…………みんな、聞いてくれ……やばいんだ……今までで一番やばい状況かもしれないやばい……。

 「きみは知ってると思うけど」

 避けては通れない道とはいえ……こんなに早くに立ちふさがるとは思わなかった……。つまり簡単に言うと…………た、田崎さんに呼び出されてしまったんだこれが……ヤバイでしょ……?

 そろそろ昼休みだなぁとデスクで伸びをして、今日はと、あの交差点を渡ったカフェでランチできるかな……最近ホント色々と疲れることばっかりだったから――と思っていたところで、田崎さんがライン飛ばしてきたんだ……。
 『昼休み、ちょっといいかな』とこれだけ。これだけ。アッこれ知ってる死亡フラグってやつでしょ……? と震えたのは仕方ない。だって相手は田崎さん。ラスボス。最近の問題という問題の原因で――人に擬態してるだけの神様……。

 いや、どう考えたって死ぬでしょこれ。

 そうは思ったもののシカトなんてしたらもっとヤバイことになるであろうとは予想できるし――田崎さんのほうから私を呼び出してきたわけだから、どうにもこうにも読めないそのお考えをどうにか理解させていただくヒントを頂戴できるのではないかという一縷の希望……。

 ……というわけで、素直に指定された場所――“三好×同盟”ご用達の屋上へとやってきたのだが……ここ立ち入り禁止なわけだからね……私たち以外に人はいないの。……めっちゃ怖いマジで死ぬの? 私死ぬの?? 夢叶うどころかその兆しすら見えてないのに???? どう考えたって震えるなってほうが無理でしょ……とガクブルしつつ、田崎さんのお言葉を待っていた。
 ――のだが。……し、知ってると思うけどって……何、どれ、そんな遠回しにハッキリしないことを疑問符なしで当たり前のように言われても、凡人には理解できないというか、あの……あの……。

 「……な、何をですか」

 震えた声でなんとか絞り出すと、田崎さんは困ったように笑った。
 それからなんともまぁ優しい顔――とてもじゃないけどラスボスとか失礼すぎて言えない――をして、呟くようにぽつりと零した。

 「彼女、いつも泣いてたんだ」

 「は、」

 「ここは立ち入り禁止だから、誰も近づかないだろう。……冷たいだろうに階段に座って、いつも一人で泣いてた」

 田崎さんがジャケットをひらりとめくってみせたが、私は頷きもせず、首を振ることもせずに「……のこと言ってます?」と田崎さんの表情を窺った。
 田崎さんは内ポケットから煙草を取り出して火を付けた。それからふぅっと煙を吐き出す。

 「きみと俺との共通の話題って、さんのこと以外にあるかな?」
 「いや……ないですけど……」

 田崎さんが何を言いたいのか、私には分からなかった。
 が泣くのは――まぁあの居酒屋で三好さんのことを愚痴る時、大抵はそうなので知っているけれど、この扉の向こうの、屋上に繋がる人気のない廊下。あんなところで一人で泣いてたことがあるなんて、私はまったく知らなかった。

 「……俺が知ってるさんって、いつも泣いてたんだ。初めは気にしてなかったんだけど、あまりにもいつもいつも泣いてるから、どういう理由かなってずっと思ってた」

 田崎さんは伏し目がちに少しだけ視線を落として、ゆっくりとそう言った。その時のことを、思い出しているように。
 私はなんだか居心地悪くて、じっとコンクリートを見つめる他なかった。
 田崎さんは淡々と、あった事実だけを話している――という感じで、なんとも言えない雰囲気だ。
 ……どうにもこうにも、田崎さんってなんであろうと絵になっちゃうから反応しづらい。聞き役に徹する以外どうしろと。
 風に乗っていく煙が、なんだか映画の演出みたいに思えてきて――神永さんとは放ってるオーラが違う……三好さんとかもう次元すら違う真のエリート半端ねえな……という感想しかない。

 「独り言を聞いてる限りだと、どうやら三好のところの子で、その三好に随分と構われてるっていうのが分かった。でも声をかけようと思ったことはなかったし――ただ、なんとなく彼女の独り言を……なんとなく、聞いてたんだ。こんなに泣くほど構うなんて、三好も珍しいなって思ったしね」

 田崎さんは灰皿にそっと煙草を落とすと、じっと目を閉じた。

 「それからしばらくして、三好が直属の部下の女の子を好きらしいって話を聞いて、すぐに彼女のことだって分かった。あぁ、なるほどってすぐ納得したよ。でも、それだけ周りが騒ぐほどにあからさまでも、さんにはまったく伝わってないどころか……」

 田崎さんはゆっくりと目を開くと、私の目をまっすぐに見た。

 「……三好は彼女をこんなに泣かせてること、気づいてるんだかなって思ったら――彼女、どうにも可哀想だなって、泣いてる声を聞いていて、思うようになった」

 ……何これマジで映画じゃん興行収入ランキングとかランクインしちゃうやつじゃん……。

 んん゛ん知ってたけど田崎さんて万能感凄まじいどうしようこの場面で絶対言えることじゃないけど萌えるなとか拷問……。
 お、落ち着こう私……と深呼吸して、田崎さんの言葉を待つ。
 
 「――それである日、彼女がいつもよりもずっと泣くから……声をかけたほうがいいかなって、思ったんだ」

 そう言うと、田崎さんはくすっと笑った。それから、普段だってすごく優しい話し方をするのに、もっと優しく「けど、俺が声をかける前にさんが『絶対三好に認めさせる』って言うから、どうにも出ていけなくてね」と言って、肩を揺らした。
 田崎さんはまた煙草を取り出して火を付けた。……この人もヘビー寄りなのかこれは……そういえば、の前では控えたくなるって言ってたことあったなぁと思うと、余計に居心地悪くなった。
 田崎さんの黒髪が風にさらさらと流れるのを見ていると、なんかもうホントこれ映画でしょ?? って言いたくてたまらない。
 この人さすがの“理想の王子様”だよ……完璧……涙出そう……ごめん私が言ったらダメなの承知だけど言わせて最高……。
 思わず口元を覆った私だが、さすがに場面が場面なので色々と堪えた。

 「……それからしばらく、泣くこともなくなって、その代わりに三好の愚痴を言うようになったから――彼女が泣かずに済むようになって、よかったなって思った」

 田崎さんはほんの少しだけ間を空けて、呟いた。
 それは私に聞かせているようで、自分に問いかけているようにも聞こえた。

 「……泣かないで済むようになったら、彼女があそこへ来ることもなくなったんだけど――おかしいよね。可哀想だって思って、泣かないようになったならそれでよかったって思ってたはずなのに……いつも心配だったんだ。俺の知ってる三好は何事にもスマートな男ではあるけど、だからこそ女の子をあんなに泣かせるほどきつい態度を取ってるなら、彼女、どうしてるんだろうって」

 私はここでやっと、「……つまり何が言いたいんですか」と言った。
 ちょっと声がかすれてしまって――うわ私これは田崎さんの感情につられてる気がするぞ……? ……やっぱ神永さんの時とは違うわ……とか思った独走してるところすみません神永さん。

 「初めてあの居酒屋できみたちの会話を聞いた時、すごく安心した」

 田崎さんが本当に安心した、というような顔をしてそう言うもんだから、これはまともに目を見たらいけないやつ……絶対感情移入しちゃうやつ……と一生懸命見ないように見ないようにと努めた。
 田崎さんは続ける。

 「あれだけ大っぴらに愚痴れるようになったなら、俺が心配するようなことでもないなって思って安心したんだ。――ただ、俺の名前を彼女が出した時、正直びっくりした。俺はさんのことを、まぁ一方的にだけど知っていて、でもまさか、彼女が俺を知ってるなんて思ってもみなかったんだよね」

 「いや田崎さん社内ですっごい人気あるのによくそんなこと言えますね……色んな意味で評価されてるでしょあなた……」

 何言ってんだこの人……とついつい溜め息を吐いてしまったが、田崎さんは「あはは」なんて笑って「そうだとしても、さんの口から俺の名前が出るなんて思ってなかったんだよ。だって三好にあれだけ構われてて、何も気づかない子なんだから。俺よりもきみのほうがよく知ってるだろう?」と言うのでもうこれは――。

 「田崎さん、もう結論お願いします怖いから。もう分かりきってることですけどはっきり聞かないと怖いんでもうササッとお願いします」

 「彼女のこと、本気だよ」

 「ああああやっぱりぃいいい……」

 思わずその場に崩れ落ちた。いや、そりゃそうでしょ……? これはそうなるでしょ……?
 田崎さんは私の様子を見て爽やかな笑顔を浮かべると、「どうせ聞いてるだろう? “ゲーム”のこと」と言って私に手を差し出したので、黙ってその手を掴んだ。引っ張り上げられながら、ウワァアッ!!!! と内心めっちゃ頭抱え……。

 「……確かに、初めはそんなつもりなかったよ。あの居酒屋で俺の名前を彼女が出しても、驚いただけで彼女が俺を本気で好きだなんて思わない。だって、まともに話したこともないんだ。俺が一方的に知ってるだけで。……ただ、三好がさんをどれだけ好きだとしても――あんなに泣かせるくらいなら、俺がそばにいるほうがいいんじゃないかなって思っただけ」

 ……う、うん……オッケー……田崎さんのポテンシャルの高さは充分すぎるほどに知ってますから、そういう顔するのやめましょうよ……確かに今は神永さんが大差で独走してますけど、あなたの“理想の王子様”で、しかもその自覚あるんだから有利なんだよ初めっから……。
 田崎さんはいたずらっぽい目をして続けた。

 「きみに許可を取ることない話だって俺は思ってるけど……これじゃだめかな? 俺が彼女を好きな理由」

 人に擬態してるだけの神様と凡人とじゃ――ってホントそれ。ホントそれな。今すごい実感してる。
 はぁ、と思わず溜め息を吐いた。……この人、爽やかな顔しといてとんでもないな……こりゃ読めるわけないわ……。
 神永さんの“優男”っていうのも分かるんだけど、私が思ってた『田崎さんて“色男”』これが今証明された瞬間――。

 「……確かに私の許可必要な話じゃないですけど……だったらなんでそれ言うんです?」

 「きみが俺を疑ってるから」

 爽やかにそう言われると余計に怖い。

 「う゛っ……で、ですよね……田崎さんて人間に擬態してるだけの神様ですもんねオッケー……」

 ――とりあえず田崎さんの言い分は理解した。
 ……したけども。

 「それは、俺が彼女を好きでも――本気で奪いにいってもいいって解釈するけど、いいのかな」

 ややこしいなホントもう全員が全員どうなってんだよ……の男運てホンット変動の幅すげえって言ったけど今回は過去の比じゃないな……今までに類を見ないぞこんな怖い展開……。
 頭痛が痛い状態の私は、「……私もう誰も信用できないです……なんなのアンタら……」と正直に言った。相手は田崎さんだし、ここで濁したところで意味はない。
 私はさっきよりも深い溜め息を吐いて、ずきずきと痛むこめかみをぐっと押し撫でる。

 「……私は三好×推しだって何度も言ってますけどね、だからこそそういう話されると困るんですよ……。だけど、どんな告白されようが状況的に信用ならないんです。田崎さんはもちろんですけど、もう三好さんすらヤバイんじゃないかって思ってんですよでもこんだけ色んな要素詰まってるVSあちこちにあると選び放題だなって思えばそれはそれで――ん゛ん! い、いや、とにかく!」

 私はちらっと田崎さんの目を見た。
 ……クソッ、やっぱ田崎さんはどうにもこうにもどこまでもの“理想の王子様”だなッ!! どう見たってその優しさですべて包んで――みたいな包容力あります、必ず大事にします感が溢れてる完璧だなッ!!!!
 ここのところホンット目まぐるしく色々一気に変化してるけど、今ここで田崎さんに言える結論としてはコレ。

 「……とにかく、もうなんていうか……を傷つけるようなことしないなら、それでいいです。どうせやめろって言ってもダメって言っても、アンタら聞く気ないでしょ初めっから。……そもそも好きだっていうのを私がやめろって言う権利はないですし」

 「あはは、それはそうだね。……俺も協力するって言っておいて悪いけど――負けるつもり、ないよ」

 「……でしょうね。ホンットにエリートこええな……」

 ……この人の自信についてはちゃんとした根拠あるからもう……(頭抱え)。
 ――っていうかさ?

 「田崎さんのビジュアルで“自尊心のかたまり”ってまさかのギャップでこれからどう攻めるの?? って思うと私も三好×推しって言っておいてなんですけどテーブルバンバンしたいですなんたってあなたの“理想の王子様”ですからね…………頭痛い……」

 唸る私を見て、やっぱり田崎さんは爽やかな笑顔を浮かべている。

 「三好にも――神永にも疑われて構わないけど、きみに疑われたままだとどうしようもないからね。これだけ伝えたかったんだ。ごめんね、わざわざ呼び出して」

 田崎さんはとっくに燃え尽きてしまった煙草を、灰皿に落とした。
 ……ホントすげえな田崎さんて何もかもが絵になるってどういうこと? ……真のエリートすげえ……。

 まぁそれはともかく。

 「……とりあえず、田崎さんと神永さんが不仲なまんまだと困りますから、一応“三好×同盟”は今後も頼みますよ。あなたたちも三好さんの動向分かるし、お互いに牽制し合えるし都合悪いってことはないんですから、いいですよね?」

 私の言葉に、田崎さんは面白げに答えた。

 「それは神永次第じゃないかな。俺は今きみに言ったことを伝える気はないし、三好にはもっと言う気ないんだ。きみが声をかけた時に俺たちが集まれば、そういうことでいいと思うよ。それじゃ、先に戻るね」

 屋上に残された私は、思わず呟いた。

 「……あー……なんでこんなことになってんだ予定になかったぞ……」




 疲れた……と思いながら、さて仕事だぁ……と若干白目でデスクに戻ったところ、「さん」と澄んだ声が静かに降ってきたので、私はぎょっと振り返った。
 ……疲れてるの私……なんなの三好さん……という気持ちとは裏腹にメモの準備する私。

 「っは、はい!」

 あからさまにビクッとしたが跳ね上がってそう言うと、三好さんは優しく微笑んで「来週の土曜の件ですが」と言うので、はほっとした様子で「あ、あぁ、はい」と返事した。
 ……神永さんの件があるからね、ビビるよねなら……三好さんの機嫌損ねるどころか引っ叩こうとしたわけだし、それでこんな微笑み浮かべながら声かけられちゃ、過去の経験からしてヤバイって思っても仕方ない……。
 もう色々と大変で、しかも大事な時期だから三好さんはホンット大人しくしてて……と思いながらも、まぁメモはね? 取っておかないとね?? っていう。

 「僕がお伝えした通り、予定は空けてありますね?」
 「? はい」
 「予定が変わりました」

 ……あのさぁ、いくら仕事とはいえ、佐久間さんとの約束をあの場で急にふいにしたんだよ、は。気にしてんの。
 はもちろん素直に信じてるけど、アンタどうせ初めっからそんな予定なかったの私は分かってますからね? と小さく溜め息を吐いた。
 「え、」と思わずといった感じで漏らしたに、三好さんは相変わらず優しく微笑んでいる何企んでんのアンタ……。

 「僕が急に無理を言って空けてもらった休日ですから、あなたにお詫びをと思いまして」

 「は、えっ、いえ、仕事ですし、そんな気を使っていただかなくて結構で――」

 「せめて、あなたの休日を無駄にはさせたくないんです」

 「は、はぁ……」

 三好さんは甘い声で「どこへ行きたいですか?」と言って、の座るデスクチェアの背に、そっと手を添えた。
 ……やばい、またみんな仕事どころじゃなくなる私はメモ取る手が止まらない三好×は私の大本命。

 「…………は?」

 目を丸くして驚いているに、三好さんの大好きオーラ輝いてる。きょとんとしてるって無防備でかわいいですよね分かる。
 そして三好さんの怒涛の攻め。

 「あなたの行きたいところ、どこへでもお連れします。遠出したって構いません。車を出しますから」

 「え、」

 「何も今すぐ決めろとは言いません。ゆっくり考えてください。あなたにご満足いただけなければ意味がありませんからね」

 「……え゛?! えっ、いやっ、三好さん! 大丈夫です! 気を使っていただかなくて大丈夫です!!」

 は首を思いっきり左右に振って、どうにかこうにか逃れようという気持ちがまったく隠せていないわけだが、まともな仕事ができる三好さんはホント信じらんないほどに自然と自分のペースにを巻き込んでいく。

 「それでは僕の気が済みません。元々、佐久間さんとどこかへ出かける予定だったんですよね? それなら僕が代わりにお付き合いしたって構わないでしょう。あなたの望みなら、なんでも叶えますよ。それでも不満がありますか」

 「っ、いえっ! あの、不満があるとかそういうわけじゃなくて……」

 顔を青くするに、三好さんは表情をちっとも変えず「それなら断る理由はありませんね。あぁ、僕は何事も完璧にこなさなければ気が済まない性質なんです」と言った。

 ……三好さん……やればデキるんだよねあなた……涙が……全私歓喜……。お向かいの同志も震えてる……。
 が首を傾げた。うん、今度こそそのまま流されようねちゃん……。

 「え、あ、はい、し、知ってますけど……?」

 「ですから土曜は朝から晩まで、すべて僕に任せてくださいね」

 「っみ、三好さん本当に大丈夫です!! 大丈夫ですから本当に気を使っていただかなくて結構です!!!!」

 はなんとかお断りしようと頑張っているが、みんなの気持ちは一つにまとまっている……。

 ――流されよう? ここは流されてオッケーしちゃおう?? ね????

 「僕の気が済まないと言ったじゃありませんか。さんは僕のかわいい部下ですが……それを抜きにしたってかわいいんです。僕はあなたのためなら何も惜しくありませんし――あなたが必要ないと言っても、気になって仕方ないんですよ。僕に気を使うなと言うのなら、ここで頷いてください」

 んん゛んん三好さん最高その『僕のかわいい部下ですが……それを抜きにしたってかわいいんです』ってセリフ最高このシーン絶対に本にしますからね……ッ!

 「えっ、えっ、あの、でも三好さ――」
 「さん、僕はあなたの口からは『イエス』しか聞きたくありません」
 「そ、そう言われても、あの、」
 「……さん、どうしますか?」
 「っ…………わ……わ、分かり、ました……」
 「どこへ行きたいか決まったら、すぐに教えてくださいね。ふふ、楽しみだな」

 ……三好×のターンがやっと回ってきた……(拝み)。


 三好さんがやっと……やっととの! デートの! 約束を! 取り付けることに成功し、三好さんは言うまでもないが部署のみんながご機嫌である……祝わずにいられようか……? みんなコレずっと待ってたの……私ホント泣きそう……三好×ホント尊い……。

 ――と思っているんですがね……問題はなんだよ……。

 「……どうしよう〜っ! 行きたくないどころの話じゃないよなんで休みの日にまで三好さんと過ごさなくちゃなんないの〜っ! それなら家で寝てたい〜っ! 大体、三好さんと行くってどこ行けばいいの……? 話さなくていいとこがいい……あ、じゃあ映画かな……。お昼くらいに待ち合わせして、ぱっと映画観てぱっと帰る……これしか思いつかないどうしよう……。ねえ、どうすればいい……?」

 ちらっと三好さんのデスクのほうへ視線を向けると、分かってますよねと言いたげな目をしている……いや、言われなくても私は三好×推しなわけだからもちろん応援しますけど! でもほら…………うちの子はこの世の奇跡……しかも私のこと大好きなわけでこうやってぐずぐずしてる甘えんぼちゃんを目にするとだな……。

 「ど……ど、どうすればいいかなぁ〜?」

 ――と、ヘタなことしないようにせめて何もしないでいようとしたのに。
 三好さんが(目は笑ってないけど)あまりにもにこにこしながらこっち――というか私を見るからさ!!

 「っど、どうせならさ! 行きたいところ連れてってもらいなよせっかくだし! ね?! 三好さん遠出でもいいって言ってたじゃん! ほら例えば……例えば……分かんないけどとにかくパッと終わらせたら三好さんの気が済まないから! ね?!」

 ぐずるの背中を擦りながら、私はなんとかできる限りのフォローをする。

 「でもでも行きたくないんだもん〜っ! どうにか断れないかな〜っ」
 「それはダメ絶対だめ!!」

 私の言葉には絶望……というような顔をした後、うるうるした目で私を見つめるのでクラッとした……んだけど、ここで折れるわけにはいかないのよちゃん……あのね、私の仕事応援してくれるって言ったでしょ……? ね……??

 「えっなんで?! なんでだめなの?! やだよせっかく帰り一緒に帰らないで済むようになったのに……っ!」

 「だからだよそこなの……! 今んとこ三好さんが一番不利な状況なの……ッ!!」

 「え? 何それ知らないよわたしに関係ある? とにかくやだ! ねえ言い訳一緒に考えてお願い〜!!」

 私の腕にぎゅっとしがみつく……。

 「(ん゛んんん!!!! うちの子が天使ですッ!!!!)そ、そんなこと言ったってね〜? 三好さんもほら……のことを考えてさ?」

 ほらほら、大丈夫だよ〜? こわくないこわくない〜と宥める私に、が「だったらなんで休ませてくんないの〜っ!!」と言うので……う、うん……そりゃそうなるの分かるんだけど……っていう。

 ……こりゃもうしょうがない……デートは来週なわけだから時間をかけて説得しよう……と私は「わ、分かったから! 分かった、考えよう。夜また聞くから! ね? ほら、仕事しよ? ね?」と笑ってみせた。

 「ほんとに? 絶対? ちゃんと聞いてくれる? 一緒に考えてくれる?」
 「うんうん、(三好×のために)私も一生懸命考えるから!」
 「うん……じゃあがんばる……。絶対だからね!」
 「はいはい、オッケー分かってる」

 三好×のためならなんでもする覚悟あるから私(真顔)。






画像:十八回目の夏