少しくすんだ赤色の着流しが、よく似合っていた。色素の薄い柔らかい髪に触れる度、しばしば自分の立場を忘れた事もあった。あってはならない事だけれど。いつも照れて、顔を真っ赤にする優しいあの人の眼差しに、勘違いをしてしまいそうになる。今、此の瞬間も。二人の間に、愛などと云うものはありはしないのに。其の眼差しが、私を騙す。唯の女の私は、騙される。甘い、睦言に。私も結局は、騙しているのに。なぜ。物悲しいのは。 「幸村様、今晩もお逢い出来て嬉しゅう御座います」 「っ、そっ、某も同じ気持ちだ!」 「ふふ、幸村様ったら、私を喜ばせるのがお上手ね」 「ほ、本当か!?そなたを喜ばせることが出来れば、某も嬉しいぞ」 「……ほんに、」 ああ、此の真っ直ぐな瞳に唯、胸の内をすっかり明かせてしまえば。しまえたなら。少しは楽になれるのだろうか。否、そんな事も所詮は夢見物語よ。私は唯の遊女(あそびめ)で、此の御方はお武家様。此の身を焦がす様な恋情、打ち明ける事が出来るなら、其れは此の世ではない。輪廻転生、生まれ変わった来世でありましょう。其れまで此の檻の中、貴方様のお気の済むまでお相手致します。どうせ私は遊びの女。厭きられてしまえば終わり、もう二度とは逢えぬのだから。生きるのが億劫になる前にどうか、ころしてほしい。狂おしい恋情の果て、最期はせめて美しくありたいでしょう。此の身の汚れ、貴方様に触れられている間は忘れられた。まるで生娘の様な気持ちになって、唯初恋を知った乙女の如く。 「……、殿?」 「………本当の名は、と申します」 「……おおっ、そうでござったか!……、いい名だな!」 |