ゴットファーザーじゃあるまいし、イタリアンシャツにカシミアのマフラーなんて格好はしないよ。就任式の衣装合わせの時、そう言った俺には残念そうな顔をしたのをよく覚えてる。だっておかしいだろ、俺みたいなヤツがそんな格好してたら。でもでも、と食い下がるには参ったっけなぁ。はちょっと変わった女の子だ。何十年経っても、いちばん最初にそう思った印象は変わらない。いつも突拍子のないことを言うし、やることも奇抜で大胆だ。その姿勢は時に挑戦的にも見える。でもどこか抜けてるのがそれらを全部愛らしい魅力としていて、また憎めない。今だってそうだ。彼女のわがままが、かわいいおねだりにしか聞こえない。まいったなぁ。「ねえ、ツっくん聞いてる?」「聞いてるよ、なんだっけ?」「ぜんぜん聞いてないじゃん!だからー、ボンゴレ主催でおっきいパーティーやろうってゆってるの!」本当は風船で空を飛ぶとかおっきなシャボン玉で屋敷を囲むとか、ファンタジーな計画も含めて最初から最後まで全部ちゃんと聞いていたのだけど、俺はおかしくって聞いていなかった振りをした。子どもみたいに聞いて聞いてと俺の腕を引く姿がかわいくて、ついつい頭を撫でてしまう。「パーティーをするのは別に構わないけど、何か名目ないとリボーン辺りが反対するよ」「メイモク?んー、じゃあリボーンを笑わせるっていうのが最終目的!あ、じゃあランボとスカルくんになんか出し物してもらおー!」マジックとかどうかな?ほうきで空飛ぶの!それじゃあマジックじゃなくてもはや魔法だろう、冷静にツッコみそうになってやめた。の発想はいつも馬鹿らしくて、それでいて夢を与えるかわいいものだ。それこそ、本当の子どもみたいな。「で、誰を呼ぶ予定?」「みんな!」「…そりゃまたおっきい計画だなぁ…」本当にリボーンを説得するのに何時間か、いや、何日か要しそうな計画だ。なんだかんだ言ってリボーンもには甘いから、内容次第ではもしかしたらすんなり通るかもしれないけど。「リボーンを笑わせるっていうならそれリボーンには内緒にしなくちゃいけないから、あいつには親睦の為とか言っておこうか」引き出しから真っ白い紙を取り出して、最初から置いてあったから値段は知らないけど高そうな万年筆でメモをとる。「あ、風船とシャボン玉のこともちゃんと書いておいてね!」「はいはい、分かったよ」でもこれ実現出来そうな技術なんかないよなぁ…あ、骸。あいつならなんとかしてくれる気がする、と必要なものと大きく書いて、その下に骸と書いた。「骸?何に使うの?」「いや、いろいろおっきいことするなら、誰か雑務担当してくれる人が必要だろ?だからそれを骸にやってもらおうと思って」「ああ!さすがツっくん!それはいいアイディアだね!」骸がそれ聞いたら泣くぞ、と思ったけどそれはそれでおもしろいので笑っておいた。「ねえねえ、じゃあスクアーロもザツムにしようよ!スクアーロおもしろいから、なんか楽しいことやってくれるよきっと!」これも本人聞いたら泣きそう。でも俺は骸の下にしっかりスクアーロと書いた。ヴァリアーでずいぶん苦労してるからだろうか、なんだか厄介なこと引き受けてくれるキャラになっちゃってるんだよなぁ。ま、いっか。あ、あとランボとスカル。スクアーロの下に、ランボとスカルと書き足す。「ツっくんはリーダーだから、いちばん上に名前かいて」「え?」「ツっくんがこの計画のリーダーなの!だから書いて!」あー、はいはい、そう苦笑しながら沢田綱吉、といちばん上に小さく書く。それから思いついて、その隣にと書き込んだ。「あたしはリーダーじゃないよ!」「じゃあ副リーダーね、大事な役だからしっかりやってね」そう言うとは満面の笑みを浮かべて、大きく頷いた。「じゃあリボーンとツっくんはヘリコプターからダイブして登場だね!」「…は?」「リボーンは最終目的のターゲットだし、ツっくんはリーダーだからハデに登場しなくちゃ。だいじょうぶ、落下地点にはトランポリン用意しとくから!」まかせて!…任せられるか!でもが言うとなんでも実現できてしまいそうで、俺は笑うのだ。俺が、俺達がこれまでの日々で失ってしまった幼いいたずら心と好奇心に満ちた夢を、は未だにその両手に抱えているのだ。時に溢れだしてしまうそれを、俺達は毎日拾って、そして満たされている。毎日笑顔を絶やさずに、一日一日をいつも特別な日に感じて生きている。呼吸をしている一瞬すらもったいないと言いだしそうなくらいアクティブなに、俺達は引っ張ってもらっているのだ。 明るい場所まで。 「俺はやってもいいけど、リボーンがなんて言うかなぁ…」「だいじょうぶだいじょうぶ!だってこないだだってパン食い競争参加してくれたじゃん!トランポリンくらいやってくれるって!」トランポリンは落下地点で問題はヘリからの飛び降りだよ、っていうかトランポリンが着地点ってめちゃくちゃ不安なんだけど!「ってそうだ、そういえばパン食い競争、あいつよくやったよなぁ…どうやって説得した?」の説得術があれば、仕事がちょっとくらい減ったりして。あわよくば、というかむしろその下心の方がメインで聞いてみると、はにこっと笑って簡単に言ってのけた。「どうやってって、ふつうに、「やって!」ってゆっただけだよ。リボーンやさしいから、なんでもやってくれるよ!」あいつを優しいなんて言うやつ、お前かあとはせいぜいビアンキくらいだよ…っていうかふつーに「やって!」って俺には絶対無理!言えたところで即却下に決まってる。そう思うとってほんと、内に何か秘めてるよなぁ。あのリボーンがそんな一言で簡単に動くんだから、タダモノじゃない。…そう考えると、なんかなんでも出来る気がしてきたなぁ…。「…ねえ、ザンザスに顔芸やらせるってどう?」俺がそう言うとが黙り込んでしまったのでしまった!これはダメか!(夢がなくて)と思ったけれど、それも一瞬のこと。次の瞬間にはおかしくなったんじゃないかって、いや、この子普段からちょっとおかしいっていうか変なんだけど!とにかくどこか壊れたんじゃないかってくらい大笑いして、それからそれナイス!とデスクをばんばん叩いて息も絶え絶えに言った。ザンザスも、に「やって!」って言われたら顔芸の一つやふたつやってくれるに違いない。
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