神永さんのことだからね、何かしらするというか何もしないわけがないじゃんこの状況で。でも空気は読んでほしいというか、なんであんな場面であんな登場してあんなこと言うんです???? は???? って思うじゃん。でも神永さんだからあえて空気読まなかったんですよねオーケーオーケー分かる〜〜。
 でも一つ言っていい????

 「ちゃん、ここは? 『最高のロケーションで頂く最高の朝食』だって。おお、フレンチトーストって言っても、ボリュームありそうだなぁ」

 「わあ、すごい! でもおいしそう。このお店、横浜が本店らしいですね。そっちのほうが近くないですか?」

 「いや、ここも一、二時間で行けるよ。せっかくだし、こっちにしようよ。白い砂浜と青い海、最高じゃん。近くに水族館とか美術館もあるみたいだし、ぶらぶらしてても結構楽しめそうだよ。あ、ここ面白そうだな、地酒の試飲できるって。なあ、きみ、飲みたいだろ?」

 「飲みますけど私達なんで毎週末三人でお出かけ楽しんでんですかね????」

 「なんでも何も……“楽しいから”以外に理由があるか? そんなことより、きみも何か案を出せ。目ぼしいところは大体行ったんだから、ここからはアイディア勝負だぞ。とりあえず明日は“うまい朝食”だ」

 「そりゃあそうでしょうよ。ド定番はもう済ませたし、ボーリングもカラオケもパターゴルフもお泊まりブックカフェも行きましたからね。そろそろ知恵絞んないとダメですよ。でも私が言いたいことってそういうんじゃなくて」

 「早朝限定の漁師飯ってのもあるなぁ。ちゃん、朝あんま早いのはやだ?」

 「ねえこれすごい! その日に揚がった魚を使った丼だって! ねえねえ、これ食べに行こうよ」

 ………………。
 うちのちゃんが楽しそうだからまぁいっか〜〜〜〜!!!! ってなりがちな至上主義者の辛いとこ、こういうとこな(真顔)。

 「…………んもう〜〜〜〜! 行くに決まってる〜〜〜〜!」


 ――そんな感じで私と、そして神永さんの三人で、毎週金曜にいつものところで飲みながらプランを立てて、土日はそれに従ってド派手に遊び倒すという週末が繰り返されているわけですが。

 「――で、神永さん。……どうなってんですか三好さん別の女と付き合っちゃってますけど!!」

 がトイレに立った瞬間、私は神永さんの肩を引っ掴んでガクガク揺らした。
 そう。意味分からんことに三好さんが他の女と付き合い始めた。じゃない女と付き合い始めた。……繰り返しても意味分からんなんで?!?!
 私たちが週末をエンジョイしてる間に何があったんだか知らんが、気づいたらそうなっていた。多分って言うか絶対、急にを食事に誘って二人で出かけたあの夜、また意味不明な自分ルールで理解不能な答え導き出してそうなったんだろうけどなんでだよッ! とっくの昔から知ってるけどホンット顔だけだなあの人はッ!!!!

 「そうだな」

 「そうだな?! そうだな?!?! 舐めてんのか?!?! なんでだよッ! なんでだよッ!!!!」

 ドコドコッ! とテーブルを何度も殴りつける私を見つめる神永さんの目は、ちょっとびっくりするほど冷静だ。それもなんでだよ。余裕か????

 「予想できたことだろ。自分がちゃんにしてやれることは離れてやるくらいだ、とか思ったんじゃないか? ま、俺には理解できないね」

 神永さんのその言葉を聞いた瞬間、屋上で三好さんとした会話を思い出した。覚悟を決めたってような口振りで言ってたな、あの人。私はお空青〜〜いみたいなこと考えて、この人バカだな〜〜って聞いてたけど。いやだってさ、私は言ったよ? アンタのやり方ってやつは、を傷つけたりしないかって。がホントに望んでるのかって。そしたら自信満々にもちろんとか言ってましたけど結果がこれか???? 舐めてんな????

 「……自分のやり方で、って言ってたんで多分それっていうかそれ以外にないな……ホンットに三好さんポンコツ野郎すぎてなんなの……? 意味分からんマジで……」

 頭を抱える私に、神永さんは興味なさそうな顔で「あいつは自己完結が過ぎるんだよ。自分さえ納得できりゃいいんだ。勝手なやつだよ」と言うと、口寂しいのかビールを呷った。
 その様子を見て、この人もこの人でなんだかんだ優先なんだよなぁ……とどこか苦い思いで溜め息を吐く。
 ……なんというか、この世の中何事もままならないもの……っていうような感じ、ものすんごい精神ダメージ高い……。
まぁでも、ひよってた三好さんがとんでもねえ方向に振り切ってしまったのは確かなので。

 「……勝手っていうか……あの人、のこと天使とか女神的なものに見えてんじゃないですか。いや確かには天使だし女神様だけど。そうなんだけど。……あの子だって、キラキラしたことばっか考えてるわけじゃないでしょ、だって人間だし。そういうの表に出さないだけで、綺麗事ばっかじゃないじゃないですか、いくらが天使だからって」

 今までの三好さんは押しが強すぎたけども――コントロール悪いどころか一人だけ別世界で勝負してる節があったわけなのでその勝負はカウントできないし、かと言ってやっとこさ正しい方向に向かい始めたかと思いきや、普通は通るはずの正統派恋愛道を行ったことがないから勝手が分からなくて迷走中だし、正しい道を行こうとすればするほど破滅へと向かうだけっていう地獄みたいな展開が今現在なわけじゃないですか(真顔)。どうすればそうなるのか逆に教えてくれよって感じだから、私的にはもう何から何まで意味不明でどうなってんだかサッパリである。いや、摩訶不思議三好ワールドは今に始まったものじゃないんだけど。……でもさあ……。

 「そういうところを受け入れてやる人間が必要なんだよ。きみがそう決めたようにな」

 ……神永さんがこういうこと言っちゃうから、私は余計にウワアアって気持ちになるわけよ……分かるでしょ???? 私はもうだけの味方って決めたけど、なんかもう……って思わないことはないじゃん???? 勝負ついちゃってない……? って思っちゃうっていうか……その方がいいんじゃないかな〜〜……なんて……思っちゃうわけで……。
 私は「ウワッ知ったような口利くのやめてもらえます????」と言いつつも、分かりみしかないですありがとうございました〜〜これにて完結〜〜ッ!!!!とか言っちゃいそうで…………ホンット三好さんオメーは何してんだッ?!?! という怒りしか湧いてこない(迫真)。
 ……はあ。……もう見守るしかないのも分かってるんだけどさ……には誰より幸せになってほしいって思ってる大親友の私からすれば、結局はの選択次第になるのは承知している上で、こんなクソみたいな状況であの子大丈夫かな……ってなるじゃん!!!! というか現状が現状だからこそ大丈夫かなって思うじゃん!!!! クソッやっぱ三好さんって使いモンにならねえッ!!!!
 ――と内心荒ぶっていながら、私は割と冷静に言った。

 「まぁ、そうなんですけどね……。にはもっと、自分勝手でいてほしいと思いますよ。真面目ちゃんなところはもちもん大好きだけど、一生懸命になりすぎて幸せ逃しちゃ意味ないですから……」

 ――だがしかし。

 「――って今そういう話じゃなくて。三好さんが他の女と付き合い始めたことについてなんですけどッ!! しかも“あの”秘書課の美人ッ!!!! どうなってんです?! 三好さん迷惑してたんじゃないワケ?!?! 人のことバカにすんのも大概にしろよあンの顔だけエリートッ!!!!」

 っていうねッ!!!! えっよりにもよって?!?! 秘書課の?! 噂の?! 女?!?! 三好さん狙いとハッキリ噂されるほどにあからさまな女を選んだの?!?! が気にしてるの知ってるくせにッ?!?!
 ッはァ〜〜〜〜????

 「ま、手近なところで済ませた結果だな。ちゃんから距離取るにはちょうどいいだろ、他の女の存在は」

 神永さんは“他の女”なんて特別問題なさそうな口振りだけど、ンなわけないでしょッ?!?! いやどんな女だろうが誰にとっても最悪の選択だけど、秘書課の“あの”女は最も選んじゃならねえ物件だろうがッ!!!! 子どもでも分かるわッ!!!!
 ……しかも、これはもう周知の事実ってやつで……つまりはも把握しているわけである……。というかあの女昼休みにちょいちょい三好さん誘いに来るから、どんだけ噂に疎くたって気づかないほうがおかしいんだよ……ッ! どう考えてもに対する牽制ですどうもありがとうございますねわざわざ遠くからッ!!!! 秘書課は階が違いますからねッ!!!!

 「だっからそういうトコが舐め腐ってんですよッ!!!!」

 まぁでも、事の全貌知ってる身からすると……秘書課の美人には同情しかできないのも事実だし、三好さんに対しても“クソ男”という感想しか持てないわけでね……? いや、ピュアなのはピュアなのよあの人……でもその方向性が頭おかしいほどに間違ってるから頭抱えるしかないし、治療法も今のところないわけだから語彙力なくなるほどにイライラするッ! ピュアはピュアでも以外にはまったく興味ないから他はどうなろうとどうでもいいですって極端だからやべえンだよバカかッ?!?! バカでしたわッ!!!!
 …………。

 「……あの人ホンット……のことしか考えてないし、のことしか愛せるはずないのに、なんで他人様巻き込んでまで好き勝手すんですかね……いや分かってる、あの人にとっては以外は路傍の石だから……。いやそれにしたってね?!?! ああああ〜っどうしよう!!!! なんっにも解決してないってのにまた三好さんが勝手するからますます泥沼ですよどうすんですッ?!?!」

 もう混沌深まりすぎて自分の思考もあっち行ったりこっち行ったりどこにあんだか全然分からんから、まっっっったく何もまとまらないッ!!!!
 もう色んな感情で丸ごと爆発でもしそうな私を目の前にしても、やっぱり神永さんは落ち着き払っていた。……この人の怖いとこはこういうとこな(死んだ目)。

 「別にいいだろ、これで」
 「あ゛?! いいわきゃねえだろどうすんです?!」

 神永さんは笑った。いたずらっぽく瞳をきらめかせて、「決まってる。結末はいつだってハッピーエンド。そうだろ?」と。




 「――三好さん」

 ……仕事中の三好さんに私用で(強調)声かけるとかとんだチャレンジャーだよ……と思いつつ、もうこの光景には慣れた。慣れたくなかったけど、こうも毎日毎日毎日毎日ッ! 昼休みのたんびに来られちゃ慣れもする。ここのところは、ますますあからさまだ。
 三好さんがハッとした様子を見せたのは一瞬だった。すぐに優しげな貴公子スマイルを浮かべて、「あぁ、すみません。つい夢中になってしまって」と柔らかな声で言った。ちなみに貴公子とはもちろん嫌味である。

 「昼食はどこで摂りますか?」
 「近くの洋食屋さんを調べてあります。そこはいかがですか?」

 はぁ〜〜〜〜そうですか〜〜〜〜でもそれいちいちここまで来て言うことかな〜〜〜〜? と口元がヒクヒクする。……いかんいかん、私がムキになってどうすんだ……どうすんだ(憤怒)。

 「そうですか、ではそこにしましょう」

 立ち上がった三好さんを横目で見て、私も「、行こ」と声をかけてポーチを引っ掴んだ。
 はにこにこ笑顔を浮かべながら、「うん。今日はどうしようか?」と言ったけれど、視線は頑なだ。私はそれに気づいていない振りをすることしかできない。誠に遺憾。でも、ここは「さっぱり? こってり?」となんでもないふうを装ってあげることしかできないのだ。
 二人連れだってオフィスを出ようとしたところ、さも今気づきました〜〜という顔で――秘書課の美人またの名を三好さんの今カノがにこりと微笑んだ。に狙いを定めて。

 「あら、さんもこれからお昼ですか?」
 「え、あ、あぁ、はい」

 曖昧に答えるに、彼女は言った。

 「よかったらご一緒しませんか? あなた、三好さんが可愛がってる部下だって有名だから、ぜひお話ししてみたいって思ってたんです」

 今度のの返事は、迷いなくはっきりとしたものだった。

 「いえ、遠慮します。縁もないのに、初めてお会いした方と食事をする気はありませんから。それから、いくらなんでも邪推が過ぎますよ。失礼します」

 ここぞという時にはその芯の強さを見せつける……これがうちのが特別たる所以です〜〜〜〜ッ!!!!

 「お先に失礼します〜」


 オフィスからしばらく行った廊下で、ぴたりとが足を止めた。そして重い溜め息を吐いて、両手で顔を覆う。

 「……うああ……職場に私情持ち込んでるのはどっちだよって感じだよね……さいあく……」

 私はどんよりするの背中を撫でつつ、「正当防衛だから大丈夫。ま、あの人も自信ないんじゃないの」と正直な感想を言った――が。……いやあの人ホンット露骨すぎるでしょ?? 毎日毎日毎日なんだって秘書課の人間がわざわざうちに顔出しに来るわけ? 用もねえくせによッ! いや用があってもよっぽどじゃなきゃ内線で済ますわッ!! いやプライベートなんだからラインにしろッ!! っていうか三好さんも仕事の鬼のくせに注意すらしないのが癇に障るッ!!!! なんか言いたげな顔すんならいっそ言えよッ!!!! 今まで無駄口ばっか利いてきたでしょーがッ!!!!
 私がこれだけストレス感じてるんだから、のほうはもっと嫌な気持ちになってるはずだ。あの人が毎日顔を出してることを知っていて、わざわざ“初めてお会いした”なんて言葉を選んだんだから。

 「……わたし、」
 「うん」
 「……、」

 躊躇うに、キッパリと「『やっぱりなんでもない』はナシ」と言うと、一呼吸置いてから、ゆっくりと口を開いた。

 「……三好さんね、わたしに言ったの。『あなたは忘れてください』って」

 …………。

 「……バカかよあの人バカだったわ……」

 僕の中にはあなたがいるけど……あなたは他の男と幸せになってください……ってことでしょ? いや今更?? もう遅いんですけどッ! 遅いんですけどッ?!?! ……押しつけがましいなホント……神永さんの言う通り自己完結が過ぎるでしょ……。

 「、どうするの?」

 はじっと床を睨みつけながらも、なんと表現したらいいのか迷う表情だ。怒ってるような悲しんでるような……それでいて、自分がそういう感情を抱いていることに迷っているような。

 「……わたし、あの時、言い返せなかった。そんなの無理だし……嫌ですって。だって忘れろって言うのに、優しくしたいし、大事にしたいなんて、矛盾してるでしょ。……だけど、あの人、『分からなかった』って言うから」

 「それは、」

 ……その後が思いつかなかった。ポンコツかよ三好さんじゃあるまいし。っていうか、あの人ホント自分勝手だし意味分からんな……繊細(笑)すぎて私には理解できないのかな????
 また三好さんに対してイラッとしながらも、の言葉に耳を傾ける。

 「わたしは、三好さんのこと、分かりたいって思ってるよ。いつだってそうだったし……今も、そう。でも、三好さんも分かろうとしてくれてたの。なのに、自分が傷つくのが怖くて、ずっと逃げてた。だから、これはその報いなんだと思う。……三好さんが『分からなかった』って言ったのは、今までたくさん考えたけど、もうそれはやめるってことだよね。じゃなきゃ、分からないことをそのまま諦めるなんて――過去形になんて、しない人だもん」

 …………ちゃんの中の三好さんって美化されすぎじゃない???? ちゃんがそんなふうに甘やかすからあの人いつまでもポンコツなんじゃないの???? って若干思い始めてきた……だってどう考えても三好さんて意味分からんのに……フィルターかかっちゃってる……が知らない(意識してない)だけで、あの人恋愛についてはクソほど役に立たねえポンコツなんだよ……? 仕事……? 確かにそれだけ(強調)はドン引くレベルで成績残してるけど、人間的にはドン引くレベルで成績悪いからね……?
 ……まぁそうは言っても、三好さんは三好さんで複雑な事情抱えたひねくれマンだということは変わらないし。それに(神永さんのせいで)直接言葉を聞けはしてないけど――そんな三好さんのことを、が大事に思っちゃってるのはもう間違いないのだ。そんでもって、その気持ちを私が否定したりすることはできない。なんでも人に譲ることができてしまうが、ここまでこだわってるんだから……私がどうのこうの言えるほど――いや、仮に言ったところで、どうにかなる問題って段階じゃなくなってるんだよね……。

 「……は、諦めたくないんだね。三好さんを、分かりたいと思うこと」

 「……、分かりたいと思うし、諦めたらいけないなって思うよ。だって、わたしは今まで散々逃げてきたし、それだけ自分を甘やかしてたと思うから。だけど……、どうすればいいのかは、分からない。わたしには忘れろって言うのに、三好さんは何もかも、覚えてるんだもん」

 ……じゃあもう道は一つだなッ!!!!

 「……なら、とことん覚えててやればいいッ!!!!」
 「え、」

 私をきょとんと見つめるの両手を、私は力強く握った。いや、もうこうなったら意地でも三好さんの思う通りになんかしてやる義理はないからッ!!!!

 「別に三好さんの『忘れてください……』とかいう遅すぎる要望聞いてやる必要ないし、三好さんの希望に沿って諦める必要なんか皆無ッ!!!! ……が三好さんに寄り添いたいなら、忘れたくないなら、とことん覚えてていいよ」

 は今にも泣くんじゃないかと思うほど、切なそうに眉を寄せた。しかし、「……いいのかな、それでも」という声には、しっかりとした意志が感じられる。
 私は自信満々に頷いた。

 「いいんだよ三好さんも自分勝手してるから。そもそも、みんな自分勝手に生きてるもんなんだよ。がしたいと思うこと、すればいい」

 「……わたしは、」

 「――お、これから昼?一緒に食べよ、ちゃん」

 …………。

 「……あ、アンタって人はね神永さん〜〜ッ!!!!」

 タイミング〜〜ッ!!!! いやっ、これでが決意を固めて三好さんの胸ぐら引っ掴んででもハッピーエンドで完結ッ! の流れだったでしょ?!?! これまでの実績からして当然アンタが何かしらするのは分かっててもここはもうこれで完結でもよかったでしょッ?!?! なんで出てくんのッ?!?!
 には見えないように顔で悪態つきまくりながら、「はい、そうです。神永さんもですか?」とにこにこしているの表情を確認する。非の打ちどころのない完璧な笑顔だ。……っていうかそれがなんだか切なく感じちゃうあたり、私ってばやっぱり三好さん贔屓なんだろうな…………悔しすぎて血涙出そうあのポンコツ(血涙)。

 「うん。ね、今週末はどこ行く? 俺、行きたいところあるんだけど。なぁ、きみはどこか案あるか?」

 なんにも気づいてないような顔でにこにこ笑う神永さんに、「ありませんよ特にッ!! ただ今は酒飲みたいですねッ!!!!」と噛みつくが、「じゃあ今晩飲み行くか。ちゃんも行くだろ?」とまったく効果がないのが余計に腹立つ……。まぁでも、この三人でバカみたいに遊びまくる時間が、が一人で思い悩む時間を確実に減らしてるんだよなぁと思うともうやめようぜこんなんッ!!!! とも言えないんだよな……カンストってホントすげえよもう……。

 「はい、もちろん。いつものところがいい? それとも、別のお店がいい?」
 「どうする?」

 まぁでも、神永さんが何考えてんだか分かんない以上、私は純粋に楽しむこともできませんしッ?!?!

 「いつものとこじゃないほうがいいですねッ!!!!」
 「じゃあ俺が決めとく。で、二人は昼何食べるの?」

 はやっぱりにこにこしながら、「まだ決めてないんです。神永さんは?」と朗らかに言った。それに神永さんも優しく目を細める。

 「そうだなぁ、ちゃんの食べるとこで食べたいかな」

 しかし、これを聞くとの口元がほんの少しだけ、不自然に歪んだ。そして「神永さんは、自分で選べる人でしょ?」と困ったように眉を下げる。
 神永さんのほうはちっともへこたれず、「そうだよ。だから俺は、ちゃんを選んでる」なんて言って、その目がいかにもマジですって感じで私のほうが心臓痛くなるわこんなん……ッ!
 がぽつりと、「いつかそんな話しましたね」と言って視線を落とした。神永さんは意味ありげに口端を持ち上げた。

 「そうだっけ?」
 「わたしに、神永さんと田崎さん……三好さんの中で、誰を選ぶかって。あの時」

 ……あー……ええと(まだ)三好さんの意味不明な行動を笑っていられた頃にそんな話をしたような覚えが確かにある……? ……あれからもうこんなに月日が経ったというのに、未だに三好×は実現してないどころか地獄への道突き進んでるのつらすぎ笑えねえ……(真顔)。
 一人頭を抱えていると、神永さんが甘い声で「誰を選ぶって言ってたっけ?」と言った。

 「『神永さんは選んでくれない』とは言ったけど、ええと、誰だったかな、」

 神永さんは「そうだった?」と言って、じっとの目を見つめる。もまっすぐ見つめ返して、「そうだった」と…………。

 「ちゃん私お腹減ったなッ!!!!!!!!」

 もう私が耐えきれねえ(迫真)。
 いつも通りに振る舞おうと完璧な笑顔を浮かべてるにも、それを見抜いているだろうに気づいてない振り貫いてる神永さんにも耐えられねえ……ッ!!!! そして三好さんに対する怒りもここでまたぶり返すッ!!!!
 「あ、何がいい?」と明るい笑顔を浮かべるに、「ラーメンッ!!!!」と食い気味に返事する。

 「あはは、がっつりだ。午後、眠くならないかな?」
 「いっそ眠りたいし大丈夫」

 もうそのくらいしか何も考えないようにする手段がない(真顔)。

 「じゃあラーメンにしよう。久しぶりだな、ラーメン。神永さん、どうします?」
 「うん、行くよ」

 …………。
 ……なんか嫌な感じするなぁ……。ホント、神永さん――何考えてんだろ。




 神永さんはスマホをポケットにしまいながら、「じゃあ、今週はここで決まりだな」と明るく笑った。今週の予定はカジュアルなレストランでのディナー……なんだけど、本格的なジャズバンドが聴けるとかシャレオツ度1000パーセント。も瞳をキラキラ輝かせながら、「すごい、どこで見つけてきたんですか?」と……ンンンうちの子エンジェル……。
 「高校の時の友達が趣味でやってるんだ」と言う神永さんに、はますます目を輝かせた。ホントね、神永さんて顔広いよね。これまでのお出かけで神永さんのツテがいくつあったか……。

 「へえ〜! あっ、ねえねえ、金曜日に駅ビル行こう。せっかくだから、ちょっといいお洋服欲しい」

 ルンルンするに「いいよ」と答えながら、やっぱりどこか薄気味悪いんだよなぁ〜〜と私は――。


 「……神永さん、何考えてんです」

 が化粧直しに席を外したタイミングで、そう切り出す。神永さんは私の目をじっと見つめて、それから「きみこそ、何考えてる。ちゃんに何か言っただろ」と探るような調子で言った。

 「別に言ってませんよ余計なことは。諦めんなとは言ったけど」

 神永さんは「そうか」となんでもなさそうに言った後――「頼みがある」と言った。……まぁ予想できなかったことではない。

 「……なんですか」
 「今週末の話はナシだ。ちゃんと二人にさせてほしい」

 …………。

 「……なんで」

 神永さんは私から目を逸らすことなく、「これで最後にする。ちゃんに、選ばれたいんだ。俺はもう選んでる」と言い切った。…………っはァ〜〜! これだから神永さんはッ!

 「……が諦めること、私はさせたくないんですけど。なぜなら初めて自分を押し通そうとしかけてるから」

 「だから最後なんだよ」

 神永さんが迷ったりするような素振りを見せるんだったら、私はきっとここで断ったけれど。

 「……どこ連れてくんですか」
 「遊園地だよ。三好とちゃんの初デートの」

 …………あ゛????

 「……アンタ……ホンット思い切ったことするな?!?! マジで言ってんの?!?!」

 思わず立ち上がった私だったが、神永さんは落ち着き払っていて「あそこじゃなきゃ意味がないんだ。俺にとってな」なんてさも簡単なことみたいに言う。…………こりゃまいった。

 「……日付が変わる前に、必ず連絡してください」

 こう言う以外に、私にできることなんかないわ……。

 「きみが話が分かる女でよかったよ」

 ……さて、の全部を“許す”と言う神永さんに――今のは、どうするんだろう。





画像:十八回目の夏