とりあえず今週の出来事を短く、分かりやすくまとめる。

 「さん」
 「っひ、は、はい!」
 「さん、ちょっと」
 「はっ、はいっ、」
 「さん、少し」
 「……は……はい……」


 以上(笑)。


 で、もう毎週末のお約束。今日も盛大(笑)。というか、今までのは『〜始まりの章〜』だったんだねっていうほどだ。こっからが本番。いよいよ、やっと『〜第一章〜』みたいな(笑)。

 まぁ、予想はできてた。月曜の朝の時点でもうアッこれアカンやつや……って考えるよりも先に本能がこうなると感じ取ってた(笑)。
 だって三好さんあからさますぎでしょ(笑)。いや、今までも充分あからさまだったけど(笑)。こっちも今までのは『〜始まりの章〜』だったんだ(笑)。っていう(笑)。果てが見えない(笑)。


 「もうやだもうやだやだやだやだぁ〜!!!!」
 「三好さん絶好調だねぇ〜。大好きオーラの輝きが前の比じゃない」

 開始前からもうのエンジンはフルスロットル。三好大ッ嫌いオーラがすべてを物語っていた。三好さんが輝いているイコール、は闇堕ちしている。なので席に着いた途端すぐに始まって、飲むペースもいつもより早かったのは仕方ない。
 で、実はここ二軒目。初めてのはしご酒である。どんなに頑張ってみようとしても、そんなにアルコールに強いわけではないは、終電の時間にはいつも帰る(タクシーだけど。電車に乗せられる状態じゃない)。
 でも今回は朝までコースもありえる……だって目がギラギラしてる……ッ!

 三好さんの様子、それからのこの感じ――“あの後”、確実に何かあったんですねオッケーそれはもう分かってるから大事なのはその内容ださっそく話してくれ!!!! と急かしたい気持ちはいっぱいなわけだが、急いては事を仕損じる。
 私は神妙な顔つきで、しかし声の調子は重苦しくない程度に抑え、「……ねえ、結局あの後、どうしたの? 三好さん追いかけてきたんでしょ?」と言った。

 「うっ、う……うぁああん! ないないないない三好ッ…………さんだけは絶対ないの!!!!」

 いいよいつも通り“三好”で(笑)。

 「何? キスでもされたの?」

 もうおもしろい(笑)。私ももうフルスロットル(笑)。と私のお約束、テーブルをバンバンしたい気持ちに駆られつつ、ビールジョッキを口元に近づける。

 ――ん? あ、アレ? の様子が??

 「ああああしにたい……もうしにたい……」
 「え?! マジで?!?!」

 おっと思わず衝動がッ!! ……と慌てたが、があまりにも勢いよく「してないよちがうよちゃんと回避したもんしてないよ!!!! するわけないでしょ相手三好だよ?! 酔ってようが意識失ってようが絶対しない!!!!」と悲鳴のような声をあげたので安心した。

 そうだね、の三好さんへの想い(三好大ッ嫌いもうやだ泣くほどやだ)はそう簡単にかたちを変えたりしないよね(笑)。

 よかったですね三好さん(笑)。三好さんのお望み通り、は相変わらず――いや、以前よりもパワーアップして――三好さんのこと意識してますよ。……悪感情によって(笑)。三好さんが言ってた通り悪感情(笑)バリバリ(笑)持ってますよ(笑)。が向けてくれる感情ならどんなものでもいいんでしたっけ〜?? よかったですね〜! 大成功(笑)ですよ(笑)。ファイトッ!!

 「……そうじゃなくて職質されたの!!!!」
 「……は?」

 いや、『向けられるものが悪感情であれ、無関心でいられるよりマシです』キリッ! とかあなたやってましたけど!!!! 三好さんめっちゃのこと好きじゃん大好きじゃんほらぁ〜!! って思いましたけど職質ってどういうことです?! 何したの?! だからあんたって人は方向が斜め上すぎて「三好がしつこいから『もういい加減にして下さい!』ってわたしがおっきい声出したときに……ちょうど……おまわりさんが、あの……」…………。

 「……痴漢とか暴漢的な勘違いをされたのね、三好さんが」

 普通にかわいそう(笑)。職質(笑)。うわぁ〜、ますますの愛情から遠のいてやんの〜(笑)。と、めちゃくそ大声(しかもめちゃくそ高音)で大笑いしながらやっぱりテーブルバンバンしたいところを一生懸命我慢する。丸い瞳をうるうるさせているの話を、よーく、くわしーく、しっかりと聞かなければ。

 いや、職質(笑)のことはともかく。

 あんな熱烈な告白についてはどう思ってるんだろうか。いや、話聞いてたら分かるけど。憎しみ深まったの分かるけど。

 でもあの三好さんが膝までついたわけで。

 悪感情(笑)の限界点――つまり憎しみまで持っていても、でも! ちょっとはアレ……? みたいなこと思うでしょ? 思うよね?! との表情をじっと探ってみるも――んんん゛今日も最高……。くそかわいいじゃねえか……。みなさん……これがという名の私の秘蔵っ子です……。……どうですかわいいでしょう!!!! ……じゃない、今はそうじゃない、そういうのは作業中に「だから前にも増して嫌がらせしてくるんだよ〜! わ、わたしが悪いけど! わたしが悪いけど……でもさ?! ……わざとじゃないもん……。それに元はと言えば、三好さんが悪いじゃん……田崎さんのまえであんな……ひどい……まだ何もしてないのにフラれたようなもんだよ、最悪三好きらい……」……んんん゛ちゃんは今なんと??

 「え?」
 「え?」

 あら……? あらら……?

 「い、嫌がらせって何?」

 あれほど聞きたかったのに、今はすごく聞きたくない。だって聞いちゃったら……あんな一世一代の告白ですキリッ! みたいなの全部ナシってことでしょ? あれからずーっと夢にまで見ていた三好×の楽しい未来はホントただの夢になっちゃうわけでしょ聞きたくない!! ……と思っても、それはそれでやっぱり気になるのだ。だってあんな、あんな――あんな告白したのに(笑)。三好さん三好さん、エベレスト級(笑)のプライド(笑)の持ち主のあなたが(笑)。ライバル意識を常に持ってお互いを高めあっている(ここは笑うところ)同僚の目の前で――しかもその内の一人にはのことに関しては完敗(笑)――膝をついて(笑)。キリッ! したのに(笑)。

 それ全部無意味とか(笑)。

 「は? だって用事らしい用事もないのにいちいち声かけてくるし、昼休みはどこに逃げても現れるし、帰りなんか『送ります』とか言って最寄りの駅までついてくるんだよ?! なんでわたし四六時中ずーっと監視されなくちゃいけないの?! もうどうすんの〜っ! 田崎さん紹介するとか絶対裏があると思ってたらコレだもん最悪だよ!!!!」

 けどまぁそう笑ってもいられない。三好×の一本でいくと決めたわけなので、私には全力で(私の考えた)二人の未来を応援する義務がある。三好さんザマァねえな(笑)とは思うけど、ソレはソレ、コレはコレってやつだ。

 「…………。こないだ三好さんに言われたこと、ちゃんと覚えてるの?」

 もう一度の表情を注意深く観察してみるが、どう考えてもウソやら誤魔化しはない。というかそもそもこの子そんなことできないって知ってる。
 え、でもさ? あんなことされてあんなこと言われて、しかもキスされそうになったんでしょ? 嫌がらせでそこまでする? 三好さんだよ?
 ……あれ……もしかして……? と思うだけのインパクトあったし、用事なくても声かけてくるようになったんだよ挨拶シカトしてた三好さんが!! と会話しようと頑張ってるんだよ三好さんが!! 少しでも一緒にいたいから『送ります』なんだよストレートでなかなかいい線いってるじゃんなのになんで気づかないの!!

 ……じゃあガチの総スルーじゃん(笑)。三好さんドンマイ(笑)。

 さてちゃん〜? 答え合わせしようね〜?? とかふざけたことをあえて考えようとしている。私は必死だ。正直もう神に祈っている。いやいやいや、これには訳がある。そうだ訳がある!! そうじゃなければいくらなんでもだって――。

 「覚えてるよ!!!! なんで田崎さんの前であんな悪ふざけするの?! そんなにわたしのこと嫌いなの?! 嫌いならもういないものとして扱ってよ〜っ!! なんでいちいち絡んでくるの?! わたしなるべく関わらないようにしてるのに!」

 …………。

 「……、ちょっと待っててね」
 「えっどこ行くの?」

 「トイレ。すぐ戻るから」




 「――っていうことなんですけどどうなってるんですか?! ていうか酔ってようが意識失ってようが三好さんとはキスしないとか今日も絶好調ですよね」

 担当が私なら、三好さん担当は?
 もちろん、あの現場にいた二人だ。

 「全部聞こえた。さんいつもにこにこしてるのに、ホント三好には容赦ないな。で、その話だけど。なんていうか……もう正直に全部言ったから、伝わったものだと思ってるんだよな、三好は」

 神永さんは溜息交じりにそう言って、煙草に手を伸ばした。けれど、じっと箱を見つめると、結局その手を止めてしまった。……オッケーそっちも色々と大変なのはとりあえず伝わりましたッ!!

 「それは分かるんですけど! それは分かるんですけど!! え、神永さんたち三好さんから職質の話は聞きました?」

 まぁ、まずは落ち着いて情報交換だ。
 私はからの話しか聞いていないわけだから、三好さんの言い分も聞かなければどうにもならない。

 神永さんは「聞いた」と短く言って、悩んでます〜という顔を少しすると、まいった! 降参!! というかたちで煙草を吸い始めた。吐き出された煙は、完全に神永さんのただの溜息である。あまりにも切実な思いが込められてそうで、コレ有害物質とか浄化されてんじゃないの?? って感じすらする。

 私は分かりやすい相手だし、女同士ならそういう話もすぐ話題にできるわけだけど、男同士となるとそう簡単にいかないだろうことは予想できるので……ウン。しかも腐っても――職質(笑)されても(笑)。あの三好さんだしね。心中お察し合掌……。

 「今言ったけど、三好の方はもう全部伝わったって思ってるわけだ。で、あとはキスでもしておけば、さんも良い意味で意識し始めるんじゃないかって思ったらしくてさ。……だけど肩抱いたところで、さんびっくりして声あげちゃったんだよな。で、そこに警官が通りかかって、会社の上司って説明したんだけど……ほら、最近色んな事件あるしさ。納得しなかったらしくて。でも騒ぎになったらお互い困るし、かといって三好が何言っても信用ないだろ? 実際キスしようとしてたわけだから」

 難しい――でも呆れを隠せていない――顔で話す神永さんにゴクリとする。
 な、なんか私が思ってたのよりガチめな感じの職質じゃんそれ……。職質(笑)されたった(笑)。みたいなのじゃないじゃん……。

 「そ、そうですよね……え? それで?」

 ドキドキというか、もうドクドクいってる心臓の音が耳元でするが、なんとか正気を保たねばと拳を握る。

 神永さんはものすごく真面目な顔をすると、人の聴神経を鋭くさせる小さな声で「で、さんが言ったんだって」と一言。背筋が凍った。

 「…………大体想像ついてるんですけど、一応聞きますね。……なんて?」

 サッと視線を逸らした神永さんから話を引き継いで、田崎さんが言った。

 「『彼氏です! 今日お付き合いすることになったばかりだから、びっくりしちゃって!』って言ったんだって」

 …………なるほど。…………なるほどねぇ〜〜!!

 アーッ!!!!

 「た、タイミング的に、タイミング的に三好さんが舞い上がるのは仕方ない……ッ!!」

 私の言葉に、神永さんがテーブルの上で両手を組んだ。
いわゆるゲンドウポーズ。

 そして、その時の三好さんの心情やら表情、態度なんかを想像しているのか、その話を自分に語っていた時の三好さんが思い出されているのか、神永さんの目はどこか遠くを見つめている……。

 「……そうなんだよ。それでその時、警官に納得してもらえるようにって、さん一生懸命だったんだって。……まぁしょうがない、ああいうことの後だし、三好の機嫌損ねたらやばいって思うよな。……で、」

 田崎さんはやれやれという顔で僅かに苦笑しながら、また引き継ぐ。

 「『彼、ほんとに優しくて』、『仕事もすごくできるし、真面目な人なんです』。『それからわたしのことすごく好きって言ってくれて』……」

 そこまできたら私ももう分かる……。
 見事に三人で、キレーに、打ち合わせしていたかのようにハモッた。


 「「「『わたしも彼のこと、大好きなんです』」」」


 …………。


 「だと思った〜!!!! のおばかさんッ! でもナイスかわいいありがとう作業はかどる〜ッ!!!!」

 「あああ〜」と言って頭を抱えながら、神永さんが「もう三好それが嬉しかったらしくてさぁ、いや、様子見てれば言われなくても分かるだろうけど。あいつすごいでしょ」と言うと、田崎さんは「何度『さんはやっぱり僕を選びましたね』って言われたことか。顔合わせるたびに言ってくるよ。……まぁ、さんのほうはどう思ってるのか、予想はしてたけどよく分かった」と言った。

 んんん〜〜、なかなかまずい!

 「……どうします? 三好さんが嬉しいのは分かるんですけど、このままじゃの“三好嫌い”、ますますひどくなる一方ですよザマァねえな」

 「マジでザマァねえんだけど、とにかくさんの口から『彼氏』、『大好き』って単語を聞けたのが嬉しいんだよ。ほら、アレだよ、」

 神永さんが呆れつつ煙草をまた一本、箱からスッと抜いた。

 「「“大好きオーラ”」」

 私と田崎さんがぴったり合わせて言うと、神永さんは私たち二人を煙草で差して、「そう、それがもう抑えられない状況」と神妙な――いや、もう笑ってる。……笑ってるんだけど、こないだみたいな、からかってやろ〜! っていう明るいやつじゃない……闇を感じる……。

 「お花畑すぎて、昨日真面目な顔で『ご両親へのご挨拶って、どのタイミングでするのがベストなんでしょうね』とか言い出すから返事に困った」

 「えっ神永さんテキトーなこと言ってないですよね?!」

 「俺が『必要なタイミングで、さんのほうから言ってくるだろう』って言っておいたよ」

 「田崎さんナイス……」

 ……私のミスだ……。あの一件で完全に田崎さんを敵視しているであろう三好さんは、自動的に神永さんのほうに話を持っていきますよねすみませんちょっと甘く見てました……。まさか神永さんが一週間で潰れるなんて……。私……なんていうか……三好さん(笑)しか知らないので……どうしたらそんな闇抱えることになるんですか……。

 まぁ、もう私には想像すらできない他種多様な摩訶不思議に満ちた三好ワールドへの強制滞在強いられてワケ分からんところに、そんな斜め上なお花畑発言ブチ込まれたら正常な判断とかできなくなりますね、それは分かります。
 普段女の子たちの視線をかっさらってる社内で一、二を争うイケメンが、こんなに憔悴している……。田崎さんの一件で、三好さんの大好きオーラがものすごい(悪い方向に)進化を遂げているぞ……。

 「『あなたにだけは口出しされたくないですね』って言われたけどね、あはは」

 …………でしょうね……! でしょうね!!
 田崎さんは(運の良いことに)三好さんに敵視されてるから被害ないですよね!!!!

 なんなんだよこの感じ〜ッ!! なんでアレでスムーズに進まないッ?! もう王道じゃん! この感じも三好さんも分かるでしょ?! “恋愛”というジャンルに振り分けられてる何かで見たことあるでしょ一回くらい!!!! 小説でもマンガでも映画でもなんでもいいから! あるでしょ?!?! なのに! アレだけのことがあって!! なぜ?!?!

 「なんだけど! なんだけど!! でももうあの子に期待したって無理なの分かってるんだから三好さんしっかりしてよ〜ッ!!!! と真面目に付き合う気あるんですかあの人!!!!」

 もう両手で頭を抱えた。そこへ無慈悲な神永さんは「ありすぎるから話が飛躍していくんだろ」と言って、煙草の煙を吐いた。疲れた声だ。
 ……でも、でも私も神永さんも結局は同じこと考えてるんですよね……。これだけ私(たち)が苦労してんだから、もう三好×しか認めないっていうコレ!! コレだけは誰にも譲らないッ!!!!

 「ですよねえ……あ、やばい、私戻りますね、が――」

 と、腕時計を確認して立ち上がったところ――。


 「なんでっ、なんっ、なんでいるんですか……っ!?」


 ひ、悲鳴が……の、悲鳴が……。聞き慣れてる悲鳴が……。

 「…………まさか、三好さんと今日約束してました?」

 私の言葉に神永さんは溜息を吐きながら「呼ぶわけないでしょ、昨日ラインで確認したじゃん。女の子二人で仲良く恋バナ、で、俺たちはたまたま同じ店で飲んでて、たまたま話聞こえちゃってるだけっていう設定」と言った。うん、ですよね。じゃあなんで三好さんいるのレーダーとか付いてんの?? それともいよいよにGPSとか付けちゃった系?? ……なにそれありそうでこわい。

 「とりあえず来ちゃってるんだから、さん一人にしたらかわいそうだ。席、戻ってあげなよ」

 田崎さんの声にはっとして、「そ、そうですよね! じゃあまた!」と私は慌てての待つテーブルへと向かった。




 「あっ、あっ! 〜っおそい! おそいよ!! ばかぁ! もう帰るよね? もう帰るよね?? 帰ろう? わたしもう帰りたい。おうちかえりたい!!」

 あっ、ぐずぐず泣いてる天使かよ最高〜とかにやけそうになったところでが私に気づいた。おっと……平常心平常心と思ったが、私に気づいてからのほうがもっとぐずぐずしたので本当にこの子天使だよね。甘えんぼさんかよ。私のこと大好きかよヨッシャオッケー嫁にこいッ!!

 ……しかし三好さんはブレませんね。

 「こんばんは、お邪魔しています」

 一瞬たりともこっち見ねえで何言ってやがるっていう。ていうか(笑)。笑顔(笑)。すごい笑顔ですね笑顔(笑)。いや、にこにこするのはいいんですけど(笑)。確かにぐずぐず泣いてる天使だから笑顔になるの分かるんですけど(唐突に真顔)。原因がご自分だって分かってらっしゃいます?? 三好さんが笑顔すぎて怖いから怯えて泣いてるってこと分かってらっしゃいます??

 分かってないですよね知ってる(笑)。

 「こんばんは〜、三好さん。がご迷惑おかけしてすみません〜。この子、酔うと結構面倒なもので……あ、お戻りになってください、私がいますからぁ〜」

 一生懸命まともな表情を作っているわけだが、三好さん全然こっち見ないから関係ないわこれ(笑)。夢中かよ(笑)。ナンバーワンもオンリーワンもなんだな知ってるけど(笑)。他はもう景色と同化してるんだわこれ(笑)。声に反応してくれるだけまだマシ的な(笑)。まぁ私の友達だしね、分かる(笑)。これが全くの他人なら聞こえてないふりしてんの分かる(笑)。

 これだけアウトオブ眼中してくれると、よく観察できるし私はいいんだけど……三好さんファンのみなさんのご冥福をお祈り申し上げますね……これは入り込む余地ナシです……。大好きオーラが(笑)。もう輝きすぎて(笑)。柔らかい照明でぼんやりしてるはずの店内が日中のカフェテラス感(笑)。

 ぐずるをゲロ甘い微笑みで見つめながら、「いえ、迷惑だなんて思ってやしませんよ。……舌っ足らずに三好さん三好さんって、彼女、かわいいですね」とか言い出すので神永さんが言ってたお花畑の存在この目で確認めっちゃ咲き誇ってる。

 で、デレデレしやがってッ!!!! 大好きかよ知ってるわそんなのッ!!!! ていうか三好さん素直に“かわいい”とか言えるようになったんですねオッケーそれは良い方向への進化だッ!!!!

 ……だからこそですよ三好さん……仕掛けるのは今だと私は確信しましたッ!!!!

 「……そうですかぁ〜。……でも、すっごく気にしてるんですよ、三好さんのこと」

 私がそう言うと、三好さんがぴくりと反応した。

 「……はい?」

 ニヤッとしそうなのを我慢して、とても神妙な感じに「この間のことですよ。いつも三好さんにご迷惑ばかりおかけしてるんで……だから三好さんが怒って、田崎さんの前であんな……あっ、すみません……」と私は演じきった。やばい私女優。
 でもそれよりやばいのはやっぱり三好さんだ。

 だってやばいでしょ(笑)。こんなに(笑)。すごく(笑)。わざとらしいのに(笑)。三好さんただただショック受けてる(笑)。三好さんほど鋭くなくても――というか子どもでもこんなクソみたいな演技見破りますよ(笑)。

 「……さん」
 「なっ、なんですかっ、わたしもうかえりたいです!」
 「まだ田崎のことが気になるんですか」

 今日も精確に地雷踏みますね三好さん絶好調〜(笑)。

 「……“まだ”? ……“まだ”?! 当たり前じゃないですかどの口でそんなこと言うんですか?! うう、うああん、田崎さんがいい〜っみよしさんなんかやだぁ〜っ!」

 あっははは! もう完全に酔っちゃってて、まっっっったく頭回ってないな!! こないだよりももっとストレートッ!!!! 露骨ッ!!!! 泣いてるッ!!!! 完全に大泣きッ!!!! 三好さんショックッ!!!! 

 ……けどね三好さん、いいんです。それでいいんですよ!!!! 三好さんショック受けろショック受けろ!!!! そしてそれを乗り越えるんだッ!!!! ここが勝負ですよ勝負ッ!!!! いいですか、一見失敗、もうダメだと思うその時こそがチャンスなんです!!!! ……うまいことやるんですよ?!?! いいですか分かりましたねッ?!?!

 いきますよ?!?!

 「あらぁ〜。ほら、泣かないの。三好さんに失礼でしょ〜?」
 「だ、だって! だってたざきさんがいいんだもん〜っ!!」

 私の手のひらぎゅうぎゅう握るプライスレス……。

 「(じゃなくて)んん゛っ、田崎さんならいるから。さっきあっちのテーブルにいたよ、神永さんと。……あ、ほら」

 と、私が指差すと――さすが田崎さんナイスッ!! ちゃんと“いざという時”のサイン見逃しませんねしかもタイミング完璧あなたが神か。


 「見たことあるなって思ったら……。さん、こんばんは。あれ、飲みすぎかな? 顔、真っ赤だよ」


 登場の仕方があまりにも自然、そしてサラッとに一直線っぽいところが素晴らしいホント神。だからこそ三好さんが噛みつくわけですよオッケーオッケー田崎さんナイス天才。

 「……田崎、どうしているんです」
 「どうしても何もないだろ、飲みに来たんだ。神永と一緒だよ」

 バチバチしてる三好さんと、にこにこしてる田崎さん。三好さんがいかに余裕ないのかというのが浮き彫りですね(笑)。ザマァねえな感が仕事しすぎてメーター振り切っちゃってますけども(笑)。

 向こうで神永さんが俯いてるの見える(笑)。笑ってるでしょあなた(笑)。会話聞こえなくても絵面が対照的すぎますもんね分かる(笑)。

 「った、たざきさ……!」

 この状況の内実なんにも知らないの『(三好がいてもこの際いいから)とにかく田崎さんに会えて嬉しい』というこの顔、天使だから写メりたい。

 「よかったねぇ、〜。田崎さん、この子あれからずーっと田崎さん田崎さんって言ってたから、よかったらちょっと話でもしてあげてください。お時間ありますか?」

 私がにこにこ余所行きの顔で言うと、田崎さんはいつも通りの爽やかな笑顔で「それは嬉しいな、俺もさんとはゆっくり話してみたかったから。あぁ、それならこの間みたいに、どうかな?」と自然に対応してくれる。この人ほんとになんかの才能あるわ。

 「いいんですか〜? どうする? 。やっぱり帰る?」
 「あれ、もう帰るところだった? ごめんね、それなら――」

 「いえっ、田崎さんといっしょがいいですっ!」

 んんん゛、文句なし、百点、きみが天使だ……。

 「よかった。それじゃあ移動しよう。あっちのほうが広いから。……三好は? どうする?」

 ふっと口端が持ち上がってる田崎さんにグッジョブとしか言いようがありません。

 もうね、完全に“恋のライバル”ですよ。月9とか少女マンガとかの王道の、ありがちな“恋のライバル”。しかし、さすがだ……その中でも田崎さんは『この人がいなくちゃ話は進まない』っていう“恋のライバル”。下手したら『くっつくならこっちがよかった』と言われるタイプの“恋のライバル”。……私田崎さんと組めてほんっっとーによかったです。

 三好さんはわざとらしく溜息を吐くと、「……彼女がまだ飲み足りないようですからね、付き合いますよ。これだけ酔っているのに仕方ないな、まったく。心配ですから、最後まで、きちんと、僕が、面倒見ます。……よりにもよって田崎が一緒では、何があるか分かったもんじゃありませんからね」と言って、ゆっくりと席から立った。

 ……が飲み足りないから? のために? 付き合っちゃう?? のために? 仕方ないから? 付き合っちゃう?? 心配だから……“色々”と心配だから最後まできちんと面倒見ちゃう????

 やばい三好さんが田崎さん相手に彼氏力(笑)見せようと(笑)してる(笑)。
田崎さん相手に(笑)。が大好きな田崎さん相手に(笑)。

 …………彼氏じゃないくせに(笑)。

 でもまぁ分かりやすい(そして何よりおもしろい)からいいですよ(笑)。好きなだけドンドンやってください(笑)。……ただその代わり結果は出してくださいよ結果は。あなたがいつも職場で言っているように“結果”。これがすべてですよ(真顔)。

 さて〜? 始まるぞ〜??




 田崎さんたちのテーブルまでやってくると、田崎さんが奥に座った瞬間にをその隣に座らせ、その隣に私はサッと素早く座った。

 え? やだぁ三好さんそんな顔しないでくださいよ〜! 三好さん座らせるわけないじゃないですか期待してたんですか?? やだぁ〜! ってすごく言いたい顔をしている三好さん。

 私はひたすらにこにこする。分かります、三好さんの気持ち……。……文句言えないですよね! 私ってばの友達だから! いつもから三好さんの話聞いてる私に、ヘタなことできませんよね! 私が三好さんにマイナスになること、に吹き込んじゃったら困りますもんね〜? 分かっててやってますよ(笑)。

 でも! こないだの告白シーンを彩った(笑)このメンツ! 職質(笑)事件! そして恋のライバル!! 条件はすべて揃ってるんです! 思う存分あなたの思う結果を出してください三好さんッ!!!!


 それからしばらく、事件が起きたのは突然だった。

 三好さんやる気あんの? 田崎さんにただ突っかかったところでなんっっっっも進展得られないですよ分かってます?? 結果に繋がるアクションをお願いします(これ三好さんが職場でよく言うやつ)。と、私がダレてき始めたときだった。


 「っ! やばい、やばいやばいやばい」
 「えっなに?」

 が突然顔色を悪くして、私の腕にぎゅっと引っ付いてきた。なんだか本当に『やばい』っていう顔をしているので、の隣にいる田崎さんはもちろん、のはす向かいの神永さん、位置は関係なくのことだから三好さんも、眉間に皺を寄せた。ちなみに三好さんは私のお向かいに座ってますイェーイ(笑)。じゃなくて。

 とにかく落ち着きないの背中をさすりながら、顔を覗き込む。もうとっくに引っ込んでた涙がまた顔を出しているので、え? なに? どうしたの?? と私もおろおろしそうなところへ、が――。

 「せんせい! せんせーがいる!!」
 「……はぁ? なにそれ、誰」

 「ほらっ、合コンのっ! 誰かさんのせいでフラれた! 医者!」

 アッ。と思ったのは私だけじゃないので、全員の視線ががおそるおそる指差す方へと向いた。

 「あっ、あぁ〜! あの人?! うっわぁ〜、すごいイケメン……。しかも医者だもんね〜。マンガの登場人物みたい」

 ほんとこの感想。現に今も女の子に囲まれているし、近くに座っている女性客の視線も総ざらいしている。神永さんがちょっとつまんなそう(笑)。――と、それはともかく、がビビる要素が見られないので「で? 何がやばいの?」と私はのんびりとビールを口に流し込ん「なんか知らないけど、こないだからすごい連絡くるの……。こわいからシカトしてるんだけど、会っちゃったらまずいでしょっ」……。

 「……え? え、フラれたって言ってたじゃん。なんで?」

 「そんなのわたしが聞きたいよ〜っ。会おう会おうって、すっごいしつこいからこわいの〜っ! どうしよう……」

 待って待って待ってそんな話今日一度も出てませんけど?!?!

 「ストーカー化してんの?! もう〜、なんでそういうハズレ引いちゃうのよアンタは〜っ!!」

 三好さん(笑)だけで十分でしょそういうのは〜!!

 まぁそれはいい! とにかく、この場さえ乗り切っちゃえば、あとは着拒でもブロックでもなんでもすればいいわけだから!! と思った瞬間が私にもにもありました。

 「……あれ、ちゃん?」

 「は、ハイッ!」

 ……(頭抱え)となりながら、ちらっと私に引っ付くを見る。
 はじりじりと私の腕から離れて、イケメン(医者)を見上げた。

 イケメン(医者)のほうは、にこっと愛想の良い笑顔を浮かべたが「ねえ、連絡なんで返してくれないの? 俺、デートのことなら怒ってないけど」とか言って目にハイライトがないのでこれは完全にヤバイと我々(私・田崎さん・神永さん)は判断しました。三好×推しであるということ抜きでテメーはダメだ。

 「え、えっと、」
 「……俺のことはほっといて、別の男とは平気な顔して会うんだ?」
 「いや、これはあの、」

 どんどん顔色を悪くして俯いていくを見て、私が口を開こうとしたところ――。

 「会社の仲間内で飲んで悪いことがありますか? 彼女の上司にあたる僕が誘ったんです、彼女が参加するのは当然でしょう。そうでなくとも、そもそもさんになんの関係もない全くの他人のあなたが、とやかく口を出すことではありません。……彼女のことは放っておいていただけますか」

 …………。

 みっ、三好さん……! オッケーいいよいいよ!! いいよいいよ?!?! その調子!!!! が『えっ……三好さんが、わたしのこと……かばってくれてる……?』ってびっくりしてるいいよいいよ!!!! オッケーだよその調子だよ!!!!

 マズイ、というかヤバイと思ったらこれ場合によっちゃ最高のシチュエーションでしたッ!!!!

 「……ただの会社の上司にこそ、口出す権利なんかないだろ。これは彼女のプライベートでの問題、俺と彼女との問題だ。ほっといてもらいたいのはこっちですけどね。ちゃん、ちょっといいよね、話」


 ……なのにここで黙んないでよ三好さん使いモンにならねえなッ!!!!


 「ああもういい加減にしてもらえます?! この子彼氏いますから!!!!」

 ――と私が口を挟むと、が「え」と小さく呟き、神永さんは『おいやめろって』という顔をし、三好さんが目を丸くした。田崎さんは爽やかに笑ってくれました。


 「ね、田崎さん!!!!」


 神永さんが顔を覆ったのはもちろん分かったけれど、三好さんとか使いモンにならないの見たでしょ今ッ!!!! と思って、とにかくこの場を切り抜けるには田崎さんが一番いいって思ったから私は――。

 「そういうわけだから、すみません。その頃、ちょうど喧嘩してたものですから……、『ごめんなさい』は?」


 …………。


 やばいすごい田崎さんやばいそんな甘い微笑み浮かべて下から見つめるのはズルイやばいそれやっちゃうのはズルイあの程度で黙り込む三好さんなんかじゃ勝てないッ!!!! しかも田崎さんてただでさえのタイプなんだよ田崎さんはドンピシャなの!!!! えっなにその甘いようでいてちょっと挑戦的で意地悪っぽい顔なに少女マンガ?!?! 耳元でそんな甘い低い声出さないでなにその『、ごめんなさいは?』ってセリフは?!?! 吐息交じりやめてあげて?!?! えっ?!?! がッ?!?! がッ?!?!


 「っ、ご、ごめんな、さ……っ、」


 トキメキMAXかよ〜ッ!!!!!!!! 三好さん絶望〜ッ!!!! せんせい退場〜ッ!!!! 田崎さんの一人勝ちみなさんお疲れさまでした〜ッ!!!!




 「たたたたざきさんごめんなさいごめんなさいすみませんっ!! わ、わたしあのっ、」

 顔を真っ赤にして、一生懸命田崎さんから距離を取りながらが何度も頭を下げる。……ごめん、私もなんかフォローとか、そういうのしてあげたいんだけど、田崎さんの本気があれほどまでとは思ってなかった上に、やっぱり田崎×もいいとかそういうアレがほら……。

 「いいよ、気にしないで。さんも大変だね、しつこい男がいると」

 爽やかに笑う田崎さんに感嘆してしまう。

 っは〜……田崎さんすごいわ……天才。……じゃない!!!! これじゃ三好さんの入る余地なくなっちゃうじゃないですか田崎さん〜ッ完全にあなたがの王子様でしょこれじゃ〜ッ!!

 「〜っ、か、かえります!!!! ごめんなさい!! ご迷惑おかけしましたごめんなさい!! すみません!!!!」

 何度も同じ言葉を繰り返して、何度も頭を下げて、は飛び出していった。
 ずっと呆けている三好さんの肩を、神永さんがぽんと叩いた。

 「……三好、送っていかなくていいのか?」

 その言葉にムッとした顔をしながら、「……言われなくてもそうします」と三好さんは立ち上がった。それから、ちらっと――ちらっと? いや、これもう人を殺す目だよッ!!!!

 「……田崎。貴様、あまり勝手をするなよ。さんは僕のだ」
 「早く追いかけないと、また危ないのに引っかかるかもしれないぞ」

 射殺すつもりの視線受けながらよくそんな爽やかでいられますね田崎さんあなたが神か。




 「……かわいいでしょう。かわいいでしょう」

 三好さんがを追って店を出て行き、しばらくの沈黙を私が破った。

 誰にと言ったわけでもないのに、田崎さんが「……まいったな、そんなつもりはなかったんだけど。……確かにかわいい」と応えたので、でしょうねえ〜と思った。

 「おい三好に殺されるぞ」

 神永さんが煙草の煙を吐きながら、呆れた声で言う。……ハァ??

 「ちょっと神永さん全ッ然分かってないですね!! あの“せんせい”とやらには悪いですけどの恋する乙女モードはチート!! 最強!! 最高!!!! 男ならみんな『あっ、かわいいな』ってなりますよ!! 『俺のこと好き?』って勘違いしたくなりますよ!! 女の私だって思います!!!! 『あっ、付き合える』って!!!! ねっ?! 田崎さんそうですよね?! ねっ?!」

 田崎さんも煙草に手を伸ばした。あれ? この人って喫煙者だったんだ? とふと思ったが、「まぁ、くらっとするね」という言葉にそんな疑問は吹っ飛んでった。
 くらっとしますよねかわいかったですよねさすが話が分かるッ!!

 「でもこの場合、勘違いじゃないんです!! は田崎さんのこと好きなんです!!!! 大好きなんですよ〜っドンピシャなんですよ〜っ!!!! アレがの本気です!!!! どうです?! かわいかったでしょ?!?!」

 あああ〜うちの秘蔵っ子かわいすぎかよ〜天使〜ッ!!!! と震える私に神永さんが「……じゃあ田崎とさんがくっつけばオッケー?」とか言い出すので、「ダメです三好×です」と速答した。いや、だってそうでしょ? この三人は三好×推しでしょ? 決めたじゃん!!

 神永さんは田崎さんをちらりと見ると、溜息を吐きながら煙草の火を消した。

 「……とりあえずまぁ、また週明けに二人の様子見てみないと分かんないな。……田崎、帰り気をつけろよ」

 眉間にきつい皺を刻む神永さんに、田崎さんはのんびりと「俺よりさんのほうじゃないか? 気をつけなくちゃいけないのは」と返した。
 神永さんと私の動きが停止したのにも関わらず、田崎さんの薄い唇から煙が吐き出されていく。あっ、別に時が止まったわけじゃないのね!

 …………ん゛?!?!

 アッあの人もうしっかり前科あるじゃん。

 そして前回を遥かに凌駕するこの大事件を受けて、何かしないわけがない。しかもお花畑状態だったところへこれだ……ゲンドウポーズ……。
 えっやばいじゃん! やばいやつじゃん! や、やばいぞやばいぞ〜ッ?!?!

 週明け楽しみすぎてやばいぞ〜ッ?!?!

 ――と思わずテーブルに一発拳叩きつけた私は、やっぱりどうしたって三好×推しなんだわ……と思った。






画像:HELIUM