「どうしよう、俺のカノジョかわいい」 マッキーがそう言ったと同時に、全員の視線がちらっと俺に集まったので「ハァイまた始まったマッキーのカノジョ自慢〜…………解散」と言ってパンッと手を打った。すると全員がさっさと一瞬止めた手を動かしはじめた。うんうん、これももう三年目となるとある種の様式美とすら思うね! 「チョット待った。今のは『何が?』とか『どうした?』とかって話続くトコじゃん」 あまりに不満そうな声でマッキーが言うので、俺は思わず「マッキーそれ本気で言ってる?! 俺らちゃんのコトならマッキー並みに知ってるけど!! もう聞くことないよ!!」と言ってしまった。いや、でもホントにそうだ。ずーーーーっと、なんだかんだとマッキーのノロケ話を聞いてきた俺たちに死角はないッ! 雨の日も風の日も、俺にカノジョがいようといまいとマッキーのカノジョ――ちゃんの登場する多種多様なエピソードを聞いてきた俺たちに答えられないちゃんクエスチョンはないッ!!(最新話は昨日の夕飯後の電話エピソード。聞いたのは今朝)でもって今日合宿一日目だからさっさと寝たいッ!! するとマッキーがものすごい眼光放ちながら「あ゛? 知ったような口利いてんな。つーか名前呼ばないでくれる?」と中指立ててきたので俺はぐりんっと戦友(いろんな意味で苦楽を共にしてきた三年レギュラー陣)二人に視線をやる。 「ハイ及川地雷踏んだ〜」 「馬鹿が」 「えええええ二人してヒドイよ!! ていうか岩ちゃんただの悪口ッ!」 ヒドイ!! と喚いてみせつつも、これでマッキーも興が削がれたカナ! なんてちらっと確認すると、やっぱりつまんなそうにスマホをいじりだしたので、あーよかったこれでグッスリ! ……そう思ったところへ……!! 「あ、今朝も思ったんですけど、花巻さんカノジョいたんスね」 「ッシャアアァッよく聞いた金田一!!」 「えっ」 あーあ! あーあ! 金田一のお人よしー! お前のせいで全員寝れないよもう!! と心の中で大ブーイングしつつも、お前はやっぱりいい子だね……及川さん嬉しい……と目頭が熱くなった。それにしてもマッキーはどんだけちゃんのお話したいのカナ? そしていい子な金田一に小さく「ばーか」って言ったの聞こえたよ国見ちゃん。確かにめんどくさいけど先輩相手にそんなあからさまに「そうなの! 花巻サン、カノジョいんの! しかもこれがクソかわいいんだわチョット聞いて?」……よしいいぞ国見ちゃん及川さんが許可した「ばーか」って言っていいよマッキーに!!!! でれっでれした顔で、まずマッキーがスマホの画面を金田一に見せつける。あ、その写メ見たことない。……おっと危ないそんなことはどうでもいい。別にキョーミないし今カノジョいない及川さんはそんなマッキーのカノジョの写メとか見て余計なダメージくらいたくない!! ……でも悔しいことにマッキーのカノジョってめっちゃくちゃ美人なんだよね及川さんにカノジョいないのにさ……。 「うわっめっちゃ美人スね!」 「だろ〜。女子のレベル高いっていう烏野女子。ヤバイっしょ。……なんだよ及川その顔」 「お願い俺にも見せて」 「よかろう見たまえ」 ちゃん。マッキーのカノジョ。あの美人マネちゃんがいる烏野の三年生。マッキーとは中学からのお付き合いで、数多のライバルたちを退けお付き合い交渉、オッケー、そして今日に至る……。まぁそこまではね? そうなんだ〜っていう感想と、美人なんだいいね〜くらいでいたんだけどホント美人だったわけである。数々の女の子たちを見てきたこの及川さんが断言する。圧倒的美人。なんか加工してあるんじゃないの〜? とか思ってた時期がぼくにもありました……。でも初めて生ちゃん見たときにクラッとした。加工じゃない……だと……? ガチの美人じゃねーかよマッキー!!!! かわいい子が多いっていう烏野女子の中でもダントツぶっちぎりの一番人気だそうで納得(お友達の烏野女子からの情報)。あの美人マネちゃんとちゃんが仲良しというのも納得(これもお友達の烏野女子情報)。っていうかその間に俺挟まれたい……。 「ぐぅッ……! やっぱり超絶かわいいちゃん……!」 「だろうだろう。マッキーのカノジョです」 「ああああああ!!!!」 「及川うるせえ!!」 「花巻、俺にも見せて」 「どんどん見たまえ」 クソッ、マッキーのドヤ顔とかもう散々に見てきてるけどやっぱりムカつく!!!! あ〜ッ! 及川さんもカノジョほしいですちゃんみたいな美人とお付き合いしたいですッ!!!! ぐぅううう!!!! と頭を抱える俺をよそに、マッキーが「で、本題なんだけどサ。ちょっとコレ見てコレ」とスマホをいじりだす。もう三年目だから次に何がくるかくらい分かっています……。そしてなんで俺は岩ちゃんにド突かれたんでしょうか岩ちゃんだってなんだかんだいつもちゃんの写メ見てるくせに「痛いッ!」「なんか今ムカつくこと考えただろ」なんで?! それはともかく。マッキーが写メの次に自慢してくるものといえばコレ!!!! 「うわ〜、なんスかこれ!」 「かっわいいだろ〜?」 「ちゃんからのラインでしょ見してマッキー!!」 「しょうがねえなァ〜」 しょうがないと言いつつもでれっでれの顔はそのままであるクソうらやましい……ッ!!!! “合宿1日目だね。お疲れさま。” “うん。ありがと” “うちも合宿だって。キヨちゃんが言ってた。” “ふぅん。ねぇ” “うん?” “俺のこと好き?” “え、うん、好きだよ。なに急に” “いや、聞きたかったから聞いただけ” “いっつもそれ言うね。ねえ” “なに?” “私のこと好き?” “当たり前じゃん。好き。愛してる” “おーい。既読ついてるよー(笑)” “だってはずかしいんだもんそういうの” 「なにこれめっちゃかわいい……あの美人がこれ送ってきたとかめっちゃかわいい……」 「クソうらやましいだろ。マッキーのカノジョです」 「言われなくても知ってるよクソうらやましい〜!!!!」 「だからうるっせえんだよ及川ボゲェ!!!!」 「岩ちゃんのほうがうるさいじゃん! イテッ! すぐ殴るのダメ!!」 岩ちゃんに殴られたところセルフなでなでしつつ、もうこうなったらしょうがないのでマッキーのノロケという名のちゃん情報全力待機。いやぁ〜人のカノジョといえどさ? やっぱりかわいい女の子の話って聞いてて楽しいっていうか、妄想ふくら「おい及川おまえでヘンな妄想してみ? ぶち殺すぞ」なんで?! 「……花巻さんて」 ずっと静かだった国見ちゃんが、そう唐突に口を開いたのでびっくりすると、次の発言にはひっくり返るかと思った。 「さんとどこまでいってるんですか。聞いても教えてくれないんですよね」 ていうかマッキーのほうこわくて見れない。 「おい国見ィおまえと会ったことねぇ上になんっで名前呼びすっかなぁ先輩のカノジョだぞ」 「はぁ……」 「ちょっと国見ちゃんこっちきなさいマッキーはちょっと落ち着いてください!」 そう言ってなかば引きずるようにして国見ちゃんを廊下に連れ出すと、国見ちゃんは「はぁ、やれやれ」的な顔で「なんですか?」なんですか?! なんですかじゃないよ全くマイペースか!!!! 「いやなんですかじゃないからね? お話の流れで分かるよね? マッキーちゃんのことめっちゃ溺愛してんのね? そこでなぜあんなコトを聞く俺も興味あ――じゃなくて名前呼んじゃったりすんの?! 流れと空気読みなさい!!」 「及川さんに空気読めとか言われたくないですけど、なんで名前で呼んだらいけないんですか?」 「なんでって分かるでしょ? マイペースか!!!!」 「いや、だってさん俺のイトコなんで。名前で呼ぶなって言われても」 「ハァ?! イトコとかそういうんじゃなく……イトコ?!」 「はい。母方のイトコですけど」 「ちょっと待とうか国見ちゃんここで待ってなさい」 廊下に国見ちゃんを残してなるべく静かに中へ戻ろうと、ふすまを開け(人数多いので部屋は和室)――「ヒィッ! マッキーこわい!!!!」そこには仁王立ちでマッキーが待ち構えておりました。 「オイ国見どこやった及川おまえも道連れにすんぞ」 「ちょっと待ってちょっと待って! あのね国見ちゃんちゃんのイトコ!! イトコなんだって!!!! 親戚!! いわゆる親戚!!!!」 「ハァ? ただの親戚が『どこまでいったんですか』とか言うわけないデショどいて」 「いえ、ほんとに親戚です。コレ」 いつの間にか俺の背後までやってきていた国見ちゃんが、そう言ってスマホを取り出してマッキーに見せた。するとマッキーがぴたっとフリーズしたので、俺もそのスマホを覗き込む。 「……おい及川……」 「ぼくは天使だと思います」 「さんが小学生のときです。うちの親が昔のアルバム見てたらしくて、送ってきました」 「国見クン」 「はい?」 「それを花巻センパイに今すぐ送ろうか……」 「及川さんにも送ろうか……」 「さんに聞いてみます」 国見ちゃんがラインのトーク場面を開く。 ちょっと待って一番最近の会話今日じゃん!てかさっきじゃん!! “合宿どう?” “疲れた” “でも頑張ってるんだよね。えらい” ……オイどうなってんだ……マッキーの顔とか見れな「チョット待って『えらい』? 俺ソレ言われてないんだけど」ホラねやっぱり!!「あ、返信きました」仕事速いね国見ちゃん!!!! “さん、小学生のときの写メ、花巻さんに送ってもいい?” “なんでそんなの持ってるの?!” “母親がアルバム見てたみたいで送ってきた” “あぁ、おばさんね。” “いい?” “だめ。” “なんで?” ていうか国見ちゃんちゃんにタメ口なんだそっかイトコか……おっとマッキー「は? チョット待ってタメ口なの? そんな仲イイのおまえら俺の知ってるイトコと違う……」頭抱えるか国見ちゃん睨むかどっちかにして? “なんでって、はずかしいでしょ” “もう見せたからおんなじだよ” “見せたの?! もうあきらくんのばか!” 「やだ俺のカノジョかわいいつらいってかハァ?! おまえなんで名前で呼ばれてんの?! 俺ですら未だに“花巻くん”なんですけど!!!!」 「気持ちは分かるけどマッキー落ち着いて!!!! 国見ちゃん続き! 続き!!」 そう、付き合ってもう六年目だけど未だにマッキー“花巻くん”て呼ばれてるんだよ!!!! 俺がもしマッキーの立場だったらと思うと涙出るしムカつくけど今は待とうまだそのときじゃないから!!!! “うん。あと及川さんも欲しいって” “なんで及川くんにも見せるの! 花巻くんよりイヤ!” “いいじゃん別に。かわいいんだから。及川さん天使って言ってたよ” “もうやだはずかしい” 「ちょっと待ってなんでそんな俺嫌われてんの?! 国見ちゃん聞いて!!」 “及川さんのこと嫌いなの?” “え、違うよ。だって及川くんかっこいいから、余計にはずかしいでしょ” 「イエスッ!」 「及川ぜってぇおまえ許さない」 今ならマッキー見てもこわくないなぜなら俺“かっこいい”から!! ふふんとドヤ顔かましてる間にも、国見ちゃんが会話を続けていく。 “花巻さんは?” “花巻くん?” “いっつもかっこいいかっこいいって言ってるじゃん” “花巻くんと及川くんはべつなの!” “別ってなに” “及川くんは確かにかっこいいけど、私には花巻くんがいちばんかっこいいの!” 「イエスッ!! 及川ザマァかわいすぎ結婚しよう」 「ぐぬぬ……!」 “花巻さんが結婚しようだって” “これ花巻くんに見せてるの?!やめてよもう!今までのぜんぶなし!!” 「ちゃんカワイイ大好き結婚しよ愛してる」 「マッキーうるさい! カノジョかわいいからってチョーシ乗んな!!!!」 「おいうるっせえって言ってんだろ何度も言わすな及川クソボゲェ!!!!」 「いてっ、だって岩ちゃぁん!!」 ボスッという音のくせして、枕のくせして、岩ちゃんが投げてくるとなぜ凶器に変貌するのか。 「ちょっと国見、なんで俺の名前呼んでくんないのか聞いて」 「自分で聞けばいいじゃないですか」 「聞いても答えてくんないからおまえに頼んでんだよ……!!」 「分かりましたよ」 めんどくさそうな顔をして、国見ちゃんがスマホに指をすべらせていく。……マッキー、そんなにガン見しても結果変わらないからやめようか……。いつものクールなマッキーに戻って……。あ、ちゃんの話だといつもクールじゃない……。 「あ、返信きました」 「……見せなさい」 「はい」 もうスマホごと国見ちゃんがマッキーに渡した。めんどくさがりすぎ!! (イトコだけど)もう名前で呼ばれてる国見ちゃんにマッキーの気持ちが分かるわけないよね!!!! でもこの三年マッキーたちを見守ってきた(?)俺には痛いほどよく分かるよ! マッキー大丈夫! 俺がついてr「あぁあああああ天使かよがかわいいちょっと及川見て!!!! 見ろコレを!!!!」……。 「…………ん?! っはー!!!! やってらんないね!! もう末永く爆発しろよ!!!!」 “だって、はなまきくんほんとにかっこいいんだもん。なまえとか、はずかしくてよべない” |