オレ、黄瀬涼太★ミ
 ピッチピチの中学2年生ッス!
 仕事(モデル)にバスケに勉強……は別として、毎日一生懸命☆!

でも、マジになれないのが一つだけある。

レンアイってヤツだ。ま、モデルやってるだけあって、オレって正直イケメンだし身長あるしでモテるけど、寄ってくるのはそーゆー女の子ばっかでマジに付き合うだけバカだよなーって感じで。テキトーに遊ぶには、そういう子たちのほうが気楽だし、それなりに楽しい。本気のレンアイなんてめんどくさそうだし、特定のカノジョなんて考えるだけでげんなりする。だからオレは、ずーっと今のまんま、テキトーな女の子とテキトーに遊んで、それなりに楽しくやってくんだろうなぁって思ってた。それがいちばんイイって思ってたし、それでよかった。努力しなくてもそれなりにカワイイ子と付き合えちゃうし、レンアイはほどほどって感じでいいやって。それだけで楽しいし、逆にいえばそれ以上のことなんて望んじゃいなかった。

でも……出会っちゃったんスよね……オレの、オレだけの天使ちゃんに!

もうこの子しかいないって初めて思えた。
この子と一緒にいるためだったら、どんな努力でもしたいって思えるほど。
何をどうしても、何がなんでも絶対両想いになりたい。
オレのこと知ってもらって、それで好きになってもらって、付き合って……

ずーっとそばにいたい……!


で、そのことをオレの教育係……もとい、大親友の黒子っちに相談したところ。


「キミってなんでそうバカなんですか黄瀬君。ちゃんは帝光バスケ部の……いえ、ボクのお姫様なのであまり……というか一切ちょっかい……というか用があっても話しかけたりしないで下さいっていうのが分かりませんかね。死にます?(真顔)」

「いやおかしいっしょソレ! てか死なないっスから!」

オレのハートを射抜いた天使ちゃんは、この帝光バスケ部のかわいいマネージャーだ。
小さくて柔らかそうで唇なんかぷるぷるで、照れたりすると白いほっぺがふんわりピンク色になっちゃったりする天使だ。マジで超かわいい。

オレはマジなレンアイなんてするだけムダって思ってたし、
そもそもできないし、したいとも思ってなかった。

でも、ちゃんに出会って、オレは変わった! 黒子っちのバスケを見た時みたいにこう、心がパァッとなったっていうか? なんかこう、とにかくズドンときちゃったんスよね! この子だー! って。だから、まずはお近づきになろうと思って一生懸命話しかけてるわけだけど、全然相手にしてもらえない。なんでか分かんないけど、なんかオレ嫌われてるっぽいし。それに天使ちゃんってなんでか黒子っちにべったりなんで、オレのことなんか黒子っちのおまけくらいにしか思ってないのか、オレを呼ぶ時は「テツくんが面倒みてあげてる人」。最近ちゃんの中で昇格したらしく、今はかろうじて「黄瀬君」だけど……。これは流石にショックだったッス……。オレはちゃんのことがすっごく好きだけど、今のところ向こうはそんな素振り……というより、オレそのものにまったく興味ないって感じだし……。

黒子っちと和解? ってか、オレが一方的に色々思ってたことが解消されて親友になって、ちゃんとも仲良くなれるかなーなんて思ってたけど、甘かったみたいだ。今までのレンアイごっこなんて本当に意味のなかったことで、本気のレンアイはものすっごく大変なんだなって今思い知ってる。オレのことを好きだって言ってくれる女の子も、こんな気持ちになったりしてるのかな……。

あぁ、どうやったら仲良くなれんだろ……。

と、そこまで考えてから、感情の読めない瞳でオレをじっと観察する黒子っちに気づいて、ハッとする。

「何を考えていたのかは大体想像がつくので、口を開かないでもらえますか」
「いや! 聞いてよ! オレたち親友じゃないッスか!」
「親友になった覚えないので、聞く義理ないですね。じゃ」

クールにオレに背中を向け去っていこうとする黒子っちを、「ちょちょちょちょっと待ってくださいッス!」と慌てて引き止めると、振り向いた黒子っちの顔には、マジめんどくさいなんなの? と油性マジックで書いた? ってほどにハッキリくっきり書いてある。と、そんなことはどうだっていい! 親友じゃないって言われたのも相当ショックだけど、今からする質問の答えが正解だった場合のショックはこんなものの比じゃないのだから。

「え、てかなんで黒子っちってそんなちゃんのコト……え、実は付き合ってるとか?!」

だってもしそうだとしたら、正直オレに勝ち目はない。

オレの方が黒子っちより断然イケメンだけど、オレのかわいい天使ちゃんはそんな黒子っちのことが大好きなのだ。そして、そんなちゃんを黒子っちも好きだから大事って感じにいつも一緒にいて……完全に入り込むスキないッス。ほんっっっっとうに悔しいけど、今のオレじゃ黒子っち立ち向かえるほどのコレ! ってものがない。……どう考えても横やり入れるオレが悪い的な展開になるの丸分かりだ。うああああそうなったらまだなんにも始まってないどころかスタートラインにすら立てないまま失恋決定じゃないッスか!!!! あ、諦める気はないけど……けど! く、黒子っち相手じゃ……!

絶望しながら、そうじゃないって言ってくれ! と縋るように黒子っちに視線をやると……。

「は?(真顔)というかキミは、付き合ってるかそうじゃないかしかないんですか?ボクとちゃんはそれ以上の関係です(ドヤァ)」

……それは一体、どういう……?

「えっなんすかソレ! え? 付き合う以上? え?」

まったくどういうことだか分からないので素直にそう聞いたのに、黒子っちはそれはもう冷たい目でオレを射抜いた。それから深いため息をついて、
「やっぱりキミってバカですね。ボクと彼女は、いわゆる親友ってヤツです。どうです、羨ましいでしょう(ふふん)」


と言った。……いや、別にいいんスけどね?
でも、すごく自慢げな黒子っちには悪いケド、それのどこにオレが羨む理由があるのかサッパリだ。だって……

「……えーと、親友?(ははは)」

付き合う以上って言うから何かと思えば、親友! ……心配して損したッス! でも、そっか。最大のライバルと言っていい黒子っちがカレシじゃないんなら、オレ全然イケるじゃん! オレ心広いタイプだし、男女の友情もアリだと思ってるんでぜんぜんオッケーだし! と内心小躍りしていると、カチンときたらしい黒子っちが薄っすら微笑んでいる。普段は(ちゃんといる時は除いて)無表情なのに!

ゾワッと鳥肌が立った感覚がして身震いする。な、なんか寒いッス……!
そこからはもう、黒子っちの怒涛の攻めだった。


「カレシカレシと馬鹿の一つ覚えに連呼するキミには考えつきもしないだろうとは予想出来ましたけど、やっぱり黄瀬君て馬鹿なんですね。彼氏は別れたら終わりですけど、親友って終わりがないんですよ? つまりもし仮に万一天変地異や宇宙人が地球に襲来するような感じでキミが彼女の彼氏になれた日が来たとしても、キミはボクには到底及ばない存在だってコトです。バカでも分かるように説明しようと努力はしたつもりですが、理解出来ましたか?」


り、理解はできないけど(なんかむずかしい)……。


「お、おぉ…なんかよく分かんないスけど親友パねぇ感が凄まじいっス…! でっ、でも最近オレの名前覚えてくれたしっ、黒子っちと一緒の時じゃなくても話したりしてるっスよ?! オレだってだいぶ仲良くなれたと思うんスけど!! つまりもし仮に万一天変地異や宇宙人が地球に襲来するような感じじゃなくても、このまま順調に仲良くなってけば望みあるんじゃないスかね?!(ぜぇぜぇ)」

「ないです(キッパリ)。そもそもちゃんがキミの名前を覚えたのだって部活に差し障りがあるといけないからとボクが促したからですし、キミが彼女と話してるのって、いわゆる業務連絡ですよね。世間話とか総スルーですよね。それで仲良くなれたとか思ってるんですか? 完全にストーカーの思考なのでちゃんに近づくのやめてもらえますか」

「ヒドッ!! なんでそんなキッパリ言いきれるんスか!? てかストーカーっていくらなんでもヒドすぎるッス!!!!」

オレたち親友じゃないッスか! 励ますとかないんスか! 名前と業務連絡のとこはマジなんでなんも言えないケド!!!! すると、「なぜって……」と言葉を続けようとした黒子っちの声に、甘くて溶けちゃいそうな声が被さった。うあああこの声聞くともう腰砕けッス……! 黒子っちが一瞬、まるで虫でも見るかのような視線をオレに寄こしたかと思うと、普段の様子(とオレに対する態度)からして想像すらできないような笑顔を浮かべて、くるっと彼女のほうへ振り返った。

 「あっ、テツくん!」

くぅっ! 今日の笑顔も純度1000パーセントッス! 激かわッス!! マジ天使ッス! だいすきッス!! こっちに走り寄ってくるちゃんに向かって大きく手を広げてスタンバッていたわけだけど、彼女はやっぱり……。いや、分かってたッスけどね! 知ってるけどね?!

「わざわざ走ってきたんですか? 転んだりしたら危ないです」

黒子っちの胸へと飛び込んでいった。
でもそんなちゃんも天使すぎるっスかわいいっス……!

身悶えるオレをよそに、黒子っちがちゃんの頭を撫でている。
……それオレがちゃんにしてあげたいランキングに入ってるのに!!(ギリィッ)
でもでも、ふにゃあって笑うちゃんはマジに天使で、でもその笑顔は黒子っちまっしぐらで。かわいいけど憎らしいっていうか、いや、でも圧倒的に天使で激かわっていうか……! 悔しいケド黒子っちに向けられる笑顔ってちょうかわいいから……。

「だって、テツくんみつけたんだもん」

「ふふ、そうですか。ボクもちゃんを見つけたら、何があってもすぐに駆け付けますからね。ボクとちゃんは世界にお互いだけの、尊い親友ですから(ドヤァ)」


「テツくん…(きゅん)」

だからこうしてすぐに二人だけの世界をつくっちゃうんスよね……!

でも確かに……親友! そのポジション、認めざるをえないッス!! ぐっ……黒子っちのドヤ顔…………めちゃくちゃ羨ましい〜っ!! くそっ、あんなかわいい笑顔にあんな甘い声で「テツくん」なんて呼ばれて……羨ましすぎて死ねるッス! 黒子っちズルい! 仲良しなふたりを見てるとなごむ〜とか言う人いるけど、オレは全然なごまないッス!!

だってちゃんのことすっごいすっごい大好きだから、オレにだってそういう……黒子っちに向けられるような笑顔で、黒子っちじゃなくってオレのところに走ってきてほしい。黒子っちのおまけじゃなくて、オレのことをちゃんと見てほしいし、部活仲間じゃなくて彼氏になりたい。オレがこんなにちゃんを大好きってこと、知ってほしい。おんなじだけとは言わないから、ちょっとだけでもいいから、オレとおんなじ“好き”の感情をオレに向けてほしい。

そう思うのって、ダメなのかな……。

「ふふふ、今日も誰より素敵な笑顔ですね、ボクのかわいい人。大好きです」
「えっ(きゅん)、そん、そんなこと……て、テツくんも、今日もかっこいい。すき」
「(きゅん)そうですか。ちゃんにそう言ってもらえると、とっても嬉しいですよ」
「……えへへ、」
「ふふ」

「ってオレいるから! うぅ〜ヒドくないスか?」
「あ、黄瀬君」
「そこ息ピッタリにしなくていいッス! オレのライフもう0っスよ…ぐすん」

でも、オレは絶対あきらめないッス! だって「テツくんが面倒みてあげてる人」から「黄瀬君」昇格したし! この調子でいけばいっぱい話せるようになって、そんでタオルとかドリンクとか手渡ししてもらったりもして、「涼太くん(ハート)」とか呼んでもらったりして、それで、それで……!

いつか絶対、本当にオレだけの天使ちゃんに……ちゃんのカレシに、オレはなる!
(※ワン●ース風にドヤァ)


(? 黄瀬君、どうしたの?)
(ああ、ちゃん、キミは何も気にしなくていいんですよ黄瀬君のことなんか特に。さぁ、部活が始まる前にお仕事、ありますよね。お手伝いします)

(えっ……でも、でも……)
(ふふ、いいんです、ボクがしたいだけなので。あ、それなら、今日も自主練、付き合ってもらえますか?)

(! うんっ、お手伝いする! テツくんのお手伝い、するよ!)
(……、ちゃ……あ、ぁ……(瀕死))

カレシなの?親友なの?どっちがイイの?



Photo:十八回目の夏