ナイトレイブンカレッジは名門校らしい――治安悪すぎて本気で言ってんのか?と思うけど――ので、それだけの設備が整っているのか校舎はびっくりするほど広い。(治安が悪いので)いつも賑やかな印象だけれど、その広い敷地の中では人がなかなか通らない場所というのも確かに存在している。 大きな窓から、不気味にオレンジの光が差し込んでくる。空は夜色が混じって紫がかっていて、これからどんどん黒ずんでいくだろう。 ぴたりと、歩を止めた。 「……こっちが分かるようにコソコソ追跡してくるのやめてくれませんかジャミル先輩!! 殺すなら一思いにしろ!!」 私の絶叫は、誰もいない“はず”の静かな廊下に響き渡った。すると、涼しい顔したジャミル先輩が、まるで影のようにぬるりと姿を現す。ケロッとした顔で「酷いな、極悪人みたいに」とか言うので、相手は先輩だけど、つい「そうでしょうよ!」と返してしまった。 ――ここ最近、私はずっとジャミル先輩に身辺を探られている。 タチが悪いのは、私でも分かるように跡をつけたり、偶然を装って事ある毎にシレッとした顔で話の輪に加わっていることだ。特別なことはできない、そもそも魔法を使えない私では、それこそジャミル先輩が特別なことをせずとも気づきはしないだろうに、むしろ存在をアピールするようなやり方だ。 初めは、もしかしたらホリデーの一件の報復でもされるんじゃないか……? とビクビクしていたが、この様子ではどうやらそうではないらしい。……なんというか、なんでもないふうな顔をしているが、どことなく落ち着きがないのだ。 面倒事は早くに終わらせるに限ると、もう何度となく面倒事に巻き込まれている私は、「で、なんですか?」と体ごと向き直る。次の瞬間、ジャミル先輩の口から出た言葉にはおったまげすぎてひっくり返るところだった。 「――君の、好きなものを教えてほしい」 この人……私のこと……? と一瞬思ったが、「俺は流行なんかには疎いものだから、女性の好む物が分からなくて、てんでダメなんだ。ただ、それじゃあ困る。いや、流行りものでなくてもいい。そういう物ばかりを贈って、浮ついた男だと思われたくない。しかしだな、時代遅れと思われるのも――」と、こっちは何も言ってないのに、言い訳するかのように怒涛の早口で責めたててくるので、アッなるほど?? すぐ合点がいった。 「ジャミル先輩、好きな人がいるんですか」 確信を持って放った私の言葉にビクッと体を揺らした後、ジャミル先輩は顔を真っ赤にして(!)大きな手で口元を覆うと、蚊の鳴くような声で「……国に、残してきた、女が、いる、」と答えた。はっはァ〜ん? という話。いやこれ(オーバーブロットの件を除けば)大分デッカイ弱味になるのでは?? アズール先輩お先でーす。これでラウンジのバイト契約有利に進められそうだし、そうでなくともマウント取れる。あの人(笑っちゃうけど)ジャミル先輩とお友達になりたいらしいから。笑っちゃうけど。お友達て。 まぁそれはともかく。 「……へえ。え、つまりお付き合いしてる恋人ってことですよね?」 ジャミル先輩は小さく唸った後、「……まあ、そうだ」と言って顔を背けた。 ……。 「直接ご本人に何が好きか聞けばいいのでは??」 私のこの言葉に勢いよくこちらを向いたかと思えば、キッと視線を鋭くさせて、「そんなこと本人に聞けるかッ! 相手の好みも分からないような不甲斐ない男だと思われたくない!」と言う。いやプライド高きこと山の如しか??? 「だからって私の好みなんか聞いたって参考にならないでしょ、人それぞれ違いますよそんなの」 「チッ、役に立たないな君……」 「おっとそれが人に教えを乞うヤツの態度か??」 ジャミル先輩はこれでもかというほど顔を歪めて、「……成功すれば、君にはそれ相応の礼をするつもりだ」と言った後、ふいっと視線を逸らして「彼女の、誕生日が近いんだ、」と絞り出すように続けた。 「……はァ〜ん? プレゼントで点数稼ぎしたいんですね」 「はァ? 気持ちを伝える手段の一つだろうが!」 なるほど、さてはこの男、普段はロクに気持ちを伝えてないと見た。よ〜く回る口を持っているくせして、本命には口が回らなくなるわけだ。よくあるやつ。元の世界でいっぱい読んだしいっぱい観た。そしてこういうパターンだと、私が介入することによって二人の関係は擦れ違っていく。よくあるやつ。元の世界でいっぱい読んだしいっぱい観た。 「だからですよ、何彼女のプレゼント余所の女と決めようとしてんですか? 私が彼女だったらブチのめしますよ」 これにグッと言葉を詰まらせた後、「いや、しかし、」と、もごもご言い出すのでクソデカ溜め息を吐く。いや、マジで呆れてるとかではなく。単純にいつも澄ました顔してスカしてる先輩の無様な姿ってサイコーに気持ちいいなと思って。ホリデーの一件、私まだ根に持ってますよ、この場面では言わないけど。今とても愉快なので。 「……ま、協力してもいいですよ」 「……本当か」 「ええ、センパイの頼みなので」 ジャミル先輩がほっと息を吐く寸前のところで、「まずは彼女の写真、見せてもらいましょうか」という一言を投げると、予想通り苦々しい顔をして「誰にも、特にアズールには言うなよ」と釘を刺してから、渋々といった具合でスマホを取り出した。あ?、愉快愉快! 「……彼女だ」 差し出された画面に映る人を見て、思わず低い声を出してしまった。 「……はァ?」 「おい、なんだその反応は」 「こんな美人が性悪ジャミル先輩の彼女? 理不尽すぎる」 「どういう意味だ!」 どういう意味もクソもそのまんまである。いや、世の中理不尽なことはいくらでもある。私がここに飛ばされてしまったこともその一つだけど、これについてはあまりにも突飛すぎるので除外して、だ。 もう一度、じっと画面を見る。思わず目元を覆った。 「そのまんまですよ! ジャミル先輩がこんな美人と付き合えるのになんで私にはイケメンの彼氏がいない?? 理不尽すぎるでしょ!」 ジャミル先輩はハンッと笑って、「日頃の行いだろう」と言う。はァ???? 「オーバーブロットした人間がなんか言ってやがる」 私の言葉には一切触れることなく、ジャミル先輩は偉そうに両腕を組んだ。そして、「とにかく、こうして写真は見せたんだ、協力してくれ」と威圧感たっぷりに私をじろりと見る。あーあ、めんどくさいことを安請け合いしてしまった……。 まぁ、そうは思うが仕方ない。とりあえず溜め息は吐いておいて、「はいはい、分かってますよ」と両手を上げた。 「えーと、じゃあまず、彼女がよく使う物とかはどうでしょう? たとえばヘアブラシとか、ジャミル先輩が使ってるオイルみたいな」 眉間に皺を寄せ、何を言ってるというような顔で、ジャミル先輩はサラッと「彼女が使う物はすべて俺が管理してるんだ、なぜ日用品を贈る必要が?」と……。 「は……え? あ、あぁ、そうですか……?」 うん……? と思いつつ、「うーん、じゃあ彼女の趣味から考えましょうか。何が好きです? 読書だったら、ベタですけど栞とか、料理だったらエプロンとか」と、指を折りながら候補を挙げていく。結局こういうのは、無難なものを選ぶのがいい。日常使いできるものなら迷惑にならないし、数があっても困らないものも多いから、よっぽど奇抜なチョイスをしなければ喜んでもらえるだろう。 そう思ったわけだが、次の言葉を聞いたら無難とかなんとかいう前の問題だと気づいてしまったし、先の発言にも触れるべきだったと後悔した。 「趣味か……うん、俺の世話をすることだな」 「なんて????」 「だから、俺の世話をすることだ」 「二回聞いてもまったく分からない」 「はァ? そのままの意味だが」 いや、はァ? はこちらのセリフ。 「いやだからそれが分からない。なんですか趣味が人の世話って」 ジャミル先輩はさも当たり前という顔つきで、しかも、大したことじゃないふうに言った。 「俺たちは将来一緒になるんだ、あれが俺の世話をするのは当然だろう。今からそのために勉強させているから、趣味は俺の世話と言っていいはずだ」 やっぱり意味が分からない。分からないが、分からないなりに大事そうな部分を取り上げる。 「え、結婚するんですか?! ごめんなさい、彼女どころかフィアンセ? とかだったりしました?」 「いや、そんなことはないが。俺がそう決めてるからな、彼女も頷くだろう」 …………。 「彼氏面どころか亭主面してんのか????」 「は? あれは俺の女だ」 目尻を吊り上げるジャミル先輩に、慌てて「いやそういう意味ではなく、」と咄嗟に謝罪しながら、それじゃあ……とまた候補を挙げていく。彼氏面どころか亭主面とか、こいつ地雷彼氏ってやつなんじゃないか……? とは思いつつ。 「……じゃあアクセサリーとか、洋服とかはどうですか?」 ジャミル先輩がくわっと目を見開いた。あまりの剣幕にビクッと体を揺らしたが、「ッ何を考えてるんだ君! そんな下心丸出しの破廉恥な贈り物ができるかッ! 嫌われたらどうしてくれるんだ!!」と言われた瞬間、強ばっていた顔の筋肉がスンッと力を抜いた。 「は?? 照れるポイント何????」 サッと視線を俯かせて、ジャミル先輩は初めての恋に恥じらう乙女みたいに目元を赤く染めた。 「アクセサリーは、要するに彼女を縛りつけたいとか、そういう意味だろう……」 彼氏面どころか亭主面しといて???? という話なのだが、情緒がおかしい人に合わせていると進むものも進まないので触れずにおく。 「そういう解釈もあるかもしれませんけど、そういう意味でプレゼントするわけじゃないでしょ?」 あえて流すようにそう言った私に、今度はいやに真剣な表情を浮かべて、ジャミル先輩は言った。 「服なんて、それを着たら最後脱がしてやるからなという予告じゃないか……君、恥じらいはないのか?」 何を言ってんだこの人。 ここまでくると、もう私のアドバイスなんかひとっつもいらないんじゃないの? と投げやりな気持ちにもなるが、引き受けてしまったものは仕方ない……というか、とりあえず話は聞いてやらんと後々めんどくさいことになりそうなので保身保身。まあ、「そんな発想をするあなたには言われたくないです」とは言っておくけども。 「……っていうか、それならジャミル先輩がプレゼントしたいものにすればいいんじゃないですか? 彼女の好みとかもう置いておいて」 この人が納得するプレゼントってそういうことなんじゃないのか……? プレゼントは贈りたいと思うものを、なんて話も聞くし、彼氏からもらうものなら(あんまりなセンスでなければ)そう嫌がられるようなことはないだろうし。 ――という発想のもと、私はそう言ったわけだが。 「……服なら、どんなデザインのものがいいと思う」 いや結局下心〜〜。その前に。 「ジャミル先輩の解釈からするとそれめちゃくちゃセクハラになるんですけど」 「はァ? 君の裸なんて頼まれたって見たくない」 マジで心底嫌ですという顔をするので、こっちも願い下げだよ!! くらいは言い返したいが、それよりもこれ以上長引かせるほうが無理なので、「めんどくさいなぁ! だからもう全部ジャミル先輩の好みにしたらいいじゃんて!!」と壁をドンと殴ってしまった。ジャミル先輩は一瞬顔を顰めたけれど、少し黙って、それから躊躇いながらも口を開いた。 「……あれには、いつも俺の好みを徹底させているから、たまには……本人がいいと言うのを、やろうと、思ってるんだ、」 …………。 「だから照れるポイントおかしいんだよな……。じゃあやっぱり聞いたほうがいいですよ、本人に。何が欲しい? って」 精一杯の嫌味を込めて、クソデカ溜め息を吐いてやった。――が、ジャミル先輩はちっとも気にした様子なく、というか今の今までのしおらしい態度をぶっ飛ばして、自信満々に言い放った。そのセリフがこちら。 「は、聞かずとも分かるさ。俺がいいと思うものが欲しいと言うに決まってるだろうが」 「亭主関白気取るじゃん????」 ……というか、これまでの話をまとめると、だ。 「……ジャミル先輩がそれだから言えないんじゃないですか、本当は欲しいものがあっても」 ジャミル先輩は若干、若干心当たりがあるのか、ぐっと言葉を詰まらせる。 「な、そんなわけ、」 これは重症だな……。 この人、大抵のことはなんでもそつなくこなせますよみたいな顔しといて、こと恋愛においてはまっっっったく使いものにならない人種なのでは? いや、逆にそういうタイプだからダメなのかもしれない。 合理的にとか、効率どうこうとか、そういう、自分の力だけで解決する能力は高いんだけど、そっちに特化しすぎててこう……他人が関わる、それも人の心に寄り添って考えるとかっていうのがハチャメチャに苦手、みたいな。頭では理解しようと頑張っているんだろうけど、人の心ほど難しいものもそうはないので。賢いし理性的だからこそ、余計に分析に走ってしまうのかもしれない。 勘はいいと思うし、まるっきり空気が読めないというわけじゃない。むしろ読みすぎるからダメ、みたいな……。だからこういうややこしい事態を引き起こしているというか、拗らせてるというか。 それはともかく。 「いやショック受けるんかい。……電話すればいいじゃないですか、今。話せばいいんですよちゃんと。というか話し合ったほうがいいです。ほら、いてあげますから」 「だが、」 「いいから!」 彼氏面どころか亭主面もいいが、私に話したような、ほんとうのほんとうの本音をそのまんま素直に伝えさえすれば、ややこしいこと抜きに選べるんじゃないかと思うのだ。ジャミル先輩が自分で、彼女に贈りたいと思う素敵なプレゼントが。 ジャミル先輩は難しい顔をしばらくして、それでもなかなか動き出さないもんだからしつこくせっつき、それなりの時間を使ってやっと通話ボタンをタップした。 「――俺だ。今、少しいいか」 瞬間、私は小さく震える手から端末をぶん取り、スピーカーをオンにした。ぎょっとした目がこちらを向いて、それはすぐにギッと鋭く細められたが気にしない。 ここまできたらもう絶対にいい感じにまとめてみせる。私はもはや使命感すら抱いているのだ。 賑やかな声が背景にあったが、彼女が「はい、もちろんです」と応えて、それから「いかがなさいました?」と言った時には、その賑やかさは随分と遠くなった。 じっと息を潜めていると、「ああ、言いつけはきちんと守っておりますよ」という明るい声での報告があって、思わずなんて???? と声を上げそうになったがグッと堪えた。だから彼氏面どころか亭主面もいい加減にしろ。 「ああ、それでいい」じゃないんだわ。 思わず溜め息を吐いた。これは我慢するのは無理だった。 ジャミル先輩はちらりとこちらを確認して、すうっと息を吸った。 「……ところで、」 「はい」 「…………少し、代わる」 …………???? 「はい?!」 ずいっと差し出されたスマホは慌てて受け取ってしまったが、なんで???? なんで?!?! しかない。しかし、相手が「はい、承知しました」と言うわけだから仕方ない。……いや仕方なくないけども???????? 「え゛っ、アッ、どっ、どうも、その?、ジャミル先輩にはその、お世話になっておりまして、アッ、わたくしジャミル先輩の後輩をしております者で、ハイ、」 「まあ、ご丁寧にどうも。こちらこそ、バイパーがお世話になっております。……監督生さんで間違いありませんか?」 「エッ、そ、そうですが……?」と返しつつ、口パクでジャミル先輩に確認を取る。嫌そうな顔で、小さく「俺じゃない」と返ってきた。 きっと明るい表情だろうという弾んだ声で、「やっぱり! カリムさまからお話は伺っております」と言うので……なるほど……。 しかし、次にはちょっと気まずそうな声音に変わった。 「……それで……、うちの人、何かご迷惑でもお掛けしましたでしょうか……? ご存知でしょうけど、気難しいところがあるから……」 思わず天を仰いだ。 「良妻すぎる……」 「はい?」 ジャミル先輩が顰めっ面をするので、サッサと本題に入ってしまおう。 「あー、あのですね、聞くところによりますと、お誕生日が近いとか」 「え? ああ、はい、そうですね」 ちら、とジャミル先輩を見る。やっぱり顰めっ面をしながら、それでも頷いた。 「単刀直入にお聞きしますけど、今何か欲しいものってありますか?」 あからさまに戸惑った様子で、「欲しいもの、ですか?」と、返ってくる。私は怯まない。絶対にいい感じにまとめてみせると決めたので。 「はい、欲しいものです。なんでもいいです、バカみたいに高くても貴重でも。とにかく欲しいものを教えてください」 ジャミル先輩の反応を見るに、バカみたいに高くても貴重でもいいらしい。……こういうところなんだよなぁ……。そのまんま、おまえが欲しいならなんでも用意してみせるって言えばいいものを……。 じとっとジャミル先輩を見つめつつ、「……なんでも、ですか」という声に力強く「はい」と答えた。そう、なんでもですよ。この際だからマジでバカみたいに高くて貴重なものを強請ってほしい。 彼女は言った。 「……バイパーに頼まれたんですね、聞くようにと」 …………。 「まったくその通りです」 控えめながらも、確かな笑い声がこぼれた。 「では、VDCに招待してほしいとお伝えいただけますか? あなたにお会いできれば、それでいいと」 ……なんっっっっだって……? 「いやだから良妻がすぎる……。……とりあえずハイ、分かりました、じゃあジャミル先輩に代わりますね、」 女にここまで、ここまで言わせておいてアンタ……と目で訴えながら、ジャミル先輩に端末を押しつけるも、なかなか受け取らない。彼女の申し訳なさそうな声が、「ほんとう、ご迷惑をお掛けして……。そちらにお伺いした時、必ずお詫びさせていただきます」と……いやだから良妻がすぎるしジャミル先輩アンタ……。 「いえいえ、ジャミル先輩からお礼もらえることになってるので! どうぞお気になさらず」 もう一度スマホをずいっと押しつけて、「――だそうですよ、ジャミル先輩」と言う。すると、なんとも言い表せない複雑な表情を浮かべながらも、今度はしっかりと受け取った。 「……俺だ」 ……。 「はい」 「……当日は、俺は相手をしてやれないからな」 …………。 「もちろんです、お邪魔はしません」 「……フラフラして他人に迷惑をかけるなよ」 いやアンタ現在進行形で他人に迷惑かけてるが〜〜〜〜???? さすがに口には出さなかったが、彼女の「あなたの顔に泥を塗るような真似はいたしません」という返答に、私はまた天を仰いだ。 ほら……ほらッ! と背中を叩くと、じろっとこちらを睨んできたが、痛くも痒くもない。 ジャミル先輩はきゅっと唇を引き結んで、呟くように言った。もしかしたら、震えてすらいたかもしれない。 「……それから、」 しかしまぁ、どうにも彼女のほうが上手らしい。 「ジャミルさまにお会いできれば、わたしはなんにもいりません。だから、一言くださいな。いつもみたいに」 「……分かった、俺が許すから好きにしろ」 「はい、好きにいたします」 ジャミル先輩はさっきまでの緊張した様子は一切取っ払って、涼しい顔をしている。 「時間を取らせたな。また連絡する」 「はい、お待ちしております」 「ん」 しばらくの沈黙の後、ジャミル先輩は言った。 「……簡単なことだったな、わざわざ君に頼る必要はなかった」 「いや大分面倒でしたけど??」 「まぁ約束は約束だ、礼はきちんとしよう」 コイツ……と思いながらも、まぁうまくまとまった――というか、ジャミル先輩の好きなように亭主面させてあげながらその実、彼女のほうがうまいこと操縦しているからこその結果である。……確かに私が頼られる理由なかったな?? 「……はあ、そうですか……。えーと、じゃあせっかくなんで、彼女さんのこときちんと紹介してもらっていいですか? 良い人だし、私こっちで女の子の友達っていないですし」 「はァ? 嫌だね! あれの交友関係は俺がしっかり管理してるんだ、君はいらない」 ……なんっっっっだコイツ???????? 「はァ〜ん? いい度胸だ、これまでのこと全部アズール先輩に話しますね!」 |