友達の看病に行ったからの連絡は、まだ一度もない。友人関係にまで口を出して、縛るようなことはしたくない。
そうかっこつけたことを言ってしまった手前、オレから連絡するなんて出来やしない。

でも、なんだかよく分からない不安が、オレの意識を飲み込もうとする瞬間がある。(、今何してるんだ?友達は平気なのか?)


どうして、オレに連絡をくれないんだ?


「……はあ、」
「まだ、奥様から連絡、ないんですか?」

声をかけられて、はっとする。が、そんなオレを見て一瞬、気まずそうな顔した。
そこでやっと、まだ仕事中だったことに気がつく。……のことが気になって、全然頭回らねー。

帰ってきた時こんなオレ見たら、怒るだろうなぁ、

が空になったカップに注ぐコーヒーを、じっと見つめながら口を開く。(そういえば、の淹れたコーヒー、ずいぶん飲んでねーなぁ、)

「ん、相当悪いんだな、友達。あーあ、が連絡するって言ってた以上、オレから連絡するこたできねーし……なぁ、お前ホントに何も聞いてねーのか?」

何の気なしに言ったオレの言葉に、はオーバーに反応した。

「っ、あ、当たり前です!……、失礼、します」
「あっ、おい、!……ったく、相変わらずオレにはキツイ女だなぁ、アイツー」

引き止める間もなく、慌ただしく出て行ってしまった。
あのメイドはつくづくのことばかりで、事実上の雇主であるオレにはちっとも敬意をはらわない。
いつもツンツンしていて、オレのすること言うことにいちいち大騒ぎして、あることないことに言いつけたりするし。
まぁそうは思ってもアイツは悪いヤツじゃないし、何よりのことをよく考えてくれる。と同じ日本人であることからも、信頼してる。
……その辺りを逆手に嫌がらせされてるとこも、若干あるけど。


はぁ、まったくがいねーとますますしょーもねぇ。


仕方なくドアに向かって呟くと、勢いよくドアを開け放ち、ロマーリオがノックもなしに入ってきた。
息を切らして、どうにもフツーの様子じゃない。

「おい、どうしたロマーリオ。何かあったのか?」
「な、何かあったも何も、大アリだぜ、ボス、」
「とりあえず座れ、なんだってんだ?」




次の瞬間、オレは言葉を失った。




なぁ、オレ、気づけなかったんだ。
あの、バカみたいに素直なメイドの焦りにも、その中にあった不安にも。
お前との約束を破るわけにはいかなかったアイツの、精一杯のサインを、オレは見逃してしまったんだ。

でもさ、もう全部、遅かったんだよな。


「ね、姐さんが、姐さんが……、」


。オレがこの世の何より愛しいと想う名前にガタリと席を立つと、その勢いでカップが震えて、


?あっ、アイツに何かあったのか?!」


ロマーリオの言葉に、




「っ、ジャッポーネに!……日本にいるんだ!!」




ついに、倒れてしまって、割れた。




Love Sick!
Medicine28:略奪者×掠奪者








「―――っはぁ?さんが?いや、ないだろ、人違いじゃないの?」


まさか、という気持ちを込めて言ったオレに、リボーンは妙に神妙な顔で頷いた。
その様子に、獄寺くんと山本、三人で顔を見合わせる。

「え、さんが並盛にいるって、……つーか、ひとりでってどういう、」
「分からねー。だが、確かな話だ。……雲雀の様子が最近おかしくてな、気になって調べてみたら、こういうこった」

リボーンはそう言うと、一枚の写真を取り出した。
どういう状況で撮られたものなのかさっぱり分からないけれど、写っているのは確かにさんとヒバリさんだ。


「なっ、…ひ、ばりさんと…、さん…どうしてこの二人が…」

「その写真の日から様子を見てみたが、…今回の来日、ディーノは一緒じゃねー。
となると、が一人で日本へ来る理由が必要になるわけだが、どう考えてもそんな理由はない」


ディーノさんが一緒でないとなると、確かにさんが一人で日本へ来る用事なんてそうはないと思う。
それに、ちらっと聞いただけの話だけど…さんには、日本に来るいちばんの理由になるはずの”里帰り”というやつができない人だし。

「そういえば、ディーノさんとさん、さんの親の反対押し切っての駆け落ち結婚っつってたな」
「当たり前だが、実家との関係はそのまま、修復はしてねーって話だったしな。……里帰りはありえないか」


オレと同じことを考えていたらしい山本と獄寺くんが、神妙な顔で呟く。
…あの誘拐事件以来、仲良くしてるって話だったし…あんまり悪い方向には考えたくないな…。
けれど、やっぱり悪い予感ほどよく当たるもので…



「そうだ。だが問題はまだある。が滞在してるホテルは、どうやらヒバリが用意したらしいんだ」



「はぁ?!なんでヒバリさんが!」
「うーん…どう考えても、親切でそんなことするタイプじゃねーよなぁ、アイツ」
「そうは言っても、あの人とヒバリにどんな関係があるっつーんだよ」

二人は面識こそあの事件であるにしろ、まさかヒバリさんがさんに部屋を用意してあげるほど親密になっていたわけがない!
…一体、何が起こってるんだろう…。

「それが分かれば苦労しねーだろ。だが、そういうわけでこっちもお手上げだからな、とりあえずディーノのとこに連絡してみたんだ。…は本当に留守にしてた」
「初めからそうすればよかったじゃん!キャバッローネで留守だって言うなら、何か理由があって一人で来てるんだろ?何も問題ないじゃないか」

オレは一瞬そこでほっとしたけれど、すぐさまそれをリボーンが打ち砕く。

「大アリだダメツナ。……キャバッローネの話じゃ、今は体調の悪い友人の看病に行って留守だっつーんだ。行き先は日本じゃない」
「っじゃ、じゃあさんは、ディーノさんにウソを?でっ、でもどうしてっ、」

ますます分からない。…ふたりは、確かに色々と問題はあったようだった。
でもあんな事件があって、やっと気持ちが一つになったというか…オレには、さんもディーノさんも幸せそうに見えたんだけどなぁ…。
照れくさそうに並んで、でもこれ以上ないってくらい幸せそうに笑ってたディーノさんの顔が思い出される。
あんなに全身で好きだって言ってて、そんな人と通じ合えたっていうのに…まさかまた浮気なんてするはずないし…本当に、ふたりに何が?

「分かったら苦労しねーよ。……ひとまず、を並盛で見かけたことは伝えておいた。
の様子からして、トラダートの時みてーなやっかいごとに巻き込まれてるってわけじゃなさそうだから
おそらくはまたディーノのへたれヤローが何かバカしたんだろうと思いたいとこだな」

思考を巡らせていたオレに、リボーンは事もなげにそんなことを言う。

「お、思いたいって、そんな無責任な…」

するとリボーンは、ほんの少しだけむずかしい顔を見せた。
それから鋭い光を放って、オレ達を視線で射抜く。

「ディーノの浮気癖が原因で、家出したことはあった。だが、は居場所に関してウソをついたことなんかねーんだ。
キャバッローネの連中にまで迷惑をかけるわけにはいかねーからって、屋敷を出て他へ泊まる場合は、必ずそこを明らかにしていた。
…それがウソをついてんだ。しかもどうやらヒバリが関わってる。…ボンゴレ10代目として、見過ごせるか?」

…確かに、トラダートファミリーのことがあったのにウソをついてまで、さんが日本にいるだなんて…
オレだってほんのちょこっと関わったくらいで、あの人をよく知ってるわけでもないけど…すごく真面目でファミリー思いの人だってことは分かってる。

ちらっと獄寺君達を見ると、分かってるという顔で笑顔を見せた。

「見過ごせるわけがないっスよね!10代目!」
「なんだかよく分からねーけど、ディーノさんには世話になってっし、手伝えることがあんならオレは手ぇ貸すぜ?」


オレは、マフィアのボスだなんて絶対ごめんだと思ってる。
何がどうあってもなりたくないし、関わりたくない。

でも、ディーノさんは自分はオレの兄弟子だって言って、とてもよくしてくれる。
オレなんかのことを気にかけてくれて、今まで何回世話になったかなんて分からない。
この一回で、その恩を返せるなんて思ってもいないけど…もし出来ることがあるのなら、


「…ボンゴレは関係なく、さんが心配だ。何が起こってるのかも分からない、オレ達に何が出来るかも分からないけど…でも、やれることはやりたい」


リボーンはオレの言葉にいつものようににやりと不敵に笑った。

「ボンゴレ的な正解だな。そうと決まれば、並盛総合病院へ行くぞ」

「は、病院?なんでだよ、ヒバリさんにまず話を聞くなら学校だろ?」
「理由はまだ分かってねーが、が救急車で搬送された」


「な、なんだって?!おまっ、先にそれを言えよ!獄寺君っ山本ッ、行こう!!」




***




「恭弥君、先生と親しいの?」


とりあえず落ち着くまで、もう少し横になっていなさいという先生の言葉に従って、あたしはまた病室のベッドの上にいた。
そしてその傍らに、薫さんと恭弥君がいる。
薫さんは丸イスに座って、何か食べたいものはないか、少し眠った方がよくはないか、などとずっとあたしの世話を焼いてくれてるが、
恭弥君は立ったまま、ただじっとあたしを見つめてくるのだ。
読めない視線にとうとう我慢ならなくなったあたしは苦し紛れに世間話を切り出そうと口を開いたのだけど、
それもどうやらハズレで、恭弥君はあたしに応じるどころかますます不機嫌になってしまった。

(ま、まずい、)


「…あの人が、僕を取り上げたんだって。母親から」
「へえ、そうなの?」
「……あの人は、苦手だ」


恭弥君はそう言うと、苦い顔をふとやめた。
一匹狼な恭弥君を、あんな風に簡単に諫められるんだもの、恭弥君からしたら苦手なのかもしれない。
でも素直に言うことをきくってことは、少なからず恭弥君が先生に心を許してるってことなんじゃないかと思うんだけど。(もちろん口に出したりはしないけど)



「で、ずっと一緒にいるその人、さんの何なの?」



恭弥君はそう言ってすぐ、あたしから薫さんに視線をやった。
鋭すぎるそれを真正面から受け止めて、薫さんは笑った。


「そういうお前は?…ま、オレもそうガキじゃねぇからな、先に教えてやるよ。薫。の正式な夫だ」
「っ、か、薫さんっ、何を!」
「“正式な”夫?…じゃああの金髪は、不当に彼女の夫であると宣言してるっていうの」
「あぁ、そうだ。アイツがオレからを奪った。だからオレは取り返す。あるべき形に戻る為に、こうしてここにいる。理解できたか?」
「薫さん、やめて、恭弥君は関係ないんです、」
「いいじゃねーか。…オレには、コイツがお前を傷つけるようにゃ見えねェし、知りたいということを教えてやっただけだ。何も問題ないさ」
「……、」


“こちら”のことを何一つ知らない薫さんは人好きのする優しげな笑顔で、何も言えないあたしをまっすぐに見つめた。



「…そう。あの人は、さんをずいぶんと不幸にしたんだね」



ぽつりと呟くように言ったかと思うと、恭弥君はこちらへ進み出るとあたしの手を握り締めて言った。






「僕が、守ってあげるよ」






***


すっごく久しぶりな更新…
ちらっとですが、やっとディーノが出てきました(笑)


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