「ねえ、けーじはいつになったら剣部入るの?」 はじぃっとオレの顔を覗き込んで、いたずらっぽく笑った。おー、ナイスアングル。へらりと口元を緩めると、成実に頭を殴られた。丸めた教科書で。(いってー!何すんだよバカざね!)(うるせえ!)……うらやましいだけだろお前。てかその教科書オレのじゃないの?頭を擦ってると、ねぇ、けーじ聞いてる?とがオレのネクタイを引っ張る。成実にまた殴られた。丸められたオレの教科書で。だからお前それオレのだっつーのに!しかも容赦なく殴りすぎだから!けどムスっとしたをそのままにしておけないので、成実に仕返しするのはあとでにするとして。 「オレはどの部活にも入らないって決めてんだ。たまーに助っ人として参加するくらいがちょうどいい」 「お前そうやってテキトーに飛び入り参加されるこっちの身にもなれよ。迷惑」 「ひっでー言い方!こないだも剣部の練習試合助っ人に行っただろー?」 「せっかく強いんだもん、入ればいいのに。政宗せんぱいに真田くん、それにけーじがいたらかんぺき」 「あれ、ちゃんオレはー?」 「もちろんなるみくんがいるから、安心してみんな大暴れできるんだよ」 「……それって片付けをする役がオレだからって意味?」 なんでこんな急にこんな話になったのか。大体予想出来る。片倉せんせーか武田のおっさんにお菓子かなんかで頼まれて、オレを落としてこいって言われたんだろう。あの人達、どうにかオレを入部させようとしてるからな……。別に剣道部が嫌なわけじゃないし、部員としてあの道場で竹刀振るのも悪くはない。けど、オレはどの部にも入らないって決めてる。かわいいにお願いされても、だ。どこにも所属しないで、自由気ままにふらふらしてる風来坊スタイルの方がオレには似合ってると思うし。……あ、でも道場でにタオル渡してもらったりとか、いいよなぁ……。 「ま、オレはこんなバカと竹刀振る気ないし、これ以上バカが増えても困るだけだからいいけど」 「バカバカうるせーな!どういう意味だよっ!」 「どういう意味も何もそのまんまだろバカ。お前気まぐれに遊び来ては道場壊してくのやめろ!」 「あー、そういえばこじゅーろーせんせーが、それで脅して入部させようかってゆってた」 「げっ!マジで?!あはは、や、でも政宗とかが本気出してくるからさ、つい、」 「ついで済んだらヤクザいらねェんだよ風来坊!!」 「そんな怒んなよー。どうせ政宗とか幸村が壊すじゃん。あと片倉せんせ」 「うるせえ部外者が言うんじゃねェそれを!!」 オレと成実のやりとりに、はくすくす笑った。胸倉を掴み合っていたオレ達はそのまま、ぴたっと動きを止める。なんだかんだで気の合う親友だ。それを見て、はますます笑う。何笑ってんのちゃん、との頭を本当にかるーく成実が小突いて、オレはの両頬をむにっとつまんでやった。が楽しそうに笑う顔が、何よりもすきだ。オレも……、成実も。みんなみんな、を笑わせたくて、甘やかしてやりたくて、しょうがない。がうれしいと思うことなら、なんだってしてやりたいと思う。 「ふふ、けーじがもし剣部はいったら、毎日こんな感じなのかな?そしたら、たのしい」 「え、なに、もしかしてちゃんオレのこと過労死させたい?」 「まさか!けーじが入部したら、わたしも剣部はいったっていいもの。お手伝いするよ」 「マジで?ちょ、お前剣部入れよ慶次!」 「おま、さっきと180度ちがうぞ態度!下心みえみえだぞ、隠せよ!」 そうだなぁ、が毎日こんな風に笑うなら、剣道部に入部っていうのも悪くないかもしれない。オレが入ったらも入るって言ってるし。……そうだなぁ、うん、悪くないよなぁ……。もし剣道部に入部したら、今まで以上にと一緒の時間が増えるわけだし。……ってあれだけどの部にも所属しねぇ!ってでっかく宣言して風来坊の異名まで持つオレが、そう簡単に方向転換していいのか?180度どころか360度回転する。……って戻ったら同じことだよな。 「そーだねぇ、入部ってのも悪くないかもしんねーな」 「ほんとに?ふふ、そしたらもっとにぎやかになるね、剣部。ね、なるみくん」 「にぎやかっつーか、やかましくなるだけだよ。あ、おまえ籍だけ入れて風来坊でいれば?」 「はぁ?!あっ、お前それで入部させようって腹だろ!」 「当たり前だろお前はいらねーんだよ、おまけだおまけ!」 「あはは、ユーレイ部員ってやつだ」 「そうそう、それでいいよお前」 「うわっ、ひっでー!!」 結局オレは入部せず、風来坊のままでいるってことでは片倉せんせー達に報告したようだ。がそう言ったんだし、オレもそれでいい。……成実は最後まで幽霊部員幽霊部員ってうるさかったけど。ま、正直な話、押しの一手があれば分かんなかった。が入部しろって言ったら、入部しちゃってたかもしれない。でもまぁこれでよかったんだろう。風来坊は風来坊のままで、たまーにちょっかいかけに道場へ押し掛けるくらいがちょうどいい。も、たまーに気まぐれに手伝いがてら遊びにいくくらいが、ちょうどいい。たぶん、そういうことなんだろうと思う。そんなわけで、今回の話はオレ達3人の中で終わるはずだったのだが。まーたどこから聞きつけたんだか知らないけど、政宗がオレのとこまで来て「うちは本来幽霊部員なんざ言語道断だが、アイツは特別に許可する。だから籍だけ入れろ。を入部させる」とかって言って大変だった。おかげで幽霊部員Xとかって変な噂流れちゃってね!どーせ、佐助センパイがクラスの女子から情報仕入れて政宗にタレ込んだに決まってるけどさ。まったく困ったもんだよ、あの人もよく剣道部に顔出すから、目当てなの丸分かりだ。……ま、気持ち分からないわけでもないけど。 |