後片付け中のちゃんを見守るオレ……まさにナイト☆ってヤツっスね!

と思いながら、じーっとずーっとちゃんを見つめてどのくらい経ったんだろう。いや、どのくらい見つめてても全ッ然あきないッス! むしろずっとこのままでいたいっていうか!

 「はああ、部活終わりも超絶ラブリーっス! ちょっと見て下さいよ黒子っち! ほらほら! あの一生懸命な顔!」

 ちゃんマジ天使! と黒子っちの肩をバシバシしながら言うと、黒子っちはうざったそうにオレの手を振り払った。しかもその後、肩をサッとまでした。そう、まるでゴミを落とすみたいに……! いくらなんでもヒドイ……。それが当たり前と知っていても傷つく……いや、こんなヒドイこと当たり前って感じてる自分がショックで傷つくッス!!!!

 「頭の悪さがハッキリ分かるコメントですね。ちゃんがかわいいのは当然です。ボクの親友(強調)ですから」

 ッは! と嘲笑を浮かべる黒子っちに反論しようと口を開く前に「黄瀬君、キミ顔だけはいいんですから極力口を開かない努力くらいしたらどうです? それから、彼女仕事中なんでジャマしないで下さい」と先に言われてしまった。こっちから仕掛けるつもりが、完全に返り討ちである。

 まぁ知ってたッスけど! 今日も辛辣って知ってたッスけど! 通常運転なんで別に傷ついたりしないッスけど! ……そろそろオレの心はバキッとかいって折れるんじゃないかと、わりとマジに心配してる。

 「ちょ、ヒドくないっスか黒子っち! 見てるだけなんだからいいじゃないスか!!」

 でも簡単に引き下がったら、ちゃんの彼氏になんかなれるわけない! と意気込んで、堂々言った。そう、言ってやった……! いつかは黒子っちという存在を乗り越えなくちゃいけないのだ。

心が折れるなんて心配するヒマあるんなら、立ち向かっていくために心を鍛えなくちゃいけない!

そうでなきゃ、ちゃんとお付き合いなんて夢のまた夢……
そういうことッスよね? 黒子っち……!

 「キミがうざいからです」

 ……黒子っちって、なんでこうもオレに冷たいんスかね……。

まぁ、だからってちゃんのコト諦めたりなんか絶対しないッスけどね! やっと見つけたオレの天使だし! これも試練っていうか、オレはアイアンハート手に入れて黒子っち超えるって決めたし! たし……たし……たし……(※エコー)


……ぐうの音も出ない……。


言い返そうにもなんて言い返したらいいのか……っていうか、いっつもいっつも口挟むスキすら与えてくんないし……ヒドイことさらっと言ってくるし……対策とか全然分かんねー……。これがゲームだったらどんなによかっただろうか。そしたら攻略本使ってさっさとアイアンハート手に入れて、すぐ魔王(黒子っち)倒せるのに……。と、ぴこん! ……やばい、いいコト思いついちゃった! 黒子っちの弱点……これッス!

 「そっ、そんなコトばっか言ってるとちゃんに『黒子っちにいじめられてる』って言いつけるっスよ!?」

 いつもやられてばっかりなんだから、このくらいは許されるはずだ。それに、黒子っちだってたまにはダメージくらうべきッスよね。いっつもいっつもオレばっかやられるって納得いかないし!

 なのに……黒子っちはダメージくらうどころか薄く笑った。
 やっぱりこれはゾクッとするッス……!

 「どうぞ? まぁ、ちゃんがキミを信じるはずないですが。その代わり、……どうなるかは分かってますよね? ……ボク、彼女の親友なんです……」

 ギラッと黒子っちの目が光った気がした。
……これが……これが“親友パワー”ってヤツなんスか……?!

 ……あっさり降伏。

 もし、もしちゃんに黒子っちがないことないこと言ったりしたら……。せっかく「黄瀬君」って呼ばれるようになったのにまた逆戻りして! いや、今度はそれ以上にオレがダメージくらうような呼び方されちゃうに決まってる!!

 「す……すんません……!!」

 降伏。全面降伏。それ以外に選択肢ないッス……。
黒子っちにダメージなんて、バカな考えだった……。
親友っていうポジションのすごさ、こないだ思い知ったばっかなのに……。

 すると、「おー、まァたやってんのかオマエら。飽きねーな」とか言いながらケラケラ笑う青峰っちが、こっちへ近づいてくる。……笑い事じゃねーっての。

 「なんスか」

 「まぁまぁ、そう怒るなよ」、と言いながらもっとニヤニヤする青峰っちに、オレは不機嫌さをちっとも隠さずそう言った。それでも面白そうにニヤニヤするから、オレはもっとおっきい声で「なんスかもう!!!!」と繰り返す。

 ハッとしてちゃんの方を見ると、赤司っちと話していてこっちに視線は向いていない。
よかった……とホッとしたのもつかの間、青峰っちが不穏なことを言い出した。

 「黄瀬、ワリィこた言わねー。アイツはやめとけ。テツがいる限りテメーじゃ無理だ」

 いや知ってるけど! どうやって黒子っちクリアするか今必死に考えてるんで!
と思いながら口には出さず(本人目の前にいるし、言ったらなんかヤバイこと起きるの分かってるし)、オレはとりあえず青峰っちに標準を定めた。

 「なっ、応援するってゆーならまだしも……なんなんスか!」
 「いやー、だってどう見てもオマエ相手にされてねーしよ」

 そんなこと! と言おうとしたけど、心当たりはばっちしあるので何も言えない。
な、情けないッスけど、こればっかりはどうにもならないッス……事実なんで……。
「当たり前です」と得意げな黒子っちずるい! ヒドイ! ずるい! 羨ましい!!

 「ちょ、ちょちょちょちょっと待って下さいよ! 黒子っちは(この際)ともかく、青峰っちにまでんなコト言われる筋合いないんスけど!」

 オレがキッと睨むと、青峰っちはぴくっと眉を動かした。え、なんスか。


 「ほぉー。言ったな? 黄瀬」


 青峰っちがめちゃくちゃ悪い顔に……完全なる悪役顔になって、ニヤッと笑う。
それを見て黒子っちは深く溜め息をつくと、「やっぱり黄瀬君て馬鹿ですね」と言って、「なんて可哀想なんでしょう……」という声が聞こえてきそうなほど渋い顔をした。

 「ちょ、マジなんなんス「おい、! こっち来いよ!」

 青峰っちの視線の先には、オレの! ててて、天使ちゃん! ぐぅッ! この距離からでも
むっちゃかわいいッス! まぶしいッス! ……はあ、ちゃんってマジ天使ッス……。
 オレが溶けていると、「なぁに? 青峰くん。あ、テツくん!」と天使の笑顔を浮かべながら
こっちへ走り寄ってきた。かわいい!

 ……っすけど、その笑顔はやっぱり黒子っち専用なんスね……。

 「お疲れさまっ。ねえテツくん、今日も残る? わたしもいっしょにいていい?」

 まず先に黒子っちに話しかけるあたり、さすが“親友”って感じで、“同じ部活の黄瀬君”じゃ到底敵いませんけど感すごい。びしびしッス。
黒子っちはちゃんの前ではホント誰なの?! ってくらい優しい顔をする。
これはちゃん専用で、いつもは何考えてんのか謎な顔だ。

 ……まっ、冷たい顔はオレ専用ッスけどね……!

 「お疲れさまです。今日もお仕事、頑張ってましたね。そうですね、今日は――――」

 にこにこのちゃん……かわいいけど、かわいいけど!!
 あぁ…やっぱオレは眼中にナシなんスね……でもかわいいッス! 好きッス! と、ちゃんに伝わんないかなぁなんて思いながら、テレパシーを送ってみる。

 「あ、黄瀬君も、お疲れさま」

 うそ! 伝わった?!
 いや、それについては今は置いとく!!

 「(きゅん死ぬ……きゅん死ぬッス!!!!)お、お疲れっス! 今日もサポートありがと!
オレ、すっごい頑張っ「うし、んじゃマジバ行こーぜ」

 「なんで?!」

 「黄瀬君の奢りですね」
 「それもなんで?!」

 と、いつも通り黒子っちのヒドイ発言に胸を痛めていると……。
 なんスかあれ……! 意味わかんない! ウソって誰か言って!

 なんで……なんで青峰っちが、オレの天使ちゃんをだっこしてるんスか!?

 「あっ、やだ! こわい!」
 「ばか、暴れっからだろ。つかおまえちょい太った?」
 「ふ?! ふとってないよ! おろしてっ」
 「やだね、って! いってーな叩くな!」
 「おろしてよぅばか!」
 「ほれ、たかいたかーいっ」


 めっっっっっっちゃ仲良さそう……。


オレなんか近づくことすらむずかしい(黒子っちの崩しようもない鉄壁マジやばい)のに、なんっで青峰っちなんかがオレのかわいいちゃんを、抱っこなんて……!

青峰っち許さない。

親友パワーの威力を思い知った今、黒子っちはともかくも、ぜんっっぜん関係ない青峰っちがそんな……オレよりちゃんと仲良しとか絶対許さないッス!!!! と心の中で青峰っちのことを呪ってはみたものの、それではなんの解決にもならないので……とりあえず、ふたりの様子を観察ッス……! オレのハートにどのくらいのダメージくるか分かんないッスけど、それはもうしょうがないッス!

と、青峰っちに抱っこされたままのちゃんと、ちゃんを羨ましくも抱っこしてる青峰っち(ギリィッ……!)をじっと見る。

 「うぅ……太ってなんか、ないもん……!」
 「マジバ行ったら何くう?」
 「……テツくんといっしょの」
 「バニラシェイクだけェ? おまえうろちょろ働いてんだから、もっと食えよ」
 「……だって、」
 「なんだよ、さっきの気にしてんの?」
 「うっ! ……るさいな、」
 「じゃあオレの分けてやっから、な? 機嫌なおせって」
 「……はぁい」

 くそっ……なんだよあのカップルみたいな会話は!

青峰っち信じらんない。オレの天使ちゃんなのに信じらんないッスひどい。
しかも、オレのことをちらっと確認して、青峰っちはニヤッと笑った。
はん! とオレを嘲笑ってるのがありありと分かる……!(ギリィ……※2回目)

 「うし、じゃあこのままマジバまで行くかぁ!」

 青峰っちはグッとちゃんをもう一度高く持ち上げると、今度は……!
お姫様だっこした!

 ぐっ、あの勝ち誇った顔……! むっか〜!! なんなんだよ青峰っち……むかつく! しかもお姫様だっこまでするとか完全にケンカ売ってる。いくら青峰っちのコト尊敬してるって言っても、こんなコトされて許せるはずない。

 だってオレがちゃんのコトちょう好きなの、みんな知ってるじゃないッスか!! ……でもでもっ、ちゃんの「怒ってるんだからね! 青峰くんのいじわるっ!」ってやつが天使すぎてヤバイっす。怒ってるのにあんなかわいいとか、やっぱり天使としか思えないッスね。

 ご機嫌ナナメなちゃんが、青峰っちの腕の中で少しだけ嫌がるように暴れる。うう、そのまま嫌がっててほしいけど、それで落っこちでもしてケガなんてしてほしくないし……。

これがジレンマってヤツなんスね……!!

 「あー、ハイハイ、わかった! オレが悪かった! だから暴れンな、あぶねーだろ!」

 そう言うクセに、青峰っちはぜんぜんちゃんを離そうとしない。すると、ムッとした表情のちゃんが「……じゃあこのまま部室まで連れてって」と今度は甘えるように、青峰っちの首に回した腕でそっと擦り寄った。

誰って! オレの天使ちゃんが!!!! なんで?!

 「へーへー、分かりましたよお姫サマ。……ってワケだから、黄瀬ェ……おまえ、オレへの接し方、もういっぺんよォく考えろよ?」

 くそっ……なんなんだよあの人! お姫様だっこでさっさと部室へ向かう二人を見て、オレはやっぱり歯軋りした。くそっ、マジで信じらんない青峰っち。一体なんだって言うんだよ。でも、ああ、すねた顔もかわいいなんて、ずるい。ちゃんはやっぱり天使だ。どんなちゃんもかわいい!

なのに……そんなかわいいを独占するのってどうなんスかね?!
オレは許さないッスけど!

 でも、オレよりももっと許さない人がいるはずだ。ずっと黙ったままだったけど、ちゃんに近づく全ての者への鉄壁……黒子っち!!

 「ちょ、どういうコト?! 黒子っち! なんすかアレ! なんで青峰っちってばあんな馴れ馴れしいんスか?!」と、黒子っちの両肩を引っ掴んでガクガクしながらハッと気づいてしまった。

ま、まさか……今度こそ……?

 
 「あ、青峰っちって……ちゃんと付き合っ……!?」

 「だからキミは付き合ってるかそうじゃないかしかないんですか? 違いますよ。
ボクがあんな脳筋ちゃんのお付き合いを認めるわけないでしょう」


 黒子っちはオレの脇腹に一発拳を叩き込むと、そう言ってオレが掴んでいた両肩を思いっきりゴシゴシしながら、「もうこれ着たくないです」とやっぱりちょうヒドイことを真顔で言った。
 でも、それでも黒子っちってば頼もしい……!

 「そうなんスね……! でも、あんな、お姫様だっことか……」

 「まぁ、兄妹みたいなものです。彼女、青峰君のコトは結構気に入ってるみたいで。
まぁ、それも彼がボクの“光”だからなんですけどね(ふふん)」


 …………。

 「きょ、きょうだい……なるほど……って納得できるかァ! ちょ、青峰っちィイィ!」

 こんなスピード、オレ出せたんだ……と自分で感心するほどの速さで、ゆったり歩いていた青峰っちの目の前に立ちはだかった。

 「あん? んだよ黄瀬」
 「? 黄瀬君? どうかした?」

 やばい、こてんとかやばい! 首こてんとかやばい!!
ちゃんに身悶えながらも、オレはがんばって顔を引き締める。

 「青峰っち……代わって下さいっス!!」
 「はァ?」
 「? なにを?」

 だから首こてんは……!!

 「あぁ、ややこしくなりますから、ボクとお話してましょうね」
 「(ぱあっ)テツくんっ! うんっ」

 今ばっかりはラブラブなふたりも視界には……入るッスけど、青峰っちが最優先である。
ここで黒子っちに突っ込んでも、どうせ勝ち目はない。悲しいッスけどね! 現に今オレと青峰っちバチバチだけどぜんっぜん興味なさそうだしねちゃん!!

 「ほぉ、オレに勝てると思うのか? 一回も勝てた試しがねェくせに」

 不敵に笑う。ただのお兄ちゃんポジションのくせに!!

 「バスケはともかく! つーか勝つし! とにかく、だっこ! 代わって下さいっス!」
 「やだね」
 「なんでっスか!」

 「おまえにゃまだ、はえぇんだよ。ばーか」

(てかちゃんは別だけど、なんで結局オレの奢りなんスか?! 特に青峰っち!)
(あ? なんだよ。ケチケチすんなって。なぁ? ほら、コレ食え)
(ん? んんっ、)
(あぁ、ちゃん。口元にソースがついてますよ。青峰くん、ちゃんのコトはもっと慎重に扱ってもらえますか)
(あー、ハイハイ。おまえも過保護だよな、テツ)
(……青峰くんには言われたくありませんけど)
((割り込むスキがまったくないッス……))
 

兄峰




Photo:十八回目の夏