ウチのかわいいかわいい大天使ちゃんが、ついに……ついに……!!!! 私の最推し三好ルートを攻略――いや違うわ、三好さん(笑)としか言えなかった三好さんがなんとか紆余曲折というかもう自らフラグというフラグをブチ折りまくりつつ、なんとかちゃんルートを攻略したんだったわ。
 まぁとりあえずはね……つまりッ! これからはッ!! 三好×カップルに萌えに萌え、二人のハッピーラブラブライフを見守り支えそしてまた萌えるという超絶ウルトラスーパースペシャルなバラ色の日々を(私が)送れる……控えめに言っても生まれてきてよかった……! 私の人生むしろこっからが本番だわ!!!! と思わず涙するほど、三好×カップルの幸せを誰より間近で誰より味わう――……そう、そのはずだった……なのにッ!!!!

 「なんでこのタイミングで出張!!!! 三好さんバカかよアンタのレベルじゃ付き合い始めの今こそポイント稼いどかなきゃいつ破局ルートに入るか分ッかんねえだろうがもう一回言うけどバカか?!?! バカだったわ!!!!」

 そう、出張……三好さんが! このタイミングで! 出張!!!! いやバカでしょ?! バカだとしか言えないでしょ?!?! 仕事なんだからしょうがない? はァ???? 三好×が成立するまでどれだけの時間と労力使ったと思ってんだよッ!!!! カップルとしてッ! 恋人としてッ!! カレカノとしてッ!!!! や〜〜〜〜っと成立したこのタイミングで出張なんてしてみ?? 三好さんのトリッキーな行動なんて凡人も凡人のモブが予想できるわきゃねーーーーーんだから何が起こるか分かんないでしょ?!?! つまり、成立したと思ったのに即破局だってありえるじゃんだってこれまで何ッ回すれ違いあったと思ってんの???? バカなの????

 ――とブチ切れている私に、三好さんは苦い顔で「……僕だって出たくて出るわけではありません。さんを残して……しかもドイツだなんて、誰が好き好んで行くって言うんです?」と溜め息を吐いた。
 ……そういえばドイツといえば……三好さんにとって因縁の地……。……まあ、それを思うと同情もす――るわけあるかッ!!!! あの忌々しいA子さん事件の発端はそもそも三好さんのアホすぎ対応が原因なんだから!!!! ……ってンなもんどうでもいいわ……そんなことより問題なのはさ……?

 「三好さんだから任された仕事なんですから、仕方ないじゃないですか」

 ――と、三好さんの愛しのちゃんが、このようにものすごく冷めているというか、冷静なことである……。

 「……仕事してる三好さんを尊敬してるちゃんからしたらそうなるのか……いやでもさ?!?! 寂しくない?! 寂しいでしょホントは!!!!」

 はサラッと「仕事だもん、さみしいとかさみしくないとか、そういう話じゃないじゃん。あ、お昼どうする〜?」と言いながら、ランチに出かける支度を進めている。……うん、スーパードライだしスーパーCOOL……。チラッと三好さんのほうを見ると、なんとも言えない顔をしている。……気持ちは分かる……せっかく実った矢先にこれじゃあね……うん……。
 それでも、私はYESちゃん! OKちゃん! という至上主義者であるからして――。

 「ぐぬぬ……真面目なちゃんは手厳しい……」と言いつつ、ポーチを片手に取って、もう片方はどこでランチするか、いつもの検索サイトでチェックチェックチェックッ!!!! ウチのちゃんにはおいしいものしか食べさせないッ!!!!

 「じゃ、もう三好さんはさっさとドイツでもなんでも行ってきてください。私はちゃんとランチしてきますね」

 サッサとオフィスを出ようとすると、三好さんが神妙な顔つきで私を呼び止めた。

 「……その前に、あなたに頼んでおきたいことが――」

 「――失礼する。三好が空ける間、ここを任された福本だ。よろしく頼む」

 …………。
 颯爽と現れたその人は、社内で名を知らぬ者はいない……というスーパーエリート。いや、三好さんも(一応)そうだし、お馴染み三好×同盟の三人(神永さん、田崎さん、あと甘利さん)だってスーパーエリートなんだけど……なんだって福本さんが三好さんの城という名のこのオフィスに現れたのか……。
 …………ま、まさか――。

 「……わ、わあ……三好さんの代理の方が来るとは聞いてましたけど……福本さんって……すごい……」

 ……や、やっぱりそうかそうだよね〜〜〜〜!!!! うちのトップである三好さんが一時的とはいえ、ここを離れるんだとしたら……三好さんと同等にデキる人を置いとかないと業績保持は難しいかな〜? 心配だなぁ〜〜?? とか上が考えるの分かる分かる〜〜〜〜! 余計なお世話〜〜〜〜!! …………。
 キラキラした目で、スーパーエリート――福本さんを見つめるを確認して、私は思わず眉間を揉んだ。うん、色んな意味で分かった……。

 「…………三好さんが何を頼みたいのか、よく分かりました。福本さんはヤバイ。ちゃんが尊敬せざるをえないデキる男として十二分なエリート中のエリート。別部署? フロアが違う?? ガチのエリートにはそんなモン関係ねえから。どこまでも名を轟かせるから。……この人と決めたら一途なちゃんだけど、福本さんが三好さんの代打では……三好さんの唯一の強みである“一番に尊敬できる上司”というポジションが危うい。つまりオッケー合点承知之助」

 ふと、スーパーエリート福本さんの視線がこちらを向いた。そして三好さんの姿を認めると、「――ああ、まだいたのか、三好」と言って近づいてくるので、私の精神状態は早々にやばやばのやばである。
 スーパーエリートで部署も違えばフロアも違う福本さんと、私みたいなモブ中のモブが関わったことなんて、もちろんこれまでに一度だってない。ということは、この人がどういう人なのかというのも、噂で聞いた程度の情報しか持ち合わせていないのである。ついでに言うと、福本さんが三好さんとの関係を知っているかも分からないので、頼むから今の三好さんを刺激しないでくれと伝える……というか忠告することもできない……。三好さんは現在とてもデリケート()な状態なんです……だからそんなことを言ってしまっては――。

 「……引き継ぎが必要だと判断したから、こうして残っているんだ。この、僕の、部署で、貴様が恥をかかないようにとの配慮だが?」

 ――こうなっちゃうんですよね〜〜〜〜!!!! まだ旅立ってすらいないのに、三好さんの機嫌を損ねるようなことはしないでくださいただでさえ愛しのちゃんがスーパードライ&スーパーCOOLなことにモヤってるんだからこの神経ほっそい男は〜〜〜〜!!!!!!!! と、ヒヤヒヤしているのは私だけではなく、この部署の人間全員である。お向かいの同志は箱ティッシュに伸ばしていただろう手を硬直させたまま、こちらを凝視しつつも唇をわなわなと震わせている……。……だよねヤバイよね……でもどうなるか分からん以上は空気と同化しておいて、三好さんの反応窺っとくしかないもんね超分かる……と、私もなるべく気配を消そうと努力した。そう、努力した。なのに福本さんが、意味深にに視線を滑らせて「……なるほど、彼女が。三好が鼻高々だと言う、優秀な部下と聞いている。俺もきみを頼ることがあるだろうが、よろしく頼む」などと言うので、いや事情知らんだろうししょうがないけどマジ余計な発言それ〜〜〜〜!! しかない。

 福本さんは部署は違えど立場は上の人……だが、三好×の前では権力なんてモン存在しない……んだけど、私はそうでも肝心のちゃんはそうではない……。いや、権力に弱いとかじゃなくてね、この子ホンットにド真面目でお仕事頑張る系女子代表だし……だからこそ、デキる人ってのはすべからく尊敬の対象であるからして――。

 「あっ、はい! と申します。……優秀かどうかは……。あっ、でも、もちろんわたしにできることがあれば、遠慮なく声をかけてください! お役に立てるよう、頑張ります!」

 ――と、このようになるわけだ……。……ちゃん三好さんのオーラに気づいてお願い……デリケート()な三好さんはね、やっとこさ結ばれたちゃんの気持ちが、たとえ恋愛感情なんてものじゃなくとも他の人間に向いてしまうと(そもそも)器がちっせえのにますます狭量になってしまうの……! というかちゃんの関心という関心すべてを独占したいし、今のところ三好さんが自信を持てるのはちゃんが一番に尊敬している人間is僕ということしかないから……そんな……そんなキラキラした目で福本さんを見つめてはダメ……でもどうしようちゃんが嬉しいと私も嬉しいから福本さんもっとうちのフェアリーちゃんを褒めてあげてくださいこの子ホントに優秀で頑張り屋さんで真面目でしかもフェアリー……フェアリーなんです……とも思ってしまうのがちゃん至上主義者の私のツライとこ……。っていうか、三好さんがのことを余所で自慢してるっていうのがね、は嬉しいんだよね、分かるよ……三好さんのこと一番に尊敬してて、三好さんに認めてもらうことが一番のハッピーだもんねかわいい健気……。

 だがしかし、ハンカチで目尻を押さえる私の隣で、ぱあっとお花さんが咲くような笑顔を浮かべているちゃんに、福本さんが「いい心がけだな」と言って口元を僅かながらにも緩めたのを認めてしまったこれはヤバイ何がって三好さんの革靴が床を叩いてるリズム……。怒りのロンド……というより、嫉妬のタンゴ……私は何を言ってるんだ……自分でも意味分からんがそんなことよりもオフィスの室度一気に氷点下だわお向かいの同志の唇の震えがいよいよクライマックス……。
 福本さんが三好さんに視線を戻して、抑揚のない声で言い放った。

 「――さて、引き継ぎは彼女からの話を聞けば充分すぎると分かった。おまえが言うように、彼女は有能だな。心配無用だ。安心してドイツへ飛んでくれて構わない」

 ……アッ、アッ、アッカーン!!!! と叫ばなかった私を褒めてほしい。三好さんの眉がピクリと持ち上がったのをしっかり確認してしまったにもかかわらず叫ばなかった私を褒めてほしいこういう時の三好さんがクソやばいの知ってるのに空気と同化し続けてるこの根性褒めてほしい。
 三好さんはをじっと見つめて、「……さん。あなたには、この僕、一人っきりですね? 他に目移りなど、僕は許しませんよ」と硬い声でしっかりと、キッパリと、確認するというよりも従わせるような口調で言ったというのに、ちゃんは不思議そうに首を傾げる。ぐうかわというかぐうフェアリー……。

 「? 何言ってるんですか、三好さん。福本さんと言えば、とっても有能で素晴らしい方だって、ここの社員で知らない人なんていない人ですよ」

 ……う、うん……それはそうなんだけど違うんだよちゃん……気づいて……以前の三好さんのご機嫌センサーはどうしたの…………いやあれも正しく機能してなかったから色々あったんだわダメだ……。
 遥か彼方へ意識を飛ばすしかないなもう……と思ったが、が続けた言葉に私はハンカチを噛み締めて呻き声を押し殺すしかなかったやっぱりうちの子フェアリー……。
 はキリッとした顔で「だからこそ、わたしはここで成果を出して……三好さんの自慢の部下なのが分かるって、そう言ってもらいたいから頑張るんです。……だから、安心して行ってきてください、ドイツ」と言うと、その後に甘やかな笑顔を浮かべて、じっと三好さんの目を見つめ返した……。

 「……何かあれば、すぐに連絡をください。約束できますか?」

 三好さんは眉間にシワを寄せることでなんとか堪えようとしているらしいが、もう大好きオーラが輝きすぎてなんにも隠せてない。分かる。かわいい。抱きしめたい。かわいい。なでなでしたい(私が)。
 は明るい声で「はい、困ったらすぐに三好さんに連絡します」と返事して、三好さんの手を取った。

 「だから、もう行ってください。大丈夫ですよ! うちの部署のトップは三好さんなんですから、問題なんて起こりません! 一時的に責任者が福本さんに代わるとしても、三好さんの顔に泥を塗るような真似をする人間、ここにはいませんから!!」

 ……こんなに気合いの入った――いや、三好さんのことを尊敬してます!!!! というのがありありと分かる発言をされてしまっては、さすがの三好さんもキリッとするしかない……すごい……仕事の鬼である三好さんを鬼神へと進化させるとかすごい……三好さんがガチのエリートになってしまう……。
 その証拠に、三好さんはグイッとの腕を引いてその胸に抱きとめると「……すぐに戻ります。ですから、きちんと僕を待っていてくださいね。僕だけのあなたなんです。……約束ですよ、さん」と切ない吐息をこぼしながら呟いた。……ここが楽園ずっと待ってた三好×……。
 「みっ、三好さん……! ここ! オフィスです!!」と言って三好さんの胸を押し返すの顔が真っ赤に染まっているのを見て、私はもちろん三好さんもラブがズッキュンである。

 「分かっていますよ、もちろん」

 三好さんは甘い微笑みを浮かべた後――ゾワッとするような恐ろしく冷徹な眼差しを福本さんに向けて、鋭く言い放った。

 「……おい、福本。僕の、さんは非常に優秀ですが……彼女に負担をかけるような真似はするなよ。いいな」

 福本さんはその視線を真っ正面から受け止めながらも平然と、「俺はあくまでも、おまえが戻るまでの代打だ。妙な勘繰りをする必要はない。飛行機の時間もあるだろう、もう出るべきではないか?」とか言うのでやっぱエリートってヤバイ凡人とは感性違うんだわ今の三好さん鬼神なのに表情の一つすら変えない(震え声)。
 三好さんは不快そうに鼻にシワを寄せて「言われずともそうしますよ」と吐き捨てると、に向き直って白くてまろい食べちゃいたいくらいかわいいほっぺに手を添えた。

 「……さん、何かあれば必ず、必ず僕に連絡をするんですよ。いいですね?」

 は慌てて「分かりましたから急いでください!」と三好さんの手を振り払ったが――。

 「……ちゃんと、待ってますから。……あ、あの……い、いって、らっしゃい、」

 「……いってきます。すぐに戻りますからね」

 三好さんが名残惜しそうというか秒で仕事殺してオフィスに戻ってやるからな……という闘志の炎を燃やしながら去っていく姿を見送りつつ、これまでずっと三好×を応援してきた部署の全員があまりの萌えに耐えきれず一斉にデスクに拳を叩きつけた……。




 「はあ〜〜……こんなクソみたいな現実マジでクソじゃないですか? 無理。マジで会社相手に訴訟したい。せっかく! やっと! 三好×が成立したっていうのに何???? 三好さんは何かに憑かれてたりするんです????????」

 三好×を成立させるべく活動していた(とは言いきれないけども)三好×同盟は、成立後もこうして相も変わらず屋上に集まっている、というか私が集めている。ホントなら三好×カップルの萌えに萌えれる萌えしかない二人のハッピーラブラブオフィスライフについて(私が)語り、そのハッピーとラブと萌えを(全員で)支え、そしてまた萌えるという(私の)超絶ウルトラスーパースペシャルなバラ色オフィスライフをエンジョイするための会合になるはずだったのに現実はコレだもんよマジで会社相手に訴訟か……?
 こんなにもクソな状況だというのに眩しく輝かんばかりのあおいおそらを見上げる私を、今日も今日とてニコチンを肺にブチ込みまくって無駄に寿命を削ることに忙しい神永さんが笑った。

 「まあ、三好もそれなりに評価されてる男だからな。仕方ないだろ」

 ――とは言うものの、煙を吐き出した後に「……しっかし、その三好の留守を預かるのが福本とはなぁ……」と続けるわけだからこの状況がクソなのはマジでガチの現実(真顔)。
 それに対して、「福本さんって“鉄仮面”とか言われてますけど」と自分で切り出したものの……颯爽と現れ、颯爽とちゃんの(尊敬の)瞳を奪った福本さんの整った顔を思い出すと、いやその“鉄仮面”が僅かながらにも微笑んだりなぞするからアッこの人それだけじゃないタイプの人だッ!!!! 絶対そうだッ!!!!!!!!ってなるじゃん……? ……しかもさ……?

 「……実際のところめっちゃデキるスーパーエリートじゃないですか……いや、三好さんがいくら奇跡的にとのお付き合いをスタートできたって言っても…………あの人が高ポイント叩き出してるのって、仕事に真面目ってくらいしかないじゃないですか……福本さんなんてレベル高い人の仕事ぶり見ちゃったら、そのポジションも危ういでしょ……」

 ……もうコレしか言うことないでしょ……? 私はモブ中のモブだからね、部署が違うどころかフロアだって違うということを抜きにしたって福本さんみたいなドがつくめちゃくそエリートなんかと関わる機会なんて(これまでは)一切なかったわけだけど、それでも噂は聞こえてくんのよこんなクソでけえバカ高いビル内のどこかしら歩いてりゃね、会ったことなくても意味分からんほどの超人エリートの話なら聞こうとしなくても聞こえてくんの……だから福本さんがどれだけデキるかなんてそんなモンは「ま、福本も俺たちの同期だしな。それなりではある」………………。

 「ッハア?! あの人もD機関卒?!?! ……ガチのエリートなわけだわ完全に納得!! そして三好さんマジでヤバイの確定ッ!!!!!!!!」

 ハイッ!! 終了ッ!!!! まだ本編始まってないどころか導入であるかすらも謎な現時点で三好×ルート消滅ッ!!!! ハイッ解散ッ!!!!!!!! …………ってなれたらどんなによかったでしょうかね私は永遠に三好×推しなんだよッ!!!! 勢いと根性と忍耐だけでここまできたんだよッ!!!! 成立しましたハイめでたしめでたしで満足できたらそもそも一番めんどくせえ三好ルート推してねえんだよトラブルは神永さんか甘利さんのほうへ行ってどうぞ慣れてるからこの辺りはッ!!!!!!!! あとクソガキ波多野でもいいッ!!!! むしろどうぞどうぞッ!!!! 田崎さ――は……ま、まぁともかく……とか思っていると、その田崎さんと目が合ったのでゾワッとした。こあい……あいかわらずこのひとこあい……。
 田崎さんはキラッキラの太陽を背景に爽やかな笑顔を浮かべながら、煙草に火をつけた。

 「まあ、きみからしたらそう思うのも仕方ないかもしれないけど……心配することはないと思うけどな、俺は。福本はそう馬鹿じゃない。三好の浮かれっぷりはもう有名だし、三好とさんの話なんて知っているさ。ただ、三好がさんの優秀さを認めているのも聞いているだろうから、あいつがさんを気にするとすれば、それだけだよ」

 ……あ、ああ、そうか……神永さん田崎さんと同期、ということは三好さんとも同期なわけだからそら巡り巡って……いやその辺の伝達網はどうだっていいけど、のことを知る機会なんていくらでもあるか……甘利さんもそういう経緯で三好×同盟入りしたわけだし……。
 それに、デキるエリートってことと同じレベルで“鉄仮面”って噂になるんだから(色んな意味で)ものすんごいお堅いタイプなのだとすれば、田崎さんの言う通り、うちのッ! 優秀なッ!! 大変かわいいッ!!!! という名のフェアリーちゃんのお仕事ぶりが気になってるだけだわな。うん。そう、そうなんだけど。普通ならね、それで終わるんだけど。この流れ何遍もやってるんでお分かりかと思うんですけどウチのちゃんのお相手が三好さんという点で問題なんだな〜〜〜〜!!!!!!!!

 「……福本さんのほうはそれでいいですけどね……が福本さんを尊敬することになるの、分かるじゃないですか……。自身が真面目だから、噂なんて確かじゃないもの聞くくらいならなんとも思わないでしょうけど……仕事では目ん玉飛び出るほど成果出してる三好さんの代打に選ばれたってだけで、デキる証拠でしょ……が福本さんすごいって思うのは必然、そして尊敬するだろうことも予想できる…………いや付き合い始めのこのタイミングでそんなことになったら、三好さんがま〜〜ためんどくせえ拗ね方するの目に見えてるでしょ?!?!」

 ッハァ〜〜〜〜!!!! と頭を抱える私に、神永さんが「――って騒いだところで、もう決定事項だろ? 三好もドイツへ向かって、空の上だ。どうしようもないし、そんなことでガキみたいに拗ねてるようじゃ、早々に別れることになるんじゃないか?」とか言うから血の気が引いた。私にはもう三好×カップルの萌えに萌えれる萌えしかない二人のハッピーラブラブオフィスライフしか見えてないの!!!! もうトラブルというトラブルは十分すぎるほどに味わったからもういいのフラグ立てんなッ!!!!

 「おっそろしいこと平然と言うな?!?! ……まあ、のことですからね、心変わりなんてのはしないですよそりゃ――じゃなくて! 私が言ってるのは三好さんのほう!!!! あの人顔だけエリートもいいとこだから、どうせつまんねえ嫉妬とかして困らせるでしょ?! そんなんじゃ私だって困るんですよ!!!!」

 ったくよォ〜〜〜〜!!!! マジで三好さんなんかよく分からん悪いモンに憑かれでもしてんじゃないの?!?! どーーーー考えてもおかしいだろうが三好×という最高のすったもんだアリのわちゃわちゃオフィスラブカップルが爆誕したこのタイミングでその片割れである三好さんが海外出張なんてそんなドラマみたいなことがあってたまる……か……いや……これがその“すったもんだ”じゃんとか“わちゃわちゃ”の予感じゃんとか違うじゃん……ちがうじゃん…………クソッ誰だよいらんフラグ立てたのッ!!!!!!!! …………。
 うなだれる私の肩を、田崎さんが優しく叩いた。
 「なるようにしかならないさ、きみがいくら心配してもね。けど、そんなに心配だって言うなら、それこそきみの出番だろう?」と微笑むご尊顔isマジで神。思わず「それはそうですけど……」とか言ってしまった。いや状況どうもならんのですけど……と思いつつも言ってしまった……。

 「ここでどうこう言ってたところで、答えはそれ一つっきりだろ。きみがいつも通りにフォローしてやればいいだけの話だ。ま、杞憂だと思うけどな、俺は」

 神永さんはそう言って煙草を灰皿に押しつけると、肩をすくめて扉へと歩を進めていった。田崎さんも、その後を追う。

 「……私もそう願ってますけどね……。三好さんがアレなんで心配が尽きないんですよ……ったく、顔だけエリートは手がかかってしょうがねえなホント……」

 はああ……と、もう何百万回目かも忘れた溜め息を吐いて、私も足を引きずった。






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