なんでこんなことになっちゃったんだろう…。
わたしを間に挟んでにらみ合うせんぱいふたりを、交互に見比べる。


「コレは僕のペットだ」
「はっ、世迷い言を。これは我の駒だ」


とりあえず、わたしにんげんです、せんぱい。




我が校は、先生でも保護者でもない二大勢力によって支配されている。

ひとつは、風紀を取り締まる委員会のはずなのに、なぜか不良のみで構成されている風紀委員会。
もうひとつは、人を人と思わない冷徹なロボットみたいな集団と恐れられている、生徒会。


一般生徒は…いや、教師も保護者も、この学校に関係する全ての人間は、このふたつの勢力の支配下に置かれている。
もちろん、わたしも。しかし、わたしはほんの少し特殊な立ち位置にいるらしい。
わたし自身は断固認めたくないのだが。


「君はどうしてこう、僕の邪魔ばかりしてくれるのかな?…ムカつく」


そう言って、どこからともなくトンファーと言うらしい鉄パイプに取っ手がついたような武器を取り出した、雲雀恭弥せんぱい。この人は、不良のみで構成された風紀委員会のトップ―――風紀委員長さまである。つまりは、この人も不良なのだ。見た目は風紀委員長らしく、きっちり制服を着てるし、それがまたサマになるイケメンである。風紀委員の仕事はきちんとこなしている。たとえば、飲酒とか喫煙の注意とか、服装チェックとか。ただ、この人の注意というのは、拳や足やトンファーを叩き込んで直接体に分からせるという、注意と言うよりかは制裁と言うべき厳しいものであるから、誰も逆らえない。そんな風紀委員会に、いや、風紀委員長に、一体だれが逆らえるってゆうんだろうか。誰しも、この人に目をつけられぬようにと生活してる。わたしももちろんそうだった。過去形なのは、何が理由か知らないがわたしはこの恐怖の代名詞みたいな人に、目を、つけられてしまったからだ。


雲雀せんぱいはわたしを、自分の“ペット”だと言う。


「その言葉、そっくり貴様に返してやろうぞ。…ふん、気に入らんな」


そう言って、やっぱりどこからともなくフラフープみたいな円刀と言うらしい武器を取り出し、雲雀せんぱいをきっと睨みつける毛利元就せんぱい。この人は、人を人と思わない冷徹なロボットみたいな集団と恐れられている生徒会のトップ―――生徒会長さまである。この人がロボットと呼ばれるのは、ちょっと納得できるとこもある。まずはその見た目の美しさだ。作りものみたいなのだ。どこも隙がない、どこをとっても美しい。そして、冷たいと言われても仕方のないクールな態度と、冷えた眼差し。けれど一番の理由は、生徒会長としての仕事ぶりだと思う。人を人と思わない。実際そんなことはないだろうが、この人は目的の為なら手段は選ばないし、切り捨てるところは容赦なく切り捨てる……たとえば、学校運営の為の経費とか、部費とか。どんなに一生懸命な部活でも、結果を残せなきゃ部費は容赦なく削減される。口ごたえしようものなら、二度と活動できないよう部の存在を抹消され、最悪の場合は暴力でもって解決とする。そんな生徒会に、いや、生徒会長に、一体だれが逆らえるってゆうんだろうか。誰しも、この人に目をつけられぬようにと生活してる。わたしももちろんそうだった。もうお分かりだろうが、過去形なのは何が理由か知らないがわたしはこの以下略。


毛利せんぱいはわたしを、自分の“駒”だと言う。


ともかく、理由はよく分からないが、顔を合わせるといつも何らかの形で壮絶なバトルを繰り広げる我が校二大勢力のトップふたりは、そのバトルのだいたいをわたしのすぐ近くでおっぱじめる。まあ、二分する勢力なわけだから、相手を取り込もうとぶつかるのはなんとなく分かるけど。現に今朝も校門で、風紀委員と生徒会役員がもめていた。頭髪検査の基準についてうんぬん、だった気がする。


「もういい加減、君に時間を使いたくはないんだ。ペットと遊んでやる時間なんだよね」



ぼんやり考え事をしていたわたしの意識は、はっと覚醒された。トンファーを構えて、剣呑な眼差しでわたしの向こうがわの毛利せんぱいを睨む雲雀せんぱい。でもそんなことより重要なことがある。わたし、にんげん。雲雀せんぱいは“ペット”、毛利せんぱいは“駒”とわたしを言うが、どっちもちがう!わたしにんげん!あなたたちと同じ生命体!たまらずわたしは、「や、せんぱい、わたしにんげんです!」と、叫んでみたけれどその瞬間。じゃきん!と痛そうな音がして…トンファーにトゲがはえた。…やっぱり、わたしとせんぱいが同じいきものだなんて違いますよね…!だだだって!だって!ああああんなの当たったら怪我どころじゃすまない…!!じり、とわたしは一歩後ろにさがる。


「近頃の風紀委員会の活動は目に余る…我が駒への無用な手出しが出来ぬよう、ここで葬ってくれる」


背後からの不穏な発言に、ぶぉん!というどう考えても日常生活を送るうえではありえない音。けれどここでひるむわけにはいかない!せめて!せめて毛利せんぱいに分かってもらえれば、この危険地帯から抜け出せよう!!と勢いよく振り返り、「っだから!わたし駒じゃないですせんぱい!わたしにんげっ?!」…振り返ったはよかったのだが。「せせせせんぱいー!!なんかっ、なんか光ってますよフラフープ!!」毛利せんぱいの手に握られている円刀…じゃない、フラフープ、え?ああ、もうなんでもいいや、その毛利せんぱいのなんとかってわっかがなんか緑にひかっている…!!ここどこ?!ふっつーの一般人類どこ?!


「さあ、どっからでもかかってきなよ。…ちょっとペット、君はすみっこにいろ。
ケガでもしたらどうするわけ?そこのオクラはコントロールなんてまるでダメなんだから」

「貴様、我を侮辱するか?…ふん、かかってまいれ、我から動いてやることもあるまい…ものの数秒で終わる。
…が、そこの捨て駒、貴様は隅で日輪の加護を受けし我の戦振りを見ておれ。…隅でな」



それからお互い見つめ合って数秒、ふたりは風のようにどこかへ走り去っていった。
金属がぶつかるような音がしていたので、きっとやり合いながら校庭か屋上へ向かったのだと思う。


「…はあ、まいったなあ…」
もう見えない影を追って、はあ、と溜め息をこぼすと、「なんだ、もう終わっちまったの?つまんねー!」
クラスメイトの山本くんがにこにこしながら現れた。
…人の不幸を…!でも、他人の不幸は蜜の味、なんて言葉があるように、人って他人の不幸がだいすきだ。


そんなわけで、わたしは“ペット”か“捨て駒”か。
といううちの二大勢力トップ同士の争いはもはや名物と化していて、そんな争いの渦中にいるわたしもまた名物で…


「山本殿!そのような物言い、捨てぺっと殿に失礼であるぞ!」
「幸村くん!!その呼び方やめてっ!!」

捨て駒とペットを足して、捨てペット、なんて失礼極まりないあだ名までつけられてしまった。

「しっ、失礼いたしたっ!!」

90°直角じゃないの?ってくらいきれーに腰を折って頭を下げる幸村くん(山本くんと同じくわたしのクラスメイトである)。
…あのふたりも、これくらい素直っていうか、なんかなあ…と思いつつ、
ううん、いいよ、と答えようとしたわたしを、山本くんの言葉が遮った。


「まあまあ、真田も悪気あったわけじゃねーし、なっ?」

おまえがゆうかっ!

「っていうか見てたんならなんで助けてくれないの?!」


わたしが怒鳴ると、山本くんが急に困った顔をした。
ワケが分からないと幸村くんに視線をうつすと、幸村くんは厳しい顔をしている。


そして同時に走り出した!


「えっ?!なに!?」
「わりーなっ、巻き込まれたらケガじゃ済まねーしさ!」

言いながらどんどん遠くなっていく背中。

「すまぬっ!助けて差し上げたいのは山々であるが…
人の恋路を邪魔してはならぬと佐助に注意されておるのだ!」

はっ?なにっ?だから意味が分からない!ちょっと待って、分かるように説明して!!
とふたりの後を追おうと走り出そうとした瞬間、両腕をぐいっと後ろに引かれてよろけてしまった。


「ちょっと」「おい」


……この、声は…。後ろにのけぞったおかしな体勢で、ぐぐっと視線を上にもちあげる。


「…ひ、ばり、せんぱいに、もうり、せんぱい…」


やっぱり!というかどっかに戦場をうつしたのでは…?と考えていると、


「ねえ、僕はすみっこで大人しくしてるように言っただろ。何してんの」

「は?」

「貴様、我の言い付けが理解出来なかったか?愚かな捨て駒め。何をしていた」

「…え?」


せんぱいたちの言ってることが理解できないのは、やっぱりおふたりがふつーの人間じゃないからなんでしょうか…?


「…あのふたりに、何されたって聞いてるんだよ、僕のペットのくせに危機管理がなっちゃいないよ全く」

「あの者らは我が直々に処罰してやろう…して、そなたは何をされたのか答えろ、
それによって死刑か死罪か決めてくれるわ」



…どこからつっこめば/(^O^)\


とりあえず腕を放してもらって、体勢を整える。
そしてううんと唸りながら、「えーと…、べつに何もされてません、あのふたりは友達で、ええっと、」
な、なんて答えるのが正解なんだろう…!!と冷や汗だらだらさせながらしどろもどろに答えるわたしを見て、
せんぱいふたりは何やら顔を見合わせる。
すると、と、あの超絶仲の悪いふたりが息ぴったりに頷き合うと、


「…ひとまず休戦だ、毛利元就。…先に潰すべき愚か者がいた」
「ああ、小賢しい野猿めを成敗してくれるまでは…貴様のことは目を瞑ろう」



と何やら納得し合った様子を見せた。わたしばかりが話しについていけない…とずぅうんと影を背負って、
もうのの字でも書いてやろうかとふてくされはじめた時、

「山本武…」
「真田幸村…」
「咬み殺す!」「焼け焦げよ!」

と鋭く言い放ち、山本くん達が走っていった方へふたり揃って駆け出した。




………え、で?




最凶風紀委員長
VS
最恐生徒会長

結果⇒共同戦線≠譲り合い