「〜! なんか口コミでね〜良さそうなお店見つけたから今日行こうよ〜!!」

 ルンルンご機嫌な私には、ちゃんのそのセリフは衝撃であった。

 「ごめん、今日は波多野くんがうち来るから……また今度でいい?」
 「……波多野?」
 「うん、なんだかんだで、まだ波多野くんにお料理してないから」

 ……波多野……クソガキ波多野……そうか……私の邪魔をするのは、あの、クソガキ、波多野か…………。
 そうなると私の行動というのは自動的に一択に絞られる(真顔)。

 「……ちゃん〜それ私も行っていいかな〜〜? 私も久しぶりにちゃんのお料理食べたいな〜? ほら、いっっっっつも一緒にいるといえどさ〜? ご飯って外で済ませてるじゃん〜? ね〜?」

 ちゃんの両手をとってニコニコ笑顔を浮かべながらお返事を待っていると、背後から「なら俺も行きたいなぁ。ね、だめ? ちゃん」と急に会話に割り込まれたので驚いて振り返ると――。

 「?!?!」
 「あれ、神永さんなんで……」

 目ん玉ひんむいたわなんでいんの神永さんココがどこかお分かり??
 ――という私には気づいていない様子で(よかった、目玉ひんむいてる顔なぞ私のキューティーエンジェルにだけは見られたくない)きょとんと首を傾げるに、神永さんはいたずらっぽく笑って言った。

 「ん? ちゃんに会いたくなってきちゃっただけ」
 「〜っはやく仕事もどってください!!」

 私の手からするりと離れたちゃんが、顔を真っ赤にしながらぐいぐいと神永さんの背中を押して一刻も早くここから追い出そうと…………ンん゛ッ! それに対してまったく動じた様子なく「あはは、うん、分かってる。……ちゃんと仕事するから、ごほうびちょーだい。俺もちゃんの手料理、食べたい」とか子犬モードでお願いする神永さんは真面目にガチのカンストだな?? 甘やかしの天才の神永さんが甘えるというこのギャップ……これにはちゃんもオッケー出すしかなくなるね……まったくここはオフィスだというのに……最高か????

 「……わ、わかっ、分かりましたから! だからはやく仕事もどって〜!!」
 「はいはい、じゃあまた後でね」

 肩を揺らして、我慢してるけどついつい、というように笑いながら、神永さんは去っていった……。
 ――で、一つ言っていい? っていう話になるんですけど、ここウチの部署なのね?? ウチの部署といえば今更わざわざ説明することじゃないけど…………三好さんのテリトリーなのね???? 大好きマン三好さんのテリトリーなのね???? …………勇気ありすぎかよって話ッ!!!!
 チラッと三好さんのデスクへと視線を向けると、バッチリと目が合ってしまった。しかし、や、ヤバイ……と思ったのは一瞬のことだった。三好さんがすぐに目を逸らしたからだ。けど、それは私の視線から、というだけで――何か言いたげなその目は、じっとへと視線を送っている。
 ……いや、言いたいことあんなら言えよッ! 言いに来いよッ!! アンタ今まで言わなくていいことっていうか……言っちゃダメなことなら散々言ってきたでしょッ?! その相手がどう思おうと自分の言いたいことは言うっていうすげえ不必要なスキルッ!! 今このシーンに限っては必要なんですけどッ?!?!
 ……ホンット今更、この後に及んで、何に対してビビってんの?? 過去の所業考えてみればここでひよる理由が分かんないんですけどッ!!!!
 ……神永さんも田崎さんももう頼れない、しかも今アンタも聞いてたでしょうけど波多野も以前と同じくまたにちょっかいかけてきてんの!! ビビってるヒマもひよってるヒマもないのッ!!!! いい加減にしろよこのままじゃ私の夢が――。

 「あ、ねえねえ、お昼なんだけど、献立どうするか決めようって波多野くんから連絡きてたから、一緒に食べようって思ってるんだけど……」

 「うんもちろん私も同席します」

 「よかった! じゃあ今日は社食でもいい?」

 「オッケーオッケー」

 三好さんのことは(とりあえず今だけ)置いといて、まずすぐ目の前の敵の殲滅、これを遂行せねば(迫真)。


 と世間話をしながら廊下を歩いていると……まさかこんなところでお会いするとはビックリである。神永さんもそうだったけどアレは論外として、屋上以外で顔を合わせるなんて。

 「あれ、もしかして社食?」
 「あ、田崎さん。お疲れ様です」

 今日もすごい爽やか……ちゃんの目がキラキラしてる……ただでさえ爽やか好青年なのに、やっぱ会社で見る田崎さんてモロに“デキる”感するもんね……。何もせずとも存在するだけで好感度上がってくとかヤバイな……と思いつつ、「そうです、今日は社食ッス。田崎さんもですか?」とお伺いをたてる……。いや、分かってんだけど。神永さんの前例あるから分かってんだけど……。

 「外で食べようかと思ってたんだけど……うん、俺も社食にしようかな。一緒にいい?」

 「……どうぞ……どうぞぜひ……」

 ほら……ほらね……? と思いつつ、私の隣のちゃんに視線をやると、にこにこしながら「はい、もちろん」となんの疑いもなく頷く。……“爽やか”っていうステータスはすごいな……下心があるのだとしてもそれがまったく感じ取れな「ありがとう。ふふ、それにしても、なんだか新鮮だな。社内で顔を合わせるのって、なかなかないから」…………。

 「ん゛ンッ、そ、そうですね〜!」

 意味深にこちらを見るのやめてもらえます?? という視線を送るも、田崎さんはただただ爽やかな微笑みを浮かべるだけである……。
 はあ、と溜め息を吐く私の隣で、が「見かけることはありますけど、そういえばお話ししたのって初めてかも……」と意外そうに言う。プライベートでのほうが付き合いあるし、そんな反応にもなるってもんだ。
 すると田崎さんは、体を少し屈めての顔を覗き込んだ。

 「なんだ、声かけてくれればいいのに」

 びくっと体を引いたが、かわいいほっぺたをちょっぴり赤らめて「えっ、た、田崎さんいつもお忙しそうですし、」と視線をうろつかせる。…………え? ここで月9やる?? やっちゃう????

 「ふふ、そんなことないよ。今度見かけたら、声かけてくれると嬉しいな」
 「は、はい」

 ……で? その次は?? と視聴者になりきっていたところ、田崎さんの後ろから“ザ・清楚”みたいな感じのかわいい子が走り寄ってきて――。

 「田崎さん! これからお昼ですか?」
 「うん、そうだよ。今日は社食にしようと思って」

 ね? と優しくに微笑む田崎さん……そしてそれに戸惑いつつも素直に「えっ、あ、はい!」とお返事してしまうちゃん…………。

 「……へえ、そうなんですか」

 可愛らしいお顔はどこへいったのかッ?! イエスッ鬼の形相ッ!!!! を見る目がヤバイ。三好さんが田崎さん見る時の目と一緒……(震え声)。
 どう見たってこの子田崎さんに気があるっていうのになんという引っかけ……ッ! うちのちゃん素直だから聞かれたことには“そのまま”答えちゃうってあなたご存知でしょ……ッ!? と震えながらも、そうしていて余計な波風が立ったら非常にマズイので、私は声を張って「はっ、波多野がッ! 波多野クンが待ってると思います田崎さんッ!!」と言った。
 そう、そうなのよ、田崎さんは私たち――というかちゃんとお昼一緒するわけじゃなくて、一緒に食べるとかそういうんじゃなくて、波多野とかいう男と! 男と約束してるわけでその道中私たちはたまたま会っただけで世間話をしていたことについても他意はなくてですね〜〜〜〜???? という雰囲気をこれでもかってほどに垂れ流す私を見て、田崎さんが「……あぁ、そうだね。ふふ」と薄く笑った。それからにこりと人当たりの良さそうな(あえて人当たりの“良い”とは言わないぞ……ッ)笑顔を浮かべた。

 「俺の後輩が彼女たちと親しくてね。たまには一緒にどうだって誘ったら、彼女たちとの先約があるって話だったんだけど……こうやって仲間に入れてもらえることになったんだ。それじゃ、もう行くね」

 田崎さんの言葉を聞くと、彼女はおもしろいくらいに簡単に納得して「あっ、そうなんですね〜! じゃあまたっ」と一瞬でにこやかな表情に変わって、田崎さんに「うん、またね」と送り出されると、頬を染めながら去っていった…………。

 「……ちょっと田崎さんヒヤッとすることやめてくださいよッ!」
 「あはは、そうだった? ごめんね」

 ……こンのお人は……(頭抱え)。分かっててやってるところがタチ悪いなホント……。神永さんとは違って、直接言葉にしないでなんとなくそういう感じ出してこられると、逆に堂々と“何かあるんです”って言われてるようで――「あっ、波多野くんっ!」…………。

 「お疲れ、。――で、おまえらはなんなの?」

 あ゛????

 「……ウフフ今日のお話聞いたよ波多野クン〜。にお料理してもらうんだってね〜? 私と神永さんも行くことになったの〜〜!」

 これ以上はないだろってほどに輝く笑顔を浮かべてみせる――実際クソガキ波多野の邪魔できるとなると自然と浮かぶ――と、波多野は心底嫌そうに「……あ゛?」と眉間に皺を寄せたザマァ(高笑い)。そのまま無言で牽制し合ってる私たちを余所に、がのんびりと「あ、田崎さんもどうですか? 大したもの出せませんけど……」と田崎さんに言う。もちろん田崎さんは――。

 「いいの? それならぜひ」

 ですよね! ウンウン、神永さんに加えて田崎さんまでいるとなれば、波多野のクソガキもヘタなことはできまいホント心の底からザマァ(超高笑い)。
 すると私の視線――ホントザマァホントお疲れ波多野クン〜〜〜〜!――に気づいた波多野がクソ生意気な口を利く。

 「、無理しなくていいんだぞ。またコイツがうざいこと言ってきたんだろ。そういうのは断っていいんだ」

 けどうちの秘蔵っ子は天使だから、返す言葉など決まっている……。

 「無理なんかしてないよ。みんな一緒だったらもっと楽しいし」

 「そうだよね〜! ……波多野クンこそイヤだったら無理しなくっていいよ〜〜? 神永さんと田崎さんがいるだけで充分だから〜〜〜〜」

 ほらね〜〜〜〜???? 波多野クン残念だねえ〜? ちゃんのお部屋で、ちゃんの手料理を、ちゃんと二人で、食べれなくってホントかわいそう〜〜〜〜。
 ――という顔をしていると、波多野は「ッチ」と舌打ちをした後、「……」とそっとに近づくと、かわいいお耳に何事かを耳打ちした。

 「ん? ……うん、分かった」
 「絶対だぞ」
 「うん、ちゃんと用意するよ。波多野くんのためだもん」
 「よし、じゃあ許す。……おい、俺のおこぼれだってこと忘れんなよ」

 何を言ったんだか知らないけど、ちゃんが素直にお返事しちゃったのでなんだか嫌な予感……。だがしかし、その前に波多野なんぞにクソ腹立つドヤ顔されるほうが血管にクる……。

 「え〜? 私もうに作ってほしいもの決まってるから波多野クンのおこぼれとかもらう気ないし逆に私のおこぼれ欲しくなってもあげないからそれ忘れないでね〜〜??」

 「上等だ。今自分が言ったこと忘れんなよクソ女」

 バチバチと波多野と私がやり合ってる隙に――。

 「まだ何を作るかは決まってないんだ。ふふ、余計に楽しみだな」

 「田崎さん、苦手なものとかありますか?」

 「いや、特にないよ。あったとしても、さんの手料理ならおいしく食べられると思うな」

 「えっ、あんまり期待しないでくださいね?!」

 「ふふ、楽しみにしてるよ」

 ――とかなんとか、田崎さんがちゃんといい感じだったというのには後から気づいた……。


 「うーん……A定食にしようかなぁ……あ、でも日替わり定食、今日は西京焼きなんだ……んん……」

 口元に拳を近づけて、うーんうーんと唸るに、波多野が「俺がA定食にするから、は日替わりにすれば?」と言った。……知ってる……この後どうなるか私知ってる……。
 は「んー……うん、じゃあそうしようかな」と波多野に無邪気な笑顔を…………。

 「……ね? ね???? こういうとこですよ田崎さん……このクソガキすーぐのすることなすこと全部に絡んでくんですよ腹立つ……」

 昔っからすぐコレ! が何か選ぶ時に迷ったりすると、すーぐ横から口挟むッ!!
 ギンッと鋭く睨みつけるも、波多野はどこ吹く風ってな様子で「いちいちうるせえなクソ女……こういう時は俺が選んでやったほうがいいんだよ、一人じゃ決まんねえし。それに結局、いつも俺が選んだほうが当たりなんだ。な、」とかほざきながらの肩に気安く触るので血管が何本かイッてしまった……。
 しかしうちの子はおいしいものが大好きで、なおかつ天使だから……「だ、だってうちの社食おいしいんだもん……決めるのむずかしい……。それに午後頑張れるかどうかはお昼で決まるもん! お昼ご飯大事だよっ!」……こうッ! こうなるッ!! かわいいなの? かわいいなの?? ……かわいいだよ百も承知ッ!!!!

 「分かってるって。じゃ、は席取っといて」
 「はぁい」

 ふんッ小賢しい点数稼ぎしやがって……と波多野の背中を見送っていると、田崎さんが「きみももう決まったかな?」と言うので「社食ではカレーうどん一択です」と即レス決めた……。いや、社食といえばカレーうどんじゃん……うちの社食のカレーうどんマジやばいうまい……。

 「分かった。じゃあさんと一緒に行っておいで」
 「……神かよ……。じゃ、お言葉に甘えて!」


 と二人で席を確保し、のんびりとまた世間話をしていると、点数稼ぎの波多野と親切レベル神の田崎さんが、それぞれトレーを二つ持ってやってきた。私とはサッと立ち上がって二人に近づくと、自分の分のトレーを受け取る。

 「波多野くん、ありがとう」
 「おまえのためだからいいんだ、気にすんな」

 ……ホント何度でも言うけど私コイツに関しては何も許さない構えだから(笑顔)。

 「そうだよ〜。これは波多野クンの姑息な点数稼ぎだからね〜〜? もっとこき使っていいくらいだよ〜〜〜〜???? 田崎さんすんません、ありがとうございます! どうぞの向かいに座ってくださいッ!!!! で、これお金――」

 用意していた財布からお金を渡そうとする私の手を、田崎さんはすっと押しとどめた。

 「いいよ、気にしないで。さんの向かいに座らせてくれるお礼と思ってよ」

 …………田崎さんが神たる所以はこういうところですね……(しみじみ)。

 「…………田崎さんには死角というものがないのかな?? 素直に奢られときますね……ありがとうございます……」

 深々と頭を下げる私を、ホンット何から何まで腹立つ波多野のクソガキが「ッハ」とか鼻で笑ったので、ビキッと青筋が浮かぶ……。さりげなくを見てみると、にこにこしながら――うん、早くご飯食べたいね、オッケーちょっと待っててね、すぐ終わるからね……。

 「……なんだよクソガキ調子乗ってんな……(小声)」

 「いや? 別に。社食奢られたくらいでアホかよって思っただけ。はこういう時、絶対奢らせねえし。……安い女(小声)」

 波多野がに視線を移すと、スタンバイしていたらしいが「波多野くん、ありがとう」とそっとお金を渡す。

 「ん、気にすんな」

 ……合わないわぁ〜……ホンットつくづく心の底から思うアンタとはまったく合わないわぁ〜〜〜〜……。

 「……ちまちま小せえ点数稼ぎ、お疲れ。ホンット色んな意味で小さい男(小声)」
 「……ほざいてろクソ女(小声)」

 まぁでもカレーうどんはアツアツのうまいうちに食べないとダメだ(使命感)。ひとまずここはお預けにしといてやるよ……と思いながら箸を手に取ると、今夜のことについて話していたらしく、田崎さんが「へえ、和食が得意なんだ。やっぱり料理上手なんだね。難しいだろう、和食って。……あの占いもあながち間違ってはいなかったみたいだ」とに微笑みかけた。
 ガチのお料理上手さんなくせにちゃんたら「いえっ、得意って言えるほどじゃないです! ただ、田舎にいる父方の祖母が、私によく教えてくれたので……」なんて謙遜しちゃって……大丈夫、今夜みんなの胃袋掴んじゃうに決まってるからッ!! アッ波多野のはいらない。波多野の胃は掴まなくていい。
 うんうん、と一人頷きながら「ふふ、余計に期待したくなる話だ」という田崎さんの言葉を聞く。
 するとが、「った、田崎さん、食べたいものありますかっ?」と言うのでその横顔を盗み見ると……なるほど、かわいい“女の子”の顔をしている……(拝み)……。やっぱり“理想の王子様”はどうしても贔屓してしまいますよね……(納得)。
 しかし田崎さんはこういう場面でも――いや、こういう場面だからこそ“理想の王子様”でいらっしゃる……ここぞとばかりにあからさまなお願いをしたりしない……ベストアンサー、こちらです……。

 「俺はさんの手料理が食べられるだけで充分だよ。……あ、でも……そうだな、手が込んだものじゃなくていいから、ちょっとしたおつまみがあったら嬉しいかな」

 が作りやすいものであるようにコレという指定はしない……しかも“おつまみ”……これはとても幅が広いジャンルなので、手の込んだものからいわゆる手抜きものまである……つまり、本当にちゃんの負担を考えてのチョイス……さすが、ちゃんの“理想の王子様”……(拝み)。
 が弾んだ声で「分かりました! 考えておきますね」と応える。……平和だな……と思いながらうどんをすする。やっぱうまい……。

 「ふふ、ありがとう。ねえ、まだメニューが決まってないってことは、買い物もまだだよね? 俺も手伝うから、声かけてね」

 「っあ、ありがとうございます、でも……」

 んっ……? その歯切れの悪い感じは――と思わずざわざわすると、田崎さんがさらりと「……神永に先を越されたか。……うん、じゃあ申し訳ないけど、俺は遠慮したほうがいいかな。あんまりぞろぞろ行っても邪魔だろうから」と言って…………そうね……神永さんってこういうとこホント仕事速いからね……ちゃんにさっさとラインでも飛ばしてたのかな……?
 が「う、すみません、気を使わせてしまって、」と言葉を詰まらせるのに対して、田崎さんは爽やかに「ううん、気にしないで」と応えたけれどなんとなく私はコワイな〜田崎さんコワイナ〜〜〜〜と思ったので、大げさなくらいにはしゃいでみせた。

 「ねっ、ねえねえ〜! 私肉じゃが食べたい〜〜! あと――」
 「、コイツのことは気にしないでいい。どうせオマケなんだから」
 「あ゛?」




 「――はい、以上です!」

 彩り鮮やかなサラダ、ネギの肉巻き、厚揚げのチーズ焼き、ナスの味噌田楽…………そして私リクエストの肉じゃがッ!!!! と、手巻き寿司……最高か????

 「やだ相変わらずめっちゃおいしそう……ッ!!!!」

 「いちいちうるせえな。おいしそうもクソもあるか。うまいに決まってんだろ」

 「いちいちうるせえな揚げ足取んじゃねえよ。うまいに決まってんのは知ってるわボケナス」

 ホンット波多野はなんなのホンットなんなの???? 我が物顔での隣に座るのもなんなの???? と逆側を固めながら思っていると、神永さんがにこにこしながら「ね、写メってい? ちゃん。すぐ食べちゃうのもったいないから」とスマホを見せる。
 「えっ、あ、はい、どうぞ」とは思わずといったふうに返事をした。手料理写メって保存とか神永さんは相変わらず彼氏力パねえな????
 機嫌良さそうにお料理を写メっている神永さんを横目に、田崎さんが申し訳なさそうに「結局ろくに手伝えなくてごめんね」と眉を下げた。大丈夫、田崎さんが買い物付き添えなかったのは神永さんの先手と……荷物持ちくらいしか能がねえくせについてきたクソガキ波多野のせいだから仕方ない。その代わり美味しいお酒をお土産に持ってきてくれたので何も問題ないと思います。神永さんもどこだか有名店らしい洋菓子屋さんのゼリー持ってきたけど(昼休みに買ってきたって言ってたけどホントかよ仕事しろ)問題は手ぶらの波多野だけだマジ調子乗ってんな???? とか私が思っていると、が慌てて首を振る。

 「いえ、充分手伝ってもらえましたから、全然。簡単なものばかりですし、」

 「俺はの料理ならなんでも好きだ。簡単なものでも、おまえは丁寧に作ってくれるだろ?」

 ホントうるせえな波多野点数稼ぎしてんじゃねえぞ……と睨みつけると目が合ったので、やるか? 殺るか?? あ゛???? とバチバチしていると、田崎さんが「さん、酒、開けていいかな?」と言ったので、ああそうだせっかくののお料理!!!! とそちらに意識が向かう。……おいしそう……いやおいしいんだけど……ホント料理上手いんだよね……私? ……家庭科の成績知りたい????

 「あっ、そっか、お酒! すみません、わざわざ……。気を使わせちゃったみたいで……」

 立ち上がってキッチンに向かうに、田崎さんが優しく「気にしないで。おいしい料理にはうまい酒って決まってるだろう? だから用意しただけだよ」と声をかける。
 「ありがとうございます、いただきますね」とお酒を持って戻ってきたが座ったのを合図にして――よーし食うぞッ!!!!

 「じゃっ、パーッといきましょう! ではではっ! のおいしい手料理にかんぱーい!!!!」

 グラス同士がぶつかる小気味よい乾杯のすぐ後、波多野がすぐさま「、手巻き寿司、俺がやってやる。何入れる?」とか言ってにちょっかいをかけ始めたので、ったく何度言わせんだって話なんですけどなんでそうアンタは余計なことばっかすんの????

 「……ちょっと目を離すとテメーは……。あのね波多野クン〜? 手巻き寿司っていうのは自分で具材選んで自分で巻くから楽しいの〜〜余計なことしないでくれる〜〜〜〜????」

 歯をギリギリさせながら呪詛のごとく言った私に、波多野は小馬鹿にするように(いや、コイツの場合は“ように”じゃなく実際に“してる”)鼻を鳴らした。

 「うるせえな俺とで手巻き寿司する時は、相手のをやってやるって決まってんだよ黙ってろ。、俺はサーモンときゅうり。あとたまご」

 「波多野くん、この組み合わせ好きだね〜。んー、じゃあわたし、まぐろにとろろがいいな」

 にこにこしながら波多野のリクエストに応えるに思わずほのぼのしそうになったけどつまり波多野と手巻き寿司するの初めてじゃないってことだよね何それ聞いてない波多野ホントなんなの???? 私はこれをあと何回繰り返せばいいの????

 「ふんッ! いいもーん、私にはちゃん特製、私のための肉じゃががあるから〜。……あー……じゃがいもほろほろ……うまい……」

 おもしろくないなクソガキ波多野の存在……と常日頃思っていることを更に強く再認識しつつ、私リクエストの肉じゃがを堪能する……。 ほろほろでよく味が染みてるのに煮崩れはしておらず……うまいとしか言えないちゃんのお料理最高……お嫁さんにきてください……と心の中でプロポーズ……。
 すると波多野が「俺にはアレがあるよな、」と言って生意気な笑顔を浮かべた。それにが「うん? あるよ。食べる? 揚げるけど」とにこにこ応える。

 「ん、食べる」

 立ち上がってキッチンに向かうちゃんの背中を見送りながら、嫌な予感しかしないので眉間に思いっきり深い皺を刻む。

 「……テメー何企んでやがるクソガキ……」
 「別に? “いつもの”頼んだだけ」

 よし全面抗争ってことでよろしいか????
 ガン飛ばし合う私たちにはちっとも触れず、田崎さんが優しい微笑みを浮かべた。

 「さん、本当に料理上手だね。味はもちろんだけど、盛り方も綺麗だ。彩りもいい」

 すると、ナスの味噌田楽を食べていた神永さんが目を輝かせて「こんだけうまいメシがあると、酒もうまいねえ。俺、この味噌田楽好きだな」と機嫌良く声を弾ませた。
 そこへキッチンからが戻ってきた。手にはまた新しいお皿が。

 「はい、波多野くん」
 「サンキュ。これずっと食べたかったんだ」
 「ふふ、じゃあたくさん食べて」

 お皿に乗ったソレは、見たところ唐揚げのようだけど…………待って待ってわざわざ揚げたて? わざわざ?? っていうか! コレでしょお昼にコソコソに耳打ちしてたのコレのことでしょ分かった!!!! …………。

 「……何それ……」

 確認のために言うと、波多野のクソガキが「まぐろの唐揚げ」と即レスかましてきたので…………。

 「……よこせクソガキ」
 「あ゛? おまえにやる分なんかねえよ」
 「〜っ二人だけの定番の一品とかッ!!!! 彼氏でもないくせにッ!!!!」

 もう今日何度目か分かりませんけどホントこの波多野とかいうクソガキはなんなの?!?!




 おいしいお料理においしいお酒。この二つが揃っちゃ、いい具合にふわふわっとご機嫌になるのも当然である。
 まぁ波多野がいっちいちに絡むのさえ抜きにすれば、神永さんがうまいことを甘やかしてるシーンも田崎さんのさりげない月9シーンも拝み放題だから最高としか言いようがないんだけど……まぁ、ここでただ萌えて終了、とするわけにはいかない。
 ムカつくから認めたくないけど……訪れてしまった波多野と毎日顔を合わせられる日々、田崎さんとの月9デート、カレカノにしか見えなかった神永さんとのデートを経ての現状……はどう捉えてるのかなっていうのを確認しないと、今後の対策が取れないわけである。
 神永さん、田崎さんがそれぞれで動き出した今、もう三好さんを応援できるのは私しかいないのだ。で、肝心の三好さんは何してるかっつーと……ついこの間――つまりが三好さんを誘ったあの日からなんっっっっもしてねえッ!!!! 今まで散々(意味分からん斜め上投球だったけど)しつこいくらいにあの手この手でアピールしてきたくせに、なんで今になって怖気づいてんの?! っていう話ッ!!!! 片想い歴長すぎてなんかおかしなモンこじらせてんだろうけど、のほうから歩み寄ってきてる今がチャンス……というか周り見てみたら今を逃したらもう次なんかないでしょ?! なのに何ひよってんだよとしかッ!!!!
 ――というわけなので、私だけは(私の夢のために)お仕事をしようと思います。

 「……三好さんも誘えばよかったね」

 私の言葉にびくっと体を強張らせた後、は「え……」と小さな声でこぼした。

 「あ゛? これ以上ジャマくせえ野郎増やしてどうすんだよめんどくせえな」
 「うるせえなジャマくせえのはテメーだけだ口出しすんなボケ」

 だから全面抗争か???? この私と戦争したいんか???? あ゛???? という念を込めて鋭い視線を向けてやると、苦い顔をしながらまぐろの唐揚げを口に放り込んだ。……次の瞬間笑顔を見せたのでホンット抗争? 戦争????
 私の向かいに座っている神永さんが、箸を置いた。

 「三好となんかあったの? ちゃん。ちょっと聞いた話だけど、三好と二人で映画観に行ったんじゃないの?」

 は困ったように眉をハの字に下げると、「あ、はい、行きました、けど……」と呟くように言った。それを受けて、田崎さんが柔らかい声で「何か不安に思うようなこと、あったのかな」と首を傾げる。
 難しい顔をして、は慎重そうに口を開いた。

 「いえ、あの日にっていうより……もっと、前のことだと思うんです。……大事な部下だって褒めてもらえて……わたし、思ってたより三好さんに嫌われてないんじゃないかって、思って……」

 ……き、嫌われてないんじゃないか……? 嫌われて……ないんじゃ……ないかって……? …………嫌われてないよッ!!!! 全然まったくちっとも嫌われてないどころかその真逆だよッ!!!! 地球が終わりを迎えようとも三好さんのちゃんへの愛は不滅だわッ!!!!
 ――と、私はもうこの際だからに言って聞かせようかと口を開きかけて、しかし続いたの怒涛の言葉の波に、その決意は流されてしまった。

 「でっ、でも、入社してからこれまでのことを考えれば、急にそんな褒めてもらえるなんて、変な話ですよね…………しゃ、社交辞令を真に受けちゃって三好さん困らせちゃったんです!! いや、もしかしたら社交辞令でもなくて嫌味?! い、嫌味かもしれないです!! ……仕事においては本当に尊敬してるし、憧れの人ですけど……でも、嫌われちゃってるものはもうしょうがないじゃないですかっ!! 理由が分かればまだいいんですっ、直します! でもまっっっったく心当たりないんです!! ……だから、もうヘタに関わらないようにしようって、思って……。でも、なんか気になっちゃって……」

 …………み、溝が……溝が深い……あまりにも深い……三好さんのバカ……どうせクソつまんねえことが原因だろうけどアンタがひよって二の足踏んでるからちゃんがこんなふうに深刻に悩んで……あのバカ……と私が思わず額を押さえたところ、神永さんが「……へえ? 三好もひねくれたことするねえ、かわいそうに」と眉を下げてをじっと見つめる。すると次にはどことなくニヒルな表情で、「……ま、追いかけることそのものが初めてだから、それについては何も考えずに好きにできてたんだろうけど……今までの、追ってくるものをテキトーにあしらうのとは違う、本命を捕まえるための“追われ方”っていうのが分からないんだろうな。難儀なヤツ」と笑った。…………う、うん……? そ、それってつまり――。

 「あまり気に病むことないよ、さん。きみもよく知ってるだろう? 三好って気難しいんだ。きみのこととは関係ないことで、何かあるのかもしれない。……きみが参っちゃったら、そっちのほうがみんなが困るよ。ね?」

 「、アイツがおまえのことどう思ってようが気にすんな。おまえには俺がついてるし、三好ンとこいるのがイヤなら会社辞めたっていい。こっちに戻ってきたって、俺は自分の言ったことを撤回するような男じゃない。俺が全部面倒みてやる。なんも心配すんな」

 「ハイ波多野クンはお口チャックしようね〜〜〜〜????」

 ……なんていうか……神永さんにしろ田崎さんにしろ、心当たりどころか解決策まで知ってそうなんだけど…………頼りにはできないんだもんな〜〜〜〜ッ!!!! そしてホンット波多野は絶好調にウザイなぁ〜〜〜〜?!?!

 「……気になっちゃってても……気にしたって、しょうがないですよね。……っあ! 神永さんっ、買ってきてくれたゼリー、出してもいいですか? ずっと気になってたお店のなんです! 食べたい!」

 ぱっと明るい表情を取り繕ったがそう言って立ち上がると、神永さんも笑って「もちろん、ちゃんのために買ってきたやつだから。いいよ」と応えた。……う、ウン……そうか……そうね……ウン……。頭痛が痛いとしか言いようがねえな……。

 「……本格的にヤバイな……縮まったと思ったのに、前よりも離れちゃったとしか思えない二人の距離感……」

 「くだらねえ」

 「うっせえッ!! 世紀の大問題なんだよすっこんでろクソガキッ!!!!」

 にこにこしながらゼリーを選んでるを見つめつつ、やっぱ私一人でどうにかするって無理じゃない……? としか思えなかった。






画像:HELIUM