つ、ついに来てしまった日曜日……。いや、場所が高級料亭“花菱”であるという情報をゲットできた以上……まぁこうなることは必然だった……。 しかし一昨日の三好さんには仰天だったぜ……あの人は使いモンにならねえとばかり思ってたから目玉ひんむくかと思った……。 もでびっくりしすぎて『……っ、え……?』と言ったきり、何がなんだかという顔でそのまま――そう、そのまま三好さんが送っていった。 三好さんが私の手からのバッグを受け取って(目玉ひんむく寸前だったので素直に渡してしまった)、『さん、帰りますよ』との体をそっと持ち上げて(急にそんなハイレベルなことするからホント目玉以下略)立たせると、の細い指を絡め取ってさっさとお店を出て行くという……。 我に返ったときにはもう何もかも終わっていた。 もっと事細かに……できるならメモ取りたかった……ッ!!!! だってあの三好さんが!! “あの”! 三好さんがそんな少女マンガみたいなことをしたっていうのに……ッ!! 私は何をしていたんだ……。 いや、でもッ!! つまりこれはかなり期待していいってことだ!! これはパパが進める“お見合い”……田崎さんとの“デート”とは比べものにならないッ! ヘタしたらは人妻ッ! 三好さん何もしてないのに終了ッ!!!! このピンチを前に、三好さんのスイッチは確かにオンになった。作戦通り“上手くいく方向に押し倒す”ことができたわけだ。 ……今回こそは期待できるぞみんなッ!! なぜなら三好さんのスイッチが入ってるから!!!! まぁそれはともかく、まずはその肝心のお見合いの様子が分からなければならないわけだが…………大問題。 「……来たはいいですけど……どうやって観察します? 方法ないですよね……」 これ。これに尽きる。 はぁ、と溜め息を吐く私に、三好さんがキリッと答えた。 「心配無用です。見合いの席の隣の座敷を押さえました」 「ヤバイ三好さんがデキる男に……ッ!!」 「やぁ、久しぶりだなぁ」 三好さんはガチでお見合いの席、その隣のお座敷を押さえていたので、私は正直マジかコイツ……と思ったが、うん、三好さんだからオッケー。このくらいのことしないと、この人の場合はどんなシチュすら無駄にするって知ってるから。逆にどうやってココ押さえたのか気になるけど聞かないでおこうというのだけは決意した。めっちゃ気になるけど。 だって料亭“花菱”だよ? しかもお見合いで取ってる席の隣だよ? おまえどんだけ金積んだの?? って話だよこの座敷めっちゃ広いのにいるの私も含めて四人とかつらすぎ(笑)。ここまで案内してくれた人も「この人たちなんの集まり……?」みたいな顔してたから(笑)。 ――と、それはまぁともかく、(普段は)同様に温和なパパののんびりとした挨拶に、「あぁ……そうだな。それで、嬢は?」という渋い声が返事した。の言う“おじさま”だ。発言からしてのことを可愛がっているのがよく分かる。まぁ甘えんぼさんはかわいいからしょうがない。老若男女みんなを虜にする。それが私の秘蔵っ子“”――。 私が心の中で自慢をしていると、さすが第一主義の第一人者である。 パパが「あっはっはっ!」と豪快に笑った。 「お前は相変わらずうちのを可愛がってるなぁ。……可愛いだろう可愛いだろう。いやはや、我が子ながら鼻が高いよ。は化粧室だよ。ふふふ、子煩悩と言われようと、うちのはやはり出来た娘だ」 「ふふ」と私の隣でなぜか三好さんがドヤ顔してるのには何かツッコんだほうがいいのだろうか。 いや、アンタのなんでもないでしょ。ただの会社の上司でしょ。 なんでドヤってんの。 この人ホント、なんでその大好き〜っ! っていうのを本人に素直に伝えられないのか分からない。もっとこうアンタが素直になって、ひん曲がってないストレートな愛情表現さえできればね? もっとこう、やりようはあるのよ?? いくらでもあるのよ???? と思って溜め息でも吐きたくなったところで、「ところで」とパパの冷たい声がシンと空気を凍らせた。 「……お前の教え子というのは、どうしてうちの娘との話を蹴ったんだ? まったく、あれほど出来た娘など今時そうはいないぞ」 ウウッ、それは私も思いました相手どうかしてますよね?!?! と私も第一主義者であるので思わず隣に突撃して話し込みたいところだが、そうはできない。 それはそれでお見合いブチ壊せるけど、の言う“問題”にしかならないのでグッと我慢である。 静かに怒りに燃えている(私には分かる)パパに、おじさまは「……さてな」と短く答えると、続けて「まぁ、今日紹介する佐久間という男も、悪い男ではない。少しばかり頭が固いが……一途で、己を曲げることはしない男だ。嬢のような控え目な娘には、よく似合いとも思えるが」と言った。 ……一途で? 己を曲げない?? …………んん゛……確かに控えめなに似合うと言われるとそういうタイプめっちゃいいやん……? ちゃんが三歩後ろ歩くんじゃろ……? …………最高。 叫び出したいの我慢するために手のひらで口元を覆いながらも自分の妄想に悶えるのに必死。なので隣で歯ぎしりする三好さんをどうにかする余裕などないから神永さんに丸投げする。 どうどう、落ち着け三好……とでも言いたそうな顔で、三好さんの両肩をぽんぽんする神永さん。だからアンタはお兄ちゃん気質なのかよ。なんだかんだほっとけない……みたいな性格してんのかよチャラそうな(実際チャラいけど)見た目しといて『……いいヤツじゃん』とか言われるキャラだろ少女マンガで言うところの!!!! ――となぜか神永さんに八つ当たりしながらチラッと田崎さんを見てみる。 ……え、何この人超余裕の表情……貫禄……トゥンク……さすが神……。 とりあえず自分の妄想力に打ち震えているところで、パパが神妙そうに「……俺はな、結城。お前という男を心底信じている」とか言い出すからハッとして、そうそう、今日は真面目な回なのよ。今日という日を無事に終える。簡単に聞こえるけど難易度ルナティックなこのミッションをクリアするにはふざけてる(気はないけど)場合じゃないのよ。ちゃんで今後も萌えるためには――三好×を楽しむためには、ここをなんとか乗り切らないとお話にならないのよ。つまり私の夢――(私の考えた)三好×の幸せな未来を見守ること……これを叶える……そのために――ッ!!!! パパはやっぱり真面目なトーンで「そのお前がそう評価するほどの男なら、の相手として不足はないはずだ。期待しているぞ」と言った。 この人はが関わることについては何事も全力なのがデフォだけど、今回は人生を左右しうる“お見合い”なわけであるから、もう全力も全力だろう。妥協なんてするはずがない。パパがどういう反応をするか……うーん、難しいところである。 “うちのにはふさわしくないッ!!”パターンなら、まぁお相手には悪いけど(上司がネコっ可愛がりのおじさまであるという点で)オッケー破談ッ!! ってなモンだけど、“いいねいいね君! 気に入ったよ!!”パターンなら……ワンマンパパだ……ウウッ、頭痛が痛い……。 「お話し中、失礼致します。佐久間様がおいでになりました」 ススッと廊下を通る足音、それに続いてなんとも言えないぎこちない足音。 ――おっと? と思うとやはり。お相手のご登場である。 なるほど、この足音の人が“佐久間”さん。 しっかし、おぼつかない足音だな……。この“佐久間さん”て人、大丈夫なの?? 頼りにならなそう……いや、ちゃんは断るわけだし!! パパが『話にならんなッ!!』とかなったら最高だからいいんだけど……いや、おじさまもちゃんに紹介するならさぁ〜〜とか偉そうなことを思うわけである(第一主義者談)。 「うん、女は化粧室にこもると長いからな。佐久間君には先に入ってもらおう。構わん、入ってもらってくれ」 は、パパにもおじさまにも失礼のないように……って思ってるわけだから、そりゃ身だしなみも念入りになるよ……あぁ……あの画像のワンピ今日のちゃん着てるんでしょ? いつもよりももっとかわいくしてるんでしょ?? ……何それ見たすぎ“佐久間さん”そこ代われよ――と思っているのは私だけではないらしく、というより私よりも思っているであろう三好さんの顔面崩壊がヤバイ。 「み、三好、落ち着け、ちゃんはどうせこの話断るんだし――」 「黙っていろ。相手の男の様子が分からない」 「……」 神永さんのフォロー(笑)。 ていうか三好さんは隣のお座敷の様子分かっちゃうの?? 気配読めちゃう?? むしろ透視できちゃう???? 「かしこまりました。……佐久間様、どうぞ」 こういう高級料亭にふさわしい、上品で控えめな声に続いて、「し、失礼します!」という妙に張り切った――いや、もう具合悪すぎて逆にテンション高くなる時のアレみたいな感じだ――声が。 ほほう、これが“佐久間さん”か。 なるほど、声だけ聞くといい男っぽい。男前属性であると私は予想する。 の周りには過去にも現在にもあんまりいないタイプだ。 ――たとえばパパが追い返した高校時代の彼氏は、何事においても“フツメン”だった。現在で分かりやすいところを挙げると、三好さんは貴公子(笑)みたいな感じだし、神永さんはチャラい(真顔)。田崎さんは爽やか系好青年。“男前”というタイプの人はいない。 そもそも男前属性の男といえば、私からすると三好さん同様に使いモンにならねえ。 自身が控えめなもんだから、バリバリ硬派っていう感じの男はを手伝ったり助けてあげたりはするものの、それで「ありがとう」って言ってもらえればそれで満足……みたいなのばっかりだったわけである。自分の気持ちを伝えられなくたっていい……みたいな。彼女の助けになれる、それだけでいい……みたいな。 私から言わせれば、そんなこと言って悦に入ってんじゃねえ!! ちゃんのこと好きなら(砕けるだろうけど)男気見せたれやァッ!!!! だったわけだけど。つまり繰り返すが三好さんと同様に使いモンにならねえ。 まぁそうなるとフツメン、もしくはちゃんと並んでも見劣りしないただのイケメン、もしくは――三好さんのようなクセのあるような人しか残らないわけである。の男運はその時々による変動の振り幅すごすぎて混乱する。 それは置いといて、だ。 「……ほう。写真よりもずっと男前じゃあないか。うむ、芯の強そうな目をしている。……の相手として、不足があるようには見えんな」 マジでか。 バッと三好さんを見ると、立ち上がって今にも隣のお座敷に押し入ってありとあらゆるもの(意味深)ブチ壊して回りそうな目をしていて――それを神永さんが押さえ込んでいる。ははは、ドンマイ(遠い目)。 ぐうう、パパの印象としては“佐久間さん”は合格ってこ「――第一印象としては、だが」とでもないねオッケーそうだと思ってたッ!!!! そうですよね〜! 第一印象なんていくらでも操作できますし、ちょっと真面目そうだからって「っお、お初にお目にかかります! 佐久間と申しますッ!! 結城さんよりこのお話を頂きまして……私で務まるかと不安ではありましたが、ぜ、ぜひともお受けするべきだとのことで、こ、こうして、参じた次第であります!!」……。 「はっはっは! なかなか昔気質の一本気な男だな! 俺は嫌いじゃあないぞ!!」 ……なんてこった(頭抱え)。 三好さん押さえるの頑張って神永さん。田崎さんはオッケーです、そのまま冷静に事を見守って(聞き届けて?)ください……私もいつまで正気を保てるか分からなくなってきたので……。ていうかここまできちゃってもまだまだ余裕の表情でいられる田崎さんホント信じらんない何者。アッ、神だったわ。 パパが「佐久間君、うちのの写真は見たかね?」と、若干ソワソワッとした上擦った声で聞く。……娘自慢したいのよく分かる……。 それに対する“佐久間さん”のお返事がこちら。 「は、はいっ! ……お話をお受けしておいて、し、失礼ながら、あ、あのようなご麗人と、わ、私とでは、どうにも釣り合いが取れるとも思えず……気後れしているところでして……」 …………やばい、私からしても“合格”である……。 ……そうだよ、ちゃん相手にお見合いなんてな……身に余る光栄なんだよ……分かってるじゃんあんた……っていう。しかもそれで? “一途”で? “己を曲げない”んでしたっけ?? ……ただの“いい人”じゃん。ただの“男前”の“いい人”じゃん。 「うちのも君と同じようなものだ。まだ約束の時間まであるだろうと、化粧室にこもりっきりだよ。はは、それにしても君は聞いていた通りの男だな。うんうん、うちのも気に入るだろう。……ぜひよろしく頼むよ、佐久間君」 「は、はい……ッ!!」 「……佐久間。嬢には決して礼を失するなよ。場合によっては、貴様の首が飛ぶと思え」 「……しょ、承知しております……ッ!!」 ……んん゛ンんん……ッ!!!! なんかいい感じに話がまとまりそうな雰囲気になってきちゃってますけど?!?! まだちゃん本人いないのになんでかな?!?! しかし『首が飛ぶと思え』?! おじさまもどんだけこのお見合いに全力なんだよ!!!! 「ああ……結城のおじさまってばネコっ可愛がりだなぁ分かるけど……。首飛ばすのもアリなのかよっていうかどっちの意味なのか……どうとでも捉えられるトーンで言うのやめてほしい怖い……。ていうか“佐久間さん”の顔めっちゃ見たいな……いや、その前にパパが“佐久間さん”気に入っちゃってる件……初っ端からヤバイ……んん゛ンんん……」 私が頭を抱えているところへ、三好さんが神妙な声で「……さんの言う“おじさま”……いえ、結城さんという方は、お仕事は何をされている方か、あなたはご存知ですか?」と言うので、思わずそちら――神永さんに押さえ込まれてる三好さんを見る。 先程までとは打って変わって真面目な顔をしているし、神永さんもなんだか様子がおかしく、二人とも完全に力が抜けている。 はて? と思って田崎さんを見てみると……あ、あれ? いつも余裕の――こんな事態になっても余裕だった田崎さんも、なんだか複雑そうな顔をしているではないか……。え、なに? とりあえず私が知ってる“結城のおじさま”の情報を――と、色々記憶を探りつつ話していく。が、正直詳しいことは何も分からん。のことネコっ可愛がりしてるってこと以外は。 「……んん……あー、ええと、なんだかの講師をしてるとかなんとか……もあんまりよく分かってないみたいだから、一度会ったことあるだけの私なんかもっと分かりませんよ……。ただ、とりあえず教える立場の人だそうです。なんかこう……独特のカリスマオーラ? みたいなの放ってるめっちゃイケてるおじさまで、もすっごく懐いてるんですよね。パパより結城のおじさまを乗り越えるほうが大変そうってほどです」 私の言葉を聞いて、三好さんは憂い気な顔できゅっと眉間に皺を寄せた。 神永さんに押さえつけられてたときの三好さんはなんだったのかというほど、なんかいい男……いや、イケメン……? 違うな、イケメンというと神永さんだ……色男……? いや、これは完全に田崎さん。……なんか分かんないけど三好さん(笑)じゃない、社内の女性がきゃあきゃあ言ってる三好さん(キリッ)になってる……。 私がゴクリ……していると、三好さんはやっぱり(嫌味な意味じゃなく)美しく麗しいお顔――イエスッこれだ!! きゃあきゃあ“美しい”、“麗しい”って言われてるッ!!――で「……なるほど。では、お相手の佐久間さんという方については?」と言うので、いや、いくら通の私でも、本人がこのお見合いのことよく把握してなかったんだから知りようもないでしょ……と呆れ半分、「そんなん、おじさまの倍以上に知りませんよ。『うちの会社と繋がりあるとこに勤めてて、見た目は硬派っぽい感じ』……っていう、前情報でのの感想しか聞いてないですもん」と、真面目にしていた正座を崩した。 すると神永さんが若干震えた声で、「……“結城”のおじさまに“佐久間”さん、か。……聞いたことのある名前だし、聞こえてくる声も覚えがあるな……」と言って、額を押さえた。 続けて田崎さんが「そういえば、俺のところに見合い話持ってきたな、“魔王”」と言うと、いよいよ神永さんが顔色を悪くして、言いづらそうにしつつも「……俺のところにもきたぞ。…………み、三好、一応聞くが、おまえ――」というところで、三好さんが畳に崩れ落ちた。 「…………あの話がさんとのものだと知っていたら……!!」 ダンッと畳を殴りつける三好さんにビクッとしつつ、「えっ? なんですかいきなり! ていうか聞こえちゃいますよ……っ!」と三好さんにしーっしーっ! と人差し指を口元に押しつけるジェスチャーを大げさにして見せると、神永さんが重い溜め息と一緒に言った。 「……この場面ですごい言いにくいんだけど……俺たち、ちゃんの言う“おじさま”の教え子だ」 「……え? そ、それはどういう……?!」 ……話がよく……?! という顔をしてみせると、田崎さんがにこりと笑った。 「まぁ簡単に言うと、通ってた予備校の校長が結城さん。それで、俺たちはそこの生徒だったんだ。“D機関”って聞いたことない? 俺も神永も三好も、そこからの付き合いなんだ。就職先が一緒になったのは驚いたけど。他にも同期がうちの会社にいるよ。あぁ、ほら、甘利とか」 …………。 「超難関大への合格率トップ独走のエリート養成校じゃないですかアンタたちマジもんのエリートかよ知ってるけど!!!! え……? でもなんでそんなエリート集団にお見合いなんか――」 と思ったらそれもそうか……と納得した。ヒント。結城のおじさまはをネコっ可愛がりしている。……そりゃ自分の教え子紹介したくなるわ……。それに“D機関”卒のエリートなら、パパも納得だろうし。 「……あれ? じゃあ佐久間さんも“D機関”の?」 「いや、佐久間さんは機関生じゃないよ。なんて言ったらいいかな……あの人はちょっと特殊でね。そうだな……校長が結城さんなら、佐久間さんは“外部からの雇われ講師”って感じだよ。――にしても、講師は辞めたのか。今は会社員みたいだね、聞いてると」 「なんかよく分かんないですけど、“D機関”で講師してたわけだから佐久間さんもエリートなのは分かりました。……っていうかとのお見合い蹴るとかアンタたち何様のつもりです? ん??」 そう、結城のおじさまの職業とかどうでもいい。なんであれどもあの人がなんかすごいのはもうオーラで分かってたから。まぁ聞いてみて、あの“D機関”の校長だっていうのにはビックリだけど、『あー、分かる分かる』って感じなので。 佐久間さんのことも、なんか不思議な経歴でよく分からんとは思うけども、まぁとりあえず人柄は大体のところ掴めたし――ああいうタイプは嘘つけないからアレで間違いない――もうとりあえずのところはオッケーとする。ってことはつまりは問題があるとすればこの身の程知らずたち(田崎さんは除く)だ。 予想通り早速神永さんが抗議してきた。 「いやいや、俺たちが責められる理由なんかないって! だって魔王――あ、仲間内での結城校長のあだ名なんだけど、あの人、持ってきたのは話だけで写真も何もナシ。それで見合いなんて恐ろしくって、とてもじゃないけど『ハイ』なんて言えるわけないだろ?」 「まぁ女好きの神永さんはどうだっていいですし、田崎さんは田崎さんなので問題ナシ」 そのまんま、神永さんにだけはどうあってもをやる気なんてないのでどうだっていい(真顔)。田崎さんは田崎さんだから問題ナシ。理由? 今更必要か?? 「おいっ! 贔屓もほどほどにしろよ、きみ! 一昨日の飲み、マジに容赦なく飲みやがって……俺の財布すっからかんにしておいてなぁ!」 いちいちうるさい神永さんのことは放っておいて、はぁ、と私は溜め息を吐いた。 三好さんあからさまに落ち込むのやめてもらっていいですか私も結構ダメージ受けてるんで……。 いや、大好きな三好さんがどこの誰とも知れない女――だったわけだけども――との見合いなんぞ受けるわけがないので、断ったのは当たり前だ。それにこれで見合い受けたなんて聞いた日には私はまた三好さんのことを『バカかよッ!!』とディスらなければならなくなっていた。そうじゃなくてもディスれるところなんて腐るほどあるっていうのに……。 とにかく問題は――。 「失敗しましたね……。これで三好さんが受けていれば、最速で三好×への道が切り開かれたというのに……ッ!!!! 断った“愚か者”って三好さんかよ(笑)。って感じですけど、これはまぁ仕方ないですね……」 ――ってことである。 初めにこの話を蹴った男について、なんたらかんたら〜って三好さん一昨日言ってたけどそれアンタじゃん(笑)。アッやっぱディスれるとこいっぱいある(笑)。 不可抗力で起きた出来事であろうとも三好さん(笑)の失態となるとディスりたくてしょうがなくなる(笑)。 神永さんが面倒そうな顔で「……で、どうする?」と言った。 「ちゃんはどうせ断るんだし、相手が女の子の扱いに関してはてんでダメな佐久間さんなら、何も心配することはない。帰るか? ここにいたってできることないし」 まぁ……そうですね……って感じなのだが、「……さんは断る気でいるとしても、彼女のお父さんは佐久間さんを随分と気に入ってる様子だけど」と田崎さんが言うように、このままでは何の解決にもならないわけである。 そもそも当人のがまだ登場していないのにこの有り様ってどうすればいいの(真顔)。三好さんまだ復活しない(分かるけど)。 「失礼します。戻りまし――えっ?」 ちゃんキタァアアァーッ!!!! 三好さんがぴくっと反応して、あぁ……やっぱりこの人って大好きなんだな……と思った。……全部空回りしてるけど(笑)。ホントこの人がエリートエリートした顔だけのポンコツでさえなければ、もうとっくの昔に三好×が楽しめたかもしれないっていうのに……。 今更なことを思っていると、パパの弾んだ「おお、! こちらがお相手の佐久間君だ! どうだ、いい男だろう」という声が聞こえてきて、ホントやべえなと思っていると、佐久間さんが「はっ、はっ、初めまして! さ、佐久間と申します!! ほ、本日はお日柄も良く――」……いつの時代のお見合いだよ。この後クソ真面目に『ご趣味は?』とかやらねえだろうな……。そういうのマジレスしちゃうからなんか形だけじゃないガチめなお見合いになっちゃいそうで私震える……。 まぁでも神永さんの言う通りできることはないし、ここはしょうがないか。とりあえず今回この場は一度(戦略的)撤退をして、後日またに話を聞いてみて作戦を――と考えながら、復活しかけていた三好さんの様子を窺ってみると――。 やべえ(迫真)。 目が、目が“あの”目をしている……。 佐久間さんを亡き者にしようとしている……。 「……最後まで見届け――いや、聞き届け? ましょう……。なぜなら私たちが帰っても三好さんはここに残る気満々、つまり何をしでかすか分からない。問題を起こした場合、パパは激おこ。はムカ着火ファイヤー。そうなったら三好×の夢は今度こそ塵と化します」 ごくっと生唾を飲み込み、私は田崎さんと神永さん、それぞれを見た。 神永さんは引きつった顔をしつつも、やっぱりお兄ちゃん気質かよ。 「……仕方ないか。おい三好、分かったら馬鹿な真似するなよ」と三好さんの肩をぽんぽんした。 とりあえずこのまま様子を窺うとして、三好さんが暴走しないようにというところだけ気をつけて――と思っていたのに、田崎さんが「ふふ、佐久間さんのお手並み拝見、だな」とか言うので戦慄。 マジで今日という日を無事に乗り越えないとお話が終わってしまうぞ……。 ……今こそ“三好×同盟”の力が試される時だッ!!!! みんなッ!! ……応援してくれよな……(遠い目)。 |