「、おい、起きろ」 少し掠れた、低い声。耳元であまく溶けていく。うん、うん、おきる、おきるよ。もぞもぞベッドの中で動いて、ぎゅうっと目をつぶる。溜息も舌打ちもきこえないもん。まだねむい!いい加減にしろよ、なんてちょっと怒った声だしたってむだだからね!きこえないもん。わたしまだねるもん!無視を決め込んで、もぞもぞもぞもぞ。すると、ぎしっとベッドが軋む音。うへえ、腰がおもいよぅ……!勢いよく、でもちょこっとだけ、ふとんからそーっと顔を出す。わたしよりずっとずっとおっきなひとが、わたしの腰にのっかって、にやにや笑ってる。いじわるなかおだ。窓からこぼれるお陽さまの光に、きらきら光る銀髪がまぶしい。……もう、めぇさめちゃうよ。 「、起きろ」 「ぅ、んん、おもいよチカちゃぁん」 「……その呼び方やめろっつってんだろ。ほら、」 「んー……、」 「ったく、しょうがねぇな」 低く笑った声がちょっとだけ遠くなると、腰が軽くなった。もう、毎朝こういう起こし方するんだからひどいよなあ、チカちゃん。まだ目がとろとろしてるけど、とりあえず上半身を起こす。と、またぎしっとベッドが軋んだ。え、と思う間もなく、かけぶとんは床へ。……ええと、なんでしょうか、この体勢は!わたしの足の間、割るようにのしかかってくる。慌ててさまよった視線がかちあうと、またにやにやいじわるな顔で笑っていやがる!(あ、きたないことばづかい)かぁっと顔が熱くなって、チカちゃん!と思いっきり怒鳴る。いっきに目が覚めた。もう、どいてよバカぁ!とぐいぐい肩を押しやるけど、チカちゃんはますますにやにやして、ついにはわたしの身体をベッドに押し戻した。なによぅ、起きろってゆったくせに! 「いつまでも起きないお前が悪い」 「っ、チカちゃ、」 「……ん、聞こえねーよ」 「っひ、あ!」 おおきくてつめたい手が、わたしの素肌をそろそろ撫でる。つめたくて、くすぐったくて、なんだかうわずった声がでる。ひぃいいっ、はれんちだこれ!はれんちっていうやつだこれ!チカちゃんの手が、ますます冷たく感じる。あれだ、わたしがゆでダコよろしく真っ赤になってるからにちがいない!ううん、そんなことはどうでもいい!このはれんちおとこをどうにかせねば……!けど、どれだけぐいぐい肩を押してもびくともしないし、むしろチカちゃんはたのしそうな顔をする。ぜ、ぜんぜんきいてない……!どうしよう、こういう時にはどうすればいいんだっけ?ああ、もっと佐助せんぱいのゆうこと聞いとけばよかった!チカちゃんの熱い息が、首筋をしめらせる。わたしの名前を呼ぶ声が、とってもねつっぽい。 「ん、チカちゃん、ど、いてよぅ、」 「もう我慢出来ねぇえぐふえあ!!」 奇妙な叫びを最後に、チカちゃんがふっとんだ。(床に) 「死ね、下郎が」 「ってぇな、てめ、もとなり……っ、」 「死ねと言っただろうが下郎。今すぐ死ね、下郎」 「なっ、なりくん、あんまりゆったらチカちゃんかわいそうだよ……」 ふん、知るか、と不機嫌そうに吐き出して、きちんと制服を着込んだなりくんはわたしを抱き上げてくれた。腰がぬけてたりするので、まったく力が入らない。うぅ、わたしただでさえ重いのに!ぎゅっとなりくんの首に抱きつくと、大丈夫か、と通った声が気にかけてくれた。うん、へーきだよ、と返すと、そのまま寝室を出ようと歩き出す。……あ、あれ、チカちゃん放置なの?ちらっと後ろを振り返ると、ふてくされた顔のチカちゃんと目があった。とっさに冷たい手を思い出して、顔があつくなる。それを見て笑うと立ち上がって、チカちゃんも後ろについて寝室を出た。……うーん、それにしてもなりくん、今日もいいにおいだ。香水つけてないのに、いつもなんだかあまい匂いがする。 ……あ、どうしよ、またねむくなってきちゃったよなりくーん……。 |