あの夜、飲みに飲んで神永さんの財布を空っぽにしてやり……なんと私が潰れた。飲み比べ最強の酒豪と名高いこの私が。これがだったなら、あの子はアルコールに強いほうではないし納得だったわけだけど、なんと私。
 神永さん曰く、泣きながらにへばりついてずっと離れなかったらしい。道理で目が覚めたらちゃんの天使な寝顔を拝めたわけである。最高だった。
 しかし、あれからもA子さんは変わりなくに構ってくるので落ち着かない。のナンバーワンが私であることは、もう覆しようのない事実であると知らしめることはできた。完璧なザマァ展開で全員ザマァ(誇らしげ)。
 ――が、問題は未だ解決していないわけである。
 はあ、と思わず溜め息を吐いて、この次はどう行動すればいいんだろう……と考えつつ、昼食を摂らねばと立ち上がった。ちょうど後ろを三好さんが通り過ぎるところだったので、この人がどうにかしてくれるのが一番いいんだけどな……こんな厄介なことになってる原因作ったのアンタなんだから……とまた溜め息を吐くと、三好さんが私の顔を見て眉間に皺を寄せた。コイツ失礼にも程があるなホント。つられて私も眉間に皺を寄せると、三好さんが訝しげに「……さんは一緒ではないんですか?」と言うので、何言ってんのこの人……と思いながら首を傾げた。だってが私に『ごめん、お昼先に行ってて』と言ってオフィスを出て行ったのは、ついさっきのことである。行き違いにしてもおかしい。

 「三好さんが呼んでるって聞いて、さっき出ていきましたけど?」

 私の言葉を聞いて、三好さんが表情を変えた。

 「……あの女……」
 「?! み、三好さん?!」

 呟いてすぐさまオフィスを飛び出した三好さんの尋常じゃない様子に、すぐ思い至ってしまった。
 まさか、まさか、に何か、その何かっていうのはハッキリ分からないけど、三好さんがあれだけ焦るようなことが起きているんじゃないかと。
 たまらず私も走って後を追った。
 A子さんの動きには充分注意してたつもりだったのに、迂闊だった。もし三好さんがを呼び出すんだとしたら、三好さん本人が直接声をかける。ちょっとでもと関わっていたい三好さんは、今までずっとそうしてきた。どうしてそんな当たり前のことに気がつかなかったんだろう。
 唇をきつく噛み締めながら、私はぐるぐると頭の中をめぐる後悔の念にめまいを覚えつつ、呼吸すら忘れるほどにひたすら走った。


 早々に三好さんを見失ってしまった私は、やみくもにあちこちを探し回って――私には馴染みの、けれどこんなかたちでやってくることになるとは思いもよらなかった場所で、三好さんの姿をやっと見つけた。
しかしまぁ、屋上に呼び出しっていつの時代の“呼び出し”だよ……と思いつつ、私は小さく息を漏らした。
 三好さんは二人がそこへ入ってしまう一歩手前で現場を押さえることに成功した。なんとも運命的なことに、がたった一人、三好さんのことで悩んで泣いていたという、屋上に繋がる廊下で。
 三好さんがいたく優しい、それでいて心底安心したという声で、そっとの名前を呟くのが聞こえた。

 「……手出しするなって言ったわよ」

 A子さんの鋭く冷たい声を聞いても、私は特に不安も焦りも感じなかった。なんたって三好さんがいるのだ。どんな時でもの味方でいて、守ってあげることが自分の愛情の証明だと言っていた三好さんが今、その言葉通りにを守ろうとしているのだ。私が何か手出しする必要性をまったく感じない。
 ほっとしたのと――なんだかんだ、三好さんってやる時はやれちゃう人なんだよなぁ、と私は思わず笑って、冷たい壁にそっと寄りかかった。

 「僕はそれに頷いていません。……忠告はしましたよ」

 その言葉のすぐ後、A子さんがこちらへとやってきた。私に気づいて、キッと厳しい視線を送ってきたものの、そのまま何も言わずに通り過ぎていった。
やれやれ、と思って私もその場を動こうとしたのだが、聞こえてしまった「……あなたって人はそう、誰でも彼でもすぐに信用するからいけない」という三好さんの言葉が、切ないほどに震えていて、その心情を思ったら体が動かなくなってしまった。
 今回の件は三好さんに大きな問題があったわけだが、だからこそ、私が責めるよりずっと前から、心の中で大きな後悔をしていたはずだし――誰よりもの身を心配していたに違いないのだ。

 「三好さ、」
 「……さん」
 「は、はい」
 「……どこも、痛くはありませんか?」
 「……え、」

 私には、それがどういう意味だか分かってしまって、思わず息を飲んだ。三好さんはなんともないように「お怪我は?」なんて言って、その声はもう震えてなんていなかったけれど。
 の不思議そうな声が、「え、怪我? え、どこもしてないですけど……?」と応える。
 三好さんは「そうですか」と短く言ったかと思うと、躊躇うような少しの沈黙の後、「……他は、どうです」と強張った声で言った。何も知らないの、心底分からないという調子の「はい?」という言葉に、私は少し笑ってしまった。まったく、いつもいつも素直でいないからいけないんですよ、三好さん、と。

 「……あなたはあの女を、信頼、していたでしょう」
 「? え、あ、あぁ、はい、そうですね、えい子さんてほんとに親切で――」

今に始まったことじゃないけど、三好さんて――。

 「……やっぱり、あなたは僕がそばにいないとだめな人だ。疑うことを知らないあなたには……僕がそばにいなくちゃあ、だめなんです。……あなたの、あなたの心は、今度は僕が守ります」

 ホント、不器用な人だ。




 ――で、あれから一週間が経ったのですが。

 「…………なんかアッサリ解決しちゃいましたけど」

 私の言葉に「よかったな」とたった一言短く応えて、神永さんはふぅっと煙草の煙を吐き出した。
 いや、確かにそうなんだけどそうじゃないんだよ分かるでしょ??

 「そうだけどそうじゃないでしょ?! ……A子さん、退社したって聞きましたよ。アンタら何したんです?」

 「あはは、俺たちが何かしたと思うんだね」

 田崎さんは口元に手を添えながら、爽やかに笑った。風にその黒髪がさらさらと揺れる様は、マジで王子様すぎてホンット何しても絵になりますね?? と思いつつも、私は溜め息を吐いた。

 「いや、アンタら以外に誰がいんです??」

 そう言った私をちらりと見て、神永さんは煙草を灰皿へと落とした。それからおもしろそうに笑いながら、「俺と田崎は情報を集めることはしていたし、いざという時のための準備もしてた。波多野も波多野で色々と動いてたようだが――まぁその必要はなかった。というわけだ、俺たちはA子さんの退社には無関係だ」と言って、何を思ってだか今度は肩を揺らしながら笑った。
 私はもう一度溜息を吐く。

 「……つまり三好さん一人が色んな意味で“どうにか”したんですねオッケー了解」

 まぁ、三好さんのあの様子からして何かしらの対策はするだろうとは思ってたし……あの食事会での夜に見た顔を思えば――もしかしたら、A子さんは退社で正解、そうしたほうがよっぽどマシだった……みたいなことじゃない……? とか思ってしまう。
 じっと考え込む私に、田崎さんは柔らかい笑い声をこぼしながら言った。

 「ふふ、まぁ知ろうとは思わないし、もうその証拠になるようなものは三好が片付けてるだろうけど……三好は決め手になる最後の一手まで、ジョーカーは残しておいたんだよ」

 なんともない調子で続けられた「……さん、大丈夫かな?」という言葉には、思わずびくりとしてしまったが。
 この人の事情の背景を思えば、今回の件の結末次第ではもしかしたら……な、なんてことをね! 思ってしまうといいますか!
 私が早口に「泣くような事態にはなりませんでしたから、そこは安心してもらって大丈夫です」と言うと、田崎さんはどこか安心したように口元を緩めた。
 まぁとにもかくにもA子さん問題はこれで解決したわけで、の身の安全の確保はもちろんのこと、三好×を邪魔するものも消え失せたわけで一安心……と終わりたいところだが、今回のことで私は思うことがそりゃあありましたよ、ええ、たっくさんね!!!!

 「……しっかし、仕事したと思えばとんでもねえことしますね、三好さん。まぁ私も知りたいとは思わないので、三好さんが何やったんだかは気にせずスルーするとして……デキる時とポンコツの時の差が激しすぎてついてけない……っていうかあの人、なんっで仕事の話についてのみデレるの? どうしてその肝心なデレを恋愛面において有効に使えないの?? ったくホンット今に始まったことじゃないんだけどポンコ――あ、ちゃんが『今どこ? 今日もお昼いっしょに食べられない??』とかしょんぼりしてる上に泣いてるかわいいうさちゃんのスタンプ送ってきたんで戻りますね!」

 まだまだ愚痴りたいことは山ほどあったが、かわいいうちの子が私を呼んでいるならばさっさと行ってあげないとね! と私は屋上を飛び出した。


 「ったく、嵐のようだな、あの子は」

 神永はそう言って煙草に火をつけながら、呆れたように眉間に皺を寄せた。
 俺はその様子がおもしろくて、思わず笑ってしまったので余計に眉間の皺が深まった。
 肩を竦めながら、「元気があっていいじゃないか。ああやって裏がない素直なタイプだから、さんもそばを離れないんだろう」と言って俺も煙草を取り出すと、ライターを放って寄こしてきたので遠慮なく使う。
 ふぅっと溜め息のように煙を吐き出しながら、神永が苦い顔をする。

 「そうだろうな。……だからこそ、あの子は俺たちにとって一番の脅威でありながら、一番のサポーターなんだ。まったく自覚がないあたり、一番の悪人なのが厄介だけどな」

 裏表のない性格というのはそのままの意味で、要するにはどんなことであれども、俺たちのような人間からすればすべて分かってしまうということだ。ただ、それを一番の理由――彼女が素直だということ――として彼女はさんの親友でいるのだから、俺たちは下手に手出しすることはできない。

 「それが分かってたら、三好とさんを一緒にさせたいっていうのに、俺たちに協力してほしいなんて言わないだろう」

 「そりゃそうだ」と神永は言うと、灰皿へと煙草を落として気だるげにスラックスのポケットへと両手を入れた。

 「……さて、俺も戻るかな。最近うちの部署の女の子がうるさいんだ、付き合い悪くなったって」

 はぁ、と溜め息を吐きながら扉へと向かっていく背中にライターを投げると、神永はぱしりと受け取った。
 「それじゃあそっちに時間をやったらどうだ?」と声をかければ、ゆっくりとこちらを振り返って口端を持ち上げた。

 「俺は知ってるぞ。おまえが最近遊んでくれないって、影で泣いてる子がいるの」

 煙草の煙を吐き出しながら、「最近も何も、まったく覚えがないな」と笑う俺に、神永はじっと俺の目を見つめて、捨て台詞のように一言、そのまま屋上を出ていった。

 「王子様が聞いて呆れるよ」




 屋上からオフィスへと戻ると、はお花の妖精さんなの?? という具合に顔を綻ばせ、にこにこと出迎えてくれた。
 うちの子はいつ何時であれどもフェアリーだけどやっぱりこの私を見た瞬間のぱぁっと輝く笑顔、これが一番最強で最高だな……と思いつつ、さっさと財布を入れた小さいポーチを手に取った。スマホで手早く、いつもお世話になっている口コミサイトのお気に入り欄を開く。

 「お待たせ〜! よしっ、ランチ行こランチっ!! 何食べたい〜? 近場のお店、色々調べてあるよ! 新規開拓する?」

 するとは神妙な顔をして、「……それなら、静かなところあれば、そこがいいな。……ちょっと相談したいことあるの」と言い出したので私は――。

 「……え?」


 ――というようなやり取りをして、私イチオシ、穴場らしいオムライス専門店へとやってきたわけである。
 さすがに個室ではないけれど、しっかりとテーブルとテーブルとの間に空間があるし、少なくとも私の知ってるうちの社員はいない。
 があんな顔をするんだったら、夜にいつものところでしっかり聞いたほうがいいんじゃないかな……と思いつつ、ランチメニューの中の明太子のクリームソースがかかったオムライスと、デミグラスソースのオムライスとで迷っているの様子をそっと窺い見る。
 パッと顔を持ち上げたと目が合ったのでドッキィ! とするも、こてんと首を傾げて「決まった? わたし明太子のやつにするー」とふんふん鼻歌を歌い出したのでなんだよただのフェアリーか……と思いつつ、私はデミグラスソースのオムライスにしたのであった。

 まぁそんなことはともかく。
 重要なのはの相談というやつで、今この世にこれ以上の問題というのは存在していないうちの子を悩ませる罪深いものの正体は何……? モンペ上等大丈夫よなんでも私が解決してあげるからね……ッ! と拳を握りながら、私はなるべく笑顔で「それで? どうしたの、相談って」と軽い調子で話を切り出した。
 するとは「……うん、」と難しい顔で呟いた後――私はビックリしすぎて絶叫しそうになった。

 「三好さん、映画って好きかなぁ? ……誘ったら、迷惑かな?」

 ……ちょ、ちょっと待って? 一回落ち着こうか?? ね?? 一回、一回落ち着こう――とかどう考えても無理だったどういうことッ?!?!
 三好さん?! “あの”三好さん?! が大の苦手としている我々の上司であるエリートのくせにポンコツな“あの”三好さん?!?!
 の言う“三好さん”が私の知ってる“あの”三好さんだと仮定して……というか他の“三好さん”なんて聞いたことないから間違いなく“あの”三好さんだけどなんだって?? 映画?? 三好さんが映画好きかどうか???? 私はそんなこと知らないし知りたいとも思わないけどちゃんはそれが気になるっていうの?? 三好さんが映画好きかどうか気になってるっていうの……????

 …………。

 「どうしたの?!?!」

 こう言う以外に何があるの?? っていうかその前にビックリが先行してるわけなんだけど、ホント、どうしたのとしか言いようがない……。
 だって、だって三好さんが映画を好きかどうかって、そんなのちっとも興味ないっていうか、むしろ三好さんという存在そのものに特別な興味なかったよね? いや、三好さんのこと尊敬はしてるし、でもその尊敬してる上司から嫌われてるっていう不安と、幼稚ないじめ(という名の歪んだ愛情表現)にブチ切れるっていうことはあったわけだから……主に良い意味ではないけど意識はしてたか……いや、でもそれがなんで急に映画……?
 は私の言葉にきょとんとした後、難しい顔をした。随分と頭を悩ませている様子で、ひたすらうーん、うーん、と唸っている。
 それからやっと答えを出したのか――いや、言いながら自分でもやっぱり違和感があるようで、「んー、……あー、うんと……うーん…………なんでだろう……いつもお世話になってる……お礼……?」と首を傾げて私を見る。いやちゃん、私のほうが分かんないよ? どういう心境の変化があったの??
 ……でもまぁ、がなんにも分かっていない状態で、私がああだこうだと言える場面でもない――が、三好×の気配を感じてしまうのは許してほしいし、期待してもいいんじゃないの今回のコレは……と思わずにはいられない。
 だって(からしたら)その場の流れでなんとなーく三好さんと一緒になることや、三好さんのほうから(からしたら)無理やり誘われたりってことはあったわけだけど、こんな、のほうから、三好さんが映画好きかどうか、誘っていいかどうかとか考えつくなんて、これは良い意味で三好さんを意識してるって捉えるなってどう考えても無理でしょ……?
 ……思い当たるところというと、あのA子さん事件があるわけだけど、あれで何かが芽生えたっていうような様子はなかったように見えたというか、はなんにも知らないわけだし……。
 まぁ今はとにかく、が三好さんを良い意味で意識し始めたっていうところに着目すべきである。

 「……なんで急に三好さんと映画なんて思ったの? お礼って言ったって、三好さんのこと嫌いじゃん」

 私にダメージ……と思いつつそう言うと、は「あっ」と今気づいたような顔をしたので、やべえしくった……ッ! と頭を抱えそうになったが、すぐに「んん、でも、わたし思ってたより、三好さんに嫌われてないんじゃないかなって、最近思ってきて……えっ、これってうぬぼれかなっ?!」と言い出したので全力で否定したそうなのちゃん三好さんはちゃんのこと超絶大好きでちゃんのためなら悪魔にだって魂売るほどベタ惚れなの……ッ!!!!

 「うぬぼれなんかじゃないよ! 三好さんはのこと大事に想ってる!!」

 するとがほんのり頬を染めて口元を緩めたので、えっ、えっ、と期待に胸を弾ませると「だ、大事な部下って、言ってくれたっ……!」と目を輝かせるのでなるほどそっちかなるほどそうか……っていう……。
 じゃあホントに他意はなく、日頃からお世話になっているお礼として……ってことなのか……。
 まぁ、ただの上司と部下よりかは色々と距離が近いし、も三好さんを誘うことに対して、何か特別な気持ちがないと普通わざわざそんなことしない、っていうふうには思ってないがゆえに思いついたのかもしれないな……。
 うーん、いつぞやまずはに恋愛ってものを意識させないとまずいかなぁって思ったことがあったけど、これは結構重症かもしれないと思わずにはいられない……。
 いやでも、三好さんがに対して悪感情なんてものは微塵を抱いてないってのが伝わった……ここだけを取り上げてみればめっちゃくちゃ大きな一歩だよねこれ?!?!
 くぅう……ッ!! や、やっと、やっとここまできてそれらしい……三好×らしい展開に涙せずにはいられない……。
 ――となると、もちろん私のすべきことはたった一つ……。

 「三好さん、が誘ったらすっごく喜ぶと思うよ! だってあの人のこと大好き――じゃなくて、ほら、一番の部下って言ってくれたんだから! も三好さんのこと尊敬してるんですっていうの、たくさん伝えるいい機会だよ! 誘うべき! 絶対誘うべき!!!!」

 は私の勢いにビクッと体を揺らしつつも、またほんのりと頬を染めて、いじらしくも躊躇うように視線をうろつかせつつ、「え、い、いいかな……。ほんとにほんとに、誘っても迷惑じゃないと思う……?」ときゅっと眉を寄せて、じぃっとテーブルを見つめているなんなのちゃんにこんなかわいい顔させるとか三好さんここへきて一気にゴール見えてきましたけど????
 ヤバイついに夢叶う日がくる……ッ!! と興奮を抑えられない私は、前のめりになっての両手をぐっと掴んだ。

 「絶ッッッッ対迷惑じゃない賭けてもいいッ!!!!」

 は私の手を振り払うなんてことはせず、逆にぎゅっと握り返してくれた最高私の永遠のアイドル……(拝み)……。
 更には「いや、何も賭けないでいいよ?!」とか言いながら首をふるふる左右に振って困ってるその顔マジでアイドル?? かわいいなの?? かわいいなの?? ファンサ神じゃん最高だな????
 この最強の“かわいい”みんなに分けてあげたい……と思いながらも心のフィルムに動画で保存オッケー記録完了…………まぁ私にしか観ることできないけどね?? ホントみなさんごめんなさいねちゃんの“かわいい”独占しちゃって……(自慢げ)。
 私の手からするりと離れると、はきゅうっと握りしめた手をそっと口元に持っていって、か細い声で「……んー、じゃあ、誘って、みようかな……」と…………。

 ィよっしゃアアアァアアァあッ!!!!
 きたぞッ!! 待ちに待ったッ!! 三好×のビッグウェーブッ!! みんな、乗り遅れるなよ?!?! 私は常日頃からスタンバイしていたので死角はないッ!!!! ヤバイもう三好さんの反応早く見たくてたまんないどうしよう?!?!

 「よしそうと決まればオフィス戻ったらすぐ声かけよ?!」

 鼻息荒く迫る私に、は分かりやすく動揺して「っえ、で、でも、こっ、心の準備っていうか……!」と言いながら何度もまばたきをして、ついにはきつく目を閉じてしまった。
 ……まさか三好さん相手に……“あの”三好さん相手に……三好さんのことを想ってこんな……こんな……こんな顔を……(感涙)。目頭押さえずにはいられない全私が涙する最高の展開です……。
 奥歯を噛み締め最高の萌えに浸りつつ、更に萌えるためには――私は今までこの日のために頑張ってきたんだから、すべきことっていったらやっぱり一つしかない…………全力プッシュ!! 誰も私を止められはしないッ!!!!

 「こういうことは早いほうがいいから! 早いほうがいいからッ!! 三好さんの都合もあるだろうしさ? いつならいいですか? って! とのデー……んンッ! おっ、お出かけなら……たとえどんな予定があろうとも絶対こっち優先させ――んん゛ン! つ、つまりね? 何事も早めがいいんだよホラ三好さん言ってるでしょいつも! 『結果に繋がるアクション』!! 日頃のお礼をするためには、まずのほうから行動しなくちゃ!! ねっ?! ね?!?!」

 するとは決心しました! というキリッとした顔を見せて、「うっ、う、うん……! そうだよね! ……うん、も、戻ったら、声かけてみる!」となんとか言い切ってくれた最高いいよいいよこの調子でゴールインだ……ッ!!!!

 「うんうん!! そうしよ! 大丈夫絶対三好さん受け取ってくれるからの気持ち!!!!」

 私の言葉にそっと息を吐いて、は気が緩んだ柔らかい表情で笑った。

 「そ、うだったら……いいな、」

 バリ天使で私のこのやり場のない感情という名の萌えが暴れまわって心中クソやべえ最高……。






画像:十八回目の夏