――そう、とにかくお兄ちゃんに、お兄ちゃんにだけはバレてはいけない。 長期休暇が決まるよりずっと前から、わたしの今日の予定は決まっていた。大好きな大好きなお友達の、晴れ舞台。大学時代、一番仲が良かった子の結婚式である。彼女はもちろん、この日を迎えるまでにものすごく頑張って準備を進めていて、その話(たとえばウェルカムボードで彼とケンカしちゃったとか)を色々と聞いていたものだから、その努力も報われる日だと思うと本当に楽しみだった。 ……けれども、わたしには兄がいる。それも、わたしのことを大事に大事にしてくれている兄が。それはまぁきっと喜ぶべきことなんだろうけれど、何せその“大事にする”の方向性がマズイ。世で言うシスコンである。それもドがつくやつ。なので、わたしの口から“結婚”だとか、まるでお兄ちゃんとは無関係になってしまう(そんなことないんだけどもちろん)ような単語はすべてNGワード。しかもお兄ちゃんはわたしを大事だ大事だと言う割にこっちの話を聞かないので、私が友達の結婚式に出席するので出かけるね〜〜なんて言ったら、それの“結婚”しか拾わず大騒ぎすることが目に見えている。 ――というわけで、わたしも美容院で髪をセットしてもらうだとかいう準備があること以上に、とにかくお兄ちゃんには知られずに本丸を出たい。となると、まず早朝に出ないとマズイ。会場はそう遠いところではないんだけれども。……悲しいかな、本丸にいる人たちはなんでだかお兄ちゃんの言うことを疑うことなく、ですよね! みたいなテンションで受け入れてしまっているので、彼らにもこれを伝えることはできない。……申し訳ないけれど、同じく素直にわたしが“結婚”式に出かけたとお兄ちゃんに言ってしまう未来しか見えないからである。 なのでこう、わたしはまるで夜逃げかな? みたいな感じで、誰にも悟られることなく本丸を出なければならないわけだ。結婚式で必要なものも色々とあるので、大荷物を持って。いやほんとに夜逃げみたいになってるぞ……。 そんなことを思いつつ、ごめんなさい! と心の中で頭を下げて、わたしはそそくさ本丸を出て行った。 が本丸のどこにもいない。 いつものように、のお世話係を自称する今剣が朝を伝えに部屋を訪れると、そこはもぬけの殻だった。すぐさま本丸中へ伝令を――と思ったが、卓袱台の上にメモ書きが残っている。しかし、そこには肝心の行き先などはまったく記されておらず、ただ出かける旨と勝手に出ていって申し訳ないという謝罪の言葉しかなかった。――これが後の悲劇へと繋がることを、はまだ知らない。 「……あるじさま、ひめがほんまるをでていかれました」 「……は?」 「これを」 ぴんと背筋を伸ばして行儀よく正座する今剣が差し出したメモを見ると、審神者は悲鳴を上げてだばだばと涙を流して畳へと崩れ落ちた。一方、今剣はの一番のお世話係と言って憚らぬのに、ひどく冷静な面持ちである。それも、彼にはきちんとした理由があった。筆跡や言葉選びからして、自ら望んで出ていったことは確かで、それも必要であったからだと分析したためである。もしも望まず連れ去られ、偽装された書き置きだとすればすぐに分かる。やはり一番のお世話係を名乗るだけあって、今剣はのことについては(色々と)特化しているし、何より冷静だった。本丸の主であり、の兄である審神者よりもずっと。 「このかきおきからして、ほんとうにどこかへおでかけになられただけだとおもいますよ。おそらく、ぼくらがいてはきまずいのでしょう。うーん、でも、たんとうのひとふりでもおともにしてくださればよかったのに。ですが、ひめはとてもつつましいかたですから、きをつかわせまいとなさっただけでしょう。おおさわぎすることではありませんよ、あるじさま。おかえりになったひめさまが、それこそきにやんでしまいますから」 「俺たちの誰にも……いや、この俺にまで言えない場所なんて一体どこだ?! ッハ! まさかちゃん、危ないところに……!」 「あるじさまが……いえ、ぼくたちがせんさくするようなことではありません。ひめさまはにょにん、ぼくたちはあるじさまをふくめ、えーと、そう、だんせいというんですよね、つまり、せいべつがちがうでしょう。そういうわけですから、おかえりになるまではまって、おかえりになったらよけいなことはいわず、ただいつものようにおむかえすればいいんです。わかりましたか? わかりましたね」 「いやでも――」 「あるじさま、ひめがおかえりになるまでのじかん、じかんはたっぷりありますからね、そのあいだにおしごとをちゃちゃっとかたづけてしまいましょう! そしたらいっぱいいーっぱいあそんでもらえるはずです!」 「確かに!!!! オッシャ戦だ野郎ども!!!!」 今剣は思った。主様はものすごく分かりやすくて、ものすごく扱いやすい人間だなと。いや、切れ者ではあるのだが、が関わるとなると驚くほど単純だ。ただし、そんな今剣も、そんな審神者の呼び声に応えた刀剣男士である。今剣自身もを守りたいと心の底から思うし、この世の誰より幸福になってほしい。……これだけ聞くと実に忠義に厚い家臣の考え方なのだが、今剣もそのためならばいくらか犠牲が出ても仕方ないな! という過激派なので、人のことは言えない。 ちなみに、今剣はは買い物に出かけたのだろうと判断した。それも、“男”を連れていくのには抵抗がある場所。それでも、見た目(だけ)は幼い短刀ならば連れていってもよかったのではないか、自分ならば喜んでお供したのに……と思いはしたが、の休暇でたくさんたくさんお世話をするには時間が必要なので、今のうちに仕事を済ませてしまえばいいという考えに達すると、それならの留守中に片付けることのできるものはすべて片付けてしまおう! と、すくっと立ち上がった。 「――それではあるじさま、しゅつじんしましょう」 過去を改変すべく暴れているであろう時間遡行軍たちは、この時“何か”恐ろしいものの気配を感じて背筋を震わせていた……かもしれない。 ……ものすごく……ものすごく感動的な式だった……。わたしのお友達は本当に本当にきれいで、新婦の入場という場面から写真を撮ることすら頭からすっぽぬけてしまって、わたしはそこからもう涙が止まらなくて大変だった。ちなみにお写真は他のお友達が撮ってくれたものをラインで送ってもらったし、後日カメラマンさんからのデータを送るね! と新婦からも言ってもらえた。いや、ほんと恥ずかしいんだけども……。ただ、ほんっとうにわたしでいいのか何度も確認したんだけれど、友人代表のスピーチをやってほしいと頼まれていたのでそれもあって……だ、ダメだ、思い出すとまた涙が……! ――そんなことを考えつつ、目尻に浮かぶ涙をハンカチで拭いながら「ただいま帰りました」と(一体どういう仕組みなんだか未だに謎だけど)、いつものようにお兄ちゃんの部屋のドアノブに手をかけ、扉を押し開いた。 「おっ、やぁっと帰ってきたな! 俺は待ちくたびれ――まずはそうだな、うん、温かい茶がいるよなぁ」 出迎えてくれた鶴丸さんは優しい微笑みを浮かべていたのに、わたしの顔を見ると急にその表情を引き締めた。それにどうにも眉間に皺が寄っているので、「ぅわっ……、び、びっくりした……」とドキドキしつつも(何せこの人はわたしを驚かせることが得意だから)、鶴丸さんが難しい顔をしている原因はもしかして……と心当たりがあるので、素直に頭を下げた。わたしの姿が見えないとなれば、お兄ちゃんが大騒ぎしてもおかしくはない。……こんなことに確信を持ってしまうとはなんとも情けない話……。 「どうもすみませんでした今朝早くから……だ、黙って出かけちゃったりしてその……お、お兄ちゃん生きてます……?」 わたしの言葉には特に反応せず、鶴丸さんは「まぁまぁ、ひとまずは落ち着こうじゃないか。荷物を貸してくれ、俺が運ぼう」と言って、わたしの手から大荷物を取り上げた。 「えっ、いや大丈夫です!」と言ってはみたけれど、「ここは男に格好つけさせてもらわんと困るぜ、おひいさん」と返ってきたらどうしようもない。結局わたしは、先を行く鶴丸さんの背中を追いかけるしかなかった。 なんだか気まずい中、用意してもらっている部屋へ辿りつく。そうっと障子戸を引くと、きちんと正座していた前田くんがぱぁっと明るい笑顔で駆け寄ってくるので、わたしもついつい口元が緩んでしまった。しかも、「お嬢様! いち兄がお茶の支度をしておりますので、もう少々お待ちくださいね」と言いながら座布団を出してくれるわけだからすごい。さすがロイヤルファミリー……前田くんくらいの年齢にしてはしっかり者すぎる……。 「わ、前田くんいつから部屋で待ってたの?! え〜っ……ごめんね……!」 用意してくれた座布団にそろそろっと座るわたしに、前田くんは言った。 「何を仰いますか。お嬢様のお役に立つことこそが、僕たちの使命です! 何もお気になさらず」 そ、それはまた違うんだよな〜〜! と思ったけれど、あまりにも眩しい笑顔で見つめられてしまえば……「えっあっう、うん……」としか返せない……。――というか今更なんだけども、ロイヤルファミリーの一員である前田くんに“お嬢様”なんて呼ばれると、こう……申し訳ない気持ちでいっぱいになる……。それと同時に、粟田口家の母国の方々にこれが知られてしまった場合、高貴な存在どころかド庶民であるわたしはどうなっちゃうんだろうと不安……。 「――お嬢様、お茶の支度が整いました」 あわわ……と、おろおろしつつも「あっ、一期さん! どうぞお入りになってくださいいつもすみません……!」と、わたしはまた戸を引いた。すると、ポットとカップ、それから洋菓子の載ったトレーを持った一期さんがにこりと微笑む。そして――。 「何を仰いますか。お嬢様をお支えするため、私はこの本丸へと導かれたのです。お気になさいますな」 ……きょ、兄弟でまったく同じこと言ってるけどちがう……! 前提から間違ってるので違う……! この本丸で流行っている(?)わたしのお嬢様やらお姫様という設定は、ほんとにいよいよどうにかしなくちゃいけない……これはダメだ……と震えながら俯くわたしの顔を、鶴丸さんが覗き込んできた。甘い色をした瞳に思わずドキッとする。 「……それできみ、今日はどこへ出かけてたんだい? 俺たちにたったの一言も残さずに。さみしいじゃないか」 そう言ってすぐに目を細めて、意味あり気に「――それとも、言えないわけでもあったのか?」なんて言うものだから……言えない理由は確かにあったけれど、それはお兄ちゃんの存在ただ一つだけなので言いにくいにも程がある……。あまりにもくだらない理由――いや、わたしにとってはものすごく重要だけど――なので、はっきりと答えるのはちょっと……と思ったわたしは、「あ、あ〜……えーと、うん……そのですね、」と返す間にどう誤魔化そうかと言葉を探していたのだけれど。鶴丸さんはどうしてだか神妙そうな顔で「……いや、無理に口に出さずともいいんだ。なに、安心しろ。この本丸にはきみを傷つけるものなどいやしない」なんて言うものだから、あら? と思ったのだけど、すぐに笑顔を浮かべて「さ、とりあえずは茶を飲もう! おお、これがあれか、宗三が取り寄せたという“ふぉんだんしょこら”というやつか?」と話題を変えたので特に触れることはしなかった。 カップを並べて紅茶を注ぎながら、一期さんが柔らかく口元を綻ばせる。 「ええ、そうです。三日月殿が用意なさったチーズスフレと迷いましたが……お嬢様のご様子からして、やはりこちらを選んでよかったと思います。……ええ、そうです……お嬢様、何も、何もお気になさいますな。我ら粟田口はもちろんのこと、この本丸で喚び起こされたものは皆、お嬢様の幸福を願い、そのお役に立ちたいと思っているのですから……」 …………んん?? 首を傾げるわたしを余所に、前田くんが悲痛な面持ちで「いち兄……」と呟いた。……んん〜〜? 一期さんの発言に反応すると後が怖いので聞かなかったことにするけれど、な、なんだかおかしくないかな?? しかも、鶴丸さんが慰めるように一期さんの背中を叩くので、ますますあら〜〜? という。 「そら、一期も茶を飲め。……とにかく、今はおひいさんの話を聞こうじゃないか。何が気にかかるのか――そのすべてをな」 鶴丸さんの瞳が、きらりと光った。 その頃、本丸で最も広い大広間には、審神者、そして今剣を筆頭に顕現されているすべての刀剣男士たちが集まっていた。普段は特別任された任務や当番がない限り、専用にと用意された小さな蔵に閉じこもっている大典太光世すらもが、神妙な面持ちで座している。 今剣が口を開いた。 「――ぼくはてっきり、ひめさまはおかいものに……そう、おかいものにでかけられたのだとばかりおもっていました。かきおきのひっせきからも、ないようからも……ひめさまじしんがのぞまれて、そうしてほんまるをでたものとおもっていたからです。……ですが、どうやらちがったようです。……なさけないばかりです。……きっと、きっとおつらいでしょうに……」 その言葉を受けた審神者も、暗い表情を浮かべながらぐっと天井に向かって顔を上げる。そして、「……俺も色々考えてみたが……鶴丸から伝言を受け取った……」と呟いた瞬間、懐から取り出したハンカチを目に押し当て、「いや、それよりも……ちゃんの様子を確認した平野からの話を聞けば……くっ……!」と声を震わせた。すると、今剣が労わるように審神者の肩に手を添える。 「あるじさま、おきをたしかに。――ひらの」 呼ばれた平野藤四郎が、どこからともなく――おそらく天井からだろうが――姿を現す。こちらもやはり苦しいと言わんばかりの表情だ。しかし、その瞳にはしっかりとした強い意志を宿した光がある。ただし、声音はひどく震えているし、もしかすると泣き出してしまうのではないかと思わせるほどには覇気がなかった。 平野は言った。 「……はい。鶴丸さんのハンドサインからして、お嬢様のお心にご不安があることは確かです。それに……僕の目から見ても、お嬢様はとても気落ちしておられるように見えました。……あの、いつもお優しい笑顔を浮かべていらっしゃるお嬢様が……、あの、お嬢様が……!」 ついに堪えられないといった様子で顔を覆った平野に、和泉守兼定が焦れたように「オイ、きちっとハッキリ説明しろ、平野」と言った。しかし、平野は自分が目にしたものを思い浮かべるだけで、ますます胸が痛む。何よりも大切なお嬢様が、なんてことでしょう……と。 そこでこの本丸の頼れる初期刀・歌仙兼定が、「……平野、気持ちは分かるよ。僕も今にも胸が張り割かれんばかりに苦しい」と、平野のそばに寄って優しく背を撫でた――が、その後に浮かべた柔らかな微笑みに反して、ちっとも笑っていない瞳をすぅっと細めて言った。 「けれどね、まずはこの場にいる皆に説明をしなければ。――そうでなければ、仕留めようもないだろう?」 平野は涙の滲む目元を拭った後、覚悟を決めたというように表情を引き締めた。 「……ええ、分かっております……」と言って深呼吸をすると、「皆さま、こちらをご覧ください……」とスクリーンを下ろすボタンを押した。 いつものように、天井裏の撮影ポイントからのベストショットを押さえるべく待機していた平野は、その姿を一目見て息を吐いた。いつの時も、は美しく着飾っている。正確には着飾ることを義務とされているので大人しく従っているだけなのだが、それはともかく。今日のといえば、思わず溜め息がこぼれるほどには美しかった。――これは絶対に、それも一番美しく記録に残さねば。本丸一の撮影技術を持っているというプライドにかけ、果たしてどこでシャッターを切るべきか。普段通りの平野であれば、もちろんそう考えた。しかし、今回ばかりはできなかった。何せ、あのが、この本丸唯一の、たった一人の尊ぶべき姫が、その瞳を涙で濡らしているではないか。背筋が凍った。 すべての事情を知っているものがもしもいたとすれば、何を言っている? と戸惑いもすれば、その涙の理由も説明しただろうが、不幸にもそんなものはいなかった。人にも、物にも。 すると、を迎え入れた鶴丸国永が、本丸の中でのみ使われているハンドサインで“緊急”、“悲しみ”、“暗殺”を知らせてきたので、すぐにぴんときた。確かに、姫であるが涙を浮かべているなど、これはまさに“緊急事態”である。そもそも、はいつの時も明るい笑顔で周囲を照らす本丸の太陽だ。その太陽が、涙している。そうせずにはいられない、深い“悲しみ”に心を病んでしまっているに違いない。 ――の涙、その悲しみの原因となったものをこの世から消さなければ。忠義に誓って。それも、心優しいに知られることなく、ひっそりと。つまり、“暗殺”。 事のすべて――いや、結婚式に出席していたというだけなのだが――を知っているものが、たった一人、いや、たった一振りでもいたのなら、そんな勘違いは生じるはずもなかったが、前述の通りは誰にも何も知らせることなく本丸を出て行ったのである。なんでもないことがとんでもない勘違いによって、あってはならぬ方向に大きくなってしまった。しかし、何度も繰り返すが、その勘違いを正せるものはこの本丸にない。 審神者の背後に現れた巨大なスクリーンに、絶妙なアングルで撮られたの泣き顔――というには足りない、ほんのちょっぴり目元が濡れている程度のもの――が映し出された。これには和泉守も息を飲んだ。 そんな緊迫した空気の中、明石国行がつまらなそうに溜め息をこぼした。 「――で、どこの男なんです? 自分のかわいいおひいさんを泣かせたんは」 審神者がキッと視線を尖らせた。 「おいコラ明石ッ!! 何も男と決まったわけねえっつーかンなことありえるわけが――」 面倒なことだ、と言わんばかりに眉間に皺を寄せた明石が、「主はん、本気で言うとります? ……主はんにも、自分らの中のどれにも、なんも言わんと出てったんが答えやろ」とまた溜め息を吐く。審神者は震えた。が生まれてからこれまで、ずっとずっと大切に慈しんできた。危険には近寄らせなかったし、邪魔そうなもの(それが人間であっても)だってすべからく排除してきた。そうやって愛し続けてきたかわいい妹に、男? そんなまさか。 「お、おまえ、何を言うんだ……ハハッ、そんな……ちゃんに限ってお、っ、お……男なんてそんなモン……」 口ではそう言うものの、審神者の声は頼りなく震えているし、顔色も悪い。それなのに、山姥切長義がさらっと「まぁ、そう考えるのが妥当だろうね。要するに、“誰にも知られたくない相手”に会いに行ったんだろうから」と言う。いや、いやいやそんなまさか……と笑い飛ばしたいところだが、が何かと頼りにしている次郎太刀も「そうなると、まぁ男って考えるよねぇ。だってさ、あの子がアタシたち野郎に知られたくないってんなら、そうだろ?」と追い打ちをかけてくる。 そして、が言う“女子会”メンバーであり、なおかつ誰よりかわいがられてるのは俺! と何かにつけて主張する加州清光も、浮かない顔をしながらスクリーンに映し出されているの姿をじっと見つめて――。 「……それにさー、めっちゃくちゃオシャレしてるよね、。なんていうかさぁ……」 加州さんもかわいいけどアイドル枠はボク! と、こちらも遠慮なしに言って回る乱藤四郎が、加州の言葉を拾った。 「――まるで、お姫様みたい。ちゃんってば仕事仕事で、そう着飾ることしないっていうか、服選ぶ時もいっつも仕事でも使えるのがいいかな〜なぁんて言うし! ……なのにこれって、」 誰もが口を噤む中、この本丸のすべてを取り仕切る審神者の初期刀・歌仙が手を打った。 「――そこまで。今、前田藤四郎、一期一振、鶴丸国永の三振りにを任せている。……その不届き者を、特定するためにね」 ひりつく緊張感の中、三日月宗近がのんびりした調子で「主」と審神者に声をかける。しかし、信頼できる刀剣男士たちの説得力ある発言によって、まさかとは思うけれどもしかしたら……という不安と絶望に襲われている審神者は、強く握った拳を震わせることで精一杯だった。 まぁ、か細く「……なんだよ三日月……俺は今……」と呻いた後、「今、俺は自分の内なる力を必死に押し殺そうとして――」と続いたので、不安も絶望も物理でなんとかする気満々である。ドがつくシスコンは伊達じゃない。 そして――それはこの本丸に顕現された男士たちにも言えることだ。 「俺は給料分の仕事はする。他はまぁ……はは、それこそ他に任せても問題あるまい。――だが、のことは別だ。この俺が、その不逞の輩を斬り捨ててやろう」 今晩はカレーにしようとでも言い出しそうな口調で、三日月がにこにこと微笑む。すると、「ええ? やだなぁ、鬼退治なら僕のほうが向いてるよ。……だって、姫を傷つけるだなんて、ふふ、鬼でもなければしようだなんて思うわけないじゃないか。主、僕に任せてよ」などと言って髭切も加わるものだから、これでは収拾がつかない。そう判断した今剣が、すくっと立ち上がった。 「とにかく! いまは、つるまるたちのほうこくをまちましょう。それまでは、すこしでもひめのおこころをいやすことができるよう、かくじできることをさがしなさい。いいですね? ひめに、これいじょうのしんろうをかけるわけにはいきません。じかくをもって、こうどうするように」 ――こうして、の与り知らぬところでとんでもない暗殺計画が始まった。 |