「ごちそうさまでした」 日曜日の昼下がり。俺が選んだにしてはなかなかオシャレなカフェ。ランチからスタートする予定でいた今日のデート。目の前にはおいしそうな料理が並んでいるのに、彼女は浮かない顔で食べる手を止めてしまった。……何か気に入らないことでもあっただろうか。だってそうでなければ変だ。は食べることが大好きな女の子で、俺が連れて行くどんなお店でも喜んでくれて、おいしいおいしいって笑ってくれるのに。それが今日はどうしたんだろう。 「…え、、もう食べないの?サラダと、あとほんのちょっとしか食べてないじゃん」 「うーん…」 両手を組んで、どことなくそわそわしながら歯切れの悪い返事をする。デートはこれからだっていうのに、肝心のがこんな様子じゃあ俺だって気になって楽しめるはずがない。俺も一度、パスタを食べる手を止めてをじっと見つめる。 「…具合でも悪い?それとも、なんか悩んでることとか…気に入らないことでもあった?」 「ち、違うよ!ぜんぜんそんなんじゃない!このお店だってすごく素敵だし、」 「…なんだか、いつものと違うよ。俺じゃ力になれないの?」 少し身を乗り出すようにして、きゅっと組まれているの手に自分の手を重ねる。ツっくん、人に見られちゃうよ、とは言うが俺は気にしない。ここがオープンテラスの席だとしても。だってのことが心配で、他人の目なんてどうだっていい。 「ねえ、ほんとにどうしたの?…、お願いだよ、何が君を悩ませて不安にさせるのか、俺に教えてくれ」 俺の必死の懇願に仕方ないといった感じで、はその重い口を開いた。 「……ダイエット…してるの」 「…え?」 今、はなんて言っただろう。ダイエット?まさか、どうして、そんな!そんな心情をそのまま素直に顔に出してしまったものだから、は眉尻をハの字に下げて、きゃんきゃん吠えた。 「なっ、夏だからっ!ツナくんと…プールとか行ったりするのに、ふさわしくないの…!」 それにしたって、“ふさわしくない”ときたもんだ。その人にふさわしいとかそうでないとかは他人が外面だけを見て下す中身のない評価なのに、そんなことでダイエット!と付き合ってるのは俺なんだから、どうしても何か評価が必要と言うなら俺の意見だけで十分なはずだ。それなのに。の彼氏である俺より、何も知らない他人の評価を気にするなんて。 「ふ、ふさわしくないって…なんだよ、それ」 「だっ、だって!今のままじゃ、水着もきれいに着れないし…ツナくんの隣になんていられないよ…」 今にもワッと泣き出しそうに、は両手で顔を覆った。…そりゃあ、彼女にはいつでもかわいくいてほしい。そんなのはどんな男だって思ってることだ。でも、だからといって無理なダイエットを良しとはしない。なぜって、かわいい彼女が自分のために傷ついていたら、バカなことはよせって言いたくなるに決まってる。彼女が傷つくことが自分のためになるなんて言われて、それを喜ぶ男なんていないに決まってる。…そんなことをしなくたって、君は最高の女の子だって抱きしめるに決まってるんだ。…あいにく、ここは人の目があるカフェだけど。 「…バカだなぁ…」 “俺のため”それはとっても甘い響きのする言葉だけれど。 「なんで?わたし、真剣にっ」 ハッとしたようにが顔を見せる。 ねえ、その気持ちだけで俺はこんなに幸せになれる。 「…俺は、そのまんまのが好きだよ。ダイエットなんて必要ない。出会った時からずっと、は世界でいちばんかわいい女の子だよ」 “俺のため”にと思ってくれるその心でいつもいてくれることが、俺にとっていちばん嬉しいこと。どうしたら、この愛しさで溢れる心を伝えられるだろう。俺の言葉には顔を真っ赤に染めた。そしてほんの少しすねたような顔をして、早口に捲くし立ててくる。 「っ、そ、そんなこと言われたって、やめないんだから。…ツナくん、優しいからそんなこと言うのよ」 「…がそんなにしたいなら、ダイエットがいけないなんて言わないよ。…でも、こうやって食事を無理に我慢したりするのはダメだよ。俺は必要でもないダイエットのために、が体を壊すのが心配なんだ。…分かるだろ?」 「………で、でも、」 口ごもる姿に、俺は笑う。くさいセリフと笑われてもいい。 心を見せることができないのなら、愛しさを込めたこの声を、言葉を聞いてほしい。 「……俺の言うこと、信じられない?今のままで、はかわいいよ。俺の目にはしか映らないくらい」 たっぷり沈黙したあと、は今度こそ瞳に涙を浮かべて言った。 「……ツナくんのばか」 「…ひどいなぁ」 「っだって、ツナくんにそんな風に言われたら…わたし、バカみたい…」 「さぁ、早く食べちゃって、デート楽しもうよ。ね?」 うん、と渋々といった具合に頷いた彼女。 「ふふ……あぁ、幸せだ」 「で、でもっ、ダイエット諦めたわけじゃないんだからね!!」 「……はいはい、」 困ったな、今のの抱き心地がベストなのに! |