ここのところ休日っていうものに、オレはとことん嫌われている。 ついこの間はだいすきなちゃんをデートに誘ったらフラれてしまうし、そしたらなんとそのちゃんが公園で彼女の大親友である黒子っちと……黒子っちの相棒、火神っちにバスケを教えてもらっていて……ま、でもそれは結果オレのためだったということが分かったので、最後はちゃんとパンケーキを食べにいってラブラブ!……しようとしたのになんでか黒子っちと火神っちまでオマケでついてきちゃって……ハア。 そんなわけでオレは今日こそちゃんとふたりっきりのラブラブデートを満喫しよう! と思ってたのに……どうして……!! 「どうして緑間っちがこんなトコにいんスか!!」 ちゃんのちいさい手をきゅうっと握りしめる。 絶対にジャマなんてされないように、今回は前もって約束取り付けたのに! ちゃんは終始「どうしてテツくんにないしょなの?」と気にしていたけど、そこをなんとかお願いして黒子っちにだってヒミツだ。……それなのに、なんっでココで緑間っちと遭遇しなくちゃならないんだろうか……。ダークホースにもほどがあるッス!! ……と落ち込むオレを余所に、緑間っちはものすごく不機嫌顔だ。いや、その顔はオレがするヤツじゃないッスか? この場面……。 はああ、とオレが深い溜め息をつくと、ちゃんはこてんと首を傾げて「黄瀬君?」と俺を見上げた。……うああああああちゃんが今日も天使すぎてやばいッス大好きッスぅうううう!!!! もう色々どうでもいい……! と今日も元気に思考をとろとろにさせていると、「俺だって好きで遊園地になど来ているわけじゃないのだよ!!」と緑間っちが突然キレたので、思わずビクッとする。 「……先輩方が行くという話を聞いて、高尾のバカが俺も行くと勝手に言ってしまったから……! ……も一緒か」 「うん。先輩って……緑間くんはバスケ部の人たちと?」 せっかくのデートなのに、ここで緑間っちと会話を続けようなんて思わないけど……やっぱりちゃんと緑間っちの組み合わせって、ビミョーな緊張感があるせいか、なんとなく口を挟みにくい。じっと視線を合わせてはいるのに、それっきり言葉がないのだ。まあ、だからこそタイミング見計らって、「じゃ、また」ってさっさと退散できると思えば、緑間っちでラッキーだったと言えるだろう。これが火神とかだったら絶対突っかかってくるに決まってる! ちゃんも、火神といるのって青峰っちといるのと同じ感覚なのかスゲー懐いちゃってるっぽいし、なんとなーく一緒に回るような雰囲気になって、結局そうなっちゃた★ みたいな展開になるのオレは分かってるから!! とまぁそんな具合でラッキー! なのだ。……オレ今日確実にノってるッス! もうコレはちゃんとちゅっちゅラブラブな展開以外考えられない!! とガッツポーズキメて、さっきとは一転、オレはにこにこの笑顔を浮かべた。ふふん、コレが彼氏のヨユーってやつッスよ。 「男だけで遊園地って……正気の沙汰じゃないッスね!」 「そんなことは言われなくても分かってるのだよ!!」 そしてタイミングはここだ! 「ま、でも楽しんでくださいよ。オレらはデートなんで! じゃ!」 そう言ってちゃんの手を引いて、さっさとバイバイしようとしたら、「……はあ、そんなことはどうでもいい」と、まだ会話するけど。まだ続きあるけど。感めっちゃ出しながら、更にそのまま「……おい、。黒子を追って誠凛に入学したとは知っているが、このバカと付き合うことにしたというのは本当か? お前の口から聞かねば納得できん」とガチで続けた。 「ちょ、電話で話したじゃないッスか!」 ちゃんと付き合えることになった日に電話した! しかも緑間っちの方からかけてきて! 緑間っちは中学の時からオレの相談に乗ってくれてたから、一応報告しとこうと思ってメールしたのだが、どうやら今になってそれが裏目にでてるらしい。しかも最悪のかたちで。“黒子っち”って今日はNGワードなんスけど! せっかくいないのに!! キッと緑間っちを睨んだけれど、ちらっとこっちを一瞬見ただけで、すぐにちゃんにじっと視線を戻した。……そんなに見つめないでもらえますかね! ちゃんはオレの天使ちゃんなんスけど!! 「うるさい、お前には聞いちゃいないのだよ。それで?」 「付き合ってるよ。黄瀬君と、わたし」 「……そうか、黒子はなんと言ってる?」 だから! 黒子っちは! NG!! なんでって、その名前をちゃんに聞かせたら、長話になることが目に見えているからだ。 くっ……! その場にいなくてもちゃんの心をわし掴みだなんて……さすが親友……! 黒子っちやっぱヤバイ! 尊敬するッス悔しいけど!!!! でもそれよりもちゃんの口から「付き合ってるよ」なんて……! そうッスよね! オレちゃんの彼氏(スゲーいい響き)ッスもんね!! とじぃぃんとその感動にオレが浸っている間も、空気読めない緑間っちと天使すぎるオレのちゃんとの会話は続く。 「テツくん? ……えーと、ちゃんがいいのならいいんです……って」 まぁいくら親友(これはマジのガチでやばい)といえど、ちゃんが決めたことなら黒子っちは絶対に口出ししない。だってちゃんと黒子っちってば親友だから……! 黒子っちはオレには信じらんないほど冷たいけど、ちゃんには信じらんないほど甘いのだ。ま、オレは彼氏っていう超絶あまーい特別なポジションだけど。……今のところ黒子っちの親友パワーに勝てたことないッスけどね!!(震え声) 「……相変わらずだな。お前も、まったく変わっちゃいないのだよ。……まあいい。しかし桃井あたりにも一度話をしておかなければ、後で揉めるぞ」 「? ……そうなの?」 あぁ、そうか。桃っちに……いや、帝光バスケ部でこのコト知ってんの……緑間っちしかいない……?(もちろん黒子っちは除く) 「ああー、そういえば桃っちに言うの忘れてたッス……あー、んー、まぁ今度会ったときにでも!」 まぁ、いちいち言うことでもないし! 言ったらなんかこわいし! ……でも桃っちには言っとかないと、逆になんかめちゃくちゃヤバイ事態になりそう――桃っちはちゃんと黒子っちのツーショットが大好きだ。や、アレは大好き以上の何かを秘めてるッス――だし。まぁ、桃っちが知るってことは、必然的に青峰っちにも伝わるってことで……その辺りもまぁ、どういう反応返ってくんのか分かんないんで、ビミョーなんだけど。 「わかった、言っておくね」 ちゃんはそう言って頷くと、ん……? と首をこてんした。だから! こてんはヤバイんス! 中学ん時から思ってたけど、その威力マジでパないんで! 天使すぎて目が眩むから……!! 「……あ、やっぱり。高尾くんだ」 「は?」 「オイ、なぜお前が高尾を知ってるのだよ」 「なぜって……」 ちょっと待った!! この展開絶対ヤバイ! この間の火神の時みたいに「あ、よかった真ちゃん! ったく、高校生にもなって迷子なんて……あれ、ちゃんじゃん! 真ちゃんで見えなかった〜ってか、うわー、久しぶり! 元気? 相変わらずカワイーね、どう? そろそろオレと付き合う気になってくれたー? なーんてな!」と口挟むヒマないくらいの勢いで――これもやっぱり覚えがある。当然黒子っちだ――どわーっと言いながら、ソイツはこっちへ近づいてきた。なんか見覚えあるような気もするけどそんなことどうだっていい。ちゃんに近づくヤローはみんな敵ッス!! ……黒子っち以外。 「ちょっとちゃんコイツなんなんスか!?」 「え、なんで海常の黄瀬が……って、ああ、そっか、中学と部活一緒だよな。へー、土曜に一緒に遊園地ってコトは…………黒子は?」 「ちょっと待ってくださいッスなんで黒子っち?! フツーにデートッスからオレら!! 付き合ってるんで!!!!」 「……へ? え、マジなの真ちゃん」 「そうらしいな。それよりお前、どうしてのことを知っているのだよ」 「中学んときの大会で知り合って、それから友達! ね、ちゃん。えー、でもひでーなぁ、黄瀬と付き合うことになったなんて知らなかったんだけど!」 なんっでただの友達(強調)にそんな報告しなきゃいけないわけ? ……いや、報告したほうがいいのかな……そしたらこうやってちゃんに近づく不届き者いなくなるかもしんないしね!! とオレは必死に威嚇する。けれどオレのかわいい天使であるちゃんは気づいた様子なくタカオ……? とかいう馴れ馴れしいヤツと会話している。いや、この子そういう子なんスけどね! まぁ相手が黒子っちじゃないぶん、いくらかマシか! これが黒子っちだったら世間話のついでに絶対ちゃん連れてっちゃう……。その様子が鮮明に思い浮かぶ……。 「? 緑間くんもさっき言ってたけど……そういうのって、みんなに言わなくちゃいけないの?」 「……あー、うん、どっちでもいいんだけど……オレら友達じゃん? 言ってくれたら嬉しいってか、教えてもらえないのはさみしーってか……」 ヤツがそう言うと、ちゃんは考えるように少し黙ったあと「……そっか。じゃあ、次は高尾くんに言うね」と言った。……と言った……と言った…………。 「ちゃん次ってなんスか次って…!!」 ぎゅうっとそのちっちゃい体を抱きしめると、ムカつくタカオのやろーがアハハハハ! とか癇にさわる笑い方するので、オレはちゃんを抱きしめる腕にますます力を込めた。 「アハハ、ん、そんときは教えて! しっかしまー、ちゃんのド天然っぷりって変わんないのなー。真ちゃんの奇行なみにウケる! かわいーね、マジでさ」 かわいーね、と言ったときの目がガチだったので、オレは戦慄した。やばい、オチがこのタカオってやろーの可能性もあるんじゃ……?! ものすごい最低最悪だけどもしかしたらありえるかもしれないだってこないだだってなんか黒子っちオチみたいな感じだったし!! オレがちゃんの彼氏なのに!! これはもうマジでさっさとおさらばしないとまずい。 「ちょっと緑間っちさっさとどっか行ってくれないッスか? ソイツ連れて!! ちゃん、もう行こう」 放したくない腕を離すと、オレはすぐさまちゃんの手を握った。うう、こんなときでもちっちゃくてスベスベでかわいい手ッスね……! 「うん? じゃあ緑間くん、高尾くん、またね」 繋いでない反対の手でひらひらとちゃんが手を振ると、緑間っちはなぜか不機嫌そうに顔を歪めた。リアル天使なちゃんに手を振られておいてその反応とかマジありえない。いや、ここで緑間っちが振り返してきたらどっか具合でも悪いのかと思うけど。 「……次はそのバカ犬が留守の時であると助かるのだよ」と緑間っちが言うと、「っくく、犬とか…! じゃーちゃん、またメールでもするわ。今度はオレともデートしてよ!」とか聞き捨てならないことを言い出すので、「しないッス!!」とオレがちゃんの代わりに答えた。じゃ、と去っていく二人の背中をじっと見つめるちゃんの体を、もう一度抱きしめる。今度は絶対離さない!! 「……うう、ちゃん、ちゃんの彼氏はずーっとオレで、次なんかないんスからね! あとデートも、オレとしかしちゃダメなんスからねっ!」 「……うん、わかった」 ちょっとだけ笑ったちゃんに、このオレが身悶えないわけがない。 「はうう素直なちゃんがだいすきっスかわいいッス〜!!」 なんたってちゃんは、地上に舞い降りた最後の天使である。 |