「あー、ごめんごめん、待たせたな」

 「あっ! ごめんじゃないですよ何してたんです?! ほらっ、! 神永さんきたよ〜? ほらちゃん〜?? ご機嫌直そっか〜??」

 と私の恒例、金曜のお約束。そこに新たに――“正式に”加わった神永さんは、ゆったり一時間も遅刻して現れた。おかげでのご機嫌は最ッ高に悪いので、私も手を焼いていたところだ。そしていよいよが泣き出すかと思っていたので、タイミングが良いと言えばいいのだが――いや、もっと早く来いよっていうか連絡くらいしろよと。
 はちらっと神永さんを見たが本当に一瞬で、「……やだ」とすぐにテーブルに突っ伏した。
 その様子を見ながらも、神永さんはの隣へと腰を下ろす。

 「なんで拗ねてんの?」

 「……にこにこしながら何を……。……神永さんがこうやって遅刻かましたからでしょうがッ!! 神永さんが日曜に買い物付き合ってくれるってご機嫌だったのにね? その神永さんが連絡もナシに待たせるから飲みすぎて――」

 でもまぁ、がフェアリーであるということはこの世の真理……つまりだな?

 「もう…………神永さん神永さんってずっとぐずぐずしてて天使ッ!! さっさとカンストの彼氏力どうぞッ!!!!」

 こういうことである……。
 最初はご機嫌に日曜のデートについて話していて、私もうんうんと頷きながら神永×って乙女心くすぐられる甘味と旨味がたっぷりなので何それちゃんしっかりデートのお話私に聞かせてね?? と思っていたわけですけど……その、肝心の、神永さんが。マメで、女心をがっちり掴む術においては最強のカンストである神永さんが。連絡もせずにいるから最初は心配してたも段々と機嫌が悪くなっていってですね……。
 ……でも私知ってるんだよ……彼氏力ダントツのトップの神永さん、いつ何時であれどもちゃんの心もがっちりだって……。

 「ちゃん、どれだけ飲んだんだ? 眠そうだなぁ。あ、おねえさーん、生ちょーだい」

 ちょうど近くを通った若い女の子に神永さんが声をかけると、さすがは社内で一、二を争う……いや、めったに見ないであろうイケメンだ……その店員ちゃんはとびっきりの笑顔を浮かべながら、ハートマークが付きそうな声で「はーいっ!」と返事すると、ちらちらこちらを気にしながら去っていった。
 するとが顔を上げて、むすっとしながら小さく「……だめ」と呟いたので、私はほら始まるよ……始まるよ……と心の中でありがてえ……ありがてえ……と恵みの雨を降らせる神を御前にしたかのごとく平身低頭した……(拝み)……。

 「んー?」
 「今、にこってしたでしょっ、だめっ!」
 「えー、なんで?」

 むっとしているをにこにこ見つめている神永さんだったが、「だめなのはだめなのっ! ……だめなの〜っ!」とがぐずると、すぐに「はいはい、分かった。そんなに寂しかった? 連絡してくれてよかったのに」とそっと頬に触れて、目の奥を覗き込むようにして笑った。
 ……ほらね……? ほらね……? 始まるって言ったでしょコレよコレ……ラブラブなシーン……。
 が拗ねたように「……だって、神永さんがいつも連絡くれるもん」と言って神永さんのスーツの袖をいじり始めると、神永さんはますますにこにこしながら「待ってたの?」と柔らかい声で言う。
 そしてうちの秘蔵っ子は最強(真顔)。

 「……ずっと、まってたもん」

 ッアー!!!! 毎回毎回いちゃいちゃイチャイチャしてるこの二人ですが、んンん゛さすが神永さん……甘えんぼちゃんを存分に味わえるのはココだけ! ってな具合いに絶妙な技で引き出すので最高としか言いようがない最高……。
 初めは金曜の飲みは私と二人がいいとかクソかわいいことを言ってたにゴリ押しして神永さんをメンバーに加えた甲斐あったわもっかい言うけど最高……。
 悶えている私に気づいているだろうに神永さんは完全シカト状態だけどそっちのほうがありがたい……とさらに心の中で拝みまくっていると、神永さんは「じゃあ日曜まで我慢させちゃかわいそうだなぁ。……買い物、明日にしよっか」と言った。
 それには、ぱあっと天使の笑顔を浮かべたが、すぐに難しい顔で「……ん、んん、でも神永さん疲れちゃうし……」と言って上目遣いに神永さんを見つめた。
 そしてカンストやはりデキが違う……。

 「うん。だから明日買い物行って、そのまま日曜日はちゃんのおうちでのんびりさせて」と言ったかと思えば、「俺はそっちのほうがいいなあ。……ちゃんは? やだ?」とかが気にしないようにと、自分がそうしたいんだっていうアピールをしながらの躊躇いを打ち消すとかそういう……。
 そうなると疑うことを知らないうちのフェアリーは嬉しそうに「〜ううんっ! やじゃないっ!」とか言ってルンルンし始めたからこの萌えをどうしたらいいのかと思わずゲンドウポーズした……。

 「じゃあそうしよう」

 神永さんはにこりとに笑いかけると、傍を通った店員さんを呼び止めて「……あ、すみません、グレープフルーツジュース一つ。はちみつあります? あれば入れたやつ、持ってきてもらえるといいんだけど」と小さな声で言った。

 「ございますよ。どのくらいお入れすれば?」
 「大さじ三。すみませんね、お願いします」
 「いえ、とんでもないです〜。少々お待ちください」
 「はーい。……さて、小腹減ったな〜……」

 …………。

 「……今日もサラッとやりますね〜〜。アルコールの分解にはグレープフルーツですよね〜〜? でもあの苦味が嫌いですからね〜〜? はちみつ入れてくださいとか言っちゃうんだ〜〜…………メーター振り切ってんな?!?!」

 「ビールお待たせしましたぁ〜」

 さっきの若い女の子が、ちらちらと神永さんの様子を窺いながらビールをそっとテーブルに置いたが、神永さんはちっとも相手にせずに「これ以上飲ませたら後が大変だろ、頭痛い頭痛いって。それで介抱しようとしてちょっと水、ちょっと薬、とか離れようとするとぐずるんだから。あ、こら、ちゃん、それは俺の。ちゃんのはもう頼んだから」とか言いながら、ビールジョッキにそーっと手を伸ばしていたからジョッキを取り上げた。ンんん゛何事においても気になっちゃってお世話焼きたいからちゃんしか目に入らないんだよね? さっきちゃんがヤキモチもやいちゃったもんね?? そんでもって神永さんはカンストだもんね???? ……神永×のこういう感じ私大好きだよッ!!!!
 ――っていうかさ?!?!

 「……大変とか言っといてノロケじゃんッ!! 何それ見たい!! えっ? ぐずるの? ぐずぐずしちゃうの?!?! ちょっと詳しく!! 神永さん詳しくッ!!」

 「なんできみに話さなくちゃならないんだよ、やだね。これは俺にしか引き出せないやつなんだ」

 羨ましいだろ? とでも言いたげな顔に「……クソッ! 確かにアンタの甘えんぼちゃんを引き出す技は巧みだよッ!! ……だからどうせ真似できないし見れないんだからせめて話くらい聞かせろよッ!!」と噛みついたこの私の反応、正しいに決まってる。だって私ちゃんのオフィシャルライターだから……。
 テーブルから身を乗り出す私に、神永さんは片手で頬杖をつきながら「聞かせろったって……」と眉間に皺を寄せると、甘えんぼちゃんの甘い声が「かみながさん」と舌っ足らずに言うので津波のように押し寄せるバンバン衝動……テーブルを……バンバンしないとこの萌えは行き場がない頭爆発する神永×のこの感じ最ッ高!!!!
 の甘い声に「んー? なぁにちゃん」とこちらも甘い声で応える神永さんのメーターも最早振り切ってるどころじゃない何このカップリング何度でも言うけど最ッ高!!!!

 ――とか思って震えていると、が「……なんで連絡くれなかったんですか?」と上目遣いに神永さんを見つめるのでパシャりたすぎて指先が激情に耐え切れずぶるぶるしてる……平静な態度でいたいからなんでもない顔してビール飲みたいけど肝心のジョッキが持てない……。
 神永さんは口端を少し持ち上げると、の目を覗き込む。

 「……なんでそんなこと聞くの?」
 「……だって、いつも神永さん、遅れる時は連絡くれるのに、」

 まぁの疑問は私ももちろん抱いてるところなんだけど。
 マメで細やかな気遣いにおいて文句なしの百点満点であるカンスト神永さんが、連絡もせずにかわいいを待たせる――それも一時間も遅刻とかどう考えたっておかしい。
 …………浮気とかしてんなら殺す……とか思ったところで、溶けるような微笑みを浮かべて「気になる?」と神永さんが言う。
 何も答えず俯くにくすっと笑って、「ちゃんにね、プレゼントがあるんだ。これ買いに行ってたんだよ」と言うと、私にすっと“それ”を差し出した。突然すぎて思わず受け取ってしまったわけですが……。

 「え゛? か、神永さん?」

 戸惑う私などそっちのけに、神永さんはにこにこに「嬉しい?」と聞いて、それに対してはふるふる体を震わせて「〜っ! うれしいっ! ねえねえ、それ来週いっしょに行こうっ?」………?!?!

 「……えっ?! 私?!」

 「え? なんで?」

 「なんで……? なんでってこっちが聞いてるんだよなんで?! これネズミーのチケットじゃん!! なんで?! 神永さんはと二人で――」

 行くためにわざわざ遅刻ブチかましてでも金曜とかありとあらゆるところが激込みの中ネズミーショップへとこのチケットのために「いや? それはきみに行ってもらわないと困る」…………は?

 「は?」

 「ちゃん、ネズミーランド行きたいってずっと言っててな。なら行こうって言ったんだが、ネズミーランドはきみと行きたいらしいんだよ。……と、いうわけだから。このチケットを使って、ちゃんをネズミーランド、連れてってくれるか?」

 にこにこしている神永さんに頭痛が痛いまったくエリートさまは考え方ってのがそもそも方向性おかしいなッ?! 説明されねえと分かんねえのかよ凡人の思考はッ!!!!

 「……神永さん、そういう時はね……? 私にその話をするとか、誘ってみなよ的なことに言うとか、そういうのでいいんですよ……? ……なんでチケット二枚用意してそれを私に渡して『連れてってくれるか?』なの?!?!」

 ――とエリートの思考回路謎すぎワロタとバカじゃないの?? っていう呆れとで思わず大きな声を出した私に、神永さんは一瞬きょとんとした顔をした後、あぁ、と納得したようにこう言った。

 「決まってるだろ。ちゃんはきみとネズミーランドに行きたいんだ。俺はちゃんが喜ぶことをしてやりたい。それなら俺がチケットを二枚用意して、きみに頼むのが当たり前じゃないか。で、どうする? きみのイエスがなければプレゼントにはならないんだが」

 …………。

 「……カンストはやることなすこと……ッ!! もち連れてくッス!! でもチケット代は払いますから――」

 はぁ、ホントにエリートでさらには恋愛においてカンスト、しかも彼氏力最強とか敵ナシだなオイ……と思いながら財布をバッグから取り出そうとしたところ、神永さんが「待て」と私の手を止めた。

 「俺はきみと行けるネズミーランドのチケットをプレゼントしたいんだよ、ちゃんに。だから連れてってくれるなら、黙って受け取ってくれ」

 「……オッケー、分かった、了解、最高、毎回すんませんほんと……」

 へこへこ何度も頭を下げる私を笑って、神永さんは「ちゃんが世話になってる礼だと思ってくれ」と言ったかと思うと、いつの間にかテーブルにきていたグレープフルーツジュース(はちみつ入り)を「あ、ちゃん、これ飲んで」とに差し出した。
 は苦い顔をして「えっ、これ…………グレープフルーツすきじゃない」とむうっと頬をふくらませた知ってるけどフェアリーじゃんかよかわいい写メりたい……。

 「知ってる。でもこれはいつものだよ」
 「でも、」
 「ほんと。飲んでみれば分かるから、ほら」
 「うー…………! ん! ほんとだぁ〜! なんで? なんでっ?」
 「ナイショ。はい、じゃあもうアルコールは飲まない。いい?」
 「ん、わかったぁ」

 …………うん、私が言いたいのはね?

 「……神永さん、“いつもの”っていうのは何カナ??」

 私の言葉に神永さんはなんてことないように「あぁ、俺の部屋でのんびり飲んでた時、ちょっと目を離したらちゃん、俺の日本酒気になっちゃったらしくてな」と言いながらビールを呷った。
 ……なるほど、日本酒……と私は頭を抱えた。に日本酒を飲ませると……う、ウン……。

 「……あぁ……、日本酒はダメですね……」

 いつぞや日本酒を飲んだを介抱した時のことを思い出していると、神永さんがこれまたなんてことないように「で、ぐずぐずし始めちゃったもんだから……とりあえずと思って、グレープフルーツジュース、出したんだよ」と言って、うきうきしながらジュースを飲んでいるをちらちら気にしている。……そうだね……あなたお兄ちゃん属性だから……。

 「……ていうかよく家にありましたね、そんなちょうどよく……」

 私もビールをちびっと口に含みつつそう言うと、神永さんはやっぱりの様子を気にしながら「フルーツジュースはいつも何かしらある。ちゃん用に。で、その時はたまたまグレープフルーツが――」…………。

 「待って待って待って常備? フルーツジュース? のために?!?!」

 思わずテーブルから身を乗り出したが、神永さんはちっとも驚かず――そりゃそうだ。だって今更――平然とした顔で「ちゃんが初めてうちに来るって時、色々用意するのにデパ地下周ってたら、好きかなって思って買ったフルーツジュースがあってな。そしたら気に入ったみたいだったから、同じところのものを買ってある」と言った……。

 「……続けてください……(ハンパねえ)」

 神永さんは機嫌良さそうににこにこしながら、ご機嫌なを見つめた。
 視線に気づいたがふにゃあっと笑って――ンん゛んんン萌えが……萌えがですね……。

 「出したはよかったんだが、ちゃん口を付けようとすらしないんで困ってな。嫌いなのかって聞いたら苦味がって言うから、はちみつ入れて出しただけ。そしたらおいしいって飲むようになったんで、うちで二人で飲む時はタイミングを見て出すようにしてる。だから外のグレープフルーツジュースはダメなんじゃないか? もうはちみつ入りので舌が慣れてるから」

 まぁとりあえずこう言わざるをえない。

 「……さすがお兄ちゃん属性……そんな細やかなお世話焼いちゃうの……?」

 神永さんはきょとんとして「市販のジュースにはちみつを入れるだけだぞ、細やかでもなんでもないだろ」と言うと、あぁそうだ、という感じでメニューに手を伸ばした。

 「オッケー理解したカンストはやること違う」

 「きみが認めてくれるんならそれでいい。で? ちゃん、俺がいない間どうしてた?」

 メニューに目を滑らせながら、神永さんが言うので私はゲンドウポーズ……。

 「……私が喜ぶ神永×ちゃんエピソードをくれるなら教えないでもない」

 溜め息を吐いてメニューをテーブルへ置くと、神永さんは「……きみはそういう情熱に関してはマジで引くってことを知らないな。……どれがいい? 先週のデートの話、初めてケンカした時の話、あとは――」………。

 「ちょっと待ったケンカ?! ケンカって言いました?! ケンカしたの?!?! そんな話から聞いてないッ!!!! ちょっとソレッ!! ソレお願いしますッ!!!!」

 かっ、神永さんがッ? ケンカッ?? とッ?! かわいいちゃんとッ?! 甘やかしの天才である神永さんがッ?!?! とわなわなする私を白けた顔で見ながら、神永さんは「だと思った。きみは俺のことを、ただちゃんを甘やかしてるだけのように思ってるみたいだが、そんなことはないぞ。ケンカなんかしょっちゅうしてる」とか言い出すから震えた。

 「……えっ……めっちゃ期待値高め……どうぞ……どうぞお願いします早くでもじっくり詳しく……」

 神永さんがちらりとを見る。

 「その日、デートだったんだが……前日に俺が泊まったもんだから、朝早く起きて服を選んでたんだよ、ちゃん」

 「……その口振りだと寝たフリしてあげてたんですね起きてたけど。神永さんが起きちゃうとが余計にどうしよう〜っ! ってなるから………クソッ、さすがかよッ……!! んん゛ン、どうぞ続けて……」

 「で、どれもかわいかったし、俺としては何を着たって構わないのに、ちゃんもう座り込んじゃってさ。それで『決まんない……』って言うから、放っておいたらかわいそうだろ?」

 ……その光景を自然と再現させる私の脳みそめっちゃ優秀……。

 「そうなるまでずっとにこにこしながらちゃんがうんうん悩んでるところ見てたんですね何それどういうご褒美なの?? 自分のためにおしゃれしようって健気に頑張る彼女見れるとかどんなご褒美なの????」

 ちゃんが洋服広げて鏡の前でくるくるしてるってところでもうヤバイかわいいさすがうちのフェアリー最強……。
 ――と私がハンカチで目元を押さえていると、「だから『何着てもかわいいから、ちゃんが今日着たい服を着ていい』って言ったんだ。そしたらちゃん泣き出しちゃって」とかって話が続くので私は思わずぴたっと停止した。

 「……な……泣いたの……? が……? 服が決まんないくらいで……?」

 「なんでも『神永さんの隣歩くなら、かわいくないとだめ』らしい」

 「……ほう」

 「じゃあ今日はデートやめるかって言ったら余計に泣くから、俺もついつい怒っちゃって」

 私はこれにもピシッとなった。だ、だってさ……だってさ……。

 「……お……怒ったの……? 神永さんが……? カンストの神永さんが……? が服決められないってただそれだけで……?」

 「何着たってかわいいのに、そんなこと言ってたら他の女の子が泣いちゃうって言ったら、『他の女の子のこと気になるの?』って言い出すから」

 「……ッアー!! 続けてくださいッ!!!!」

 テーブルをバンッ! と一発ブン殴った何それ最高だなッ?!?!

 「『そうじゃなくてちゃんが一番かわいいから、きみが何着たって他の女の子なんかかわいく見えないんだ』って怒ったんだ」

 …………。

 「…………う、うん?」

 「つい大きい声出しちゃったから、ちゃんびっくりしちゃってな。ごめんなさいってぐずぐずするから、座り込むほど悩んでたのに、結局俺が選んだの着ることになって。……あの時はかわいそうなことしちゃったよなあ……」

 ……うん、ちょっと待とうか????

 「…………神永さん」

 「なんだ?」

 「ソレ、ケンカ、チャウ」

 「は? だってちゃん泣いたんだぞ、服が決められないくらいで。まぁそのくらいで怒った俺が悪い――」

 はぁ、と私は溜め息を吐いた。だからD機関卒のエリートは実はバカなんじゃないの?? っていう話だよホント……バカが……。

 「オッケー、分かった、教えてあげますね、それ、世間ではノロケと言って、あなたたちがしてるのはケンカではありません。子犬がじゃれ合うあれと一緒です」

 「いや、だからちゃんが泣いたんだぞ? 俺が泣かせたんだ。きみは怒鳴り散らすところじゃないのか?」

 「いや、神永さん分かってない。確かに服が決められないくらいで泣くなんておかしいけど、それを怒ったとか言ってセリフがそれなら怒ったって言わないからアンタもおかしいラブラブかよ最高だなッ?!?!」

 もっかいテーブルをブン殴ったところで、神永さんが深い溜め息を吐く。

 「まぁとりあえず、その後はちゃんと仲直りしたんで、予定通りデートには出かけた。……気をつけてるんだけどな、ちゃんがなんでもかんでも『神永さんの隣歩くなら』ああだこうだって毎回――」

 「ノロケ、それもノロケ。……はあ、お兄ちゃん属性×甘えんぼさん最高だな……女子がときめくカップルランキングではもうこれ殿堂入りしてるやつだから私もときめかずにはいられないというかうちの秘蔵っ子は本当に素晴らしいフェアリー……」

 まったく……知ってるけどラブラブかよまったく……と色んな意味で頭を抱えていると、神永さんが「ほら、次はきみの番だぞ」と私をせっつく。
 しかし「かみながさぁん」とが甘い声で呼ぶので、神永さんはもちろんそちらに「なぁに?」と応える。その目はとても柔らかくて、甘い色をしている。

 …………さて、そろそろかな……と私はちらっと腕時計を確認した。

 「……ねむいから、今日はおとまりして」

 が神永さんの肩にもたれる。

 「だめ。また服が決められないって泣くでしょ。送るけど、お泊まりはしない」
 「やだ」
 「だめだってば。ちゃんと朝迎えに行くから」

 甘えるに優しい声で応えながらも、神永さんはまたメニューを手に取った。
 するとうちの子は史上最強の国宝、至宝、別次元から神が遣わしたフェアリー……つまり爆弾を落とした。

 「……かみながさんいないと、ねれない。だっこないとベッドいけない。……いっしょじゃないと寝れないから、デートできない」

 うるうるした目で神永さんを見つめてそう言うに、神永さんはもちろん一発でオチたハイハイいつも通りゴチです〜〜(歓喜)。

 「……わ、わかった、分かった、泊まる、」

 「……神永さん顔真っ赤。なんなのラブラブかよ知ってるラブラブ。ったくカンストのくせに……チャラいを極めに極めてここまでやってきたくせにちゃんのピュアに潤んだ瞳にはいつまでも慣れないの????」

 「きみはマジでいつも一言余計だなッ! ちゃんの前でそういうことを言うなッ!!」

 は神永さんの腕にぎゅうぎゅうしがみついて、「かみながさんおとまりは?」とおねだりに夢中であるかわいい最高……。
 アルコールが入ると……っていうパターンは色々あるけど、うちのちゃんはいい意味でタチが悪いね大好き最高もっとやっていいのよ??
 神永さんはやっぱり真っ赤な顔で――というか、首から耳まで真っ赤にして「っする! するから!」との腕をぐっと外すと、それからきゅっと眉根を寄せた。

 「……するから、外でそういう顔しちゃダメ」

 クソ、動画撮りてえなッ?!?!
 ――と思いつつ、「……どうぞ私のことは気にせずキスしちゃってオッケーです」とサッと促す。

 「するかッ!!」

 「はいはい、こんなクソみたいな煽りにも過剰反応ごちそうさまです〜。もうこんなだし……私まだ飲み足りないですけどどうぞお帰りになってお若いお二人でキスでもなんでも好きにしてください〜〜」

 にやにやしながらそう言うと、神永さんはもちろん苦い顔をした。
 それから財布を取り出して「…………これで飲んでってくれ」……そういうつもりじゃなかったけど断る理由もないので素直に奢られる私……。

 「――ほら、ちゃん、もう帰るよ」
 「ん、」

 神永さんがいないと眠れないどころか、神永さんにだっこしてもらわないとベッドにすら入れないらしいお姫様であるちゃんは、やっぱり甘えんぼさんしながら神永さんに手を引かれて、ゆっくりとソファから腰を持ち上げた。
 ウフフ、どうぞ今夜はお熱い夜をお過ごしくださいね神永さん〜〜という視線を送ると、神永さんはますます苦い顔をした。

 「じゃあね〜。神永さんと仲良くね〜」

 「はあい〜」というの甘い声に手を振って、私は二人が店を出て行った瞬間すぐに作業を始めたのであった……。






画像:HELIUM