「おはよーございまぁす、」 まず、おお、今日も眠そうだなあ、と思う。小さな声だったけど、たまたま今日は入口近くで鍛錬していたオレにはしっかり聞こえた。超がつくくらい朝を苦手としてる彼女だが、時々気まぐれに朝錬に顔を出すことがある。まあ、今いった通り朝がとても苦手なので、毎朝幼馴染である毛利サンとちょーそかべサンが起こしてくれてるらしくいつも一緒に登校してくるわけなんだけども、生徒会長の毛利サンに合わせて、どうしても普通より早い登校になってしまう。ねむい。でもその辺は妥協するらしい。なんでも、ちょーそかべサンは結局甘やかして寝かせようとしちゃうので、毛利サンに合わせるのが遅刻しない確実な方法なのだという。ふたりを思い出すと、なるほど納得出来る話だ。毛利サンも彼女には甘いけど、遅刻すれば困るのは彼女自身なわけで。わきまえてるってーの?しっかりしてるなあ、出席日数ギリギリで進級も危うかったちょーそかべサンとは大違いだ、とオレは思うわけだ。さて、それはちょっと置いといて。とにかく、男だらけの汗臭い道場に甘いにおいがするとなれば、飢えた男共はすぐに喰いついてくるようになっている。本能的に。ま、ちゃん相手なら飢えてなくとも喰いつきますけどね!オレがいい例です。自分で言うなって?あは、でもオレってばこれでなかなかのイケメンだからさ、結構モテるんですよ。ま、周りが顔だけはいーヤツばっかだから普段はちょーっとかすんでるだけで。あれ、それってどうよ?まあそれはいいとして。奥で鍛錬に励んでいる梵と小十郎に気づかれないよう、こっそり玄関へ向かった。 「おはよ、ちゃん。今日は生徒会室で寝ないの?」 「きょーは会議があるんだってー」 「ほー、生徒会は大変だなー。あれ、でもちょーそかべサンは?」 「いっかい教室いったから、しらないの」 一度教室まで送ってもらってから、こっちへひとりで来たということらしい。ちょーそかべサンのワル丸出しの顔を思い出した。まァ、ウチも人のこと言えない顔のばっかだけど。梵とか小十郎とか。いやぁ、これバレたらまたオレのせいになるんだろうか。梵の野郎、ちょーそかべサンとやたら張り合うクセしてメンドーになるとなんでもオレに押しつけンだからもう!ったく、やんなるよなぁ、ホント。だっ、けっ、どっ、ちゃんとこうして朝一番、あれ、二番?……三番?なんでもいいけど、とにかくふたりっきりで会話出来てるだけでオールオッケーじゃね?と思ったり。……こういうポジティブシンキングが災いを呼んでることくらい、もうとっくに気づいてるけど知らないフリするから!にこっと笑う。おう、我ながらナイスな甘い笑顔だ。 「あは、だよね。あの人ウチのことあんまよく思ってないっぽいしー」 「、そうなの?」 「……ケンカするほど仲がいい的な?とりあえず上がんなよ、いつもどーり汗臭いけど!」 「ん、おじゃまします、」 きちんと礼をして、礼儀正しく道場に上がるちゃん。うんうん、ねむくてもそういうことはしっかり出来るんだな、えらいぞ!感心感心、とかちょっと親父くせーことを思いながらパイプ椅子を出すため、道場の奥へ行「ぐあぁあああぁあぁぁっ!っ、あ、う、っ、殿ぉおおぉぉぉぉおおぉっ!!」 ……ゑ? 「ぐっはぁぁああアァ!!猪のように突進してきた何かがオレの腹部を直撃ィィイィ!!」 「あっ、そそそ、それがし、ま、毎日お待ち申しておりましたのに……!!」 「そしてオレの嫌がらせの実況にも屈しないというか気づいてないだけか真田幸村テメェゴラァアァ!!」 「あ。さなだくん。おはよー」 「っ!おおおお、おはようでござる!……っい、いや、そうではなく!」 「……いや、あのね、その、そろそろオレに気づいてくれないか、竹刀、まだ刺さってるから、ね、」 「あ。なるみくん、だいじょーぶ?」 「はっ!成実殿っ!も、申し訳ないでござる!!」 そ、そうだった、わ、忘れてたぜもうひとり……、期待の1年、真田幸村……!小学生の頃からの梵のライバル、武田のおやっさんの秘蔵っ子!近頃ちゃんがウチに顔出さないから、残念ながらもちょっと安心してたのを忘れてた。コイツ、あの新入生争奪戦でちゃんに惚れちまったようで、「剣道部にはよく顔を出してるの」っていうちゃんの言葉に再会を心待ちにしていたというのは嫌と言うほど知っていたのに……!サスケせんぱいにオレとちゃんが同クラって教えられてから、毎日毎日「新入生勧誘の時に先輩とご一緒にいた、おおおお、女子は、い、いつ道場へ来るのでしょうか!!」「え?あ、あぁ、うーん、いつだろうな。オレも分かんないわ」「なっ、なにぃ?!せ、先輩!」「ぐえ、なんだよ、胸倉掴むなよ真田!」「し、失礼いたした!しっ、しかし!」「うんうん、気持ちはわかるけどね、マジで誰にも分かんないの」みたいな会話をして……(遠い目)。とりあえず言いたいのは、真田って梵追っかけてウチ入学したんじゃねーの?フツーにお年頃な青春満喫してんじゃねえぇええ。 ……ま、その会話を今まで梵と小十郎に聞かれなかったことだけでもいいよなぶっちゃけ。能力重視だけど、上下関係にうるさい部活でよかった。掃除やその他もろもろの準備は後輩の仕事だから、オレは梵より早く、真田はオレより早く来なくちゃいけない。小十郎は職員会議が終わってから来るしね。今までドンパチせずに生きてこれたんだ。ま、それももう今となっちゃ、ね!……ね!……それにしたって、いつ名前知ったんだかねー。ってどうせサスケ先輩なんだけど。まァ、ひょうひょうとした態度取りながら、あれでちゃんに惚れてる人だし、そう簡単に教えたとも思えないんだけどねぇ。オレと同クラってこともそうだけど。あれ、これはただ単にオレへの嫌がらせ?この無駄に暑苦しいのに絡まれろって?ん?あれ、でもそういや「こないださなだくんに勉強教えた」とかなんとか、ちゃんが言ってたような、 「Hey、来るなら来るとどうして言わなかった?。それから成実、テメェはこの後残れ」 「成実、テメェちょっと前出ろ、前だ!」 「いやいやいや!ちょ、落ち着こうぜ梵、小十郎!」 ね、ちゃんもなんか言ってやってよ!と必死に、涙を目に浮かべて!ちゃんを振り返ったが、 「っ、ひっ、久しゅうございますなっ、殿!」 「うん、そうだね。あは、さなだくんだー」 「そ、それがし、道場で殿とこうしてお会い出来る日を、ず、ずっと心待ちにしておった!」 「ほんとに?……あ、わたし道場によく顔出してるってゆったもんね、おぼえててくれたんだ」 「っ、う、うむっ!」 「ふふ、うれしい」 「っ!あ、う、」 うわあ、なんかイイ雰囲気(青春っぽい)……。 「じゃなくてちょっとォオォ!」 「うるせえぞ成実ェェ!!」 「おい小十郎、Coolになれよ。成実のことは後だ。そうだろ?Princess」 でれでれしちゃってなんだよ梵!けっ!その念が伝わってしまったのか、梵と小十郎に睨まれた。って、え?梵は分かるけど小十郎はなんで?オレ小十郎にはなんもゆってないじゃん……!理不尽にも程があるっつーか、そうやって小十郎が梵のこと甘やかすから……アッ、うそ、なんでもない!(また睨まれた)……どうして伝わってしまうんだろうか……。読心術?いや、そんなことはどうでもいい!というとウソになるけどもまぁいいとして。そしてプリンセスとかサムイのも置いといて。(まぁこれはいつものことだから置いとくも何もすでに放置だが)朝っぱらからなんかピンク、というよりも紫か。とにかくなんかこうムーディーな感じのオーラを漂わせながら、梵がちゃんの顎を指先でくいっと持ち上げた。そうだろ?プリンセス。梵、サムイ。ハレンチなぁぁああぁっ!真田、うるせえ。お前こんなんでいちいち騒いでたらちゃんと一緒にいれねーぞ。もう耐性のあるオレをはじめとした2年や先輩方は知らん顔だが、1年はどうしたらいいのか分からない、という感じだ。……ま、そうだよな。安心しろ、それがフツーの反応だぜ。なんにしろ小十郎お前顧問なんだからさ、とりあえずなんとかしアッ、あっ、うそうそ、ごめんうそです今の取り消し!というかオレさっきからひとり相撲じゃね?え? 「う、政宗せんぱい、」 「Ah?なんだよMyKitty」 「、わ、わたし、今日はさなだくんに会いにきたんですよ、」 「真田ァ?……おい真田幸村、テメェオレのに何してくれたんだァ?」 「っそ、某は何もっ、………あ、」 「政宗様!この男、嘘を吐いておるやもしれませぬぞ!」 「なっ!う、うそなどっ、」 「では何故赤くなったかァアァァァアアァ!!」 小十郎がヤーさん化した(いや、実際そうなんだけどさ)。真田の胸倉を掴んでテメェ分かってんのかゴラァ!アアン?!舐めた態度取りやがって糞ガキが!!みたいな感じに怒鳴っている(“みたい”な感じね。一応ここでは教師だから)。小十郎はいちいちむずかしい言葉を使うので、オレにはよく分からんが多分そんなだろうというかおいおい、相手生徒だぞー?でもそんなこと怖くて言えるわけがないので、見て見ぬふりだ。オレを最低と罵ったヤツ、いいさ、すきなだけののしれよ!しかしお前がオレの立場に立った時はたして、それだけの勇気を持ってヤツと対峙出来るだろうか。オレはそうは思わない。般若も真っ青な形相だからな、ほんと。こんな恐ろしい顔した野郎にモノ言える人間なんか存在しないと自信持って言えるから。いつも小十郎の(恐怖の)小言を聞き流して、フラッフラ好き勝手してる梵でさえ固まっている。……オイ真田幸村ァ、オレァ案外お前のこと嫌いじゃなかったんだぜ……? 「あのね、こないだわたしが英語の宿題てつだってあげたの。 それから佐助せんぱいともね、少しはなしたから」 今にも真田に切りかかりそうだった小十郎が、ぴたりと動きを停止した。よかった、ぶっちゃけ竹刀が真剣に見えてちょっとってかかなりビビってたんだ。真田幸村がまた、カアッと顔を赤くした。コイツの頭ってどうなってんだろう。顔赤くする要素なんもなくね、ここ?だいぶ呆れてきたオレは、小さくため息を吐きだす。うええ。ちゃんはひとり笑顔だ。うーん、やっぱり違うよなぁ、なんつーか、出来が。人間性ってーの?まぁなんでもいいけどさ、むずかしいことは苦手なのだ。 「さなだくんと、仲良くなりたくって会いにきたの」 にこり。……オイ真田幸村ァ、オレァ案外お前のこと大ッ嫌いだぜ……?梵と小十郎のみならず、なぜか道場いる人間全てと心が一つになったような気がした。真田幸村、ちょっとツラを貸せ。そのイケメンフェイスをどうにも直視出来んブサイクフェイスに整形してやるからな!ちょっとアイドル系だからって調子に乗りやがって!オレもちゃんに「仲良くなりたくって会いにきたの」ってゆわれてえんだよ!いや、仲良しだけど!!同クラだし!!……「なるみくんと、仲良くなりたくって会いにきたの」……超イイッ!!ふぅううぅうぅ、息を吐き出して竹刀を強く握る。道場にいる人間全員が。殺気を垂れ流して。もちろんその矛先は真田幸村ただひとり。はっはっは!いくら梵と張り合うと言ってもこの数には勝てまい覚悟真田ぁぁあああぁ!!!!「お邪魔しますよー」っといい所で誰だコラァ?!おまえも巻き添え喰らわすぞホント!! 「大将からの伝言なんだけど、今日は朝練参加出来そうもないから……って、何やってんの?」 |