お決まりの居酒屋で、ちゃんのお話を今日も今日とて聞いているのですが――今回は三好さんの(悪)愚痴ではないんだ……ッ!! 「ねえねえどうしよう……! あれから一人でも考えてみたんだけど、やっぱりなんにも思い浮かばなかったの〜!! そもそも三好さんが満足するって何? わたしに満足してほしいって言うならなんでほっといてくれないの?? 余計なお世話だよ!! おうちで寝てたいのそれでわたし満足するよ〜っ! ねえ聞いてるっ?」 ま、まぁ三好さんが嫌だという点は変わりないのだけども、今回のの悩みというのは――三好さんとのッ! デートにッ! ついてッ!! デートだ……ついに三好×のターンが回ってきたということなんだ(血涙)。デートって言ったらがブチ切れるの分かってるから言わないけどこれはデート以外の何ものでもない……全私歓喜……。 そのデートについて、はどうしようかと前述の通り頭を抱えている。三好さんに誘われて頷いてから、ずっと落ち着きなかったはやっぱりこういう感じで悩んでたわけね…………つらい……。もっとこう、あるじゃん……? 私は違う意味で悩んでほしかった……。どこ行きたいとか何着るとかそういうやつ……。 とりあえず半泣きのちゃん大天使。でも私にも譲れない思いっていうのがあって……私の仕事(という名の夢)を応援してくれるって、ちゃん言ったよね……? そういうわけだからここは甘やかさない……ッ! ――とはいえ、そんなこと言うわけにいかないし、態度に出すわけにもいかない。 いやでもテンション上がりすぎてどうにかこうにか、せめてが納得するかたちでデートに向かわせたいんだよ……ッ!! 「き、聞いてる聞いてる! 大丈夫! 私も考えてる! ちゃんと(私が満足する三好×のデートプラン)考えてる!!」 「ていうか断れないかな〜っ! ホンット行きたくないの!! 絶対絶対絶対! 行きたく! ないの!!」 ……この流れはまずいイコール私の手には負えない。 「わ、分かった、分かった! ……、ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」 「――という感じで、もうデートプランどころか断る理由を考えてる状態です」 私が真剣に目を光らせているというのに、神永さんは面倒そうに煙草の煙を吐き出した。 ……こいつ今んとこ独走状態だからって……ッ! ――というか。 ちらっと私の隣に座っている田崎さんを盗み見る。 田崎さんに呼び出されてから、初めて二人に声をかけたわけですが――意外とあっさりと神永さんがオッケー出したので若干拍子抜けした。……なんだかんだ言ってやっぱり仲良しです?? いや、そんなことはどうだっていい。いや、二人が協力――協力……? してくれるのはありがたいから、やっぱりどうでもよくない。とにかく、またこうして“三好×同盟”の三人が集まれたのでよかったな……ということが言いたい。 神永さんがふぅっと煙草の煙を、まるで溜め息のように吐いた。 「もう行かせなきゃいいだろ。強要して余計に――きみの言うちゃんの“三好嫌い”、あれがもっとひどくなるのは困るんだろ?」 そう言われると確かに……としか言いようがないし、これ以上“三好嫌い”が悪化したらどうしょもなくなる終了。だって彼氏力ダントツのトップを誇る神永さん、ありとあらゆる方面に万能感凄まじい(しかものドストライク)の田崎さんが脇を固めてんだよ?! これ以上の下落はもうどうしょもないでしょ?!?! お話はこれで終わりです、次回作に乞うご期待! …………まだ始まってないのに……実るどころか芽生えてさえいないのに……。 でもッ! だからこそッ!! ここまできて諦めろなんて無理に決まってんだろどう考えてもッ!!!! 独走状態の人には分からないでしょうけど!! 独走状態の人には分からな以下略ッ!!!! 「う゛っ」と言葉に詰まりつつも、三好×推しの私がここで怯むわけにはいかない……ここへきてやっと回ってきたんだよ三好×が……それをどうして諦められるっていうんだよ……血涙流すほどに歓喜してんだぞこっちは……。 「そ、それはそうなんですけど! でもやっと三好×のターンなんですッ!! “あの”三好さんが! やっととのデートまで話を持ち込んだんですよ?! 今までどんなシチュすら無駄にしてきたんだから、もうここでなんとか挽回――いや、そこまではいかなくても! 三好さんはのことを嫌ってないっていうのが伝わればそれでいいからッ!! だからなんとかいい案お願いしますよ場数踏んでます経験値高めホント言うと実はカンストしてるけど暇つぶし程度にはログインしてる神永さんッ!!!!」 「だから嫌な言い方すんなって言ってるだろ! 何度言わすんだきみは!」 神永さんはそう言って煙草をぐりぐりと灰皿に押しつけたが、それでもかわいいちゃんのことなのでシカトはできないらしいやっぱりお兄ちゃん気質かよ。あ、いや、あの彼氏力を目の当たりにしてはただのお兄ちゃん枠にははめられないんだよなホント……。いやだから神永さんとかどうだってよくて!! と頭を振った。 神永さんは私の様子を見て溜め息を吐くと、それから片手で頬杖をついた。 「……はぁ。……まぁ今のままじゃ、ちゃんがかわいそうだしな。自分を嫌ってる上司に意味が分からないちょっかいかけられてるって状態なわけだから」 そこまで言って、また煙草に手を出すのでこいつホント……あからさまだな……にマジ恋1000%かよ……。 ――と思いつつも、田崎さんのいる前でそんなこと言うわけにはいかないし、何より今は神永さんなんかのことよりも三好×の初デートのほうが大事。むしろ今コレより重要なことなんて何一つこの世に存在してない。 ……そう思わせるほどに私の推しが最強ということを主張したいのか、三好さんがポンコツだと主張したいのか自分でも微妙……。 「――って言っても、三好だからなぁ……。普通なら簡単にやってみせるし、そもそも自分で考えたプランでサラッと落とすだろうが……相手が相手だし、あの様子の三好じゃ俺が考えるようなデートプランなんか絶対うまくやれやしない。……考えろって言ったって手詰まりもいいところだ。――田崎、おまえどう思う?」 神永さんの言葉に思わず溜め息を吐いた。 ……三好さんて本来はデキる人だし……神永さん曰く女の子を面白いくらいサラーッと落としてくらしいんだもんな…………そういう具合いにどうしてちゃんを落とせない?? いやまぁ、の三好嫌い――いやそれもそもそも三好さんが変な構い方するからであって…………三好さんの圧倒的ポンコツ感……エリートエリートした顔だけのバカ……。 マジもう頭抱え案件だなコレ……とテーブルに突っ伏しつつ、ちらりと田崎さんを見る。 ……こちらも煙草を吸い始めたのであからさま感があからさまに仕事してる……。 田崎さんと目が合ったのでビクッとすると、田崎さんはにこりと笑った。……こええんだよこれがまた……。 「まぁ神永の言うことはもっともだし、今のままデートを強行しても……さんには余計に警戒心を与えることになるんじゃないかな。何を考えてこんなことするんだって。現に彼女、そういう口振りだろう? ……けど、きみはそれじゃあ満足できない――というか、不安なわけだよね」 若干食い気味に「当たり前じゃないですか私の夢かかってんですからッ!!」と悲鳴交じりに叫んだのは許してほしい。だってマジこれの結果次第で今後が決まると言っても過言じゃないんだから……。 田崎さんは灰皿にそっと煙草を預けると、ゆったりとした動きで人差し指を立てて見せた。 「なら俺から一つ、提案しようか」 この言葉を聞いて田崎さんを拝むなとか到底無理……。 「……おお……やはり神は違うなどっかのキャンキャンうるさいだけのナンパ野郎とは……」 「おい、きみ。まさか俺のことを言ってるんじゃないだろうな」 「他に誰がいんです?? っで! どういう案ですか田崎さんッ!!」 口だけは達者だな神永さんて人は……と、まるで犬をあしらうようにシッシッと手を振ると、神永さんは苦々しい顔をしてビールを煽った。 それはさておき、と止められない期待にうずうずしながら田崎さんに先を促すと、田崎さんはまたもにこりと微笑んだ。 「ドライブ」 「へ、」 「……なるほどな」と納得したような神永さんの言葉なんて通り過ぎていくほど、私はびっくりした。え、だって……え……? しかし、田崎さんは爽やかな笑顔を崩すことなく続ける。 先を聞いて、私は思わず首を傾げた。 「さんには行き先を指定させずに、ただドライブがいいとだけ言わせること。これだけだよ」 「……ドライブ……しかも目的地ナシとか三好さんにはハードル高すぎません……?」 ちょっと想像してみたら怖すぎて一瞬で強制終了させた。ヤバイ。考えちゃいけないやつ。いくら私でも妄想しちゃいけないやつ。バッドエンドしか出てこない。私は何度でも言うが三好×のラブラブいちゃいちゃ展開を所望しているので、そういうのは求めてない。 田崎さんは灰皿に置いていた煙草に手を伸ばして、それをそっと吸いあげた。次の瞬間、煙を吐き出しながら「食事に誘わせるほうがまずいよ。あいつなら……そうだな、“花菱”だなんて言い出しそうだろう?」と言うと、灰皿に灰を落とした。…………。 「え゛?! 田崎さんなんでソレ知ってんです?!」 私の言葉に、田崎さんは肩を揺らして笑った。 「なんだ、食事に誘ったって“花菱”だったの? ふふ、“花菱”か。うん、いい店なんだけど……ねえ、俺がさんとのデートの時、どうしてランチをあの店にしたか、水族館にしたか、分かるかな?」 あの時のことを思い出してみると――あぁ、と思い至った。 「水族館に関しては場数以下略の神永さんに聞きましたけど……」 「だからきみなぁ……!」 やっぱりうるさいな、と一睨みすると、神永さんは呆れたような溜め息を零しつつ、田崎さんに目を向けた。 「水族館に関しては、“そういう”雰囲気にしやすいから。ランチをあの店に――手軽なカフェを選んだのは、さんに気負わせないためだよ」 にこにこしながらそう言う田崎さんは、答えを引き出してあげようとするような目線で私を見つめる。 んん……と頭を捻りながら、「ええと、」と考えをまとめていく。 「……はあの“せんせい事件”のお礼として田崎さんとのデートをオッケーしたわけで、お会計も自分で出そうとしてましたね……。田崎さんが颯爽とシャレオツに奢りましたけど」 田崎さんはまた灰を落として、「さんにもそう受け取ってもらえてたらいいんだけど……」と前置きして「初デートで――それも“花菱”になんて連れていかれたら、その代わりに何を要求されるのか、どう振る舞えばいいのか、とにかく緊張しちゃって会話もまともにできない。つまり口説くチャンスなんて得られないんだよ。だから俺はあの店を選んだんだ。あらかじめ彼女の好みだとか、店の雰囲気なんかは実際に行ってチェックはしたけどね」とか平気な顔して言うから私は――。 「……田崎さんがガチの神様すぎて震えが止まらない……。え、じゃあどういう理由でドライブがいいんですか?」 もうここは素直に教えを乞うことがすべてだ……私なんぞが何か考える必要はない……すべて神に任せておけばいい……万事オッケー解決オーライ……(拝み)。 田崎さんはいよいよ短くなった煙草を灰皿に押しつけると、左手で頬杖をついた。右手はテーブルで――て、手品……? 魔法……? 神力……? カード“で”遊んでるんじゃなく、カード“が”遊ばれてる……。 田崎さんが手を振るたびに、“あの”ジョーカーが現れたり消えたり…………こええ(迫真)。 ――とか思っても、田崎さんが神であらせられることには変わりない……(拝み)。 「簡単に好意を伝えられるからだよ。わざわざ車を出して、それもそう広くない空間で長い時間を二人きりで過ごすんだ。さすがにそうなれば三好も嫌味を言うような暇はないだろう? さんに夢中になって」とかいうコレ、納得する以外に何があるの?? 「なるほど……言われてみると……大好きオーラのだだ漏れ不可避……」 今度は妄想していいやつ。……ヤバイ、ご機嫌な三好さんがご機嫌にのことゲロ甘い微笑みで見つめて、最近ガンガン使ってる甘い言葉で攻めてくんでしょ……? このタイミングで“さん”って呼んでみる? いやいっそのこと信号待ちとかでの手とか握っとく?? …………夢広がりすぎてヤバイ……。 ――と悶える私に、田崎さんがありがたくも燃料投下してくれた。 「そうやってゆっくり会話ができる空間を意図的に作ることによって、さんも嫌でも三好の人となりを知ることになるわけだから……さんに夢中になってる状態の三好なら、うまいことやれるだろうし、まともな会話をしていればさんのほうも警戒心は解ける。三好次第ではいよいよ口説けるかもしれないってことだよ。どうかな?」 ……ついにきた……が三好さんの“大好きオーラ”をじっくり実感する時がきた……そしてそれを言語化されるんでしょ……? あの声で、あの絶妙な吐息感で、色っぽい神がかり的なタメを駆使して、車の中という密室で、ちゃんは体感するんでしょ……? しかも、なんだかんだで実際のところはサラッと面白いくらいに落としていく――いわゆるプレイボーイなわけでしょ三好さんて……を前にすると見る影もねえなって感じだけど、最近まともな仕事してるし、そういう……そういうの期待していいってことでしょ……?? 「……田崎さんにはもうホントなんて言ったらいいか分かりません……天才……」 「あはは、じゃあドライブにしたらいいんじゃないかって提案しておいでよ、さんに。彼女自身が何も思いつかない状態で、何よりきみが言うなら素直に聞き入れるだろう。これ以上待たせるのもおかしいし、とりあえず席に戻ったら?」 「はい……もう田崎さんホント神……いってきます……」 爽やかな笑顔を浮かべて、田崎さんが手を振る。 神永さんはその様子を白けた顔で見ながら、私にゆるく手を上げて見せた。 私はもうこの場で土下座して田崎さんを拝みたい気持ちで頭を下げつつも、サッとのもとへと向かった。 「……何食わぬ顔して、よくあんな嘘つけるな、おまえ」 俺がそう言うと、田崎は煙草に火をつけながら「分かってて黙ってたおまえに言われたくないよ」と返してきたので内心舌打ちをした。 こいつのやり方っていうのは、あの子に賛同するわけじゃないが――まぁ嫌味を感じさせないところがあるので、誰も疑いやしないのが厄介だ。 俺も煙草に火をつけて、じっと田崎の目を見る。 にこにこ愛想のいい――ここでもあの子の表現を使わせてもらえば、“爽やか”な笑顔を浮かべているが、その目の奥はまったく読めやしない。まぁ、思うところはもう分かっている。あの子の態度を見てみれば一目瞭然だ。 それにしたって、やることが結構えげつないなと思うと、他人事――それも三好のこととはいえ、溜め息も吐きたくなる。 「……女の子の六割――もしくはそれ以上が、付き合う前のドライブには抵抗がある。下心があからさまだからだ。それこそ、何を要求されるのかってな。ちゃんのことだ、あんな狭い空間で三好と二人っきり。……怖がるに決まってる。まともに会話できるとは思えない。しんどい思いさせるだけだろ。それをあんなふうに……」 田崎は薄らと笑った。 「嘘しか言ってないわけじゃない。俺とのデートの話は本当だろう?」 「屁理屈を言うな」 「分かってて黙ってたんだ。おまえも共犯だよ、神永。――三好にうまいことされたら困るんだ、俺は」 今度こそしっかりと舌打ちをした。 「……それに関しては同感だ」 席に戻ると、は難しい顔をしながら額を押さえていた。 「〜、ごめんね、お待たせ〜。……それで、三好さんとのデー……ん゛ンんッ! お、お出かけのことだけど〜」 私の姿を見てぱっと安心したような顔をすると、次の瞬間には少女のように笑った大天使ここが楽園か……。 「! なんかいいアイディアあった?! やっぱりどうしても思い浮かばなくって……」 「ドライブ」 食い気味にそう答えた私に、はさっきの私と同じく――いや、うちの子はフェアリーだから私と“同じく”とかありえないんだけど表現的にそうさせて語彙力なくてすまん――首を傾げた。 この“きょとん”顔マジかわいいから今度いきなり写メってみたらおんなじ顔してくれるかな欲しいその画像……。 「え?」 私はかぶせるように「ドライブ一択だよ」と迫った。 「え、えっ、でもわたし行きたいとこなんてない!」 「行き先なんて三好さんに丸投げでいいんだよ! だってほら……みっ、三好さんの気が済みさえすればいいんだからさ!」 せっかくの神の啓示を無駄にするわけにはいかないので、たぶん私の目は今ギラついている。 それなのにはピコン! という顔をして「っあ!」と声をあげた後、どう考えても天使の歌声かな?? というような感じで、ご機嫌に「そっかぁ〜! そうだよね、三好さんが満足してくれればいいんだよね! ん〜っ、ありがとうっ! 解決したぁ!」とにこにこするのでマジ秘蔵っ子が尊い……。 「(んんん゛ンッ!!)そうッ! そうだよ! 解決してよかったねえ〜! 私も(三好×のターンがいよいよ叶って)嬉しいよ!」 それから二人できゃっきゃしていて、もご機嫌に飲んでたもんだから、いつもより早く酔いが回ってるなぁ…………やっぱり天使かな?? と真面目に考えているところへ――。 「さん、こんばんは」 三好さんが現れて、タイミング的にこいついい感じの場面で登場しようとスタンバってた、もしくはずっとちゃんの酔っていくまでの過程を見つめてたんじゃないでしょうね……ッ?! と疑いの眼差しを向けていると、うちのが大天使だった……。 「! みよしさんっ! 来週の土曜の件、決まりましたっ!」 「……本当ですか?」 「はいっ!」 あれだけ渋っていたがあまりにもご機嫌なので、三好さんが若干戸惑っている……。めずらしいこともあるもんだ…………後々に使えそうだから写メってもいいかな?? ――とか思ってたら、三好さんがネクタイピンを何やらそわそわいじり出したのでビックリした。 ……え……なに……喜んでるの隠せてない……いつでもの前ではそんな反応して見せたことないのに……素直……あっ、でもそうだよね……こんなご機嫌な――三好さんに対してご機嫌な態度取るなんて初めてだよね……って思ったら泣けてきたずっと待ち望んでたのコレだよ三好×最高……。 「……そうですか。……本当にいいんですか、僕が丸一日、あなたの時間をもらっても……」 「? はい。え、違うんですか?」 こてんと首を傾げたを見て、三好さんの頬がほんの少し紅潮した。いや、ほんの少しどころの話じゃないかもしれないここの照明柔らかいオレンジだから…………言いたいことは分かるな? それに三好さんて、男の人にしては白く透き通るような肌なので、なんか…………やだもう甘酸っぱい恋心隠せてない感じこっちが恥ずかしい最高……。 それから片手で目元を覆ったかと思うと、次には柔らかく微笑んで見せた。幸福感とへの愛情すべてが全身から溢れ出てる三好さんピュアでヤバイこういう一面があるんだっていうのもっと全面的に出していきましょう(真顔)。 「いえ、そうです。……本当に、いいんですね。……本当に……」 「えっと、三好さんのご都合が――」 「それで、どこへ行きたいんです?」 ここで遠慮と称して断られたらどうにもならないもんね、オッケー食い気味に質問、オッケー。三好さんのやる気に比例して結果出まくってて全私震える……。 「あっ、はい。ええと、三好さんにはご負担おかけしちゃうし、申し訳ないんですけど、」 「僕はあなたのためなら何も惜しくありません。どうぞ、なんでも言ってください」 視線を泳がせるの手をそっと握って、三好さんは優しく微笑む。 ……マジでできるんじゃん……やればできるんじゃん好き好き〜っていうの全ッ然隠せてないお花畑背後に見える……。 は数秒俯いた後、バッと勢いよく顔を上げた。意を決して……! という表情である。 「ど、ドライブ! 行きた……いん、です……」 尻すぼみに消えていく言葉に、ん゛ン……まぁからしてもドライブはハードル高いだろうし、しかも車を出してもらうのに他は全部丸投げとか、元々が真面目だから罪悪感があるよね……と思いつつ、神の啓示には間違いなどありえないから(迫真)。 がんばれ〜(私の夢のために〜!!)!! と念を送る。あと三好さんはこの調子でお願いします〜ッ!!!! 「……ドライブ……? 僕と、さん、二人で?」 三好さんは目を丸くして、震えた声でそう言った。ついでに言うとの手を握っている手も震えてるけど放しはしないあたり色々と染み入るものがある……感涙……。 はサッと顔色を変えて「え、だ、だめなら……」と眉を下げた。う、うん、いつもの三好さんではありえない反応だもんね。なんかヤバいって思うよね……と思いつつ、三好さんをちらりと窺うとやっぱりほんのりと紅潮した頬で微笑んで「いいえ、とんでもない。……本当にいいんですね?」と念押しした。……分かるけどどんだけ確認すんだよ分かるけど。 あまりにも三好さんが(しつこく)確認するので、が震えた声を出した。 「あ、あの……だめならそれで――」 「どこへ行きたいんですか?」 よし、またも食い気味に質問オッケー、仕事できる三好さんは素晴らしい……。 「え、あ、えっと……」 「何も遠慮することはありませんよ。あなたの好きなところへお連れすると言ったじゃありませんか」 ここでが爆弾投下した。 「……み、三好さんの、行きたいところ……連れてって、ください、」 できるだけ三好さんの機嫌を損ねまいという表情である。私には分かる。 でも……でもッ!! うるうるした目で、じっと三好さんを見つめるその表情は……はたから見たらどう見ても彼女が彼氏にやる「おねがい……」っていうおねだりにしか見えないッ!!! つまり?! 三好さんが?! 三好さんがッ?!?! 「……、分かり、ました。……考えておきます。…………それじゃあ、僕はこれで」 ガチ照れMAX。口元を押さえてふるふるしながらよろよろと去っていった……。 のあれは究極にかわいい……心中お察し……私もくらっときたので分かりますよ最高……。 「あっ、は、はい! お、お疲れさまです……?」 そんな三好さん(と私)の内心などもちろん分かるわけないので、は首を傾げてその姿を見送った。 「ね、ねえ、三好さんの様子、おかしくなかった? もしかしてドライブってアウトだったんじゃ――」 もちろん私はのそんな不安を取っ払うべく、すぐさま口を開いた。怒涛の攻め。 だってこれで『やっぱり行きたくない!』と言われたらお終いだ。 「そんなわけない。大丈夫。あれはものすごく幸せすぎて戸惑っ――とにかく! だめって言わなかったんだから大丈夫だって! 無理だったり嫌だったりするならさ、三好さんだよ? はっきり言うに決まってるじゃん! だから大丈夫。大丈夫だから素直に来週の土曜はドライブ行こうね? ね??」 はきゅっと唇を引き結んだ後、「も、もうここまできちゃったら断れないもん……ちゃんと行くけど…………」と言ってしかめっ面をした。それでもフェアリー感抜けないとかうちの子ヤバイ。 「大丈夫だってば! きっと楽しいよ〜? 絶対そう! 少なくとも三好さん(と私)がよかったなぁ〜って終われればいいんだから! ねっ? それよりさ、三好さんどこ連れてってくれるんだろうね〜? キレイめバリかわいいお嬢さんスタイルでいこうね〜」 「あー……来週かぁ……がんばろう……」 はぁ、と溜め息を吐いて、はビールジョッキの持ち手をぎゅっと握った。 の不安は分かるんだけど、私は念願の三好×の初デートが嬉しくてしょうがないよごめん……。 「うんうん、頑張って(三好×の初デート)成功させようね! ……何度もごめんねトイレ行ってきていい?」 「え、なんで謝るの? うん、いいよ?」 「ありがとうそれじゃあいってきます」 「――というわけで念願の三好×ですどうしようトキメキが止まらない……田崎さんってホントすごい……あのが……三好嫌いのが……ああも簡単に頷くなんて……さすがの“理想の王子様”……のことならお見通し感……」 やっぱりこの場で土下座すべきです?? と思いながら田崎さんを拝むと、その田崎さんは爽やかな笑顔で「あはは、違うよ。きみが言うから説得力があっただけのことだよ。……よかったね、三好とさんの初デート、無事に決まって」と言ってくださった……。……この人も色々と難儀してるっていうのに……それでも一応は三好×同盟での仕事はして「さて、三好はどこに連れていくかな?」くれ……て……る? のかなコレは?? ん???? 神永さんは煙草を取り出すと、中の葉を詰めるようにトントンとテーブルを叩いた。それから火を付けると「さぁな。まぁいつもの調子なら、まずは相手の好みをチェックして――って、そもそも三好の場合は夜しか誘わないからな。夜から朝までは何度も聞いた覚えがあるが、朝から晩までなんて初めて聞いたぞ。あいつ、どうするつもりだ?」と言いながら煙を吐き出す。 ……プレイボーイとは聞いたけど三好さんの女慣れ感は田崎さんとは別物で過去の女性たちに感謝とか言えないやつ……なんてやつだ三好さんアンタって人は……。こんなのがに知れたら事だぞ……。なんだよ夜“しか”誘わないって……なんだよ夜から朝って……ただれた感じしかしないじゃねえかよさっきのピュア感どこ……?? でもだからこそ朝から晩までとを誘うのは本気感が…………そのまま“次”の“朝”迎えちゃったらどうしよう……いや、いくら“まとも”な仕事するようになったからって、三好さんもさすがにそこまでは持ち込めないだろうし、何よりそんなことしようもんならお話終わってしまうの三好さんへの好感度がマイナスどころかそれを超越していよいよ“無関心”にまで達してしまう恐れが……。 頭抱え……と思っているところに、田崎さんがなんともない調子で言った。 「とりあえず、車を出す、朝から晩まで、おまけに三好の好きにしていいっていう条件なんだ。遠出はするつもりなんじゃないかな。まぁ今週はとにかくさんの好みを知ること、リサーチに必死になるだろうね。俺は締めは夜景の見渡せるデートスポット、もしくは同じく夜景の見えるレストランだと思うけど……神永はどう思う?」 それに神永さんもなんともない調子で答える。 「まぁそんなところだろうな。あいつ、女の子に対しては――というか、狙った子に対してはとことんロマンチストだから」 …………。 「エリートの分析ヤバイ完全に三好さんがやりそう感ヤバイ。……アンタらいっつもそんなことばっかしてんです……?」 私の言葉に田崎さんはにこりと笑うと「さてね。どうだと思う?」と言うので背筋震えた。 「いや、大丈夫です聞きたくないです田崎さんの爽やかな微笑みマジこええ」 「まぁ、」と神永さんが口を開く。 「初デートだし、無難なところでいいだろうと思うけどな、俺は。変に構えさせちゃ意味ないだろ」 「そういうの完全にフラグなんでやめてもらえます?? しかしチャラいを極めてる神永さんの説得力……」 「だからそういう嫌な言い方をするなって言ってるだろ! ったく……で? 当日はどうする気だ? きみ」 呆れている、しかも白けた目でじっと私を見つめる神永さん……。 「は? 追跡する以外に何があるんです?? やっとまともな……ホンットにまともな三好×のターンなんですよ……? 見逃してたまるか……ッ!! というわけなんで神永さん、運転お願いしますね」 溜め息吐かれたところでなんでもないこっちはあと一歩で夢叶うってとこまできてんだからなッ!!!! 神永さんは灰皿に煙草を押しつけた。 「……だと思った……」 |