さて、なんか一段のぼるたびにギシッ…ギシッ…とかいうホラー映画でもお決まりないやーな音を立てる階段をのぼりおえて、俺は3階のフロアまでやってきた。…なんていうか、2階よりもさらに…味があるっていうか…まあ平たく言うとおどろおどろしいっていうか。なんかでそう☆天井に張り付いてる蜘蛛の巣とか、妙にぼんやりしてるアンティーク調の照明とか、俺を脅かすのに気合入りまくりって感じだ。せっかくが前々から用意してくれていたとびっきりのスーツを着てきたっていうのに、冷や汗でシャツがぴったりしてるような気がする。…ごめんね…でも俺は必ずのとこr「いってー!!」 どんがらがっしゃん。 ポエマーみたいに愛しの彼女に対する愛を心のノートに綴ろうとしていたところへ、俺の心境にも、ましてやこの館にも馴染まないマヌケな悲鳴がひとつ。そしてこれまたコメディー番組の効果音みたいな物音が。まあ、そんなもので「ひえー!」とかなるほど俺も子どもじゃないから、何事かと物音の方へと視線をやる。するとそこには紫色の扉が開け放たれていて…俺の兄貴分で信頼のおける同盟ファミリー、キャバッローネのボスのディーノさんが――――倒れていた。こんな場面において兄貴分とかボスとか言いたくないけどね。あの人の“部下がいないとダメダメ”っていうある意味おそろしい性質はもうどうにもならないのかな。…10数年も治らなかったんだから、無理か。でもそれでも憧れるところはたくさんある、いいボスだしかっこいい人だ。もう30代もそこそこだっていうのに、色気を重ねていくだけで若々しさはぜんっぜん衰えないし。…も、なんだかんだ言ってディーノさんを見る目ってきらきらしてるんだよなあ…。と、それはまあ置いといて、なんか俺の誕生パーティーって分かってるのにこんなこと聞くのもあれだけど…。 「な、なにしてるんですか?ディーノさん…」 すると俺の方をぱっと見て、ディーノさんは昔から変わらない太陽みたいな笑顔でにかっと笑った。 「おっツナ!やっと来たか、待ってたんだぜ」 いや…そんなこと床とキスしてた人に言われても…。とも言えないので、あはは、すみません、と無難な返事をしておいた。ディーノさんはむくっと起き上がるといつものフード付きのアウターの裾をぱんと一払いして、俺のことを手招きした。 「いやー、ついにお前にちゃんとしたカノジョがいるバースデーがきたな、ツナ」 「はあ、」 「でもまあ、あのじゃじゃ馬だったが、まさかツナといい関係になるとはな。ま、入れよ」 「はあ、」 ディーノさんに招かれて紫色の扉の中に入ると、中は綺麗に掃除されていて、部屋の外とは完全に別世界だった。レース造りのテーブルクロスがかけられた丸いテーブルには、ティーセットとおいしそうなお菓子が乗っている。了平さんとランボに引き続きふつーのお祝い…!座れ座れと言うディーノさんのお言葉に従って、俺は右側の席に、ディーノさんは向かいに腰を下ろした。すると、ディーノさんは妙に真剣な顔で、俺を見つめてくる。 「、な、なんですか、ディーノさん」 「…ツナ、誕生日おめでとう」 「あ、ありがとうございます!」 「でもな、ツナ…」 「は、はい、」 「オレはお前を、素直に祝ってやるつもりはねぇ」 はい?と思わず聞き返したけれど、俺はそれっきり口を開けなかった。 ディーノさんが向けてくる視線が、刺すように厳しいものなのだ。 「オレはな、お前のことがかわいいよ。なんてったって弟分なんだ。かわいくないわけがねぇ」 「…はい、」 「だけどな、オレにはお前よりもっとかわいいのがいるんだ」 「、はい」 ―――だよ。 そう言われたとき、俺は確かにどきっとした。ディーノさんがをかわいがっているのは周知の事実だし、何より俺がいちばんそのことを思い知らされてきたからだ。出会った日にディーノさんがをお稽古ごとに連れ出そうとしていたように、彼女が小さなころからずっとディーノさんは世話をやいてきた。俺と付き合うまでも彼女はなんだかんだ言いながらもディーノさんを慕っていたし、付き合ってからも何かとディーノさんを頼っている。ふたりは兄妹のようなものだと思っている俺は何も言わなかったけれど、この反応を見ると少なくともディーノさんはそうではないらしい。俺はきりっと表情を引き締めて、ディーノさんの言葉を待った。ディーノさんが今になってこんなことを言うには、何か真意があってこそだと思うから。 「…今でこそ大人しいもんだが、はお前も知っての通りじゃじゃ馬だった。習い事をいつもサボろうとするし、そのためには木に登りもするようなとんだお嬢様だ。でも容姿は天下一品だし、我が強いってだけで性格だって悪いわけじゃねえ。…でもこの世界においては、その我の強さってのがいちばん嫌がられるんだ。…相手の家柄を利用してのし上がろうってヤツにとっちゃ、操り人形にならない女ほど面倒なものはないからな。そうは言っても、いいとこに嫁にいかせたいってなると、やっぱり限られてくる。のとこも歴史あるファミリーだ。その名前を欲しがる輩はたくさんいる。……だから、はいつかオレが引き取るつもりだった。もちろん、正式なワイフとしてだ。…この意味は分かるな?」 ……まあ、一度も考えなかったわけじゃないけど…こうして真正面から言われると、ちょっと傷つくっていうか…面食らうよなあ…。でも、なんで今そんなことを俺に…?だってと俺はもう付き合ってるし、こんなことを言うならもっと早くに…少なくとも今日である必要はないはずだ。でも何か裏があるって疑うことはできないくらい、ディーノさんの目は真剣だ。…だったら俺も、真剣に向き合わなくちゃいけないはずだ。俺は緊張で指先がふるえるのを拳を握っておさえつけながら、ディーノさんの目をまっすぐに見つめ返した。 「ディ、ディーノさんが、のことを大事に思ってるのは、俺も、分かってます」 「そうでなくちゃな。俺はお前と出会うよりもずっと前からと一緒にいたんだ」 「も、ディーノさんのことをよく話します。出会ったころから、今でもずっと」 「…そうだろうな、っあづっ!」 ……そういえば部下の人だれもいなかった……。 至極まじめな話をしてたっていうのに、ディーノさんのお決まりのドジで台無しだ。たぶん余裕ぶって紅茶でも飲もうとしたんだろうけど、こぼしたら余裕もなにもないですよほんと。しかもこぼしたことにびっくりして紅茶ぜんぶ自分にぶっかけるとか…これもう10数年もの世話してたっていうけどされてたのあなたの方じゃないんですかと小一時間ほど問い詰めたい。ちょっと冷めた目でディーノさんを見てしまっても、誰も俺を責めないと思う。 「うっ、あっちー…、ああ、だからオレこんな役回りイヤだって言ったんだよ、リボーンのヤツ…」 「え?」 「あっ、いや、そういうわけだから、オレはお前にを渡さない!」 「…台本なのバレバレなんでもういいですよディーノさん」 「…え…あ、…す、すまんツナ…」 「…や、俺はいいんですけど…」 「「リボーンが……」」 ディーノさんがやっちゃったところもリボーンは見てるんだから今更だというわけで、ディーノさんがぜんぶ話してくれた。『ツナの野郎カノジョができたからってちょっと調子乗っていやがるから、ここはお前がオレの代わりにあの浮かれヤローをブチのめ…いや、兄貴分としてお前がと付き合うことはすげーことでツナみたいなダメダメ野郎にはもったいことなんだぞ』と言うリボーンに渡された台本通りにこの紫の扉でのイベントを運ぶはずだったのだが……まあ、結果はこうであった。すまんツナ!と何度も頭を下げて、下げすぎてひっくりかえったディーノさんに気にしないでくださいと苦笑いする俺。 「オレはお前たちのこと、反対どころか応援してるんだ。お前も立派に男になったな、ツナ!」 「あはは、まだまだディーノさんには及ばないですけど」 「何言ってるんだよ、お前もうにプロポーズしたんだろ?」 「え?」 「え?」 「ま、まだですけど」 「まだぁ?!おいおいウソだろ!男じゃねーぜあんなカワイー子をさっさとモノにしねえなんて!」 「いや、もう付き合ってるし…結婚はまだ早いですよ」 「バカだなお前、そんなんじゃすぐに横からかっさらわれちまうぜ?」 「え、」 「オレとか、な?」 え、それってどういう意味ですか。そういう前に、なぜか壁を突き破って現れたロマーリオさんをはじめとするディーノさんの部下たちによって、俺は部屋の外へと出されてしまった。 「ちょ、これで終わりですか?!」 「そうだボンゴレ。この紫の扉の部屋――キャバッローネからの贈り物は、恋愛ボケしてるボンゴレへの忠告だ。さ、この先の緑の部屋へ行け。そうすれば4階のフロアで愛しのお嬢ちゃんに会えるぜ?」 「え、それはうれしいんですけども、あの、」 「つべこべ言わずに行け!!」 「ひぃ!はっ、はいぃいいぃ!!!!」 ロマーリオさんの剣幕に逃げるようにして廊下を走ってきてしまったけど…台本は終わったっていうのにディーノさんのあの顔…、なんだったんだろう……。 (……はあ、ツナももう立派なボスなんだな…。の話をオレがしてる時すら、愛しくてしょーがねーって顔してやがった。……あーあ、かわいい弟弟子とかわいい…オレの大事なお姫様、両方いっぺんにオレの手を離れちまうなんてな…)(ボス、ボンゴレもう行ったぜ)(おう…)(そうメソメソすんなよキャバッローネのボスが。嬢ちゃんもボンゴレも、もういい大人なんだからよ。あんたもだぜボス。あのふたりは放っておいたってうまくやる。あんたの方ががんばらなくちゃダメだろうが。じゃねえとまた見合い話もってくんぞ)(…弟の旅立ちと初恋の終わりにもうちょい浸らしてくれよロマーリオ!!)(へいへい、ボンゴレのバースデーが終わってから好きなだけ浸ってくれよな。さ、ホールへ行くぜ)(うぅ、…ツナァアアアァ!!!!うわーん!!) |
血塗られたボンゴリアンバースデー