毎週金曜のお約束。いつでも楽しい楽しいこの時間だが、私はいよいよストレスで頭がおかしくなりそうである。 なんでってが田崎さんとのお付き合いをスタートさせた――のはよかったものの……さぁ二人の新しい関係を育てていきましょうってタイミングでお互い仕事が忙しくなるとかいう殺意覚えるしかないこのクソみたいな日々……。は不満なんて一切口にしないから、私のほうが不満タラッタラでそろそろ会社相手に訴訟か?? と真面目に考え始めていた矢先、この知らせを聞いて勢い任せに立ち上がんなとか無茶な話(歓喜)。 「えっ、田崎さんとデート?! やっと?!?!」 「田崎さん、海外出張あったでしょ? だから、ちゃんとした……って言うのも変だけど、初デートは田崎さんがゆっくり休めたらにしようって話してて」 はにかむちゃんにクラッとめまいが……。 「……うちの子は白衣の天使かな……? ンン゛ッ、じゃあ今日は早めに解散しよ! 初デートなら気合い入れてかないとね!! で、結果ちゃんと報告してね!!!! 余すとこなく全部ね!!!!」 「うん、聞いて〜。ふふ、楽しみ」 ……ホントは連れて、六本木でやってる美術展行きたかったんだけど……まぁ田崎さんとの初デートならしょうがない。たとえ美術展が明日までだとしても……美術展のテーマが“ヨーロッパのご令嬢たちのドレス”であるとしても……今回は我慢しなくては……。いやね、ちゃんを連れてって、どういうのが一番似合うかな? っていうのをこの目で確認したかったのよ……なんでって、結婚式で着るドレスの参考とかになるじゃん……。 でも、まずはにドレスを着せてあげることになるだろう田崎さんとの関係を大事にしとかないとね、お話にならないからね……。 残念……そしてほんのちょっと悔しい気持ちになりつつも、にこにこしながら 「どこに行くかは、田崎さん教えてくれなくてね、」と言うちゃんの楽しげな様子を見ればもうオールオッケー。 ――と思って、私は昨日早めにとバイバイして、今日は(一人だけど)予定通りに美術展にやってきたわけですが。 「こういうのはどうかな? 嫌いではないと思ったんだけど」 「わぁ……。女の子は一度は憧れたこと、あるんじゃないですか?」 待って待って待って? これはどういうことかな???? 今私の目には田崎さんとうちの秘蔵っ子・ちゃんが見えるぞ???? キラキラした眼差しで大きなパネルを見上げるを、田崎さんが優しく見つめている……。あれ……ここは私の夢の中……? 「ふふ、さんも?」 「そりゃあ、お姫様になりたかった頃もありますよ」 「きみはずっとお姫様だよ、俺にとってはね」 ンンんッ違うこれは夢ではないなぜならこんなゲロ甘くて王子すぎるセリフ真面目に言えて似合ってしまうのはモノホンの田崎さんだけだからッ!!!! ほんのり頬を赤らめたが、「……田崎さん、すぐそうやって……、」と俯くと、田崎さんがその顔を覗き込んだ。 「からかってるわけじゃないよ。ただ、俺が“王子様”でいたいだけさ」 人目も気にせず私がその場に崩れ落ちる前に、田崎さんはに手を差し出した。 「行こうか。――お手をどうぞ」 「……もう、」 …………よしッ! これは偶然ではなく必然! 神の思し召しッ!! 王子様田崎×お姫様の初デートに居合わせるなんてことが、偶然でありえるわけがない。つまり、これは神が私に与えたもうた使命――田崎×の甘々ハッピー初デートを見守り、これをレポートにまとめ後世に残せということだ……オッケー理解した……。 ――というわけで、予定とは違ったはずだけど予定通り、ドレスとうちの子という最高のコラボレーションを最高の状態で味わえることになったから今日はもう最高の一日だと決定した。 いや、だって田崎さんだよ? ちゃんのトキメキMAX天使顔が拝めないわけがないから(迫真)。 がまず立ち止まったのは、爽やかな色合いで幾重にも薄く布が重ねられた、とてもボリュームのあるドレスの前だ。あああ〜〜分かる。爽やかな寒色なのにこのボリューム感ってのがいいよね、甘すぎなくて。ふわふわでかわいいよね、ちゃんが着たら絶対妖精さん。最高。 「わ、これ素敵ですね。すっごく涼やかな色。スカイブルーって言うより、クリアブルーって感じで……」 すると、田崎さんが柔らかく目を細めた。……分かる、私には分かるぞ……。 「ふふ、なんだか懐かしい色だな」 「え?」 きょとりと田崎さんを見上げるが純真無垢すぎて涙出る……がこのドレスの前で立ち止まった瞬間には、田崎さんはもう思い出の中のを鮮やかに思い返すことができていたはず……ヤバイほんと真面目に涙出る……(拝み)。 「さんと初めて二人で出かけた時、水族館に行っただろう。その後の食事も、大きな水槽のあるところに行ったじゃないか」 私の目にもあの時の情景めっちゃ鮮明に蘇ってくる……。ホント最高潮に月9だった……。どう考えても田崎さんは王子様――現実には存在しないドラマの登場人物で、その辺の男とは格が違った……いや今現在も格が違う……。 「あっ、そうですね。……あそこで最後に出してもらったカクテル、素敵だったな、」 「シンデレラ?」 「そうです」 田崎さんは淡く微笑んで、の白い頬をそっと撫でた。待って待って周りの人が息飲む音聞こえたよね? 私は聞こえた。私も息飲んだ(真顔)。 「……あの日は帰ってしまったけど、俺のところに戻ってきてくれたね。おとぎ話と同じだ」 「えっ、」 「やっぱりきみは、俺のお姫様だよ」 …………ン゛ァァアああああァン……!!!! 「田崎さん、やっぱりからかってますよねっ?」 顔を真っ赤にしたちゃんが顔を覆って抗議する姿……ただの天使で胸が苦しい……。そして田崎さんの「ふふ、疑り深いな」というセリフも月9度をさらに高めてきててホント最高すみませんありがとうございます……ッ!!!! 「もう……っ」 あぁああ〜〜何この月9カップルほんと無理最高〜〜〜〜ッ!!!! 次にが足を止めたのは、マーメイドラインのドレスだ。ワインレッドの深みが印象的である。 これはこれで素敵だけど――。 「こういうのも素敵だなぁって思いますけど、似合う人って限られますよね……」 まぁ概ねの意見に賛成というか……似合わないとは死んでも思わないけど、はどっちかっていうとかわいい系統のほうが似合うし、キレイめお嬢さん系が最強だから……と二人の背後でひっそりとうんうん頷く私。 しかし田崎さんが「強い色だからね」と言いつつも、「さんは色が白いから、似合わないことはないと思うけど」と言うので、私は自分の意識の低さにめまいを起こしそうになった。 そうだ……ちゃんの白雪のような透き通る美肌に情熱の赤……いやどう考えても背徳的にセクシー。犯罪級に小悪魔……。 「わたしの顔じゃ、色の迫力に呑まれちゃいますよ……。もっとこう、はっきりした顔立ちで、とびっきりの美人じゃないとダメです」 「そう?」 「そうです」 田崎さんは含み笑いを口元に乗せて、すっと長い指でそれを――あぁあ……(感涙)……。 「じゃああれはどうかな?」 「わあ……」 「色んなデザインのものがあるけど、本来のウェディングドレスといえば、こうやって肌の露出があまりないものなんだよ」 田崎さんが指したそのドレス――いや、ただのドレスじゃない……う、う、ウェディングドレスは……腕とデコルテの部分がレースで覆われたロングトレーンの……プリンセスライン…………(号泣)。 なんにも気づいてない様子で「へえ……。すっごく繊細なレースですね……わあ、」なんてうっとりしてるに、田崎さんが「憧れる?」と甘い瞳で問いかける。 「もちろん!」 ぱあっと表情を輝かせるににこりと微笑んで、「そう、それはよかった」と言うと、田崎さんはそっと体を寄せて――「……着せてあげるよ、俺が」…………(合掌)。 はぴたっと体を硬くして、それから目を見開いた。 「えっ……えっ、あれっ? えっ、わ、わたしそんなつもりじゃ――」 「さんがどんなつもりでも、俺はそういうつもりだよ」 「……っ、」 っはぁ〜〜〜〜もうこれホンットにドラマじゃない?! ドラマでしょ?! いや現実って知ってるからこそ言わせてほしいのだってドラマとしか思えないでしょ?!?! あ〜よく見たらドレスの隣、どう見てもウェディングがテーマの撮影ブースあるじゃん……二人ともなんとか、なんとかあそこに――と私がどうしようもない萌えに打ち震えていると「――すみません」……こ、このお声は……。 「写真をお願いしてもいいですか?」 「た、た、たざっ、」 慌ててはどうしているかと確認すると、熱を込めた瞳でじぃっとドレスを見つめていて気づいていない様子だ。それだけは救い(真顔)。 田崎さんはいつもの隙のない笑顔で、「偶然だね」と言うけれど実際どう思ってるのかは分からないし分かりたくない(怖い)。でもホント追跡しようとか今回は全然思ってなくてですね……と言い訳を考えていると、田崎さんはそっと私の手の内のスマホを指差した。アッ写真はマジで撮っていいんですねありがとうございます……と私は深々と頭を下げる。 そして顔を上げると――田崎さんはうっすら微笑んでいた……。 「このまま見守ってくれていても構わないけど、さんにはバレないようにお願いするよ」 「あっ、ハイッ、すみません、やっ、あの、ホントこれはマジのガチに偶然の産物でして、」 へこへこしながら言い訳をしていると、「――っ、え……!」というの声が…………?!?! 「?!?!」 いつの間にかのそばに戻っていた田崎さんが、た、田崎さんが……をお姫様だっこして、撮影ブースの中心に置かれているソファへと運んで――。 「こら、声を上げたらダメだろう?」 「だ、だってっ、な、なんで、」 ふわりとソファにを下ろすと、田崎さんはその足元に膝をついた。 「きみがお姫様だからだよ」 ああ゛あああ〜〜〜〜!!!! ただの月9〜〜〜〜!!!! もう今度こそ崩れ落ちそうになっていると、田崎さんがパンプスを脱がせた。そして、困ったように可憐なお姫様を見上げる。色気の滲んだ低い声が、「、」と囁いた。 「あっ、」 「隠し事なんて、いけない子だな」 ……なるほど、靴擦れか。そういえばあの靴、私見たことないし――のことだから、田崎さんとの身長差とか、洋服のテイストとか色々考えて新調したんだろうなぁ…………ぎゃわいいン……ッ!!!! しかしさすが田崎さん……のあのいつもと変わりない様子からして、どこでどう気づいたんだか分かんないけどすぐ見破っちゃうんだから神。 「た、田崎さ、」 「もう出ようか。新しい靴を買いに行こう」 「えっ、でも、」 そっとの手を引いて、田崎さんは甘く微笑んだ。 「シンデレラには、ぴったりのガラスの靴が必要だろう?」 ……ト……トキメキMAX天使顔〜〜〜〜ッ!!!! 「あ、あの、田崎さん、ごめんなさい……」 「どうして謝るのかな? 俺は早速プレゼントの口実ができて嬉しかったよ。痛い思いをしたさんには悪いけど」 田崎さんの嫌味のないまっさらな微笑みに、は眉を下げて「……ありがとうございます」と俯いた。次の瞬間、ひらめいた! と言わんばかりの明るい表情で、「あっ、じゃあランチはわたしが――」……田崎さんが、の唇に人差し指をそっと押しつけた。 「俺はもう、きみの本当の恋人になったはずなんだけどな」 は慌てた様子で、「そ、それとこれとは別じゃないですかっ、だって、」と視線をうろつかせる。 田崎さんは優しく目を細めて、「それじゃあ、夕食はさんの手料理がいいな。作ってくれる? ――俺の部屋で」…………。 「え……」 「無理に聞かなくていいよ。何もしない、とは言わないしね」 そ、それは絶対に“何か”する予定なのでは……と私は青いお空を見上げた……。 うちのかわいいちゃんは、田崎さんからふと視線を逸らして、か細く「……頷き、にくいです、」と……(震え声)。 「ふふ、それじゃあ、俺がさらっていくのなら構わない?」 「……いじわる、」 思わず額を押さえるも、田崎さんの爽やかな笑い声が余計にめまいを増長させてくる……。ホンットこの人やることなすことすべてが月9……ッ! 「あはは、そうかもしれないね。さて、それじゃあランチは軽めにしておこうかな。この辺りにいい喫茶店があるんだ。フルーツサンドが有名なんだけど」 沈黙で答える尊いちゃんを見て、田崎さんがそっと色づいているだろう耳をなぞった。 「……ふふ、かわいいね」 「もうっ! たざきさんっ!」 あ゛ぁぁあぁ〜〜〜〜!!!! ホンット、ホンットもう〜〜〜〜!!!! 田崎さんがを案内した喫茶店は、大通りから少し外れた人通りの穏やかなところにあった。店内も静かで、優しいジャズが心地いい。それにテーブル席が半個室っていうのも、ゆったり空間を楽しみながらリラックスできて最高である。 ――で、キュートなちゃんの目の前には、めちゃくちゃフォトジェニックなキラキラのフルーツサンドがあるわけだ。かわいい(迫真)。フルーツサンドは普通にめちゃくちゃおいしそうだから私も頼んだ(真顔)。 「わ、フルーツいっぱい……」 ぎっしり詰まったフルーツを一つ一つ確認するようにまじまじ見つめるを、田崎さんの穏やかな瞳が微笑ましそうに映している。そして、なんてことないふうに「こうして目の前にあると、結構ボリュームがあるんだな」と言うので、が首を傾げた。まぁ田崎さんはフルーツサンドなんて食べないでしょうね……。 「? 田崎さん、食べたことないんですか?」 「ここではコーヒーばっかりなんだ。ただ、よく人が頼んでるから」 は田崎さんの様子をじっと窺いながら、「……甘いもの、嫌いですか?」と呟くような音量で言った。 田崎さんは薄く笑って、「どうだろう」と応える。 「……わたしは好きですよ」 の慎重そうな声に、田崎さんは優しく目を細めた。 「それじゃあ、きっと俺も好きになる」 するとが間髪入れずに、「じゃあ、口開けてください」と言ってフルーツサンドを手に取った。……おやおや……? これは……? 田崎さんが肩をすくめた。 「……参ったな、これは俺の負けだ」 「ふふ、冗談です」 そう言って自分の口元にフルーツサンドを運ぼうとするの手首をふと捕まえると、まっすぐにの目を見つめた。 「冗談なの?」 「えっ、」 テーブルバンバンしそうな私だが、もちろん我慢する。私は空気(真顔)。 「好きなもの、見つけられそうなんだけどな」 「……ずるいんだから」 「きみことに関しては、そうかもね」 もう今日何度目だよンぁああああああ〜〜〜〜! 言葉にならないほど最高〜〜〜〜!!!! 「それじゃあ、そろそろ行こうか。夕飯の買い物もしたいしね」 あ〜〜もう動画回しちゃダメかな〜〜〜〜とか月9カップルを飽きることなく見つめながら考えていたところで、田崎さんが腕時計を確認して言った。 は羽織に袖を通しながら、「それなら田崎さん、先にお部屋帰っていいですよ。疲れちゃったでしょう?」と言ってお店を出る支度を進めていく。 「さんに全部頼めないよ。冷蔵庫、空なんだ」 これを聞くと、がむっと眉間に皺を寄せた。 「……コンビニとか、外食で済ませてたんですか? 出張中もずっとそうだって言ってたのに」 田崎さんは困ったような顔で「料理は得意じゃないんだよ」と言ったけれど、は全然納得してない顔だし、私もおんなじ気持ちである。うそつけマジモンのスーパーエリート。 「嘘ばっかり。……わたしがお料理してる間は、ゆっくりしててくださいね」 出張に行ってた田崎さんをあれだけ気遣ってたわけなので、キューティーエンジェルちゃんがちょっとむすっとするのは致し方ない……尊い……(拝み)。 しかし相手は田崎さん。笑って「ふふ、それはどうだろう。さんを見てるのに忙しそうだ」なんて言う。……クソッ、これだから田崎さんって人は! 「〜もうっ」 「あぁ、そうだ。出張といえば、さんにお土産があるんだ」 言いながら、何もない手のひらをに見せる。 は「え、わざわざいいのに……」と言いながら、こてりと首を傾げた。 田崎さんは手のひらを握って左右に振ると――魔法みたいにして、それをぱっと差し出した。毎度ホンット鮮やかである。マジモンの魔法かよ(迫真)。 「いや、俺が渡したくて用意したんだよ。――これ」 「……リップ……? あ、口紅ですか?」 「うん。好きな色ではないかもしれないけど」 受け取ったが、くるりとひねって表れたのは――艶やかなバラ色だ。……ウッ、ウン……(震え声)。 は難しい顔つきで、緊張感を持たせてくるような張り詰めた調子で言った。 「……贈る人、間違えてませんか?」 田崎さんはくすりと笑って席を立つと、の隣に腰を屈めて並んだ。 そして「やっぱり」と言ったかと思うと、白い頬をそっと撫でる。 「きみは似合わないって言ったけれど、赤は似合うよ」 「でも、」 「貸してごらん」 の手からそっと取り上げたスティックルージュを丁寧に滑らせて、淡い唇を鮮やかに色づける。 田崎さんは満足そうに笑って、「ふふ、思った通りだ」と言うと――ん゛ッ?!?! 長い指が、のすらりとした顎をすくい上げ……ンンん゛私がいると分かっていて田崎さんアンタって神様は〜〜〜!!!! 「え――っん、んん、」 「――……キスしたくなるよ、とてもね」 はガタンッと音を立てて立ち上がった。顔はもちろん、首元まで真っ赤である……(拝み)。 「……もっ、もう出ましょう!」 田崎さんは人の良さそう――あくまでも“良さそう”――な微笑みを浮かべて、「待って、塗り直してあげるよ」と言ったけれど、はもちろん「いいですっ、自分でしますっ!」と言って……プレゼントされたばかりの赤いスティックルージュを、田崎さんの手から取り上げた。 ここまでの流れを目に焼きつけた私は思わずグッジョブサイン出してしまったが許してほしい……。いやだって無理じゃない? しんどくない?? しんどくないわけないだって私はしんどい。 ッあ〜〜王子様の月9的意地悪最高かよあの人マジで究極奥義いくつ隠し持ってんの〜〜〜〜!!!! こうして、田崎王子×姫の初デート(私が知れるとこまで)は予定通り――田崎さんの大勝利で幕を閉じたのであった……(拝み)。 |