が入室して、パパを中心にしばらくは四人で和やかに――いや、結城のおじさまはなんか圧すごい感めっちゃ伝わってきたし、佐久間さんは終始あせあせしてる感じだし、もで振られた話に可もなく不可もないすごーく曖昧な相槌を打つことと(パパか結城のおじさま経由の)佐久間さんの質問に(パパか結城のおじさま経由で)答えるというどうにも反応しづらい席であったわけだが――やはり避けては通れない……いわゆる『後はお若いお二人で〜』である。……二人きりなら問題ないとばかりに何かの拍子でブチ切れた三好さんが突入しやしないかと私は初め不安で不安で仕方なかった。 ――が。 「――ふふ、佐久間さんて、おもしろい方ですね。勝手な想像ですけど、もっと厳しい感じかと……」 「は?! ……あ、いえ、すみません……! ……生まれてこの方、そんなことを言われたことがなかったもので……」 「そうなんですか? もったいない……。佐久間さんみたいな素敵な人、そうはいないと思うんですけど」 「な?! ……っあ、ありがとう、ございます……! ……さ――いえ、その、……さん、も、私が思っていた女性とは違って……」 ……三好さんがどうのの前になんか二人になってからのほうがいい感じになってきているんだコレが……。 え? 問題の、突撃しやしないかと心配な三好さん? 注意を払ってはいるけど怖いから視界には入れないようにして全部神永さんに押しつけてる。私? 聞き耳立てることに忙しい。田崎さんは別枠。つまり私たちにはいつもと何ら変わりない時間が流れている。立場的にもやるべき仕事についても。 ただ、この襖の向こうにいるの時間だけが“いつも”とは違うんだ……。立場的にはもちろんヒロインだよ? ちゃんはいつだってそう。至宝。だけど今日は“佐久間さんのお見合い相手”という特殊設定が加わり、その上それらしい仕事もこのようにこなして(しまって)いるんだ……。 もちろん頭抱えたいんだが――だがな? みんな、聞いてくれ……私はこれから結構重要なことを言うぞ……。 「え、どんな風に思われてたんですか? 興味があります」 「わっ、悪い意味ではなく! ……私が思っていたより、ずっと……ず、ずっと、可憐で、まるで花のようだと…………す、すみません! こういうのは柄じゃないと承知しているので……っ!!」 「いっ、いえ! ……ただ……佐久間さんみたいな方に、言われると……なんというか……は、ずかしい……です、ね……」 「……そっ、そうですか……! ……さん、庭へ、出てみませんか? ……もう少し、あなたと話がしたい」 「はい、喜んで」 んんん゛んんんやばいぞダークホース佐久間×もアリだぞこれは……ッ!!!! 「……さん」 二人が部屋を出てから少し空けて、私たちもそそくさと(三好さんのスピードほんとやばかったオリンピック目指せ)部屋を出ると、のことに関しては色々とヤバイ三好さんの何かが仕事して、広い庭なのに一発で発見できた三好さんすげえ。今日はホントにデキるな……。いや、もっとこうヒーローらしい――のお相手っぽい活躍を期待してたんだけど地味すぎっていう。 やっぱこの人は顔がエリートエリートしてるだけのポンコツなのかな?? と私が思っていたところで、遠慮がちな距離を保って歩いていた佐久間さんがぴたっと足を止めたので、私たち(三好×同盟の三人)は顔を見合わせ頷き合った。さすが意思疎通バッチリ。三好さんはほら、もう分かってると思うけど二人に釘付けだから。 というかちゃんかわいすぎだな?? やっぱり私の目に狂いはなかったあのワンピ最強。 ……三好さん三好さん、残念でしたね……。あなたがこのお見合いをもし――もし受けていたら、あんなかわいいを独占できた上にお付き合いそして結婚と相成ったかもしれないというのに(笑)。アッやばいそんなこと思ったらダメダメ私のバカッ!! …………いやでも癖ってなかなか抜けないんだよねザマァ(笑)。とか私が笑いを堪えていると、佐久間さんの呼びかけに控えめに「はい」と応えるがお嬢さんすぎて隠れてる名前なんぞ知らん立派な木をブン殴りたくなった。 ヤバイほんとあのお嬢さん感大好きなの……今日はますますキラキラしてて一眼でその姿を保存しておきたいよ……と思っていたらカシャッと小さな音が聞こえたのでまさかと思って隣を見たら、「っち、やはり邪魔だな……」と呟きながらスマホ構えてる三好さんがいたのでそっと目を逸らした。だけど画像はください。 「こっ、今回のこの……み、見合いについて、あなたはどうお考えですか!!」 思わずビクッとしつつ、すぐさまバッと視線を二人に戻した。 ……核心に容赦なく……と思いつつ、まぁこんなことはさっさと終わらせてしまうほうがいいに決まってるのだ。まぁ? ダークホース佐久間×の妄想もしたりしたけど?? でも目的はこのお見合いを『ハイ終了です〜どうもありがとうございました〜』と無事に! 何も実らせることなく! 穏便に片づけることだったわけなので、佐久間さんのほうから切り出してくれるのはありがたいとしか言いようがないな。しかしやはりこういうタイプは毒にも薬にもならねえ……。 「へっ? え、あ、あっ、あ、そ、そうですね……えーと……」 「わ、私は正直、今回のこのお話については……その……あ、あまり乗り気ではなかったのです……」 まぁそんなことはどうだっていい。もうこの話終わるし。佐久間さん終了でーす、お疲れさまでしたぁ〜。ちゃんとのお見合いとかいう人生最大の至福を味わえたんだから逆にこっちが感謝してほしいくらいだけどな(真顔)。 「あっ、はい、いえ、それはそうですよね、急にこんな――」 「ですが!」 …………あ、あれ……? 「は、はいっ!」 「……今日、こうしてさんとお会いして、あなたと話をして考えを改めました」 「……そ、それはどういう……?」 ホントの言う通りどういう……? ……とか私は言わないからねまずいぞこれはッ?!?! ……佐久間さんが顔を真っ赤にしている……アァ……私そういう超能力みたいなのとか第六感冴えてるゥ〜! みたいなことはない平々凡々などこにでもいる女だけど、コレの先は見える……。思わず頭を抱えた。 「何も急に……い、一緒になってほしいだとか、それを前提にお付き合いをとは言いません。私もまださんのことをよく知りませんし、あなたも同じでしょう。ですからその……そのっ……! さんに、お、お時間があるときには、れ、連絡を取り合いたいと思いますし、よ、予定が合えばまたお会いしたいですッ!! ……ということが、言いたくて……」 まぁそうだよね、うん。ここまでは誰もが分かるでしょうよ。佐久間さんの顔見たら『アッ、これは――』ってなるよ。 私が言いたいのは――私に見えた未来はこの後である。 「……あぁ! “お友達”ってことですね! はい、もちろん。わたしも佐久間さんのこと、もっとよく知りたいですし」 「ほ、本当ですか……?!」 「? はい。それじゃあ連絡先、交換しましょう。空いてる日は前もってご連絡するので、佐久間さんのご都合さえ良ければどこか行きましょうね!」 「はっ、はい! ぜひ!!」 ……ちゃん、それ、ちゃう。佐久間さんの言いたいことやない。 ちゃんと佐久間さんの言う“お友達”は意味がちゃう。 ……やっぱね?! やっぱね?!?! ならそういう解釈するよね!!!! 「ウァアアアッ!!!! 『……まずはお友達から始めましょう……』とか佐久間さん古風かよふざけんなッ!! だからいつの時代の見合いだよとあれほど……ッ!! ッアー! は素直だから額面通り受け取っちゃうし、佐久間さんは硬派な男前。しかも“古風”が付くタイプなのにツッコミ不在とかツラすぎどうすんの?!?! とか言いつつすまん正直萌えたくて萌えたくてたまらん“古風”ד清純”とか最高かよ萌えたいです神永さん!!!!」 やばいついに正気がどこかへ……ウヴッ、私の中の何かがッ……!! つい膝から崩れ落ちそうになった私の両肩を、神永さんがガシッと掴んだ。 「おいきみが錯乱してどうするんだ落ち着けどうして今日ここに集まったのか思い出せ!! そしてきみが佐久間さんとちゃんで興奮してちゃ話にならないだろ!? とりあえずその妄想とか萌えるのとかは後で一人でやってくれ今はそういう場合じゃないッ!!!! ……おい三好、大丈夫だ、よく考えろ。コレはちゃんの親父さんと“あの”魔王が用意した見合いだ。つまりちゃんは二人の顔を立てるためにああ言ってるだけだ社交辞令だ。それに初めからこの話は断るってちゃん自身が言ってただろ? あんなに嫌がってたじゃないか。ほら、何も心配することなんかないんだ。おまえが思ってるようなことにはならない。…………多分」 私がなんとか踏みとどまったので、神永さんが三好さんの肩ぽんぽんし始めたわけだがそんなことはどうだっていい。驚くべきところはここ。 「まいったなぁ。さんて、佐久間さんみたいなタイプには特にモテるだろう。俺にはかわいい女の子だけど、彼女は人を立てるのが上手だからね。佐久間さんからすると、まさに理想なんじゃないかな。性格的にも二人は無理なく一緒に時間を過ごせるだろうし、相性がいいよ。ははは、それにしても佐久間さんの口から、女性に対して『連絡を取り合いたい』とか『また会いたい』とか、そういうセリフが聞けるなんて思わなかったな。お手並み拝見、なんて言ったけど、ふふ、これは俺もうかうかしてられないね」 「ねえ待ってくださいなんで田崎さん余裕?!?! ていうか三好さん慰めるなら慰めるでもっとちゃんとした仕事してくださいよ神永さんッ!! アンタお兄ちゃん枠でしょ?! 舐めてんのかッ!!」 いやもう意味分からん全部が意味分からん私は田崎さんの余裕っぷりに『オイやっぱすげえなデキが違うッ!』って感心したらいいの? それとも『この状況で何のんびり解説?! っていうか?! 発言内容に色々言いたいことがあります!!』ってツッコんだらいいの? 神永さんてホントお兄ちゃん気質すぎて損してるところ絶対あるよね。え? なに?? どうしろって?? 分かんないんですけど???? 「なんだよその“お兄ちゃん枠”って!! 八つ当たりはやめろッ!!」 と言いつつ神永さんもその声が震えているので混乱隠せてない。田崎さんを除いて正気な人間いないぞ……ッ!! しかしヤバイこれじゃあ三好さんがヤバイと私の本能がハッとして、隣の三好さんの状態を勢いよく確認すると――いや、これはまさかの……予想だにしていなかった反応だ……ッ!! 「……佐久間さんのような粗野な男なんて、さんは相手にしませんよ。そもそもあの人は女性に対しての気遣いが欠けているし、“昔気質の一本気な男”とさんのお父様は仰っていましたが――僕から言わせれば、彼は“旧式なステレオタイプの男”です。以前に言いましたが、繊細なさんを傷つけてしまうに決まっています。……彼女のお父様と意見を違えるのは僕の本意ではありませんが、これもさんが幸せになるためならば納得していただけることでしょう。神永の言った通り、お父様と結城校長の顔を立てて一度は会う約束をするでしょうが、二度目はないですね。何も問題はありません。さ、帰りましょう」 「いや待って三好さんがなんで余裕??」 一瞬で冷静になったわどの口がそんなこと言えんの???? 「きみは俺に対してひどい扱いをするもんだと思っているが、俺よりも三好の扱いのほうがひどいな。真顔で言うんじゃないそういうことを。三好なりに納得してるんだから。……今のうちに帰ろう」 コソッと私に耳打ちしてくる神永さんの様子を見て、三好さんは首を傾げると「何をしてるんです? もうこの場に用はないでしょう」とか言ってすたすたと去っていった……。 「アッはいそうですね!」 ――とは言ったものの、こんな天変地異を放置しておけるはずがないではないかゲンドウポーズ……。 そんなわけで「せっかくの“花菱”なんで、私たちもうちょっと残りますねお料理まだありますし〜」とか言ってさっさと三好さんを帰し、だだっ広い座敷に戻ってきたわけだが……。 「……三好さんあんなにギリィしてたのになんで急に……」 いくらオンの方向にバー押し倒してそのままブチ折ったとしても、との間で何か進展があったわけじゃなく状況は何一つ変わっていないのにあの余裕はなんなの……あそこは三好さん突撃してって佐久間さんに嫌味ブチかましつつに意味分からん自論ちょいちょい語ってそれにが強烈な拒否反応起こして猛烈に激怒激怒激怒、三好さんザマァ(笑)。っていうアレでしょ……? と一人考え込んでいると、温かい緑茶を飲みながら、田崎さんがサラッと言った。 「佐久間さんのあたふたしてる様子を見て、落ち着いたんじゃないかな。……元々あの二人には色々あってね。三好は佐久間さんを――なんて言えばいいかな」 …………ん? 「変に濁すなよ田崎。まぁ複雑と言えば複雑だが、きみにたった一言で分かりやすく伝えるなら”仲が良くない”。これだ。ちなみに言動で分かっただろうが、三好のほうは佐久間さんを完全に見下してる。佐久間さんのほうは……まぁ単純に価値観の相違ってやつだな。……おい? どうした?」 ……待ってくれ、待ってくれ……ちょっと整理させてくれ……。 え? え? え?? え???? つまり? こういうことかな?? 「……因縁の二人との間に…………三角関係……? 田崎さんとの少女マンガ的な王道VSですらおいしいのに不仲な二人に挟まれるというドラマチックな展開予想できる深夜ドラマ的なVSもブチ込むの……??」 神永さんはネクタイを緩めながら溜め息を吐いて、「やっぱりきみはそういう発想に繋げるんだな……」と言った。あぁ、さすがに“花菱”だからちゃんと“らしい”服装してきましたよ今更言うことかよって感じだけど。スーツ着てるのなんかいつも見てるのに、色合いのせいかなんかイケメン度が増してる。そういえば神永さんって社内で一、二を争うイケメンっていう設定だったわ……。 田崎さんもいつもとは違うスーツで、爽やか好青年感が凄まじすぎてに見せてあげたいそしてその反応を私は見たい……何そのシーンめっちゃいいな……と(妄想だけど)二人を拝み倒す私に、田崎さんが「あはは、少女マンガの王道か。ふふ、“王道”なら俺に任せてくれる? きみのかわいいさんのこと」とか言うから私はもう――。 「んん゛ん田崎さんのそういう嫌味のないサラッとした爽やかな感じとても最高でぜひともと並んでほしいと思いますけど我々は三好×、この一本でいくと決めたじゃないですか……!」 言いながらも田崎×のめくるめく少女マンガ展開の妄想止まらない……ただでさえ田崎×にはクラッとするのにそういうセリフはダメだぞ田崎さん……だって…………イイッ!! 最ッ高!! と震える拳を握りしめながら悶える私に、神永さんがまた溜め息を吐いた。 「きみはいつもいつも矛盾しまくってるな、結局なんならいいんだよ」 スーツの内ポケットから煙草を取り出すと、神永さんは疲れたとでも言いたげな顔で火を付けた。 なんならいい? は?? 決まってんだろそんなもん今更何を言ってんの神永さんは……。 「最終的には三好×。できればさっさと二人のラブラブ展開希望だけどそれまでのすったもんだアリな月9に張り合うハッピーエンドも最高。田崎さんとの王道VSは至高。でも佐久間さんとのうっかりしてたら泥沼っぽいVSは興奮」 「……結局はちゃんがヒロインならなんでもいいってことだな、もう分かった」 自分から聞いておいて……と思いながら私も田崎さんに倣ってお茶を啜り始めると、交代するように田崎さんが湯呑みを置いた。 「――まぁ、きみの言うどのパターンもありえるのが現状だと思うよ」 「……え?」 「……おい、燃料を投下してやるな」 神永さんの口をバッと容赦なく塞いで、田崎さんに続きを促すように頷いた。 田崎さんはいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべて、「まず三好だけど」と言ってちらりと神永さんに視線を向けた。アッすみません窒息死させるとこだった。 慌てて手を離すと神永さんが盛大に咳き込んだので湯呑みを渡す。うるさい。 「三好が一昨日の夜みたいに、いつも分かりやすくいることができるような――そういうチャンスを掴めば、後はもう押しまくってさんが折れるのは時間の問題だ」 ……まぁ確かに、あの大好きオーラをに分かるように放ちつつ、なおかつ言語化して好き好き大好き〜っ! っていうアレができれば――まぁなくはない。というかそうであってほしいし、実際田崎さんの言う通りが折れるだろう。どれだけ逃げようと三好さんはどこまででも追いかけていくだろうし――三好×推しの私は進んで二人を応援するから……うん、付き合うわ。いやでも三好さんがと付き合えたとして、その先は? あの人、のこととなるとちょっとどころかかなりの数のネジぶっ飛んでるから……という私の頭抱え……な問題を、田崎さんは見事解決。 「三好はいざ付き合うってなれば、これまでの失敗を全部覆すと思うよ。本来はそういう、何事にもスマートな男だからね。普段は物腰柔らかいし、女性は大事にする。それに相手がさんなら、本人が言ってるように大事にするだろうから尚更だ。それからほら、ふふ、あれでも可愛いところがあるだろう? さんのこととなると血相変えて一喜一憂して。さんは今までの三好を知ってる分だけに、そういう面を知れば上手くかみ合う」 ……そうだ………(“普通”にしてたら)三好さんは大好きであることが知られていても、社内での人気は上の上。熱烈なファンだっている……。はなんだかんだ言いつつ三好さんを尊敬してるし、つまりあの人は(あんな多種多様な奇行さえなければ)ただのスーパーエリート貴公子……。散々に祈ってサポートしても叶わなかったけど、どこかでその一発逆転がキマれば本当に(私の考えた)三好×の明るい未来が手に入るわけだ……。 ちゃんをゲロ甘い微笑みで見つめながら、“さん”って堂々と呼んで構い倒して甘やかしまくる三好さんと、それにどうやって反応したらいいのか分からないままに、されるがまま大人しく構い倒され甘やかされてるうちのほうも三好さん好き好き大好き〜っ! ってなって甘えんぼちゃんが……そしてきっと三好さんのことだから付き合った時点でもう結婚秒読みでしょ……? アァア゛アア三好×最高かよ……ッ!!!! じぃいぃん……と感動している私に、田崎さんは相も変わらず爽やかな笑顔で続ける。 「佐久間さんとは、さっきも言ったように相性がいい。佐久間さんがさんをリードしていって――まぁ、あの様子じゃそれまでに時間がかかりそうだけど……それに対して、さんは佐久間さんを陰ながら支えていくっていうのが無理なくできるだろうから、違和感がない」 んんん……そうね……あの感じ分かる……。今はまだ、にこにこしてる可憐なちゃんをどう扱ったらいいのか分からず、とにかく壊れ物に触るようにおっかなびっくりしてる佐久間さんだけど、いざって時には絶対にあの持ち前の古風さが加わった硬派な男前属性の能力フルに発揮するんじゃろ……? それでちゃんのふわふわしたところが気になって気になって、『おまえは俺の後をついてくれば、それでいい』とか三歩先を行くんじゃろ……? ちゃんはそれにはにかみつつ『……はい』ってお返事してどこまでも佐久間さんのために一生懸命ひたすら内助の功じゃろ……? “古風”ד清純”半端ねえなこの時代にこそ求められるカップル爆誕……。 なんかもう泣けてくる貞淑で慎ましいちゃんとかなんて呼べばいいの……? さまとか奥様とかお呼びすればいいの……? 最高……見たい……神社で白無垢決定……。 「――で、俺だけど」 ……田崎さんが……例の……“あの”顔で笑って、“あの”声で、囁くように言った――。 「結局のところ、みんな“王道”って好きだろう?」 …………。 「…………ダメだ田崎さん自己プロデュースの天才だった人に擬態してるだけの神だったごちそうさまです……もう全部完璧に妄想できた最高……。そして“みんな王道が好き”それも納得すみません……」 思わず土下座しながらも両手は田崎さんを拝んでいた必然……。 それを見て神永さんの「おっ、おいきみ……まさか――」という声が降ってきたのですかさず顔を上げた。 「でもやっぱり三好×が私の推しなんです」 「これは安心していいのかどうなのか分からない反応だ……。きみはなんていうか、マジで接するに困るタイプの女の子だな……」 若干呆れ交じりだが、こっちから言わせてもらえば「私も神永さんみたいなタイプとの絡みは別に結構なんで大丈夫です間に合ってます」っていう。 「そういうトコだよッ!!!!」 キャンキャンうるさい神永さんは放っておくとして、また人の良いいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべた田崎さんが、肩を揺らして笑った。 「ははっ、やっぱりそう簡単にはいかないか」と言うとスーツのジャケットをひらりとめくったので、私は頷いた。 田崎さんは内ポケットからするりと煙草を取り出して、神永さんが無言で放ったライターをキャッチすると、そのまま火を付けた。薄い唇から、ふぅ、と吐き出された煙がなんともまぁ――田崎さんの色男感を際立たせている。 この人はの理想の王子様だけど、私の目から見ると“色男”っていうのが似合うんだよなぁ――とかぼんやり考えていると、「まぁでも、それでいいよ」と田崎さんが面白そうに笑った。口端が意味深に持ち上がっている。……んんん……? 「何事も困難なほうがちょうどいいと俺は思うんだ。……三好は明日から、どう出るかな。あぁ、佐久間さんのことは、きみがさんから上手く聞き出してね、いつものように。……俺は俺で、好きにやるよ」 ――楽しみだね、“色々”と。 田崎さんはそう言うと、まるで手品師――いや、もうマジモンの魔法使いみたいに、一瞬で人差し指と中指との間にカードを挟んでいた。“それ”を見て私思わず戦慄この人は――このお方は戯れに人間を演じておられるだけの神だった……。 その“ジョーカー”ってどういう意味なんですかね田崎さん……。 |