「くそっ、あ゛っちぃ、」

蒸し風呂状態の道場、しかも男だらけ。むさ苦しいにも程がある。大体このクソあちぃのに冷房故障ってのがまずありえねえ。早急に修理したいが、日頃の破壊活動が原因で金出ねぇし、テメェで出そうにも生徒会が許可出さねェとかほざきやがった。押し切ってやろうにも、元就の野郎が業者追い出しやがったからどうにもなんねェし。……どうせ道場のエアコン直ったらがこっちに顔出す回数増えるからだろ、Ha!分かってンだよクソが。とりあえず成実を殴っておいた。なんでオレを殴るんだと生意気にも抗議してきやがったので、もう一発殴っておく。うるせえンだよいちいち。こっちは地獄みてェなこの暑さン中竹刀振ってたンだぞ、こうして力尽きるまで!「それはオレも同じだろうが!」うるせえ竹刀で殴んぞ防具外してあるその無防備な腹ァ!!

「ふあー、あっついねー、みんな生きてるー?」

その声が聞こえた瞬間、成実の胸倉を掴んでいた手をぱっと放した。身体全部もっていきそうなこの甘い声を、オレが聞き間違えるはずがねェ。声のした方、道場の玄関の方へと勢いよく振り返ると、やっぱりアイツがいた。、オレが大事だと思える、唯一の女。真夏の太陽というよりは、春の眠たくなるような暖かい陽に似ている、柔らかくて優しい微笑み。は、両手に持ったコンビニだかスーパーだかの袋を持ち上げると、悪戯が成功したガキみてェに無邪気に笑って、言った。

「なりくんと先生達にはナイショだよ?」

さっすがちゃん!あーもう大好き!マジあいしてる!調子づいてほざきやがった成実がに飛びつく前に一蹴(いっしゅう)するが、舌打ちをしてやる前に、日頃の女照りとこの暑さで頭が沸いた野郎共がを囲って大はしゃぎしていた。普段女っ気の全くねェ野郎共からすれば、女というだけでそれは非常に物珍しく、神秘的な存在なんだろう。まぁ、女には苦労しねェのもいるがな。オレを筆頭に成実だとか綱元、真田幸村……は、人気があってもああいうタチだからか、浮ついた話は聞かないが。Ha、しかしみっともねェな、女に飢えた野郎ってのは。騒がしくはしゃいでる野郎共を蹴散らして、からビニール袋を取り上げる。ぴくりと眉を寄せたの額に、そっと手を伸ばす。汗で張りついた髪を払ってやると、ふわりと笑った。ああ、これだ。春の、陽射しのような。ごくりと唾を飲んだのが聞こえた気がして、オレはとりあえず一番近くにいた成実を殴っておいた。「だからなんでオレなのよ!?」やらしい目でのこと舐め回しやがって。ったく、さっきまであちぃあちぃってヘバってたくせによ。ぎろっと凄んでみせると、野郎共がひくりと表情を固めた。つうっと汗が顎を伝って、忘れていた熱がじわりじわりと蘇ってくる。お前大丈夫か、。と口を開きかけたところで、邪魔が。

さん、暑い中わざわざありがとうございます。この暑さ、お身体に障りませんか?」
「ツナせんぱいっ、はい、大丈夫です。あのね、こないだも来たんですよ、でもツナせんぱい、」
「ええ、委員会で。私もお会い出来なくて残念でした」
「ツナせんぱい……!」
「、さん、」

「綱元ッ!テメェから離れろ……!」

嫉妬ですか、いやですねぇ、と綱元が口元を歪めた。鬼庭綱元というのは、の前でだけは紳士のフリをしている腹の黒い根性のねじ曲がった男だ。まぁ、悪いヤツではねェが。ヤツは一応身内だし、ガキの頃から一緒に育ってきた。口は汚ねェが、しっかりした野郎だというのはよく知っている。人の心に敏感なも懐いているし……だからこそタチが悪いわけだが。全く、ヘタにちょっかい出せやしねェ。の腰を引き寄せると、綱元の眉間に深いしわが刻まれた。じたばた暴れるを腕に閉じ込めて、頬にキスを落とす。はオレのものだ。他の男と楽しげに話しているのを見るだけで、心臓が掴まれたように痛くなる。野郎共の冷やかしの声はもちろん、汗臭い!ときゃあきゃあ騒ぐの声は聞こえないふり、だ。……しかしこうはっきりと言われると傷つくモンだぜ、Mykitty!

「ままま、政宗殿ッ!破廉恥であるぞ!殿も嫌がっておられるでないかっ、」
「さっ、真田くん……!」
「Ah?テメェにゃ関係ねェだろうが。真田幸村、お前は引っ込んでろ!」
「引っ込まぬ!殿、さぁ、こちらへ」
「っ、あ、」
「ふふ、こういうドラマ、よくありますね」
「真田がヒーロー、梵がヴィリンだなっ!」
「綱元ッ、成実!テメェらぶっ殺すぞ!!」

含み笑いを浮かべている綱元と、けらけら笑っている成実。どっちも殴って欲しくて仕方ねェようだ。もがくの頬にもう一度キスをして、騒ぐ声(主に真田)に一睨み飛ばすと、さっとの隣に逃げた綱元は放って成実を捕まえるべく床を蹴った。「だからなんでオレだけなんだよー!!」要領が悪いっつーか、なんかお前は殴りたくなる顔してンだよ!黙って殴られろ!後ろ頸(くび)を引っ掴んだ瞬間、汗をひんやり冷やす風と一緒に、甘酸っぱい声が弾けた。

「政宗せんぱい、アイス溶けちゃうよ」


◎ヤバイ!そのさん・蒸し風呂
(成実を殴るのは後にして、今はHoneyの差し入れで火照った身体を冷やすことにする)