「天気に恵まれて良かったですね。ふふ、あなたと二人で出かけるにふさわしいな」

 「は、はぁ……」

 ご機嫌な三好さんに対するの微妙な顔がすごいコントラスト生み出してるけど、三好さんの言う通り本日快晴、絶好のデート日和最高。いよいよ三好×の夢叶う予感しかしない最高。

 「……それにしても、本当に僕が決めたところでいいんです? もちろんさんのお望みすべてを叶えると言いましたが、だからこそなんだっていいんです。今からでも遅くはありませんから、行きたいところを教えてください」

 そう言う三好さんの顔はもうデレッデレで、ホントにのお願いは何がなんでも叶えるなと思わずにはいられない。かぐや姫並みの無茶ぶりしてもまったく動じずあっさり叶えそうヤバイ。

 「あ、いえ、あの……み、三好さんに連れていっていただけるなら、あの、ど、どこでも構わないので……」

 しかしうちのは今日も絶好調そのおねだり顔は反則技だよほら三好さん見てみ??

 「……そ、うですか……」

 ガチ照れMAXじゃろ??

 けれどもそれは一瞬のことで、キリッとした表情をすると、緊張感のある声で「……さん」と静かに言った。
 は「っはい!」と肩をびくつかせながら返事した。完全に委縮している……。
 その上三好さんが「今日は絶対に楽しんでいただきます。何がなんでも。……いいですね」とか本人からしたら絶対このデートを成功させるっていう意気込みを伝えたいんだろうけど――。

 「っ、も、もちろんですっ!!」

 ……からしたらただの威圧……(頭抱え)。

 「……それで……目的地ですが」
 「はっ、はいっ!」

 三好さんはを上から下、下から上までじっくりと見つめた。

 「その格好なら問題ありませんね。あぁ、でも……さん、その靴は履き慣れていますか? ヒールの高さは?」

 「え、あ、はい、どちらも問題ないですけど……歩くんですか? それならもっと歩きやすいものにすぐ替えてきますけど、」

 「そうですね、あなたに痛い思いはさせたくありませんから、そのほうがいいでしょう。履き慣れていて、高さのないもののほうがいいかと」

 「分かりましたっ! すぐ替えてきますすみません!!」

 「何を謝るんです? その靴だってあなたによく似合っていますよ。痛い思いをさせたくないのはもちろんですが……かわいいあなたを、もう少し見てみたいんです。お気になさらず」

 「すみませんお待たせしますすみませんすぐ戻ります……っ!!」

 の怯え方がハンパないけど、大丈夫でしょうか……。


 「――まぁその前に確認しておきたいことがあります。……白のとろみシャツにカーキのタックパンツ、バッグは白のショルダー……んんっ、チェーンがゴールド……いいね最高……。……足元は白とベージュのストラップパンプス……のお嬢さんスタイル大好きだけどこういうさらっとした美人系スタイルも麗しい……三好さんに合わせてきたのかなあの人まんまだもんね……いやそんなことはどうだっていいヤバイ超いい…………けど、服はオッケーで足元アウトってどういうこと?? は?? のセンスに文句つけんの?? まんま予想できるアンタに言われたくないんだけど???? でもまともな仕事する三好さんのセリフは毎度甘い上に絶妙な吐息感が最高だからまぁ許さないでもない――で、どこ行くんだと思います?」

 うちの秘蔵っ子はまったく何着てもかわいいったらないね最高……。
 重要な目的地がついでみたいになっちゃったけど、のデート服はチェックしとかないとねやっぱ……。
 神永さんは呆れた顔をしながら煙草に火をつけて、車の窓から外に煙を吐き出した。
 レンタカーは手配するって言うから任せたら喫煙オッケーの車にしやがって……まぁいいんだけど、ホンットこの人はヘビー中のヘビーだな運転すんのアンタなんだぞ……。え? 田崎さん? 田崎さんはほら、別枠だから。

 「きみは毎回ちゃんのファッションチェックには余念ないな。俺はきみの言う“お嬢さんスタイル”もああいう感じも両方好きだ。俺が彼女に合わせればいいんだから、好きなものを着てほしい。それが一番かわいいだろうからな」

 …………。

 「……ックソ、今日も彼氏力ハンパねえなムカつくけどちゃんの反応見たいんで今度言ってみてくれます??」

 すると田崎さんがすかさず「俺は今日のほうが好きかな。さんってかわいいタイプだから、余計にああいうほうが映えると思うんだよね」と言うのでさすがこの人は話が分かる……ッ!!

 「んんん゛んんッ!! それ……それも分かるからつらいんです私…………じゃなくて三好さんがどこ連れてくかって話ですよ!!」

 話が逸れに逸れたので、グッと後部座席から身を乗り出す。
 あぁ、運転席にはもちろん神永さん、助手席には田崎さんが座っている。
 私が助手席に座るのは違うし、田崎さんに隣に座られてもなんとなく居心地が悪い……それに田崎さんも煙草を吸うだろうし。
 ……そして何より私も色々な準備があるわけなので、後部座席を広く使わせてもらうことにした。
 ――これもどうだっていい余談だな、と思っていると神永さんが言った。

 「さぁ? いくらなんでも情報が少なすぎる。まぁ、歩きやすい靴ってわざわざ履き替えさせて遠出となると、どっか観光地じゃないか? 無難だし」

 なるほど確かに……と思ったところへ――。

 「……どうだろうね。三好のことだから、案外振り切ったところに行くかもしれない。さんのためと思えば、あいつはなんでもするだろうし」

 「えっ……た、田崎さんがそういうこと言うと怖いとかいう話どころじゃないんですけど……」


 ――とかなんとか私たちが話していると、靴を履き替えたらしいが慌てて現れた。

 「おっ、お待たせしました……!」

 「いいえ、とんでもない。……それなら問題ありませんね。ふふ、それもかわいらしいですよ」

 ……マジかよ……(震え声)。

 「田崎さん見て?! 見て?!?! ラメ入りゴールドのぺったんこパンプスですよ何アレ私見たことない!!!! けどああいうことですよね?! かわいい〜っ!! ラメが控えめなのがかわいい! 選びそう!! ……でもバリバリ好みってわけでもない……なんで??」

 首を傾げる私に、神永さんが爆弾落とした。

 「あぁ、アレ履いてくれてるんだな」
 「……今なんて言いました神永さん……」

 ギギギッと軋んだブリキ人形のように神永さんのほうへ首ごと視線をもっていくと、目尻を下げてにこにこしながら「ちゃんと買い物行った時に、俺が選んだ靴だ。ホントは買ってあげたかったんだけど、彼女に気を使わせるから。……うん、かわいいな、似合ってる」とか言うから……。

 「……今回は選んだだけと言っても……神永さん、靴を贈る意味知ってます?」

 「『靴を贈ると遠くへ行ってしまう』?」

 「アンタ本気で狙う気あります?! バカなのッ?! いや私は三好×推しだけど!!」

 私の最推しは三好×だって何万回でも言うけどな? でもな?? ……神永×が見たくないかと言われるとそれは「だからだよ。アレは三好から引き離すためだ。きみは俺を当て馬に思ってるらしいからな。にしても、今日履いてくれるってのは幸先いいかな」…………。

 「……エリートこええ……ッ!!」

 全私戦慄……と震えていると、今度は田崎さんが「あはは、それじゃあ俺は、次のデートにはルージュでも用意しようかな」とか言い出したので一応「……意味聞いたほうがいいですか?」と恐る恐る聞いてみた。
 アンサーはこちら。

 「意味? そのままだよ。『きみにキスしたい』」

 …………。

 「ああああんシャレオツきたァ〜!!!!」




 「……うそでしょ……? 田崎さんてやっぱり神様なんです……? 未来予知……? …………振り切ってるどころじゃない遊園地?! 三好さんが?! 遊園地?!」

 私がブルブル震えているのを余所に、神永さんはのんびりと「ハズレたか。それにしても、まぁ確かに振り切ってはいるな。三好と遊園地の組み合わせなんて思いもしなかった」なんて言って、園内の案内パンフレットをめくっている。

 「俺とさんのデート、水族館だったろう? あそこではしゃいでる彼女を覚えてるから、遊園地にしたんじゃないかな」と言いながら、チケットを買いに行ってくれていた田崎さんが戻ってきた。
 それから「――それで? さん、こういうところはどうなの?」とにこりと笑った。
 ……こういうところはどうか……? どうか……??

 「……正解……大正解ですよ……ッ!!!! 三好さんやればできるじゃん……ッ!!!!」


 「え、ゆ、遊園地って……」

 さすがにも素直にびっくりしてる……。だよね、私もビックリしたんだからなら尚更だ……。“あの”三好さんが遊園地ってどう考えてもないもんね……。
 すると三好さんがどこか焦ったように「……お嫌いですか?」と眉を下げるもんだから、の三好さんのご機嫌センサー(実際のところ正しい働きしてないけど)が反応して、「え゛?! え、いえっ、た、ただ……」と、言葉を探すように視線を彷徨わせている。

 「“ただ”?」

 「み、三好さんの、イメージに、なかったと言いますか、あの……いっ、嫌とかって意味じゃなくて!」

 「そうですか。まぁそういう機会もありませんからね。……さんはどうです? 遊園地」

 ほっと息を吐いた様子の三好さんだったが、の「あ、えっと、そうですね、んー、最近はあんまり……」という言葉を聞いて顔色を変えた。

 「……どこか別に場所を変え――」
 「でもっ、だからうれしいです! 遊園地、わたし大好きなんですっ!」
 「……そうですか……。よかったです……」

 ……悶えてる……三好さんが悶えてる……。そうですよ……今回ばかりはあなたの選択間違ってないんです“まとも”な仕事ですよオッケー順調……。

 「……どれから乗りたいですか?」

 パンフレットを広げて、そっとのそばに寄り添う三好さん……ん゛ンん……カップルっぽい……三好×だよ……やっと巡ってきた三好×だよこういうのずっと見たかったんだよホント最高……(血涙)。

 「え、いえ、三好さんにお任せしますよ? わたし何も考えてなかったですし……」

 「それでは、僕が決めていたように回っていいんですね?」

 「? はい」

 「……まず、軽く食事にしましょうか。十二時を回るとどこも混みますから。何が食べたいですか? なんでもお好きなものをどうぞ」

 「え、あっ、えっと、」

 「さんの食べたいものでいいんですよ。僕はあなたの笑顔さえ見られたら、それでいいんです」

 「は、はぁ……え、えっと、えーっと……んん、」

 三好さんは甘い微笑みを浮かべているが、のほうはそれどころじゃないらしい。
 ……どういう心境でいるんだかは分かるよ……。

 「なんでも、さんの好きにしていいんです。今日はあなたのための休日なんですから」

 「あっ、ありがとうございますすみませんお気遣いありがとうございます……じゃ、じゃあ、えっと……パスタ! パスタにしましょう! みっ、三好さんお嫌いじゃないですか?」

 「あなたの食べたいものが僕の食べたいものです。それじゃ、パスタにしましょうか」

 「っは、はい!」

 三好さんの発言すべてがにとって圧となっている……。


 「ああ〜! 違うちがうちがう!! はこういう時はホットドッグとかハンバーガー食べたいの……ッ!!」

 三好さんが知らないのもしょうがないし、が三好さんの顔色気にすんのは分かるよッ!! 分かるんだけどッ!!!!
 頭を抱える私の横で、神永さんが心配そうに二人の様子――というかの様子を見つめている。

 「あー……ちゃん、ガチガチだな。かわいそうに」

 「完全に三好の顔色窺って遠慮してる――というか、機嫌を損ねないようにって注意してる感じだな」

 田崎さんも苦笑いを浮かべながらも、いじらしく頑張ってるを見る目は優しい。

 ……神永さんに加えて田崎さんまでこうなんだから、三好さんガチで今日という今日こそはキメてくださいよ……(震え声)。

 「あの様子じゃ、車の中でも緊張しっぱなしというか……ビクビク過ごしてたな。……おい、そう落ち込むなよ、きみ。車内がどんな空気であったとしても、ちゃんは遊園地、好きなんだろ? これからデートらしく二人が楽しめればいいじゃないか。まだ始まったばかりだぞ」

 ぽんと私の肩を叩く神永さんに、それだけじゃないんだけどな……と思いつつ…………私の最推しはッ! 三好×ッ!!

 「もうホントできることなら車内にカメラでも仕掛けたかったですよ……あ゛あぁ〜、三好さんがやらかさないにしても、がああも緊張してちゃ私の望む三好×の初デートにならない〜ッ!!!!」

 「ま、何にせよ見守るしかないんだ。ほら、移動する。行くぞ」

 「う゛う、はい……」




 「……決まりませんか?」
 「っあ、すみません、大丈夫です決まりました!」

 さて、パスタをメインに推し出している洋食屋さんに入った二人――と追跡している三好×同盟の三人。
 ……み、三好さんとが向かい合って……二人で……食事……なんて……ッ!!
 あまりの光景に……夢にまで見た光景に……全私歓喜……最高……こういうシーンをずっと拝みたかったのよ……。

 「そうですか。……すみません、注文をお願いします」

 ハンカチで目元を押さえつつ、すっと手を上げてウェイトレスさんを呼び止める三好さんを見る。
 さすがに麗しの貴公子と騒がれているだけのことはあるな……なんだか気品のある動作に見えてしまった……。いや、私が知ってる三好さんが三好さん(笑)だから余計にね……。

 「ご注文を承ります」
 「さん、お先に」
 「え、えっと……んん、ペスカトーレをお願いします」
 「ペスカトーレをお一つ」

 んん、やっぱり今日も迷いに迷ってトマトソースね……ブレないね……かわいいね……。
 ――と私が微笑ましくを見つめていると、三好さんがだな……。

 「僕は……スモークサーモンとほうれん草のクリームパスタを。それからアイスティーを二つ」

 「スモークサーモンとほうれん草のクリームパスタですね。アイスティーはストレート、ミルク、レモンがございますが」

 「どちらもストレートで」

 「かしこまりました。失礼致します」

 ウェイトレスさんは一礼するとサッとテーブルを離れていった。
 メニューをスタンドに戻すところでの視線に気づいた三好さんが、「……どうかしましたか?」と声をかけたけれど、は「あ、い、いえ、なんでもないです……」と不思議そうな、なんとも言えない顔をするだけだった。


 「……ね、ねえ、ねえ神永さん……あれ半分こ狙いだと思います……? ねえねえ半分こ狙いだと思います?!」

 ……そう、三好さんはの食の好みについて熟知している……そう、熟知、しているのだ……。

 つまり??

 「そうだろうな。ちゃんのパスタ事情を三好はよく知ってるらしいからな。ついでに言うと、飲み物に関しても同じ理由だと思うぞ」

 呆れたような――いや、三好さんの情報収集の方法を考えて、神永さんの表情はドン引いている。
 けど! けどさ?! 今はそういうのどうでもよくない?!?!

 「〜っカップルっぽい! カップルっぽいよ〜!! 半分こ〜っ! でも半分こしようって言わないあたりに三好さんの気遣い感じる絶対遠慮するから〜っ! アーッ! こういうのずっと見たかったメモメモメモッ! メモらないとッ!!」

 早速使い慣れているボールペンで、こちらも使い慣れている質のいいノートにメモを取り始める。
 このボールペンはお値段は少々するけどとても書きやすい。ノートのほうも同じく。上質な紙なので文字がかすれることもないし、ボールペンとの相性も良くて『インクが出ない……だと……? かっ、書けない……ッ!!』とかいう事態にもならないので大変重宝している(拝み)。
 テーブルに腕をくっつけ、受験生も真っ青じゃない?? と思うほどザッザカ忙しなくメモる私の頭上に、田崎さんの「うん、なかなかいい滑り出しじゃないかな。……それにしても、惜しいな。さん、おいしそうに食べてくれるから……かわいいんだよね、とっても」とかいうセリフが降ってきたので思わず――。

 「……みっ、三好さんのガチ照れMAXくる?! くる?!」


 ――とかなんとかやってるうちにパスタがきた。

 三好さんは終始ご機嫌にを見つめていて、はその視線に耐え切れずひたすら俯くとかいう特筆すべきことが何も起きてくれない状況だったので、思ったよりも早くお料理きたのは正直助かった……。

 「んっ、おいしい!」

 ……おいしいものを正しくおいしいと表現できるうちの子かわいかろ……?
 三好さんもそう思ったらしく、「それはよかった」と甘く微笑んでみせた。
 しかしその後、「……さん」と続けるので不穏な気配が――。

 「はい?」
 「食べますか?」
 「? た、食べてますけど……」
 「クリームパスタです。悩んでいたでしょう」

 ……不穏な……気配が……?

 「えっ?! な、なんで……あ、いえ、だ、大丈夫で――」
 「僕もペスカトーレと悩んでいたんです。一口、分けてもらえると嬉しいな」
 「え、あ、そうなんですか? そういうことなら、どうぞ」

 ……がお皿をスッと三好さんのほうへと差し出した。
 ……え、なに……展開が分かりません三好さん何する気「さんが食べさせてくれるんじゃないんですか?」な、の………ん゛ンんんんッ?!?!?! な、な、ナンダッテーッ?!?!
 どういうことどういうこと何それ何それェ……! と私が興奮を隠しきれないところで、が「え゛?! い、いえ、そんな、あの……」とあからさまに嫌です感を出しまくっていると、三好さんは攻め口を変えてきた……。

 「ふふ。……さん、口を開けてください」

 フォークにキレイに巻きつけられたクリームパスタが、の口元へ近づく。――もちろん、三好さんの手によってです……。

 「う゛っ……うう……す、すみません…………い、いただきます……」

 あ゛ぁああァ!!!!


 「どうしよう半分こどころか“あーん”ですよ……ッ?! ヤバイもう……写真……写真ッ!!」

 車の中で色々と調整していた一眼を取り出し、すかさずパシャる。

 「……きみ、今日は相当な気合いを入れてくるだろうとは思ってたが……まさかカメラまで用意してるとはさすがに思わなかったぞ……」

 神永さんの溜め息とか全然気にならない。こういう資料大事だから。

 「俺もやってみればよかったな。……まぁさんのほうは、いわゆる『俺の酒が飲めないのか』っていうふうに受け取ってるみたいだけど」

 だがしかし田崎さんの言うことはごもっとも……。

 「んん゛んんだとしても“あーん”ですよ……? アッ?! っあ! っあ!! アッ!!!!」


 「さん、僕にも同じようにしてください」

 三好さんは大変ご機嫌な様子で甘い微笑みを浮かべ、甘い声でに言う。
 は口元を引きつらせて「い、いや、そ、それはさすがに……」と若干体を後ろに引いた……。

 「……嫌ですか?」という三好さんの言葉にすぐ折れたけど。

 「う゛……すみません…………し、失礼します…………口、開けていただけますか……」

 何アレちょうカップルやばい〜ッ!!!!

 「やだも“あーん”したァァ!! 三好さんが幸せすぎて背景光ってるお花乱舞……ッ!! 私も今輝いてるに違いない三好×最高……ッ!!!!」

 「……ちゃん、三好の機嫌を損ねまいと必死だな」

 「そうだな。まぁ、三好からすればやっとここまで辿りついたわけだし……居酒屋でのさんの様子からして、ここが攻め時と思ってるんじゃないか?」

 「だろうけど、肝心のちゃんがアレじゃあ、どうにもならないだろ。三好がやればやるほど……ほら、きみの言葉を借りると、“まとも”な仕事をするほどに、これはちゃんが警戒するパターンじゃないか?」

 一眼でパシャる私の肩をつんと突いて、神永さんは言った。
 あ、あぁ……パシャるのに夢中でほとんど聞いてなかった……。

 「……あー、そうですね、の警戒、それは私も考えました。でも、やりすぎかってほどに三好さんが攻めてくれるほど、私がフォローしやすくなるんです。、必ず私にこのデートの話しますから」

 私の言葉に神永さんは軽く頷いた。

 「なるほどな。……まぁ、この後どうなるかだな。回ってるうちにちゃんの緊張が解けてくればいいけど」

 「三好も色々と考えてきてるだろうし、あまり心配する必要はないんじゃないか? ……まぁ、相手がさんだってことを除けば。彼女相手だと勝手が違うだろう」

 「そこも踏まえて考えてきてるといいんだけどな」

 ……う、うん、カンストと神の意見が一致することほどこええモンはねえな!(震え声)




 「さて、どれから乗ります?」

 お店を出て早速、三好さんはパンフレットを開いてそう言った。

 「はっ、はい! ……はい? み、三好さんが決めたようにって……」
 「僕はあなたが決めた通りに回ろうと考えていたので、お好きなようにしてください」
 「え゛?! え、ええ……え、えーと……」
 「あなたのための休日です。さんが決めていいんです、何もかも」

 ……“まとも”な仕事してる……そうだよ……に選ばせてあげてください遊園地ホント大好きだから……。っていうかホントやろうとすればなんでもできるのにどうして今までやらなかったの三好さんは……。疑問というか……もうここまできたらね、やるせなさしか感じませんよ……まっ、今日で今までの分すべて取り返してくれるなら何も問題ないですけど!

 「え……あ、は、はい……んん…………み、三好さん……ぜ、絶叫系とか、あの、だめで――」

 恐る恐る口にしたに、三好さんは「どれがいいんです? 絶叫系と言っても色々とあるようですが」とすぐに返事をして、パンフレットに視線を滑らせはじめた。

 「え、あ、い、いいんですか……?」
 「僕は特に苦手なものはありませんから」

 は躊躇いつつも、「んん、じゃあ、これがいいです」とパンフレットのどこかを指差した。それを見て三好さんは目を丸くして「……意外ですね、“最大級の怖さ”とあるのに」と呟く。
 はははッ!! の遊園地好きというのは偏にコレ、“絶叫系”をこよなく愛するがゆえであるのだ。“最大級の怖さ”? それこそがの求めるものである。……かわいい顔しといて過激派とかやばくない?? うちの子はギャップ萌えももちろん押さえてますよ(真顔)。

 「や、やっぱり他の――」
 「……好きですか?」

 の遠慮がちな声に、三好さんが被せた。

 「え、あ、はい、好きです」

 頷いて素直にそう答えたに、三好さんは――。

 「……そうですか。……行きましょう」

 がっちり萌え悶えていた……。
 嬉しいですね……の口から『好きです』って聞けて嬉しいですね……。


 三好×のデート、そのすべてを正しく記録すべく、我々は二人がアトラクションを楽しんできたところからまた素早く観察を開始するため、降り場付近にスタンバイしていたのですが。
 見上げているだけで吐き気を催しそうなほどに激しいジェットコースターだったというのにうちの子はフェアリー……。

 「三好さんっ三好さんっ! 楽しかったですね! ジェットコースターって、すっごくストレス発散に――あ」

 の素直な発言にウッとなる私に、神永さんたちが追い打ちをかけてくる。

 「……ちゃんのストレスというと……」
 「三好だな」

 ……まぁでも……。

 「……残念なことに三好さんしかありません……」

 ホントにそうだから返す言葉ないッス……。

 「まぁ三好が突っかからなければいいだけの話だし……そもそもあれだけ舞い上がってたら、そこまで頭が回らないというか……もう回ってないんじゃないかな」

 でも田崎さんの言葉のまんま、の素直すぎる発言は問題ないと言っていい。
 なぜなら――「……三好さんの笑顔眩しすぎ……」というわけなので。マジ背景お花畑。

 「次はどうします? 他の絶叫系にしますか?」

 はもちろん問題ないけど、三好さんもすげえな……。あれだけシェイクされといて……。さすがに苦手なものはないと言い切っただけある……。というかああいう激しい乗り物とか、三好さんのことだから髪が乱れるとかなんとか言って絶対乗らなさそうなのに、が笑顔になるならなんでもやる気だなかぐや姫も真っ青だよ……って思うとエベレスト級(笑)のプライド(笑)の持ち主である三好さんのへの愛情の深さを感じざるをえない……やっぱり三好×最強だな……。

 ――とか考えていると、が「んん……あ、三好さん!」と声を上げた。続いた言葉に私は思わずガッツポーズした……。

 「……お化け屋敷! お化け屋敷はどうですかっ?」

 「僕は構いませんが……ここのお化け屋敷はとても難易度が高いようですよ。……大丈夫ですか?」

 「……だめですか……?」

 「だ――……いえ、行きましょう」

 二人の後ろ姿を見つめつつ、ペン先をノートに走らせるのに忙しい……。

 「出たのおねだり……三好さんガチ照れMAX……というか至福の極みで昇天でもしちゃいそうにすら見える……」

 ふふ……このタイミングで自ら“お化け屋敷”……最高の展開が目に見えるようだ……。
 思わず「三好さん、頑張ってくださいね……遊園地でしか見ることのできないめちゃくそかわいいで死なないでくださいね……? まだいちゃラブ展開きてないんですから……」と呟きながら、もちろんメモは取りつつ、さらには先を妄想するという同時作業をこなす私……三好×に注ぐエネルギーに関しては誰にも負けない自信ある……。

 「……ちゃんって、行きたがるけどリタイアしちゃうタイプか?」

 神永さんが私のノートを覗き込みつつ、そう言った。
 ……なんだよその顔内容になんか文句あんのか??

 「そうです。絶叫系はどんなのでも平気な顔……というか全力で楽しめるんですけど、恐怖系は全力で怖がって……すごく……すごく……すごく……」

 「へえ、それは楽しみだな。ちゃんには悪いけど」

 田崎さんは肩を揺らしながら爽やかに笑って、「きみが言葉に詰まるほどってことは、本当にかわいいんだろうね。ふふ、俺が一緒にいてあげたいな。残念」と言うので…………そ、それはそれで見てみたいなとかそういうアレがホラ……と邪な考えを持ってしまいそうになりつつも、とりあえずはご当地限定のちゃんをッ! ここはッ! チェックしないとねッ?!

 ――というわけで。

 「もうホント…………暗いし三好さん絶ッッッッ対に夢中になって気づかないに決まってますから、せっかくなんでできるだけ近づきましょう……私も久しぶりだからじっくり味わいたいです」




 さすがにクソこわい、マジもんのアレが出るとまでウワサされているだけのことはあるつまりめっちゃこええ(迫真)。
 ――と、思っていいクオリティーなのだが、私はとは反対に絶叫系がアウト、恐怖系はすべてにおいて得意なのでなんともない。脅かしにかかってくる役者さん泣かせですまんな……。ついでに一緒にいるの神永さんと田崎さんなわけだから……ホンットすみませんねやる気削ぐようなグループで……。

 「んんんっ、やっぱりこわい……やっぱりこわいぃ……!」

 まぁその代わりに前にいるうちのが全力で怖がってるので、これで手打ちにしてくれ。天使のかわいい悲鳴が聞けてんだから充分じゃろ??

 「おお、見事な怖がりっぷり。こりゃ驚かすほうも気合い入るな」
 「あはは、かわいい声だ」

 神永さんと田崎さんの声はとても楽しそうだ。
 ――が、そう笑ってもいられないですよ……と私はにやりと笑った。

 「ねっ?! もうかわいいでしょっ?! でもまだです! まだなんです!!」


 「大丈夫ですか? 出てもいいんですよ?」

 三好さんの気遣わし気な声に、が「いえっ、だ、だいじょうぶです、だいじょうぶ、」とまったく大丈夫じゃない声音で応える。
 それから「……だいじょうぶですから三好さん、ちょっと、」と続けた。

 「はい?」

 と遊園地に行くような友達はみんなが勝手知ったる、という感じなので、こういう時にはなんの問題もなくスムーズに事が運ぶのだが、今日は三好さんしかいない。……そう、が今頼れるのは、三好さん、この人だけ……ッ!!

 つまりだな??

 「んんっ、もうちょっと……もうちょっとこっち!」

 が近くにいてほしいと腕を引いてしがみつく相手というのは、三好さんしかいないわけである……。

 「は、」
 「っあ、やだやだ、三好さん急にとまんないで! こわいこわいこわい!」

 ぎゅうっと三好さんにしがみつく……パシャりたいけどさすがに無理だから心のシャッター押しまくって網膜にもしっかり焼きつけよう……(拝み)。
 三好さんの上擦った「わ、分かりました、分かりましたから、」という声がまた……アァアア三好×最高かよ完璧超人であるはずの三好さんのこの初々しい感じッ!! それを引き出すことのできる唯一の存在うちの秘蔵っ子ッ!!!! この二人に勝るカップリングがこの世にあるのか……?

 「やだやだっ、やだっ、もっと近くにいてよっこわいぃぃ〜っ!!」

 「っさん、す、少し落ち着きましょう、いますから、そばにいます。ね?」

 「うぅ〜っ、じゃ、じゃあ離れないでくださいねっ! 手っ! 放さないでくださいね! あともっとこっち――っやあぁああっ!!!! いやぁ〜! もうやだぁ〜!」

 もう涙交じりな悲鳴を上げて、がぐずつき始めた。……よし……よしいいぞ……。

 「……さん、」

 「やだぁ、もうやだぁ〜! うぅっ、こわい、あるけない、もうやだおうちかえりたい〜っ!!」

 ……いいぞいいぞ〜ッ?!?!
 ますますガッツポーズ展開で、完全なる三好×で、私はもうこの感情をなんという名で呼べばいいのか分からない……。

 「……なるほど。確かに、遊園地でしか見られないし味わえない、言葉に詰まるほどかわいいな。……酔った時とはまた違う」

 「ふふ、かわいいね」

 神永さん、田崎さん、それぞれの感想を聞きつつも……さて、三好さん、どうします????

 「……さん、少し手を放しますよ」

 えっ、放すのッ?! が進んで三好さんにくっついてるのにッ?! バカなのッ?!?!
 ――と私が頭の中で絶叫する中、も絶叫する。

 「えっ?! やだやだやだ!! むりっ! やだ! やだむりっ!! えっなんで?! やだしんじゃうしんじゃう〜っ!!」

 「死にませんよ、大丈夫です。僕がそばにいるんですから。……いいですね、放しますよ」

 ああ゛ぁ〜、ったく三好さんは肝心なとこで「えっ、や……! ……え、」…………。

 「さ、行きましょうか。さん、目をつぶっていても、耳を塞いでいても結構ですよ。早く出ましょうね」

 「……っう、うぁああん! うんっ、もう出る〜っ! んんっ、ぜったいいっしょじゃなきゃ、だめだからねっ」

 「……もちろんです」

 ………おい……おい……おいッ!!!!(血涙)


 「……ねえ今の見ました?! 悶えつつもを抱き上げ、更には背中ポンポンとかめっちゃレベル高いこと“あの”三好さんが――ってなんでアンタらまで萌えてんですか?! いや、分かるけど! アレ言われたいでしょ?! 私も過去に何度も聞いてますよこの『絶対一緒じゃなきゃだめだからね』はッ!! だけど自分に言われるのが一番めちゃくそかわいいし一番興奮すんだよッくそッ三好さん代われ……ッ!!」

 私が悶えに悶えるということは、この二人にとっては尚更ですよね……というお話であった……。
 さすがにこの暗さの中で顔色まで窺うことはできないけれど、まぁ少なくとも神永さんのほうはお察し……(合掌)。

 「……いや、なかなか言われる機会もないだろ、あんなの……。俺は今、きみにはっきりと感謝の念を抱いたぞ……聞けてよかった」

 「やっぱり俺がそばにいてあげたかったな。あんなにかわいいところ、独占できるなら」

 ふふふ、という田崎さんの笑い声を拾いつつも、遠くなっていく足音も聞き漏らさない私の耳は大分優秀。

 「さっ! 行きますよ!! まだ終わってませんからね! あともう一発ありますからね!! 見逃せないので走ってくださいほら早くッ!!」


 「さん、ほら、もう外ですよ」

 は外に出たことだけは分かっているようだが、三好さんの首にぎゅうっとしがみついて離れない……とりあえずパシャる……。
 三好さんはをしっかりと抱き上げてはいるものの、体に変に力が入っているのがよく分かる。……初々しいかよ最高……。

 「う〜っ、うぅ、」
 「……大丈夫ですか?」
 「……っだ、だいじょぶじゃない……」
 「……どこか入りますか。休憩です」
 「ん、」

 もう色々と限界に達したらしい三好さんが、「……さん、」と言った。声に力がない。
 「ん、」と甘えるように擦り寄るにびくっと肩を揺らして、いよいよ「…………このままでいいんです?」と決定的なセリフを口にしたので、さすがにも色々と気づいた。

 「ん…………ん゛?! いっ、えっ、あっ、ごっ、えっ、みっ、みっ、三好さっ、あっ、ご、……すみませんすみませんすみません……っ!! ……っあ、」

 慌てて三好さんから離れようとしたの体がぐらついた。あっと思う前に、もちろん三好さんがしっかりと抱き直した。

 「……急に動くと危ないですよ。まずは目をこの明るさに慣らしてください。そうしないと痛むでしょう」

 「すみませんすみませんっ、あのっ、おろして――」

 ああ……ああ……。

 「慣れるまで」
 「え……?」
 「さんの目が慣れるまで、このままです。……危ないですから」
 「す、すみません……本当にすみません……」
 「いえ、お気になさらず」

 ……三好×最高……には見えてないだろうけど――三好さんの耳、真っ赤だよ……(拝み)。


 「みんな大好き甘えんぼちゃん〜ッ!! そしてガチ照れMAXの三好さん〜ッ!! ッアー!! ……あー、でもまだ親密度足りないっていうか、が正気を取り戻すのが先だったかぁ……。ホントならあそこで『もう今日ひとりで寝れない……。おうちかえれない……。……ねえ……お泊まりしちゃだめ?』っていうのがあるんですけどね……」

 まぁ唯一、残念なところを挙げるならコレだな……まぁ贅沢は言わない。むしろやっとまともな、それもこれほどまでの三好×が見られるとは思ってなかったわけだから充分すぎると言っていい最高……(血涙)。
 余韻に浸りつつも呟いていた私に、神永さんが難しい顔をして「……田崎、おまえならどうする?」と言った。
 それに田崎さんが「そうだな……まぁ、この場合は彼女の部屋まで送る」と答える。

 「だよな。俺もそうする」

 「今日は楽しかったっていうありきたりな話をして――最後に『お化け屋敷ではかわいかったね』、って言って帰る。……俺はその場で『帰らないでください』だと思うけど」

 「いや、ちゃんなら笑って見送る。――が、あの様子だとエントランス辺りで電話してくると思う」

 「なるほど、それもあるな」

 「エリートの分析やめて?! でもどっちもすごいイイさすがかよ……私はいつも先に『今日はうち泊まりなよ。ね?』って言っちゃう……」

 なんでもかんでもすぐ分析するのはエリートだから? エリートはみんなそうなの?? と思いつつ、「そうすると、さんなんて答えるの?」という田崎さんの言葉には自信を持って答えた。

 「『……それ、ずっと言ってほしかった……』って。安心したぁ〜って顔して。うるうるした目で」

 「……そうか」

 「いいね、それ。俺もそう言ってもらえるようになれるといいんだけど。あはは」

 ハッハッハ! 今のところコレ聞けるのは私だけでしょうけどねッ!!




 「…………」

 え……何のあの顔……。

 狙った女の子にはとことんロマンチスト。

 神永さんの言葉通り、三好さんは遊園地の締めに観覧車を選択したわけだが――乗る時には特にどうしたというわけでもなかったが、地上へ降り立った今……顔面蒼白……。
 対する三好さんは超ご機嫌何があったの怖すぎ……とは思うものの、三好さんがご機嫌でが顔面蒼白ということは、“何かしら”があったというわけだ……めっちゃ気になる……これはによーく話を聞かねばならないな……。

 神永さんがしかめっ面をしながら、「……三好、何をしたんだかな。ちゃん、相当ショック受けてる顔だぞ」と呟くように口にすると、田崎さんは爽やかな表情のまま「さてな。まぁいい休日だったんじゃないか? 三好にとっては」と言った。

 まぁ“何”があったにせよ――。

 「私にとっても充分いい休日でした……なので後はがこのデートで三好さんへの印象をどう変化させたか、それだけです……」

 もうありとあらゆるものに圧倒的感謝……(拝み)。

 「あんなに真っ青な顔してるんだから、期待できないと思うけどな」

 ――という神永さんの無情なる一言にはさすがに「そういうこと言わないでください多少なりとも変化があればこっちのモンですから!!」と反論しとかないと不安になるけどなッ!!!!
 ついでにいうと神たる田崎さんの「あるといいね、あんなにかわいそうな顔してるけど」という言葉が追い打ちだよッ!!!!

 …………聞こえない聞こえない三好×に不利な情報は何一つ聞こえない……。






画像:十八回目の夏