、お声をかけていただけて、私……!」 なんだかすごく、イケナイものを見ているような――女子校を覗き見してる気分だ。 こうして近い距離から見ると、なるほど確かにサユリさんは赤司っちのイトコって納得できる美人だ。いやオレのちゃんしかオレはかわいいって思わないッスけどね!? お嬢様っていうのもよく分かる(お嬢様口調だし!)。 でもなんていうか……女子校のプリンス感っていうか……タカラヅカ感? がマジやばいッス……。とオレが考えていると、なんだか見覚えのある顔がサユリさんに近づいた。……昨日騒ぎを起こしたあの子たちだ! ど、どうしよう……オレなんかした方がいいんスかね?! と桃っちに確認しようとしたところ、うっとり……って感じにその光景を見ているのでこりゃダメだ! と、とりあえずは様子をうかがうことにした。で、なんかあったら割って入って……というシュミレーションはまったく必要なかった。 「あっ、さ、小百合様……!」 「こ、こんにちはっ」 さ、サユリ“サマ”って! “サマ”って何事ッスか?! 混乱するオレを置いてけぼりに、そのサユリ“サマ”はゆったりと微笑んでみせた。 ……やっぱりヅカ・プリンス感パないッス……!! 「あら、貴女たち……うふふ、ご機嫌よう。どうかなさった?」 まぁここまでは、うん……。しかしこの後間髪入れずに「いえっ、あの、私たちっ、白百合の会に入ったんです! 小百合様と、少しでいいからお近づきになりたくて……!」と続いた言葉にオレは目を見開いた。 し、白百合の会……? と桃っちを見ると、やっぱりうっとり……ものすごくキラキラした目でサユリさんたちの方を見つめつつも、「小百合ちゃんのファンクラブのこと!」と教えてくれた。 「――って、え!」 いや、キミたちオレのファンでしょ?! と思わずツッコミそうになりながらも、そのまま様子を注意深く見守る。 「まあ……うふふ、嬉しいわ。ああ、そうですわ、貴女たちがファンだっていう黄瀬君への今後の活動は、週末の試合が終わりましたら征十郎さんと黄瀬君にお話しするつもりでいますから、もう少しお待ちになってね。よろしいかしら?」 「さ、小百合様……! これからずうっと、私たちは小百合様のために一生懸命はたらきます!」 「うふふ、いやですわ。貴女たちのお仕事は、黄瀬君を応援なさることでしょう?」 「いえっ、私たちのお役目は“赤司様と小百合様を見守り、慈しみ、そして帝光バスケ部をお支えする小百合様をお助けする”ことです……!」 「ああ、小百合様……! 私たちは小百合様の手足となって、小百合様の為ならなんでもしますぅ!」 「まぁ、嬉しいわ。可愛らしいお嬢さん……いいえ、わたくしの素敵な姫百合さんたち――帝光バスケ部がわたくしの全て……部員である黄瀬君のことも、これからも支えて差し上げてね?」 「「は、はいぃぃ!(※百合が舞う演出)」」 ### 「な、なんスか……アレ……」 「みんな小百合ちゃんのファンクラブの子だよ。いつ見ても思うけどやっぱりすごーいっ!」 「……見事に女子ばっかッスね……」 っていうか! あの子たち昨日までオレのファンだったんスよね?! どういうこと?! 混乱するオレをよそに、桃っちはピッと人差し指を立てた。 「当たり前だよ! だから小百合ちゃんは“小百合”なの」 なるほど……いやだから分かんないって!! 「え?」と間抜けな声を出したオレに、桃っちは続ける。 「女の子のファンがたくさんいて、ファンの子ってみんな小百合ちゃんに心酔しちゃうから。それにほら、小百合ちゃんもあんな感じで対応するから“百合”なんだよ。白百合の会の会長さんがつけたんだって! だからメンバーのこと、小百合ちゃんは“姫百合”さんって呼ぶの! 素敵だよね……!」 やっぱ全然分かんない。だから“ユリ”ってどういうこと?! 「……(全然分かんないけど)へー、とにかく女子にモテるんスね……(あの様子だとオレより……)」 「ふふ、きーちゃん、気にしちゃダメだよ? ファンの子たちってね、みんなあんな感じで、バスケ部ファンのだいたいの子が白百合の会に所属してるから」 「え?」 「? 赤司君に何か言われたんじゃないの?」 ((「――ただ、彼女達……もうお前のファンじゃなくなる――」)) 「……あ! あー! アレってこういう意味だったんスか?!」 「やっぱり! 白百合の会ってルール厳しいから、私も部活に小百合ちゃんが来てくれなきゃなかなか話せないんだけど……赤司君も白百合の会には色々苦労してるみたいだし……」 「……聞けば聞くほどすごいッスね〜」 「今週末の試合、小百合ちゃんも来るから話してみたら?」 「え゛! だ、だって、ルール厳しいんじゃないんスか?! てか! そ、そんなコトしたら……(ちゃんがヤキモチやいちゃうじゃないッスか!!)」 「大丈夫だよ! 赤司君もいるんだから。それに今後のきーちゃんファンの活動についても、小百合ちゃんから話があるはずだし。……それに、仲良くしといたほうがいいと思うけどな〜、小百合ちゃんと。きーちゃんの天使ちゃん、小百合ちゃんとすごく仲良しだから」 「え! ちゃん?! ちゃんの友達なら、仲良くしといたほうが都合いいに決まってるッスよね!(……そうッスよね! オレのファンまとめてくれるみたいだし!)」 「……きーちゃん……本音と建前、逆になってるよ?」 |
Photo:十八回目の夏