「待てと言ってるだろう前田慶次!悪は削除なりぃ!!」


長政せんぱいの怒鳴り声がちかい、ということはそろそろだ。巻き込まれたくないなぁ、という気持ちを込めてなるみくんを見るけど、無理無理と口パクで返ってきた。悪いのは遅刻常習犯の慶次だけど、たすけてくれってあのでっかい身体でわんこみたいに頼まれると、どうも断れない。でも、長政せんぱいにおこられるとこわいしなぁ。そんなこんなで結局どちらの味方にもなれないわたしは、毎回ふたりの間で困ってしまうわけだ。慶次もなぁ、せめて長政せんぱいが取り締まりする時ぐらい、真面目に登校時間守ればいいのに。まぁ、長政せんぱいも慶次追いかけてる間に他の遅刻者取り逃がしてることに気づかなくちゃいけないよなぁ。けっきょくその人たちも下駄箱でこじゅーろーせんせーに捕まってるから、同じだけど!でもぶっちゃけ、こじゅーろーせんせーの罰の方がやさしいんだよね。反省文5枚だもん。それで長政せんぱいの罰は……、うん、考えるのもこわいや。っていうかなんで先生の罰より生徒の罰のが重いんだろうか。……ってことはやっぱり慶次のほうがかわいそうかな、


「待てと言われて待つバカいないよ!っと、!」
「おはよ、今日も元気だね、けーじ」
「おう、はよ!なんだ、今日もねむそうだなっ」
「ん、ねむいよ。……そして今日はどうして遅刻したの」
「いやさぁ、「見つけたぞ前田慶次ィ!!」


おお、お早いご到着だ。じゃなくて。光もびっくりな速さでわたしのうしろに隠れた慶次をそっと振り返ると、、おねがい、たのむ、とへこへこ頭を下げる。むぅ、ゴールデンレトリバーみたいだ。おっきすぎるけど。そしてまた元の位置に戻ると、長政せんぱいが眉間にしわを寄せてどなる。!そこをどけ!……長政せんぱいがわたしを名前で呼ぶ時は、とっても怒ってる時か甘やかしてくれる時だけだ。この場合は、どう考えても怒ってる時、だ。冷や汗がたらり、と頬を伝ったような気がした。苦笑いを口元にうかべて、ゆっくり慶次を振り返る。慶次も冷や汗たらり、な顔をしている。あは、言葉はいらない、通じあってる?ごめん、とわたしがゆう前に、慶次は走り出した。


「くっ、前田慶次貴様ァァア!!」
「風紀委員長っ、お仕事熱心なのもいーけど、もっと楽しくいかないとねぇ!」
「貴様が仕事を増やしてるんだろうが前田慶次!貴様は悪!削除する他ないのだ!!」
「おーい、!謙信によろしく言っといてくれよー!」


HR出ないつもりなのか。はあ、と溜息をつくと、いつの間にか慶次の席に座っていたなるみくんが、アイツらいつまで追いかけっこする気なんだかねぇ、と呟いた。たのしそうに。おもしろがってないで、止めるか慶次の遅刻グセ改善に協力してあげなよ、と言うわたしに、なるみくんはにやりと笑った。げえ、政宗せんぱいのわるい笑い方にそっくり!さすがいとこってゆうだけあるな。と、感心というか、へええ、みたいなことを思っていると、なるみくんは言った。いやだね、だっておもしれーもん。だ、そうだ。やっぱり政宗せんぱいにそっくりだ。もう、悪いとこは真似しちゃだめだよ、なるみくん。はいはい、なんて聞いてるんだか聞いてないんだか、よく分からないあいまいな返事を返してきたなるみくんの視線は、近づいたり離れたり、一定の距離を保ちながら走り回っているふたりにくぎづけだった。はい、聞いてなかったね。なんだか悔しかったので、ぐいっと左耳をおもいっきり引っ張ってやった。


◎ヤバイ!そのよん・でも本人は気にしてない
(おや、けいじはどうしました?という謙信せんせいの言葉に「いつものです」となるみくんが答えると、あなや、と言ってすぐ連絡をはじめた(いつものことだもんね)