二日酔いなど軟弱ッ! 要するに私はなってないから途中しんどそうにしてた甘利さんしか問題じゃないッ!! ……まぁ正直すまんかった。 あの後、神永さんからきたラインによると、うちのちゃんは佐久間さんとなんだかあったらしいということだった。…………いやその内容は?! というお話だったが、神永さんが言わない――多分聞き出すことには成功したと思う。そうじゃなきゃ余計な不安を煽ると私には連絡してこないはずだ――ということは、私は聞かないほうがいいのかな〜? と思って遠慮した。が私に話してくれないのはさみしいなと思ったけど、私は至上主義者として、が望まないことはしないッ! 明日に会ってもいつも通りの私でいるッ! と甘利さんに宣言したわけだが、なんとその直後に本人からラインがきた。 の送ってきた内容は、実際に起きたことだけを伝える、という感じだったので、実際あの子がそれをどう感じて、どう思って、何を考えたのかまでは私も想像することしかできないけれど、まぁなかなかすげえとんでもないことが起きていた。前置きがいい加減長すぎるのでサラッと何が起きたか言いますね。 佐久間さんとの動物園デートの最後、二人の出会いだったあのお見合いの話を持ち出されてなんと、結婚を前提にお付き合いをと言われたと…………なるほどそれは神永さんも軽々しく私に話せな――佐久間さん大きく出ましたね?! 急にこのタイミングで?!?! と思ったが、が今はそういうことは考えられないし、佐久間さんとそういう関係になることは考えたこともない……とお断りすると、佐久間さんは『はい、承知しています。これは自分がけじめをつけるための告白です』と言って…………男前属性は毒にも薬にもならねえとか言ってたけど佐久間さんは属性とかなんとかっていうんじゃない、ただの男前だったわしかもクソ古風な日本男児……惜しい男だった……となぜか私がヤケ酒した。いや、今の状況だとホント佐久間さんみたいなタイプは貴重だったでしょ……。のことを傷つけない、真面目、というか武士、絶対女を不幸になどさせない覚悟と甲斐性があの人にはあったよ……。うやむやにすることなく、微妙なバランスで保たれていたのであろうとの関係をハッキリさせたわけだから。 多分、佐久間さんはが頷いたとしても快く迎えてくれただろうし、何も言わなかっただろうけど……あの子がそういう逃げの道は選ばないと分かっていたから――とそこまで考えたところで、前方にうちの天使を発見した。……私はいつも通りにと接する。もそれを望んでるはずだし、佐久間さんのことは彼本人がけじめをつけたわけだから、ここで無用に騒ぎ立てるのは失礼だ。も、佐久間さんのその気持ちは分かってる。だからこそ、佐久間さんとの最初で最後のデートを、あんなに楽しそうに話してくれたに違いないのだから。 ……ってちょっと待って???? 「おはようっていうかちょっと待って? え、どうしたの朝から……」 「え、何が?」 何がって。何がって。どうしたのちゃん……。桜色のかわいい頬は……? バラ色の唇は……? 「いや……顔色悪いから」 私の言葉にはますます顔を青くして、「うそっ! えっ、メイク直してくる!!」と言って化粧室のほうへくるっと方向転換したので、腕を掴んで止める。 「ちょっと待ったちょっと待った、なに? どうしたの?? まさかまた三好さんにいじめられた? 体調悪いの? 波多野がうざい? 三好さんにいじめられた??」 ……まぁ佐久間さん自身がきっぱりとけじめをつけたといえど、フッた当人であるがなんとも思わないということはないし、やっぱりそのことで頭を悩ませてるところもあるだろう。けど、私がそういうことを言っちゃったらそれこそ元も子もないので、ちょっと茶化すようにしか話を促せない。 するとは思いつめた表情を浮かべて――。 「だ、」 「“だ”?」 「…………だ、大学の、サークルの、飲み会、あって……」 ……すごい平和な内容なのになんでそんな死にそうな顔してるの。 「へー! いいね! 大学〜! サークル〜! ……なんて懐かしい響きだ……で? 行くの?」 私との出会いは中学で、その後高校も一緒だったわけだが大学で離れた。まぁそれでもしょっちゅう会ってて、連絡とかほぼほぼ毎日取ってたけど。で、いよいよ就活。なんとインターンであれっ?! 一緒?!?! ってなったと思ったら二人とも内定もらって今に至る……というわけで、私はキャンパスライフこそと一緒ではないが、少なくともが話してくれたことはすべて覚えているし、そもそもしょっちゅう会ってたわ連絡も取りまくってたわで欠けている情報のほうが少ない気がする。まぁこれは余談ではあるけど自慢したいことなのでお伝えしておきますね(笑顔)。 「そ、そうなんだけど……なんだけど……」 「え、行きたくないの? なら断ればよかったのに」 ――まぁ真面目に考えると。佐久間さんのことで頭の中がどんなにぐるぐるしたとしても、基本的に自分に厳しいのことだし、いくら私にでも佐久間さんとのことで自分が感じたことまでを話してくれるかっていうと……ないよね〜〜。分かってる、分かってるんだよそのことは。ぶっちゃけ親友じゃんなんでも話してよさみしい……とか思わないこともないし、できれば力になってあげたいとは思うけど……でもそういう、外野がどうこう口出しする問題じゃない上に、は自分の気持ちだとか考えっていう主観を人に話すことで、下手に慰められたり励まされたりすることに罪悪感を持っちゃうタイプだし、これでいいっちゃいいんだろうけど――なんてことをの表情を観察しながら思っていると、とんでもねえ爆弾が投下された。いや、佐久間さんのことも大ッ分とんでもねえけど正直私的にはそれ超えた。 「いや、行きたかったのその時は! ……でも昨日……OBの先輩たちもくるって聞いて……」 「ほう」 「…………おだぎりせんぱい……」 「…………なるほど……あの小田切さんかそうかなるほど……」 ……まさかの小田切さん〜〜〜〜!!!! 佐久間ショックを超える驚きである小田切さんかよが顔面蒼白になってるの納得〜〜〜〜!!!! 「……どうしよう……しにたい……」 か細い声で暗く呟くの背中をさすりながら、なるべく明るい調子で「ま、まぁほら……もう昔の話だしさ……小田切さんだってもう気にしてないよ、忘れてる忘れてる、大丈夫」と言うと、震えた声で「……きのうおだぎりせんぱいかられんらくきた」と返ってきたのでもう……フォローのしようが……。 「……う、うん……そっか……そうか…………なんだって?」 「……はなしたいって……」 「ん゛んん……そうか……はどうしたいの?」 は顔を覆った。 「むり、むり、い、いまさら、はなすとかむり、しんじゃう、むり、しんじゃう……」 ……あぁ〜……。……まぁ、相手があの小田切さんとなると……しょうがないとしか言いようがない……。 「…………ホンットに小田切さん好きだねえ……。っていうか、なんで別れたんだか覚えてます?」 「う゛」 「そうです、ちゃんが小田切さんをフッたんです。好きすぎて一緒にいると苦しいからってピュアかよなんなの?? ヤることヤッといてなんなのピュアなの????」 小田切さん――の大学時代の先輩で……の恋愛史上、が最も惚れ込んでいた元彼である。小田切さんと付き合っていた頃のはホント恋する乙女モード全開で、天使というか女神様かな?? というほどにキラッキラに輝いていた……。…………まぁ、突然別れてしまったわけだけど。しかもがフッちゃったわけだけど。それにも深い理由があるんだけど……んんん〜! このタイミングで小田切さん〜〜〜〜!!!! が顔を真っ赤にして「ちょっとやめてよ会社だよ朝だよっ?!」と悲鳴のような声を上げるも、三好×推しの私としては今の状況でなんてややこしい……としか言いようがないわけで。 「で? 他にはなんだって?」 「……わ、わたしの気の済むまで好きにさせようって、思ってたけど、」 ………………なんだって???? 「はっ?!」 「お母さんとこないだばったり会ったらしくて……佐久間さんとの、お見合いの話を、聞いたって、」 「ん゛ーッ?!?!」 ナンダッテー?!?! ややこしいどころのお話じゃないぞなんて月9なのそれ〜!!!! 「だから、ちゃんとはなそうって……」 い、いや、ちょっと落ち着こう、月9展開だけどちょっと落ち着こ――無理に決まってるわそんなモン!!!! 「ま、待って、小田切さんとは別れたんだよね?! そう言ってたよね?!?!」 私の言葉にはくしゃりと表情を歪めて、「別れたよっ! でも小田切せんぱいは別れてない、話はされたけど頷いてないって!! 今までずっと連絡してこなかったのに!!」と声を震わせた。っていうかちょっと待ってちょっと待って別れ話ちゃんと成立してないの?! えっ?!?! 「なんでそうなったの?!」 はもうパニック寸前――いや、もうパニック状態で、「だからわたしが別れたいって言ったのは確かだけど、小田切せんぱいは別れたつもりないんだって!! 連絡してこなかったのに!!!! ばかぁ!!」とどこに向ければいいんだか分からない複雑な感情を今にも爆発させそうだ。……いや私も充分パニック状態!!!! だってだってだってさ?! 話聞いてるとさ?! のこの反応見るとさ?!?! 「待って待って待ってまだ小田切さんのこと好きなの?! 連絡待ってたの?!?! ずっと?!?! ピュア?!?!」 はぎゅっと眉間に皺を寄せて、「好きじゃないし待ってないよ!! いつの話だと思ってんの?!」と言った。……言ったが。その後に複雑そうな表情で「……ま、待ってたのは最初の三ヶ月くらいだけだもんっ!!」…………。 「待ってるじゃん!!!! ……ま、まぁいいや、うん、分かった、じゃあやめよ、行くのやめよう。今連絡しなさい幹事に。ほら」 私の言葉には何度も頷きながら、バッグからスマホを取り出して「う、うん、そうだよね、それしかないよね、うん、そうだよ――ひぃあ!!」何?!?! 「?!?!」 が震える手で、私にスマホの画面を見せてくる。私はそこに表示された名前を見ていっそ倒れたいとすら思った。タイミングというタイミングが悪いッ!! 「おっ、おだっ、おだぎりせんぱ、」 そして更にタイミングが悪いのは――。 「おはようございます、さん」 なんでこういう時ばっかりアンタは登場しちゃうんでしょうかねまともな仕事できねえくせに〜〜〜〜!!!! 「みよっ――」 青い顔で呟いたにトドメを刺したのは、運が悪いことに三好さんの登場にビビって指を滑らせてしまい――通話を押してしまったことである……しかもスピーカーもオンにしてしまったようで……あの……(絶望)。 『……もしもし?』 その声を聞いて、の表情は一瞬で変わった。 「……っ」 『……? どうした?』 が何事か言う前に――三好さんがスマホを取り上げた。 「っあ!」 「すみません、今さんは手が離せないようなので。ご用件は? 僕が彼女にお伝えします」 『……おまえ、』 小田切さんの声でハッとしたが、三好さんからスマホをひったくって声を張り上げた。 「っひろくん! ごめんなさいなんでもないのっまたこっちから電話するごめんねっ! …………あ」 …………うん、どう考えてもヤバイね(震え声)。 「……三好さん、ちょっと落ち着きましょうか。大丈夫、大丈夫なんで。全然まったく何も問題じゃないんで。問題じゃない。全然まったく何も。ねっ!!」 ただでさえギスギスしてるっていうのに、ここでまた三好さんが余計なことをしたらどうしようもないし、このままにしておくとその可能性が非常に高い。となると、私にできることはまずこの二人を引き離すことである。 は私の剣幕に「えっ?! あっ、う、うんっ、も、問題ないですっ!! 問題ないです!!!!」と思わずといった調子で頷く。 三好さんはの顔をじっと見つめて、それから――。 「……さ――」 「三好さんちょっとこっち来てもらえます?!?! はさっさとオフィス! デスク! ゴーッ!!」 「はっ、はい!!」 何も言わせてたまるか……ッ!!!! 「……なんです?」 とりあえず端っこに引っ張ってきた三好さんは、とんでもなく不機嫌そうな顔でそう言った。ええ、言いたいことは分かりますけどね?? 「いや! 今にものスマホぶち壊しそうな顔しといて?! 大丈夫です! 大丈夫だから!! 大丈夫だから!!!!」 ものすごいオーバーアクションでカームダウンカームダウン三好さんカームダ〜〜ッン!!!! と一人頑張っていたところ――。 「朝から何を騒いでるんだ? 迷惑だぞ」 「おはよう、いい朝だね」 ……ごめんなさいこんな状況ですけど一つだけ言っていい? 言うね?? 言いたくてたまんないから言うね???? 「うっわあ田崎さんとコーヒーショップのカップ相性最高かよってコンビニのやつじゃんシャレオツなコーヒーショップのものにしか見えなかったなんなの何でもかんでも絵になりすぎ……じゃなくておはようございますじゃなくてヤバイんですッアッいや三好さんやばくない、やばくないから落ち着きましょう!!」 三好さんの表情(鬼)がこれ以上アレになったらアカン……! と私はなるべく大したことない感を演出するために必死だったが、神永さんが「つまりはヤバイんだな。どうしたんだ?」と…………うん、誰がどう見てもヤバイもんね(三好さんの顔)。 「さんに何かあった――というより、さんの周りで何かあったんだね」 薄く微笑む田崎さんてホントこええなと思いながら、とりあえずこの二人には何がどうなってんだかを説明しなければと――。 「イエスッ! ゴッド大正解ッ!! の元カレが!! が大好きすぎて破局したという史上最強の元カレがですね?!?!」 「ちゃん“が”?」 神永さんが眉をぴくりと動かした。三好さんのほうはもう怖くて見れない。ですよね、そうなりますよね。でもね、これマジなんですよ。 「イエスッ! もう大好きすぎて一緒にいるの苦しいとかいうマンガみたいな理由でがフッたんですどうしようッ?!?!」 いや、マジで大変なことになった。三好さんとの関係がギスギスしているところに小田切さん???? いやどう考えてもしんどすぎでしょ???? 小田切さんっていう人は、ホントの彼氏としてはガチ中のガチでだな?!?! 「きみもまずは落ち着け。……へえ、ちゃんがそんなに入れ込んだ男か。見てみたいな。きみは? 会ったことあるんだろ?」 ……すいませんね神永さん……。 「ありません!!!!」 「……は?」 そう、私は小田切さんに会ったことがない。 の彼氏というのは歴代すべて把握しているが、この小田切さんだけは特別なのだ。ガチ中のガチである。 「写メは見たことありますけど実物会ったことないですなぜならあのがヤキモチやくから!! 『会ってほしいけど、でも……』って初めて私に紹介したがらなかったんですよだから実物知らないし声もさっき初めて聞きましためっちゃいい声してた!!!!」 そんな小田切さんの登場にパニック起こすなってほうがどう考えても無理でしょ???? 田崎さんがにこりと笑う。 「すごいね、きみにも会わせなかったなんて。……よっぽどいい男なんだろうね、ふふ」 あのが私にすら紹介するのを渋るんだから、田崎さんの言うことにも頷ける。いや、会ったことないんだけど! ないんだけど絶対いい男でしょ?!?! 「いやもうマジであんなめろめろな初めて見ましたよっていうか私の前では他人行儀に“小田切先輩”って呼んでたくせにホントは“ひろくん”とかそんな……ッアー!! 甘えんぼちゃんカンストさせたってことでしょ小田切さんて何それちょうヤバイ見たいッ!!!!」 それはめちゃくちゃテンション上がるなと思って思わず口走ってしまったが、わたしはやっぱり三好さんのほうは見ることができない。たださっきから革靴がコツコツと床を鳴らす音はめっちゃ聞こえてる(震え声)。 神永さんがつまらなそうな顔で、「ふぅん。あんまりおもしろい話じゃないな。それに関しては俺が一番うまいもんだと思ってたんだが」と言って髪をかきあげた。 「私もです!!!! ……けど、どうしたもんかな……まぁとりあえず、三好さんはに詰め寄ったりとかしちゃダメですよアンタもうやらかしてんだから。いいですか? 小田切さんをフッたのは。でも理由は、大好きすぎて、一緒にいるの、苦しいから。大好き、すぎて、一緒に、いるの、苦しい、から。分かりました? つまりこの場にいる誰もが地雷踏む可能性あります……いつも精確に地雷踏む三好さんは論外ですけど、我々も、ヤバイ」 そう、今はただでさえはナイーブな状態なのだ。そこへまさかの小田切さんである。下手なことしたら何がどうなるか分かったもんじゃない。いやホント、正直小田切さんは今更連絡してくるとかなんの用があるんですか? って感じなんだけど。 「で?」 ……神永さんはなんともなさそうな顔で何を言ってるのかな? 私のお話聞いてました???? 「……で? とは????」 ちっ、という舌打ちがした。苛立ったような足音が遠ざかっていく。う、うん、確認しなくてもどう考えたって三好さんだ……もう怒りの頂点で我慢ならなくなったんだな…………とりあえず私は余計なことすんなと言ったし、三好さんもいくらなんでも現状でに何か言おうもんならヤバイと分かっているだろう。……た、多分……。 そうなると、ホント神永さんのなんてことありません〜〜という態度が「過去の男だろ、どうせ。余計な茶々を入れないなら放っておいて構わない。じゃ、お先に」…………。 「え?」 田崎さんがすぅっと目を細めて、静かに笑い声をこぼした。 「ふふ、思い出は思い出だから……今更、出番はないって話だよ。じゃあ、俺もこれで」 二人の後ろ姿を見送りながら、私はごくりと喉を鳴らした。 「……すげえな何あの余裕……鬼の形相してた三好さんとはレベルが違う……」 「ジャマくせえな突っ立ってんなよクソ女」 このクソ生意気な声は――。 「あ゛ァ?! ……あ。……波多野クン〜? あのね〜? ちょおっと頼みたいことあるんだなこれが〜〜」 もみ手でにこにこと笑顔を浮かべる私に、波多野は思いっきり顔を歪めた。下手に出てやってんのにホンットにクソがつくほど生意気な野郎である。 「ハァ? 俺がおまえの頼み聞いてやる義理なんか――」 「の元カレのことなんだけど」 波多野は小さく舌打ちをした後、苦々しい顔つきで「……聞くだけ聞いてやる」と――。 「さすが波多野クン〜〜やっさし〜〜〜〜い!!」 「うるっせえぞさっさと話せクソアマ!!」 さて、クソガキ波多野にミッションを与えてやったので、しょうがねえから今日のちゃんとのランチはヤツに譲ってやり――二人からは死角になっているテーブルについた私は、聴神経にすべての意識を注いでいる。 「、アイツ、心配してたぞ。例の元カレのことで」 様子見も前置きもなく言い放った波多野(バカかてめえ)に、は「ん?!」と喉を詰まらせた。 「小田切サン」 それを聞いて、の声はあからさまに動揺した。 「っ違うの違うのちがうよっ?! ちがうっ!」 ……おいドサクサに紛れてちゃんのかわいいおてて握ってんじゃねえぞ……とぶるぶる(怒りで)震えつつも、私は必死に感情を押し殺して耳を傾ける。まぁ後でとっちめるけどなあのクソガキ(真顔)。 「俺だって心配なんだ。……今更連絡してくるって、どう考えたっておかしいだろ。別れたつもりないって、いつの話してんだよ」 ……コイツに同意するとかホント死ぬほどしたくないけど…………まぁそうなんだよ。別れてどれだけ経ってると思ってんです? って話だし、小田切さんを吹っ切るまでがどれだけ――と思ったのだが、の様子からしてホントは吹っ切れてないとかそんなまさか……。 「そうだけど! ……そうだけど……なんかあったのかな……」 心配そうに声を震わせるに、波多野が溜め息まじりに「……が心配することか?」と言う。うるせえなちゃんは慈悲深い天使だから万人に優しいんだよ現にオメーにも優しいだろうが……ッ! …………イカンイカン、相手が相手だからついつい熱くなってしまう……。 波多野に任せたのは失敗だったかな……神永さんにやってもらえばよかったか……いやでもあの人も「でも心配なの! ひろくんいつでもなんでも、わたしが心配しないようにって何も言わないんだもんっ! 好きとかじゃないけど心配なのっ!」…………待って待ってちゃん……好きじゃないって言ってもね、そこまで心を砕いてるとなるとね……? いや、でもあそこまでベタ惚れだったんだから、分からなくもないんだけど…………私は三好×推しなんだよ今は。 波多野は冷静な調子で「でも昔の話だ」と言うと、「言ってただろ? 『別れたいって言ったのはわたしだけど、何も連絡してくれない』って」と続けた。 は一瞬息を飲んで、それから言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。 「……だから、今になって連絡してくるって変って言うか…………やっぱり何かあったのかな……」 「何かあったとしても、が心配することじゃない。今までずっと連絡なしに、おまえのことほっといた男だぞ。心配なんかすんな」 私は小田切さんに会ったことがないし、があれだけ惚れ込んでいた相手だからおかしな人ではないと思うけど……まぁ、今更だし、別れた理由も理由だし、なんで連絡してきたんだよ、するならもっと早くしろ違う時の流れに生きてんの? どれだけ時間経ったと思ってます?? とイラッとはす「〜っ波多野くんはひろくんのこと何も知らないでしょ! いいのっ、わたしが心配なのっ!」…………お、おっとこれはマズイ……。 「分かった、、落ち着けって、分かったから。……じゃあどうしたいんだ?」 (私には気色悪いけど)優しくなだめるような声で、波多野が言う。 は震える声で「……分かんない。……どうしよう……」と呟いたきり、黙ってしまった。 すると波多野がアホみたいなことを言い出したので、オイオイオイオイおまえまさかだけど余計なことしようとしてねえだろうなッ?!?! と思わず悲鳴でも上げそうになった。 「、スマホ貸して」 「え?」 「いいから」 「? はい」 ちゃん素直なのはいいんだけどちょっとは人を疑ってお願いだから特に波多野は疑って……?!?! 「――もしもし? あぁ、アンタ、小田切サンで合ってる? ちょっと聞きたいことあんだけど……あ? ……おまえ……へえ? おまえがの言う“小田切先輩”だとは思わなかった。途中で脱落した人間に聞くことじゃないが、あれからどうしてる?」 アチャ〜〜……と思った次の瞬間には、バンッ! という音が聞こえた。 「……ちょっと待って波多野くんスマホ返してっ!! ……〜っやっぱり! なんでひろくんに電話なんてするのっ! ばかぁっ!」 思わず二人のところへ近づいたけれど、はもうこちらに背を向けていて、そのまま振り返ることもなくお店を出ていってしまった。 …………ウルトラスーパーやべえ。これは下手なことをしたと言っていいよね完全に……。 |